★ 農林水産省から


わが国の食料自給率−平成12年度 

食料自給率レポート・食料需給表−から

総合食料局 食料政策課 計画班 蔵谷 恵大(くらや よしひろ)




はじめに

 食料自給率の目標については、食料・農業・農村基本計画(平成12年3月閣議
決定)において、消費者、生産者、食品産業の事業者等関係者が取り組むべき食
料消費および農業生産における課題が解決された場合に実現可能な水準として設
定されている。

 農林水産省では、食料自給率の向上に向けた取り組みの状況(課題の達成状況)
について分かりやすく情報提供する目的で「食料自給率レポート」を作成してお
り、13年12月19日に、その最新版(12年度版)を、食料需給表と併せて公表した。

 今回は、この「食料自給率レポート」の内容を中心に、わが国の食料自給率を
めぐる状況等について、ご紹介する。


そもそも、食料自給率とは何か

 「食料自給率」は、私たちが食べているもののうち、国産がどれくらいの割合
であるのかを示す指標である。

 平成12年度で見ると、例えば主食である米の自給率は95%。野菜は、最近輸入
が増えているが、それでも自給率は82%と比較的高水準である。

 牛乳・乳製品の場合、生乳は100%国産であるが、チーズなどの乳製品の輸入
があるため、全体では自給率は68%。卵は一部の加工品を除いてほとんど国産で
あり95%の自給率となっている。

 一方で、自給率がとても低い品目もある。

 小麦は、パン、めん類、お菓子など幅広い用途に使用されているが、国産小麦
は、その特性(たんぱく含有率が中程度であること)から主として日本めん用に
使われており、その他の用途はほとんど輸入に頼っている。しかしながら、日本
めん用についてもオーストラリア産小麦に比べ品質が劣っているという問題があ
り、このため、小麦の自給率は11%にとどまっている。(なお、日本は、小麦だ
けでなく米を除くほとんどの穀物の自給率が低く、穀物全体の自給率は28%と低
水準となっている。)

 大豆の自給率は5%。これは、大豆需要の約8割を占める製油用に低価格な輸
入大豆が使用されているためであるが、煮豆、納豆、豆腐といった食用大豆に限
ってみても、国産大豆はロットや品質にばらつきがあるなどの問題があることか
ら、自給率は23%に過ぎない。

 それでは、私たちの食料全体の自給率はどれくらいかということであるが、こ
のことを考える場合には若干注意が必要である。というのは、食料にはさまざま
な種類があるため、単純に重量を足し上げるわけにはいかないからである。(例
えば、牛肉1キログラムと大根1キログラムでは、値段も、味も、栄養成分も全
く違う。)

 このため、よく使われるのが、最も基礎的な栄養素であるエネルギー(カロリ
ー)に換算した場合の食料自給率である。(正式には「供給熱量総合食料自給率」
と言う。)わが国の食料全体の自給率は、カロリーに換算した場合、40%となる。


日本の食料自給率は諸外国と比べてどうか

 このような日本の食料自給率は諸外国に比べると著しく低い。

 1999年の世界178の国・地域の穀物自給率を比較すると日本は第129位。特に、
OECD加盟の先進国30ヵ国の中では28位で、アイスランド、オランダに次いで低い
水準となっている。

 食料全体の自給率については、必要な統計データが揃っている一部の先進国に
ついてしか試算できないが、アメリカ127%、フランス136%、ドイツ97%、イギ
リス71%などとなっており、いずれも日本より高い自給率となっている。


日本の食料自給率が下がってきたのはどうしてか

 このように先進国中最低の水準となっているわが国の食料自給率であるが、昔
からそうだったのかというと、実はそうではない。昭和40年度の食料自給率は73
%もあったのである。

 それでは、どうして食料自給率がこのように低下してきたのか。もちろん、国
内農業生産の減少をはじめさまざまな要因が関係しているが、最大の要因は、私
たちの食生活の変化である。

 私たちの食生活は、日本の気候・風土に適した自給可能な米の消費が減少する
一方で、畜産物や油脂類の消費量が増大するというかたちで変化してきた(図1)。

◇図1:わが国の食生活の変化(1人1日当たり供給熱量の構成の推移)◇

 このため、畜産物や油脂類の生産量が増えてきたのであるが、これらを生産す
るためには大量の飼料や原料が必要である。例えば、牛肉1キログラムを生産す
るためには飼料穀物(とうもろこし)11キログラムが、大豆油1キログラムを生
産するためには大豆5キログラムがそれぞれ必要とされている。

 しかしながら、人口に比べ国土が狭く平坦でないわが国では、飼料穀物や大豆
を十分に生産することはできない。このため、これらの輸入が増加し、食料自給
率が低下したのである。具体的には、わが国の食料自給率低下(昭和40年度73%
→平成12年度40%)の約3分の2は、米、畜産物、油脂類という3品目の消費量
・生産量の変化によって生じたものなのである。


イギリスの食料自給率が上がったのはどうしてか

 このように、日本の食料自給率は低下してきたが、興味深いことに、同じ島国
であるイギリスは、最近30年間で逆に食料自給率が向上してきている(1970年46
%→1999年71%、図2)。それはどうしてか。

◇図2:各国の食料自給率(カロリーベース)の推移◇

 まず、国土条件を比較してみよう。イギリスの国土面積は約24万平方キロメー
トルで日本の約0.6倍の広さであるが、人口は約6,000万人と日本の半分に過ぎな
い。従って、1人当たりで見ると、イギリスは日本より広い国土を有していると
いうことになる。その上、イギリスは山岳地が少なく平坦であり、農用地面積は
日本の約3.5倍の1,700万ヘクタールもあるのである(表1)。

<表1> イギリスと日本の比較

 資料:「食料需給表」「FAO “Food Balance Sheets”」等

 このように、イギリスはもともと潜在的に大きな農業基盤を有していたわけで
あるが、20世紀の初め頃までは、自由貿易政策の下、穀物を中心に多くの農産物
を輸入に頼っていた。従って、食料自給率もそれほど高くなかったと推察される。

 しかしながら、2度の世界大戦において、イギリスは深刻な食糧不足を経験し
た。敵国の潜水艦にイギリスの商船が狙われ、島国であるイギリスの食料調達に
大きな影響が生じたからである。このため、イギリスは、戦後、国内の食料生産
の拡大を目標とする農業政策をとることとなった。

 ここで重要なのが、イギリスは食生活があまり変化しなかったということであ
る(表1)。このことは、食料生産の拡大を図るに当たり、イギリスの場合は、
気候・風土に適した小麦の生産を増大させることが望まれる状況にあったという
ことを意味している。気候・風土に適した米の消費が減少し、昭和40年代からそ
の生産調整を行ってきた日本とは、この点が大きく異なっているのである。

 このような中で、イギリスの農業生産は着実に発展してきた。農業経営規模の
拡大が進むとともに、優良品種の普及、肥培管理技術の向上等に伴って小麦の単
収が向上した。現在、イギリスの農家1戸当たり農用地面積は70ヘクタール(19
97年)で日本の約50倍、小麦の単収も10アール当たり805キログラム(1999年)
で日本の2倍以上となっている(表1)。

 このように、同じ島国といっても、イギリスと日本とでは、大きく事情が異な
っているのである。そして、これが現在の食料自給率の水準の差となって現れて
いるのである。


食料自給率を上げるための取り組み

 それでは、日本の食料自給率はこのままでいいのだろうか。

 現在、世界の人口は60億人となっているが、今後も増え続け、2050年には90億
人に達すると予測されている。一方、地球温暖化や酸性雨といった環境問題、土
壌の劣化や砂漠化など、農業生産についてはさまざまな不安定要因があり、中長
期的には世界の食料需給はひっ迫する可能性もあると考えられる。

 従って、わが国における食料の安定供給を将来にわたって確保するためにも、
食料自給率の向上に向けて取り組んでいくことが重要である。

 このようなことも念頭におきつつ、平成11年に食料・農業・農村基本法が制定
された。この法律により、わが国の農政史上初めて食料自給率の目標が掲げられ
ることとなった。そして、この法律に基づき12年3月に閣議決定された食料・農
業・農村基本計画の中で食料自給率目標(22年度にカロリーベースで45%等)が
設定され、その達成に向けた取り組みが現在進められているところである。


12年度の食料自給率はどうだったか

 それでは、食料自給率目標の設定を受けた取り組みの初年度に当たる12年度は
どうだったのであろうか。

 まず、消費面を見てみると、米の消費が減少する一方、畜産物および油脂類の
消費が増加するなど、従来からの傾向が継続し、脂質熱量比率が上昇した(11年
度28.6%→12年度28.8%)。日本人の食生活は、近年、脂質を取り過ぎる傾向
にあり、生活習慣病の増加などが懸念されていることから、22年度までに脂質熱
量比率を27%に低下させることが望ましいとされているが、12年度においては、
この点は改善が図られなかったということになる。

 また、かなりの食べ残し・廃棄が存在する中で供給熱量が増加しており(1人
1日当たり11年度2,619キロカロリー→12年度2,645キロカロリー)、22年度に
おける望ましい水準である2,540キロカロリーまで供給熱量を減少させるため、
食べ残し・廃棄の抑制に取り組んでいく必要がある。

 次に生産面を見てみると、本格的な生産の定着・拡大が望まれる麦、大豆、飼
料作物の生産量は大幅に増大した(対前年で麦14%増、大豆26%増、飼料作物4
%増)。しかしながら、12年度は気象条件に恵まれていたことに留意する必要が
あり、特に飼料作物については、作付面積が引き続き減少しているという問題が
ある。

 また、麦、大豆については、品質の向上、生産性の向上などの課題の解決に向
けた取り組みには遅れがみられ、実需者の引取りに支障が生じているという問題
がある。

 一方で、野菜(対前年1%減)、果実(同10%減)、肉類(同2%減)、魚介
類(同4%減)など、従来それほど自給率が低くなかった品目の生産量が減少し、
これらの自給率が低下しているという問題もある。

 このような中で、12年度の食料自給率は40%と、10年度以降3年連続で横ばい
となった(表2)。しかしながら、以上のような消費面・生産面の状況を見れば、
解決すべき課題は多く、わが国の食料自給率の長期的な低下傾向に歯止めが掛か
ったとまでは言えないのではないかと考えられる。

<表2> 食料自給率の推移
1.品目別自給率の推移

2.穀物等の自給率の推移

 主食用穀物自給率:米、小麦および大麦・はだか麦のうち、
       飼料向けのものを除いたものの自給率。
 穀物自給率:米、麦類、とうもろこしおよび雑穀類の自給率
      (飼料用を含む)。
 飼料自給率:飼料用穀物、牧草等を可消化養分総量(TDN)に
       換算して算出。
3.総合食料自給率の推移



おわりに

 食料自給率は、農業生産のみならず、私たち1人1人がどのような食生活を送
るかによっても左右されるものである。

 従って、食料自給率を向上させるためには、わが国や世界の食料をめぐる事情
について、できるだけ多くの方々に知っていただき、生産者、食品産業事業者、
消費者など関係者が一体となって取り組んでいく必要がある。

 「食料自給率レポート」では、本稿で述べてきた内容をより詳しく紹介してい
るほか、

・ 都道府県別の食料自給率
・ 地域ブロック別の食料消費の状況
・ 各国の食料消費の特徴と食生活指針
・ 米、野菜、肉類、魚介類といった品目ごとの生産の動向
・ 各都道府県における特色ある取り組み

 など、「食料自給率」を取り巻くさまざまな情報を幅広く取り上げている。本
稿をお読みになり、食料自給率に関心をお持ちになった方は、是非一度、「食料
自給率レポート」をお読みいただければ幸いである。


 「食料自給率レポート」は、
http://www.kanbou.maff.go.jp/www/anpo/index.htm
でご覧いただけます。

 また、農林水産省総合食料局食料政策課(TEL:03-3502-5720)で、冊子にな
ったものをお配りしています。

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