◎地域便り


酪農・肉用牛生産近代化計画について

長崎県/農林部 畜産課


はじめに

 本県の畜産は、農業粗生産額の約3割(400億円)を占める重要な産業である。
特に肉用牛は、米に継ぐ第2位の粗生産額(150億円)をあげており、離島・半
島や中山間地域等の条件不利地域を多く有する本県において、地域経済を支える
重要な作目となっている。

 しかし、近年における輸入農畜産物の著しい増加を初め、産地間競争の激化、
担い手の減少や高齢化等、畜産を含め農業情勢は厳しい状況にあり、社会的にも
大きな変革期を迎えている。

 この様な中、本県においては今後10年間の県政運営の指針となる「長崎県長期
総合計画」を策定(平成12年8月)し、公表した。

 農林業においても、国の農政改革の動向や、県長期総合計画などを踏まえ、
「長崎県農政ビジョン」が策定された。

 「長崎県酪農・肉用牛生産近代化計画」はこれらに即して見直し、作成(13年
2月)したもので、今後、この計画に即し、効率的で生産性の高い畜産経営の確
立を図るため、農業者等の主体的な取り組みを生かしつつ、経営基盤の強化によ
る肉用牛生産の振興、ゆとりある酪農経営の確立など、生産の維持・拡大対策を
実施するとともに、家畜排せつ物の適正な処理と利用の推進を図るなど、生産か
ら流通・消費までの施策を総合的に展開することとしている。


計画の概要

T 生乳の生産量の目標ならびに乳牛および肉用牛の飼養頭数の目標

1 乳牛(表1)

表1


 牛群改良の推進と飼養管理技術の改善により経産牛1頭当たり年間搾乳量を現
在の6,608キログラムからおおむね16%向上させ、目標年度には7,700キログラム
として、生乳生産量の拡大を図る。

 農家数は減少傾向で推移するものの飼養規模の拡大が図られ、ほぼ現状水準の
飼養頭数となることを目標とする。

2 肉用牛(表2)

表2


 本県の地域農業を支える重要な作目として積極的に振興を図っており、経営規
模の拡大が着実に図られてきた。今後については、土地基盤に立脚しつつ地域の
中心となる経営体の育成に努め、飼養頭数は現状の125%の11万頭とすることを
目標とする。これにより、1戸当たりの飼養頭数は約25頭への拡大を図る。

U 乳牛および肉用牛の飼養規模の拡大に関する事項

1 乳牛の飼養規模の拡大のための措置

@ 生産・経営管理技術の高度化

 個体管理の徹底により生産・経営管理技術の高度化を進め、乳量・乳質の向上
を図る。大型の牛舎新築・改造を行う場合には、過剰投資とならないよう配慮し、
本人の技術水準等を考慮しつつ、フリーストール・ミルキングパーラー方式、T
MR給与方式など省力化のための飼養管理方式の導入を図る。

A 牛群改良の推進

 県内の経産牛の過半が牛群検定事業に参加することを目標に、牛群検定の普及
拡大に努める他、能力の高い雌牛を県内に導入し、受精卵移植技術等の活用によ
り優秀な個体の増殖を図る。また、精液の選定に当たっては、NTP(総合指数 
nippon total profit index)トップ40等の能力の高い種雄牛の集中活用に努め、
牛群の改良を推進する。

B 飼料自給率の向上等による生産の合理化

 耕種農家との連携強化や諫早湾干拓造成地等の飼料畑の活用による飼料基盤の
拡充を推進し、飼料自給率の向上を図ることにより、生産コストを低減させる。

C 労働時間の削減

 労働負担の軽減や定期的な休日を確保するために、酪農ヘルパーおよびコント
ラクターの利用拡大を推進する。

2 肉用牛の飼養規模の拡大のための措置

@ 繁殖経営

・土地基盤に立脚した安定的な規模拡大の推進
・適切な繁殖管理による分娩間隔の短縮
・放牧の活用、自給飼料生産の拡大、農場副産物の活用等による、飼料自給率の
 向上と生産コストの低減

A 肥育経営

・地域の耕種農家等との連携や自給飼料生産の拡大、飼養給与方法の改善や個体
 能力の的確な把握による肥育期間の短縮や増体量の向上等による生産コストの
 低減などを図りつつ、安定的な規模拡大を推進する。

V 飼料の自給率の向上に関する事項(表3)

表3


1 酪農および肉用牛経営の土地利用の集積を図るため、地域の耕種農家等との
 連携および農地の集積を推進する事業の活用等により集団的な土地の利用へ誘
 導するとともに、転作田や水田裏作について借地による活用を推進する。また、
 土地の有効利用、労働負担の軽減と生産の効率化を図るため、共同作業による
 飼料生産を推進するとともに、コントラクターの育成に努める。

2 山林、原野等の有効利用を図るため、里山・林地の整備改良や国有林野の放
 牧利用を推進する。併せて、日本型放牧の推進により遊休農地、低・未利用地
 等の利活用を推進する。

3 焼酎かす等工場副産物や野菜残さ等未利用資源の効率的活用技術の確立およ
 び普及を推進するとともに、その有効利用とコントラクターにより生産された
 粗飼料の効率的利用を促進するため、TMR供給センターの設立を推進すること
 とし、これを核としたTMR技術の普及・促進を図る。また、耕種農家との連携
 により、稲わら等農場副産物を安定的に利用できる体制を整備する。

4 飼料生産の生産性の向上を図るため、地域に適した優良品種を導入するとと
 もに、シードペレット等の新たな草地造成・整備技術を普及する。また、土地
 の集積や作業の共同化に応じた効率的機械やロールベーラー等の導入により飼
 料生産にかかる労働負担の軽減を図る。さらに土地の利用率の向上を図るため、
 水田裏作および冬作について地域に応じた飼料の生産体系を確立する。

W 畜産物の消費拡大

1 牛乳の消費拡大

@ 牛乳・乳製品に関する情報の提供および正しい知識の啓発・普及を積極的に
 推進する。

A 乳業者については、消費者ニーズの多様化に対応した牛乳・乳製品の開発、
 製造および販売等に対して積極的に支援する。

B 本県の飲用牛乳シェアの10%程度を占める学校給食用牛乳について効果的な
 推進に努め、児童の体位・体力の向上を図るとともに、牛乳飲用の定着化を図
 る。

2 牛肉の消費拡大

@ 新鮮で安心して食されるおいしい国産牛肉の有利性を強調し、輸入牛肉との
 差別化を明確にするとともに、消費拡大活動を強力に推進する。

A 肉質等級4以上(歩留等級AまたはB)の高級な和牛肉を「ながさき牛」と称
 し、県内外においてPR活動を促進しているが、その他の県産牛肉についても
 「ながさきブランド化」を展開し、全体的な国産牛肉の消費拡大を推進する。


その他酪農経営および肉用牛生産の近代化を図るために必要な事項

1 家畜の改良増殖および新技術・効率的な生産方式の開発・普及

@ 乳牛

・能力の高い検定済み種雄牛の集中的な活用と牛群検定の普及拡大による泌乳能
 力の向上と斉一化の推進を図る。

・飼料自給率の向上、ゆとりある酪農経営の確立に資するため、繁殖性、生涯生
 産性や粗飼料利用性の向上を推進する。

A 肉用牛

・育種価情報の活用、県外からの優良な遺伝子の導入、受精卵移植技術の活用等

 により効率的に産肉能力の高い種雄牛の早期造成に努める。

・育種価等の遺伝情報システム等の整備を推進するとともに、この遺伝情報の利
 活用による母牛群の整備ならびに適正交配の推進により市場性の高い子牛生産
 を図る。

B その他

・受精卵移植関連技術、周年放牧技術等の飼料生産利用技術、効率的な飼養管理
 技術等の新技術の実用化を推進するとともに、雌雄産み分け技術等の実用化の
 進んでいる技術を活用した能力の高い乳牛および肉用牛の生産を推進する。

2 経営・技術指導

@ 個々の経営情報のデータベース化など、経営診断・指導体制の強化と併せて
 濃密かつ効果的な指導を推進する。

A 基本技術の励行を徹底するとともに、試験研究機関と普及指導組織との連携
 を密にし、先進技術の開発や新技術の普及啓蒙など効率的な指導を展開する。

3 家畜衛生および畜産物の安全性の確保

@ 家畜衛生

・効果的、効率的な事前対応型防疫体制の整備
・迅速かつ的確な危機管理体制の構築
・生産段階における生産性阻害要因の除去に必要な生産ガイドラインの開発・普及

A 畜産物の安全性

・医薬品、飼料添加物等の適正使用の徹底やHACCP方式の導入など、健康で安全な
 畜産物の安定供給体制の整備

元のページに戻る