畜産農家にとって、「分娩」は非常に重要である。牛乳は分娩を経ないと生産できないし、分娩が無事に行われて初めて牧場の後継牛や肥育素牛が生産される。
分娩は自然な状態で行われるのが理想であるが、乳牛の初産では難産が多く、適切な助産を行わないと、自力で娩出できずに子牛が死亡してしまうことがある。なんとか生まれた場合でも、分娩に時間がかかってしまうと子牛が衰弱する。また、母牛に負担がかかり産後の回復が遅れたり疾病を起こすことがある。さらに、出生後できるだけ早く初乳を給与するためにも、可能な限り分娩の徴候を確認し、必要な時には速やかに助産し、出生した子牛の処置をすることが重要である。
しかし、分娩は昼夜を問わず起こるものである。分娩日の予測はある程度できても、分娩時刻を予測するのは難しく、夜間に分娩しそうな時には、夜中に起きて牛舎へ見回りに行っているのが現状である。畜舎内に監視カメラを設置し、自宅などに設置したモニター画面で分娩を監視することも行われている。しかし、モニター画面を見続けるのも大変であるし、目を離したしばらくの間に分娩が始まっていることもある。
このような問題を解決するため、富山県農業技術センターでは、畜産農家にとって負担となっている分娩の監視を簡易かつ自動的に行う牛の分娩監視システムを開発した。この分娩管理システムは、NTT
DoCoMoが開発した携帯電話用モニタリング装置を応用したものであり、その概要は次の通りである。
(1)温度センサーを監視対象牛の膣内に挿入しておく。
(2)分娩が始まるとセンサーが体外に排出される。センサーの検出温度が一定以上低下することで分娩開始を感知する。
(3)分娩開始を感知すると、携帯電話用モニタリング装置が家畜の画像を自動撮影し、手元の携帯電話にリアルタイムの動画を自動送信することにより分娩開始を通報するので、動画像で確認できる。
(4)夜間は、携帯電話の操作によりライトを点灯させることも可能である。
(5)監視対象牛の鳴き声を聞くことも可能である。
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分娩監視システム(プロトタイプ)
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本システムではセンサーの誤排出によって携帯電話に誤報が届いた場合でも、リアルタイムの動画を手元で確認することができるので、無駄足を踏まずに済む。
携帯電話は現代社会では広く普及しており、操作が容易である。コンピュータやネットワークの知識も不要である。また、普段身につけている携帯電話を利用するので、24時間体制で監視が可能である。
現在、特許を出願しており、さらにプロトタイプの改良を重ね、製品開発を目指している。
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