愛媛県/企画情報部
東予市三芳の農業生産法人・有限会社渡辺牧場は酪農専業で、その経営規模は 搾乳牛90頭と育成牛60頭。産まれて間もない子牛は手もとに置いているが、育成 の主体は北海道川上郡標茶町で行われており、それが代表取締役・渡辺博文さん (53歳)にとっては乳牛づくりにおける「土台」になっている。 若かりし頃の渡辺さんは毎日せっせと濃厚飼料を牛に与え続けた。しかし脚に 腫れが出たり、事故も絶えない。原因は「牛が健康でなかった」ことである。 たまたま旅行した標茶町では内地からの牛を受け入れるという。そこで県下の 酪農家25戸に呼びかけて標茶町営多和牧場利用組合を結成した。既に25年を経る が、渡辺さんは現在も利用組合の組合長で、妻・真理子さんが事務局長。全体で 250頭が預けられ、出産2カ月前程度になると牛は戻ってくる。 公共牧場は四国にもあるが、わざわざ北海道で育成するのは他でもない、「胸 と脚、そして腹をきたえるため」である。冬場には氷柱が腹に下がるような寒さ になれば、牛は抵抗力を保とうと懸命に食べる。「寒さが牛に食べさせる」ので あり、天与の機能に勢いが増せば「牛の腹が出来上がる」。 東予に帰ってからは粗飼料、中でもパリパリの粗い草をどれだけお腹に詰め込 んでやるかが勝負となる。大手乳業メーカーの研究員も、そして表敬にやってき た標茶町の酪農家も渡辺さんの牛にうなった、「ここの牛は腹が大きいなあ!」 と。 餌を十分食べていれば補助的に与える配合飼料もその効果を発揮するが、配合 飼料だけでは健康な牛には育たない。これは渡辺さん自身が若き日に体得した苦 い経験に基づく。 4年前、JR三芳駅にほど近い自宅横の牛舎を移転するに際して、フリースト ール飼養に転換した。だがコンクリート床で蹄を傷めた牛を何頭か死なせてしま った。そこでふんをベッドの高さを限度とするまで貯めることにした。「見てく れは悪くとも牛が脚を傷めないためならば、問題は別」と割り切っている。 獣医師資格を得た二男・一生さんが就農し、万事に順調な渡辺さんだが、参っ たのはホール・クロップ・サイレージ。「普及センターの指導通りに直播してみ たら、鳩と雀に全部拾われてしまった」と嘆く。
【牛舎前で】 |
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【自慢の「腹ができた」乳牛たちを背に】 |