◎調査・報告


亜臨界水処理による未利用有機物の
高速高度資源化と農林水産・畜産分野への応用の可能性

大阪府立大学大学院 工学研究科 教授 吉田 弘之



1.はじめに

 わが国における産業廃棄物は年間約4億トン、一般廃棄物は約5千万トン、合計4億5千万トン(国民1人当たり約3.8トン)にものぼり、最終処分場の枯渇の問題も含め、危機的状況にある。

 図1にわが国における産業廃棄物の業種別排出量を示した。農業が第2位の排出業種であるが1位との差は小さい。図2に産業廃棄物の種類別排出量を示した。汚泥が46.7%を占め、次いで家畜のふん尿が約22.5%となっている。図1および図2から、農業から排出される産業廃棄物の大部分が家畜のふん尿であることがわかる。その他、食品廃棄物や廃木材なども含め、全廃棄物に占める農林水産、特に畜産関連の廃棄物の割合は大きい。現在、これら廃棄物の大部分は焼却もしくは直接埋め立てられ、家畜のふん尿にあっては大部分が農地や草地へ還元されているものの、有効に利活用されていないものも少なくなく、ゼロエミッションの考え方に基づいた資源化もしくはエネルギー化の技術の開発が緊急の課題となっている。

図1 産業廃棄物の業種別排出量(平成13年度) 図2 産業廃棄物の種類別排出量(平成13年度)
 


 筆者は、産業廃棄物および一般廃棄物のいずれにおいても有機性の廃棄物が約75%を占めていること、これら有機性廃棄物の資源・エネルギー化技術を確立すれば、わが国はもとより世界の廃棄物問題の多くを解決することになることに着目し、亜臨界水処理や過熱水蒸気による資源・エネルギー化技術開発に関する基礎から実用化までの研究を行ってきた。

 ここでは、有機性廃棄物の例として、魚あら(魚腸骨)、汚泥、肉骨粉などの亜臨界水処理による資源化、亜臨界水処理を前処理にすることによる高速高消化率メタン発酵について紹介する。

2.亜臨界水とは

 
図3 水の状態図
 
   

 図3に水の状態図を示した。水を密閉容器に入れ温度を高くしていくと、水は体積の膨張により密度は小さくなる。一方、水蒸気の圧力は増加しその密度が大きくなる。さらに温度を上げていくと、374度、218atm(647K、22.1 MPa)で水と水蒸気の密度が等しくなり、水か水蒸気かの区別がつかない状態になる。この点を臨界点という。臨界点以上の温度圧力の水を超臨界水といい、少量の酸化剤の存在で、強烈な酸化力を示し、有機物は瞬時に二酸化炭素にまで酸化される。臨界点以下の温度圧力の水を亜臨界水(図3参照)と呼ぶ。亜臨界水は、250度付近で加水分解力が最大となり、有機物を高速で水に溶ける低分子に分解する。また、水でありながら、油を抽出する力が強く、有機物中の油はほぼ100%瞬時に抽出する。臨界点付近に近づくと加水分解力は衰え、熱分解力が強くなる。以上の亜臨界水の性質をうまく利用すれば、有機性廃棄物から種々の有価物の生産が可能となる。

(1)魚あらの亜臨界水処理1〜4)

 ロンドン条約の改正により、96年より魚市場などから発生する魚あら(魚腸骨)をはじめそれまで海に捨てていた有機性廃棄物の海洋投棄が禁止された。一般に魚あらは、入荷量の約45%と言われており、わが国では年間約130万トン排出されているが、現在ではその大部分は焼却処分されている。図4に筆者の提案している亜臨界加水分解による魚あらの資源化の概略を示した。魚あらの亜臨界水加水分解に関する詳細な研究成果を基に、魚あらの亜臨界水処理による資源化プロセスを提案し、図5にその経済効果の検討結果を示した。焼却費用として推定845億円使っていたのに対し、亜臨界水処理プロセスを導入することにより、かなり低めに見積もって467億円の利益を生み出すことが可能となる。不要になった焼却費用も利益とみなすなら、合計1,312億円の利益となる。

図4 魚あらの亜臨界水処理による資源化

図5 魚あらの亜臨界水処理の経済効果

(2)汚泥の亜臨界水処理5)

 日本の産業廃棄物の約46.7%、大阪府では約70%が汚泥であり、その大部分は下水処理場から排出される余剰汚泥である。余剰汚泥は、99.5%の水分と0.5%の有機性部分からなり、水分を除去するために濃縮脱水後、化石燃料を用いて焼却処分、もしくは直接埋め立てされている。汚泥を原料に一部コンポストなどが作られているが、あまり利用されていない。

 余剰汚泥を亜臨界水処理すると、褐色の固体が懸濁する水相と油相になり、遠心分離すると、固相が沈殿した。図6に反応時間が10分における亜臨界水処理の効果を示した。200度の場合、固相の量は原液に比べ1/3以下になった。280度では、汚泥の有機物はほぼ全てが可溶化した。詳細な実験から反応時間10分で分解はほぼ終了することがわかった。得られた油の量は、乾燥重量基準で汚泥の20%にも達した。水相を分析すると、種々のアミノ酸および有機酸が生成していた。有機酸ではリン酸の生成量が最も多く、ついで、ピログルタミン酸、乳酸、ギ酸、酢酸の順であった。

図6 下水汚泥の余剰汚泥の亜臨界水処理

(3)肉骨粉の亜臨界水処理6)

 BSE感染の原因が肉骨粉であることが有力視されているため、大部分は焼却処分あるいはセメント工場におけるロータリーキルンで処理されている。筆者らは亜臨界水処理により肉骨粉を無害化し、資源として利用することが可能かどうかについて詳細な検討を行っている。

 図7に290度における固相残存率、TOC(全有機炭素量)および油相の収率の経時変化を示した。いずれも初期の5分間に大きな変化が見られるが、その後ほぼ一定値を示していることから、反応は5分以内にほとんど終了していると考えられる。油は乾燥基準で原料肉骨粉の17%回収できた。水相中には大量の有機酸であるピログルタミン酸、乳酸、酢酸やアミノ酸であるヒスチジン、グルタミン酸、アラニンが生成した。

図7 肉骨粉の亜臨界水処理(290度)



 なお、異常プリオンに相当する分子量のタンパク質が肉骨粉の亜臨界水処理中に分解消滅するかどうかの検討も行い、無害化につながる操作条件を一部見出しており6)、現在、さらに広範な実験を実施検討中である。

(4)亜臨界水・超臨界水処理による廃木材の資源・エネルギー化7)

 石油の枯渇および二酸化炭素濃度の増加の問題解決には、バイオマス起源の代替エネルギーの開発が急務である。ここでは廃木材を亜臨界水および超臨界水処理することにより有用な物質を生産することを試みた。図8に反応時間1分における固相残存率と全有機炭素(TOC)収率および油相収率に及ぼす反応温度の影響を示した。固相残存率は反応温度の上昇に伴って減少し、340度付近で固相の量は反応前の10%以下、390度付近でほぼゼロ近くまで減少した。一方、固体の減少に伴い、油(タール)が大量に生成し、370度以上で反応前の固体重量の50%にも達した。水相には、有機酸であるグリコール酸、乳酸、ギ酸、酢酸が生成した。

図8 木材(ベイツガ)の亜臨界水処理における固相残存率、油相の収率および水相中のTOC収率の温度依存性(反応時間:1分)


3.亜臨界水処理を前処理とする高速高消化率メタン発酵 8、9)

 汚泥や家畜のふん尿、食品廃棄物などをメタン発酵してエネルギー化しようとする試みが行われている。しかし、消化速度が1〜2カ月と遅く、また、消化率も30〜50%と低いため、大面積の土地を必要とすること、メタン発酵後の残さの処理と廃水処理に大きなコストがかかり、比較的土地の安いところに建設したメタン発酵・ガス発電プラントにおいても赤字が発生している。

 図9に筆者の提案している亜臨界水処理を前処理にした高速高消化率メタン発酵による汚泥の資源・エネルギー化構想を示した。亜臨界水処理を前処理にすると、水相にはアミノ酸や有機酸が生成する。この水相そのまま、あるいは有価物を分離した後の水溶液をメタン発酵の原料にすると、反応時間が1〜3日と極端に短くなる。すなわち、消化槽の大きさが1/60〜1/10にすることが可能となる。さらに、消化率が90%以上に向上すると考えられるため、残さの処理と排水処理も大幅に削減できる。余剰汚泥を亜臨界水処理した後、高速高消化率メタン発酵を行った後、ガス発電したとすると、わが国の総発電量の約0.3%を供給できることになる。

図9 汚泥の亜臨界水処理による汚泥の高速高効率資源・エネルギー化構想



 図10に余剰汚泥のメタン発酵に対する亜臨界水前処理の効果8,9)を示した。Aは亜臨界水処理をせず余剰汚泥を直接メタン発酵した場合、BおよびCは余剰汚泥をそれぞれ異なる温度・圧力で10 分間亜臨界水処理して得られた分解液を投与した結果である。アミノ酸による高負荷の影響を軽減するため、汚泥を5倍希釈して用いた。縦軸は単位汚泥当たりのメタン発生量を示している。実験の結果、余剰汚泥を用いたもの(A)は培養日数が5日を経ても顕著なメタン発生が見られないのに対し、余剰汚泥を亜臨界水処理したものは1日目から劇的なメタン発生量の増加が見られた。

図10 余剰汚泥の亜臨界水処理の効果
  A:汚泥の直接メタン発酵
B:亜臨界水処理(10分)
C:亜臨界水処理(10分)

 以上の結果より、有機性廃棄物(余剰汚泥)の亜臨界水処理液を用いた高速メタン発酵が達成されたと言える。

4.おわりに

 
 
連続亜臨界水処理ベンチプラントの概観
   

 亜臨界水処理による農林水産畜産関連の資源・エネルギー化に関する実験例を示し、その適用の可能性について議論した。筆者は、これらの基礎研究の成果を踏まえ、昨年末に、文部科学省のCOEプログラムの研究費で、処理量が最大4トン/日の連続亜臨界水処理ベンチプラントを大阪府立大学内に建設、現在まで良好な運転実績を得ている。今後、さらにコンパクト化、低ランニングコスト化を図り、高速高消化率メタン発酵技術と合わせて、土地の高い大都会でも設置可能な地域分散型ゼロエミッション資源・エネルギー化技術を確立したいと考えている。

 

<引用文献>

1)H. Yoshida, M. Terashima, and Y. Takahashi"Production of Organic Acids and Amino Acids from Waste Fish Meat by Sub-Critical Water,"Biotechnology Progress, 15(6), 1090-1094(1999)
2)吉田弘之、寺嶋正明、高橋洋平"亜臨界水加水分解法による魚肉の有機酸・アミノ酸への有価物化に及ぼす反応条件の影響"廃棄物学会論文誌,Vol.12,No.4, 163-167(2001)
3)H. Yoshida, Y. Takahashi and M. Terashima"A Simplified Reaction Model for Production of Oil, Amino Acids, and Organic Acids From Fish Meat by Hydrolysis under Sub-Critical and Supercritical Conditions," J. Chem. Eng. Japan, 36, No.4, 441-448(2003)
4)H. Yoshida and O. Tavakoli"Sub-critical Water Hydrolysis Treatment for Waste Squid Entrails and Production of Amino Acids, Organic Acids, and Fatty Acids," J. Chem. Eng. Japan, 37, No.2, 253-260(2004)
5)吉田弘之、梅沢貴裕、松原孝行、安田昌弘、平田佳枝"亜臨界水加水分解による余剰汚泥の資源化と反応機構の解析"化学工学会第69年会講演要旨集、F325(2004)
6)吉田弘之、中橋知美"亜臨界水処理による肉骨粉の無害化と資源化"化学工学会第36回秋季大会講演要旨集 I1A02(2003)
7)吉田弘之、片山裕紀"亜臨界水・超臨界水処理による廃木材の資源・エネルギー化"化学工学会第36回秋季大会講演要旨集 I1A01(2003)
8)吉田弘之、徳本勇人、西口恭子"有機性廃棄物の高速メタン発酵"化学工学会第69年会講演要旨集、G308(2004)
9)吉田弘之、徳本勇人、西口恭子"メタン発酵における固定化担体"化学工学会第69年会講演要旨集、G309(2004)



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