◎地域便り


滋賀県 ● 3 頭のヒツジが 1 頭 4 役で野生イノシシからブドウを守る

滋賀県/寺本 憲之


 「3頭のヒツジさん 様サマ・・・」と語るのは、滋賀県竜王町の希望ヶ丘観光ブドウ園代表の尾河 榮(しげる)さん(51)。同観光ブドウ園では、滋賀県と生産者が協定を結んで、化学農薬の使用成分数と化学肥料の施用量を半分以下で栽培する「環境こだわり農業」を実践している。

 尾河さんはアレルギー体質のために除草剤が使用できず、園内の雑草処理に頭を悩ませていた。また、同園では一昨年からイノシシによるブドウの被害甚大となっていた。イノシシはなんと仁王立ちして丹精込めて栽培したブドウをムシャムシャと食害するのだ。昨年は、数頭の大型イノシシがほとんど毎日園内へ侵入した。同園では、大切なブドウを守るため、夜遅くまで園内でイノシシの見張り番を行う毎日が続いた。尾河さんは体力的、精神的、経営的に限界がきていた。昨年のイノシシによるブドウの被害金額は167万円、これでも防護柵、電気柵やネットの設置、駆除を併用して必死にイノシシ対策を実施した結果の被害金額である。

 普及センターでは、聞き取り調査や有害鳥獣駆除個体の胃袋内容物調査を行い、イノシシの異常な出没状況の原因を追及した。その結果、(1)同園では以前隣接している山中でブドウくずの処理を行っていたことがあったこと、(2)捕獲イノシシの胃袋中の内容物がほとんどブドウであったことが判明し、これらの2点から当地域のイノシシは効率的にエネルギーが取れるブドウに固執した食性になっていることが判明した。

 そこで、普及センターでは、平成16年の春、本格的にイノシシ対策の指導に入った。まず、5月に県畜産技術振興センター(日野町山本)から3頭のヒツジを借り、園内に放牧した。ヒツジたちにイノシシ対策、除草、観光の1頭3役をこなさせる計画だ。放牧以外にも、ブドウくず放棄の禁止の徹底、園外周の一部に金網フェンスの設置、駆除などと併行した総合的対策の実施指導を行った。

 結果、この対策がピタリと当たり、同園の平成16年のイノシシによるブドウの被害金額は0円になった。尾河さんは「ヒツジ放牧の効果は抜群。ヒツジが草を食べてくれるため除草効果もてきめん。さらに、マスコットとして来園者や課外学習で訪れる幼稚園児の人気者になり、集客面でも貢献してくれている。おまけにふんもブドウのたい肥になった。1頭3役どころか、1頭4役の大活躍。普及センターの指導のお陰で今年はすべてうまくいった。本当にありがたい。」と話している。普及センターでは今後も環境にこだわったイノシシの総合的対策の指導を行う予定をしている。


昨年の観光ブドウ園の被害状況
今年はヒツジが1頭4役の大活躍!!

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