岩手県盛岡市の藤原養蜂場の藤原誠太さんは、春になると皇居周辺の草木からみつを採取するために、東京永田町のビルの屋上を根城に約20箱のミツバチたちを連れて上京してくる。2年前に皇居のお濠端を取り巻く街路樹に良質なみつが採れるユリノキが多いことに注目し、試してみたところ、他の花々からも良い状態でみつが採れることが判明し、昨年から本格的な採取を開始した。ユリノキは外来種で、鳥が好んで食べるほどみつが豊富なことに加え、杉の1.5倍の早さで成長し、18cmの太さの木で1台の車が1年間に排出するCO2を消化するほど酸素の供給量が多いこと、酸性雨が木を伝って土中に流れ着くまでにアルカリに変化させる機能を有することなど、利点の多い樹木の一つである。さわやかな甘みをもったみつは徐々に人気が高まっている。このほか、3月下旬から4月上旬にかけての桜から始まり、菜の花、栃、アカシアなどを中心に皇居周辺で5月下旬まで採取が続く。
ハチといえば刺す虫と考えられ、人の多い都会で養蜂を行うことに拒否反応を起こす人もいるが、藤原さんによると「猫が尻尾を踏んだら、爪を立てるのと同じ」で、ミツバチは女王蜂や熊などの外敵から巣を守るときに攻撃的になるだけだと言う。「熊に間違えられないように黒い衣服を避ける、激しく動かない、そんな配慮をするだけでミツバチとは共存できるのです」ミツバチを理解して、熊などに取られることを想定してミツバチが余分に貯めるみつをいただく。そのためにミツバチがみつを採りやすいように周囲の環境を整える。それが養蜂だという。
「森の木の伐採をやめて欲しいと言い続けてきたのも、ものが言えないミツバチに成り代わってのことです。熊が人里に下りてくるのも、山に実がなくなっているからで、熊を撃つなという前に自然の循環をもっと知って欲しいと思います。動物の目で自然を見ることができるのが養蜂家なんです」
永田町で養蜂中の20箱のハチが約2ヶ月間に採取する花蜜の量は約1.4tにもなる。ハチが活発に活動することで受粉が行われ、草木に実がなり、その実を食べに都会にも小鳥が戻ってくる。都会のど真ん中で自然の循環の大きな環の一つを担っているのが小さなミツバチたちなのだ。自然が失われていく中で、かつて12,000人ぐらいいた養蜂家も今では約3,000人となり、平均年齢も70歳位で、「青年部」の平均年齢でさえ50歳と高齢化が著しい。自然を舞台に数千年も続いてきたミツバチと人の協働の営みが今後も続いていけるように、ミツバチへの理解をもっと高めたいと、珍しい都心での養蜂に殺到する取材を積極的に受け、一助になればと切に願う藤原さんである。
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ビルの屋上におかれた巣箱
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国会議事堂を背に作業する藤原さん
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