家計調査に見る最近の食肉消費動向について

 
                          独立行政法人農畜産業振興機構 監事 渡部紀之


 

1 牛肉の消費動向について

 

分析期間を通じて総体的に食料支出が減少傾向で推移していることもあり、牛肉の購入数量および支出金額
は減少傾向にある。

牛肉購入数量が減少した期間は、@平成11年1月から6月までの間、A平成12年1月から6月までの間、
B平成12年12月から平成13年12月までの間、C平成15年1月から5月までの間、およびD平成15年10月
から平成16年4月までの間である。

Aの期間は食料支出衰退期ではなかったことから、口蹄疫の影響のあった時期と考えられ、Bの期間の前半は
衰退期と重なっているが、後半は重なっていないことから明らかにBSEの影響であり、Dの期間は衰退期では
ないことから米国牛肉の輸入停止、高病原性インフルエンザの影響と考えられる。

 

そのような中にあって、口蹄疫および米国産牛肉輸入停止、高病原性鳥インフルエンザの影響はそれ程大き
なものではないが、BSEの発生は大きく影響し、TCI値で見た購入数量では、243グラム(8月)から117グラ
ム(10月)、支出金額では640円(8月)から289円(10月)へと半減以上に落ち込んでいる。その後、購入
数量および支出金額とも回復傾向で推移し、平成14年12月までには223グラム、607円までに回復した。

この数値をどう見るかは意見が分かれ、「消費は90%程度までしか回復していない」と「家計消費が減少し
ている中では、ほぼ回復している」という両方の見方ができるが、生鮮魚介などの消費動向を併せて見ると後
者の意見が正しいように思われる。

すなわち、家計分野では、牛肉の安全、安心対策などが奏功しBSEの影響は無くなったと考えて良さそうで
あり、最近消費が伸びていないのは、牛肉価格が高いことによるものであると見ることができる。

なお、生鮮魚介を含めた分析については、以降でも若干報告したい。


  牛肉の購入単価は、TCI値で見るとBSE発生に伴って平成13年8月の260円から10月の249円
の急落となっているが、TC値で見ると平成14年4月までの間に若干の値下がり(△2.5%)となって
いることから、卸売価格が暴落に近い下落の中で、小売価格(購入単価)はあまり下がらなかったこ
とを意味している。

消費者の急速な「牛肉離れ」が起きている最中では、小売価格を下げることで販売量の改善を図る
方法は取れなかったものと思われる。

購入数量および支出金額が回復する以前の平成14年4月を底として、購入単価は上昇傾向に転じた
のは、その後の偽装問題の顕在化などを見て、消費者や多少価格が高くても品質表示などがしっかりし
ているものを求めだしたことによるものと思われる。

その後のBSEからの回復以降の卸売価格の上昇、更には米国からの牛肉輸入停止措置によって比較
的安価な牛肉が出回らなくなったことを受けて、購入単価は平成16年9月では294円まで、大幅な上
昇となっている。購入単価から見た影響度合いでは、米国からの輸入停止が大きく影響していると見
ることができる。

 

2 豚肉の消費動向について

 分析期間を通じて総体的に食料支出が減少傾向で推移している中にあって、牛肉とは逆に豚肉の購入
数量および支出金額は増加傾向にある。豚肉の購入数量が増加した期間は、@平成11年12月から平成
12年6月までの間、A平成13年6月から平成14年2月までの間、およびB平成15年10月から平成16
年5月までの間である。

購入数量の増加の期間は、牛肉の購入数量、購入金額の減少の期間と見事に重なっている。

 

 

豚肉の支出金額は、購入数量とほぼ同様の動きとなっており、平成13年4月から平成14年1月までの間
(546円→6178円、13.1%増加)と平成15年9月から平成16年5月までの間(568円→626円、10.2%増
加)で比較的大きく増加した。

豚肉の購入単価は、分析期間中では総体的に下降傾向であるが、平成13年1月(133円)から平成13年12
月(138円)までの間と平成15年8月(133円)から平成16年9月(137円)までの間は値上がりしている。

なお、下降傾向は1997年半ば以降から平成13年3月まで、ほぼ一貫して続いていた。

豚肉の購入数量、支出金額および購入単価については、牛肉の動向との関連が非常に強いことから、鶏肉の
動向を含めて、各食肉間の関連性などについて別項によりそれらの分析結果を報告することとしたい。

 

3 鶏肉の消費動向について

 鶏肉の購入数量は、牛肉や豚肉と異なり300グラム前後であまり大きな変動はなく安定的に推移している。
そのような中で明らかに鶏肉の購入数量が増加した期間は、平成13年5月から平成14年4月までの間あり、
減少した期間は、平成14年5月から平成15年2月までの間と平成15年6月から平成16年2月までの間で
ある(若干の減少は、平成11年4月から10月までの間と平成12年7月から平成13年5月までの間に見ら
れる)。

購入数量の増加した期間は、BSEの影響で牛肉からシフトと考えられ、減少した期間は、食料支出衰退期
と重なっている。なお、高病原性鳥インフルエンザの影響のあったと思われる平成15年12月と平成16年3月
の購入数量をTCI値で見ると、305グラムから248グラムへと19%の大幅な減少となっている。

その後、購入数量が回復基調に向かったのは、防疫体制などが有効に機能し、4例の発生を見たものの、発
生箇所からまん延することなく収束したこと、さらには食品安全委員会から3月11日に発表された「鶏肉、鶏
卵から人に感染するとは考えられない」との情報提供や厚生労働省、農林水産省および関係団体などからの安
全・安心に関する情報提供などが奏功したものと思われる。

 

鶏肉の支出金額は、おおむね減少傾向で推移しているが、BSEの影響で需要が牛肉から豚肉および鶏肉に
大きくシフトした時期に増加している。TCI値で見た場合、平成13年7月の254円から平成13年12月の
308円まで一気に21%増加している。

また、高病原性鳥インフルエンザの影響のあった期間では、平成15年12月の281円から平成16年3月
の227円まで一気に19%減少している。鶏肉の購入数量と支出金額とを併せてみると、BSEの影響と比べ
て短期間ではあったが高病原性鳥インフルエンザの影響の方がインパクトは大きかったと思われる。

 

 

鶏肉の購入単価は、豚肉と同様に1997年半ばから平成13年1月までほぼ一貫して下降傾向が継続し
ていた。

その後、上昇傾向となりBSEの影響があった期間では、TCI値で見ると平成13年8月の92円から平
成14年1月の96円まで上昇し、以降は再び下降傾向となり、平成15年10月の91円まで下落した後、
平成16年9月には94円まで上昇している。

 
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