島根県/青戸 貞夫
急傾斜地が多い中山間地域では、農業者の高齢化、兼業化による担い手不足や 和牛飼養頭数の減少などから、大型化した畦畔の草刈りが大きな負担となり、農 業者からは「畦畔の草刈りが何とかならないか」との声が聞かれ始めていた。 近年、水稲作業は機械化により総作業時間は短縮されたが、反面、水稲作業に 占める畦畔除草作業の割合が半分以上となる例も生じている。その結果、規模拡 大や組織営農の運営の妨げとなり、荒廃水田の発生やカメムシによる米の品質低 下の原因にもなっている。 仁多地域農業普及部では、草刈作業の軽減と荒廃水田の保全を目的に平成12年 度から現地実証を始めた。実証に当たっては、ヤギの食草幅が広いという性質に 着目し、また、管内が島根和牛の産地であり、腰麻痺対策と畦畔法面への踏圧の 影響を考慮して品種をトカラヤギおよびシバヤギとした。本実証に当たり、何か おもしろいキャッチコピーはないかということになり、実証地が中山間にあるこ とから、中山間=ミドルアルプス、アルプス=「アルプスの少女ハイジ」を連想 した。次に、ハイジ=ヤギ、農家=ペーターとし、中山間地の農村が農家とヤギ の協力で、楽しくアニメのような風景になればとの思いで表題のとおりとなった。 仁多町上高尾地区の山内徳二氏(48歳)の水田畦畔に試作したレール状の係留 装置を設置して、食草の程度および経過を観察した。係留装置の試作に当たって は、@ヤギに畦畔草のみを食べさせること、A放牧中の手間がかからないこと、 B構造が単純、設置が容易、安価であること、C行動の制限を少なくすることを 念頭に担当農家と検討を重ねた。 今年度は田植えが終わった5月中旬から10月中旬まで観察した。結果は、人が 草刈りをしなくても良いほどに畦畔が維持され、崩壊は見られていない。春から 一度も草刈りをせず雑草が繁茂した畦畔において7月末に放飼したところ、約2 週間程で雑草を食べ尽くすなど実用化の可能性が見えてきた。また、地区内にあ る小学校の児童とのふれあいも始まるなど思わぬ波及効果を生じている。 実証結果を受け現地検討会を開催したところ、参加者からは想像以上の効果に、 早く普及に移すべきとの声が聞かれた。併せて、実証状況が報道され県内外から 情報提供や取り組みを希望する声が寄せられている。 今後は、早期の普及に向けた体制の整備と係留装置の改良とともに、ヤギの増 殖、冬季間の飼養管理、肉等の活用についても検討することとしている。
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【実証ほ全景】 |
【実証ほ比較】 |