栃木県/企画情報部
那須町で乳肉の複合経営を行う農業生産法人・有限会社今(いま)牧場の飼養 規模は搾乳牛110頭、育成牛150頭に肉用牛が30頭。 これほどの規模ともなると代表取締役の今耕一さん(51歳)がふん尿の処理を 行うのは夜になってから、それも周辺の人出が途絶えてからのことだった。東日 本有数の避暑地とし観光客がドッと押し寄せる那須高原一帯では、ことに夏場は 気を使う。しかし正確にいえば夜になってから…というよりも、暗くなるまで終 わらなかったのが実際であった。 1日のうちふん尿処理に費やす労働時間は4〜5時間。これでは満足のいく飼 養管理もできないし、夕食時の家族団欒は無いに等しい。成長する子供たちと話 をする時間ぐらいは作りたかった。 そこで平成7年環境保全対策事業を活用してふん尿処理施設の新設に踏み切っ た。相当規模の投資となることでもあり、近隣の酪農家2戸と「上の原畜産生産 組合」を設立、補助金を導入した。 ふん尿はサイロ・クレーンで自動的に牛舎から発酵場に運び込まれ、ロータリ ー方式の乾燥施設に回される。たい肥になるまで合計90日間。たっぷり時間をか けて製造されたたい肥の90%近くが自家用に、残りは耕種農家等に供給され、替 わりに受け取る稲わらは敷料、飼料となる。 自家用も含めて地域内循環。「自分のたい肥で育った有機稲わらなら安心であ るし、何よりも牛の健康に一番良い」。こうした環境対策施設の設置によって、 ふん尿処理に費やす労働時間は1日30分にまで短縮された。これにより時間的な 余裕が生まれた。 牧場の周りを緑と花で埋め尽くし、酪農のイメージ・アップを図ろうというの である。花壇にも自慢のたい肥がたっぷり投入され、妻・克枝さんが丹精込めて 手入れに当たっている。 ちょうど坂道の途中に位置する今牧場が見えてくると、登ってきた車は減速す る。窓を開けて、観光客はしばしその花々の美しさに見とれており、那須高原で 最初に出会う「地元からの歓迎」といった趣である。 これらの取り組みは平成10年度農林水産祭・畜産部門で天皇杯受賞となって報 われた。 課題はふん尿処理に際しての臭いを減らすことが1つ。さらに地域農業、特に 耕種農家の後継者難にどのような役割を担っていくかである。地域では普及が遅 れているホール・クロップ・サイレージ生産にも意欲的である。
|
||
【今牧場入口で】 |
【たい肥製造の乾燥施設で】 |