農畜産業振興事業団
理事長 山本 徹
平成15年を迎え、新春のお慶びを申し上げます。 最近の世界経済を見ますと、これまで世界経済を牽引してきた米国の経済は、 個人消費や生産、雇用面で不透明感が強まっております。 中国を除くアジア諸国においては、一時の苦境から抜け出し経済は活発化し つつあるものの、米国、日本の経済情勢の影響で不安定な環境下にあります。 一方、世界貿易機関(WTO)に加盟した中国は、加盟による直接的な影響は 今のところ見られず、農産物や工業製品の生産・輸出を拡大しています。 また、異常気象によるものなのか、オセアニアや北米大陸は干ばつに見舞わ れ、畜産物や穀物生産への影響が懸念されております。 WTOの農業交渉は、本年3月までに関税の引き下げや補助金削減などについて の交渉の大枠を決めることとなっており、輸入国と輸出国、先進国と途上国の 間の主張が対立しておりますが、このような中でわが国は、多様な農業の共存 を目指し、わが国の農業を守るため強力な姿勢での交渉が望まれています。 このような国際環境の下で、わが国経済については、不良債権の処理問題や 厳しい雇用情勢の下、構造改革と景気対策に努力が続けられています。 食品は、国民の生命と健康を守る観点から安全・安心を第一に考えるのは当 然ですが、加えて内外価格差の改善要請や消費者の低価格志向に沿って効率的 な生産・流通によるコストダウンが必要です。さらに、食品や食生活の高度化 ・多様化を求める消費者ニーズに即した特色ある製品の生産も重要になってい ます。 最近、食生活の乱れが指摘されています。食品が栄養摂取を目的とするだけ のものでなく、楽しく食べ、心を豊かにするためのものであるという視点に立 って、バランスのとれた食事をすることが必要です。また、できるだけ地域の 食材を活かした手作りの料理を楽しむというイタリアで始められたスローフー ド運動が、日本でも唱えられるようになっています。このような観点から、食 の教育すなわち食育の重要性が主張されています。 また、トレーサビリティの導入や、生産・加工・流通過程を積極的に公開し、 消費者に対して透明性を持つと同時に、消費者との対話を重視し、消費者への 信頼回復に努めなければなりません。 農林水産省においては、昨年4月に公表された「食と農の再生プラン」で消 費者に軸足を置いた農政が推進されており、「食の安全と安心の確保」「リス ク分析」および「リスク管理」を推し進めていくことが課題となっています。 昨年6月にはJAS法が一部改正され、公表の弾力化および罰則の強化が図られた ところでありますが、食品安全行政の更なる推進を図るため、農薬取締法、飼 料安全法の改正等も進められております。 牛肉について見ますと、わが国初めてのBSE感染牛の確認や食肉の偽装問題 が、畜産業の根幹をゆるがしかねない事件に発展しましたが、BSE確認以来、 農林水産省の指導の下、関係団体と力を合わせ、生産農家の経営安定対策、消 費の安定拡大対策、全頭検査を始めとする安全対策に全力を挙げてきました。 これらの対策が功を奏し、牛枝肉卸売価格はBSE確認以前の水準に回復し、 牛肉の消費は9割強の回復となっています。しかし、まだ大都市を中心に学校 給食で牛肉使用の自粛を行っている学校が見られ、BSEに関する正しい情報の 提供と消費の拡大のための努力が引き続き必要です。 豚肉は、14年8月に関税引き上げの緊急措置を発動したにもかかわらず、9月 以降の輸入量が前年を大幅に上回り、年末に向け卸売価格が前年を大幅に下回 って推移しております。鶏肉は、国産志向の高まりと中国、米国の衛生問題に より輸入量が下回っており、国産もも肉の卸売価格はかなりの高値となってい ます。鶏卵の卸売価格は堅調です。 酪農に目を向けると、生乳生産量は6年ぶりに前年を上回っており、加工乳 が減少する一方、牛乳は増加傾向となっており、乳製品については健康志向に よりはっ酵乳特にヨーグルトの需要量の拡大が目立っています。 農水産業、食品製造業、外食産業で構成される食料産業は、わが国の基幹産 業として、経済の活性化、雇用の確保の観点からも、重要です。特に、畜産業 はわが国農業の3分の1を占める基幹分野であるとともに、畜産物は、国民の健 康な体づくりに貢献し、肉体と精神を活性化するための重要な食材です。また、 わが国が世界一の長寿国となったのは、戦後畜産業が飛躍的に発展し、畜産物 を今日のように豊かに食べられるようになったことが大きく役立っています。 このような畜産物の生産者、流通・加工業者の方々が、希望と自信と誇りを もって畜産に取り組み、農業基本計画の目標である自給率の向上、ひいては消 費の安定・発展、食の安全・安心が達成されるよう、私どもはより一層これを お手伝いする所存です。 当事業団は、本年10月1日をもって野菜供給安定基金と統合し、独立行政法 人農畜産業振興機構に改組され、運営の効率化、透明性の確保を一層推し進め ることとなっております。 このような情勢を踏まえ、14年10月以降「業務執行改善検討委員会」を開催 し、12月に取りまとめられた報告書に基づき、業務執行方法の改善、行動憲章 の策定、消費者代表との意見交換会の開催、消費者等苦情受付窓口を開設する など、当事業団の業務運営の一層の効率化、適正化、透明性の確保に努力して いるところです。 年頭に当たり、今後とも畜産業および関連産業の健全な発展ならびに国民消 費生活の安定に努力していく決意を表明する次第であります。 本年が皆様方にとって希望の持てる年となりますことをご祈念申し上げ、年 頭のあいさつといたします。