はじめに
わが国の肉用牛飼養戸数は、高齢化や後継者不足から中・小規模層を中心に減少傾向で推移している。これに伴い、肉専用種繁殖めす牛頭数の減少、ひいては肥育素牛の不足により肉用牛の生産基盤の脆弱化が危惧されている。その一方で地域によっては、新しい取り組みが行われるなど、規模拡大を進める経営もみられる。
肉用牛の生産基盤を確立するためには、肉専用種繁殖めす牛の維持・拡大が喫緊の課題となっており、このためには、(1)担い手の育成・確保(2)優良種畜の確保(3)土地基盤・粗飼料などの確保−が重要な課題である。奄美群島は、まさにこれら「人、牛、草」の生産3要素の確保を実践し、肉用牛の生産基盤の充実が図られている。
具体的には、(1)Uターンなどにより若い担い手が繁殖経営に参画し、お互いに切磋琢磨していること(2)台風による農作物被害が大きい中、肉用牛生産が志向されたこと(3)労働時期が一時期(2〜5月)に集中する季節性の作物であるさとうきびとの兼業、複合経営が受け入れやすかったこと(4)5回刈り取りが可能なローズグラスを中心とした粗飼料生産およびさとうきびの梢頭部の飼料利用ーなどが挙げられる。
今回は本群島の中でも肉用牛の飼養頭数が多い沖永良部島と徳之島で、南国の太陽の下意欲的に子牛生産に力を注ぐ畜産農家などを訪問する機会に恵まれたので、その概要を紹介したい。
1.奄美群島畜産の概況
奄美群島は、鹿児島の南西の洋上、澄みきった碧い海と空、そしてさざめく波の音に囲まれた有人、無人の島からなっている。有人島には大島本島(加計呂麻島、請島、与路島を含む)、喜界島、徳之島、沖永良部島および与論島があり、東西約162km、南北約168kmの範囲で飛石状に連なり、人口は郡全体で約12万8千人(16年6月現在)となっている。気候は、亜熱帯海洋性で四季を通じて温暖・多雨である。
群島では、この温暖な気候条件を活かして、さとうきびを基幹に野菜、花き、果樹などが生産されている。畜産については、肉用牛繁殖経営が主なものとなっているが、さとうきびや園芸作物などとの複合経営の重要な作目として着実に発展してきた。
奄美群島農政推進協議会、鹿児島県大島支庁農林課がまとめた「奄美畜産の動向」によると、平成15年1月1日現在の奄美群島における肉用牛飼養戸数は前年と比べて2.5%減の2,282戸、飼養頭数は同0.2%減の26,522頭とともに減少傾向であるが、1戸当たりの飼養頭数は同2.3%増の11.6頭とわずかではあるが増加した。また、子牛生産頭数をみると同2.8%増の12,944頭となった。
14年度の畜産物粗生産額は、47億6,700万円で、農業粗生産額の約17%を占めているが、中でも、肉用牛は42億1,600万円と畜産部門の約88%、農業全体でも15%を占め、奄美群島の畜産における主要産品の一つとなっており、また、奄美群島は県内有数の子牛生産地帯としての地位を確立している。
図 1 肉用牛飼養農家戸数の推移(対前年度増減率)
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資料:農林水産省「畜産統計」、 奄美群島農政推進協議会・大島支庁農林課「奄美畜産の動向」
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図 2 肉用牛飼養頭数の推移(対前年度増減率)
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資料:農林水産省「畜産統計」、 奄美群島農政推進協議会・大島支庁農林課「奄美畜産の動向」
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図 3 奄美群島における繁殖めす牛頭数の推移
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資料:奄美群島農政推進協議会・大島支庁農林課「奄美畜産の動向」
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図 4 奄美群島における飼料作付け面積の推移
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資料:奄美群島農政推進協議会・大島支庁農林課「奄美畜産の動向」
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図 5 奄美群島における肉用子牛生産頭数
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資料:奄美群島農政推進協議会・大島支庁農林課「奄美畜産の動向」
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図 6 肉用子牛(黒毛和種)市場平均取引価格の推移
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資料:農畜産業振興機構調べ 注:めす・おす平均
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2.沖永良部島の畜産
(1)農業および畜産の概況
鹿児島から南へ546km、北緯27度線上に位置し、総面積は93.6km2。全島がさんご礁(琉球石灰岩)で平坦地が多く、耕地率(総面積に占める耕地面積の割合)は48.8%と奄美群島の中では与論島に次いで高い。知名町、和泊町の両町から成り、人口は約1万5千人である。
農業は、さとうきびを中心に、県ブランド指定作物であるばれいしょなどの野菜、冬春期の温暖な気候を活かした、きく、ゆりなどの花き園芸、肉用牛生産とを組み合わせた複合経営が確立されている。本島の肉用牛生産農家数(平成15年1月1日現在)は469戸と高齢化や担い手不足により近年減少傾向が続いているが、飼養頭数は6,041頭と増加傾向にあり着実に規模拡大が図られている。また、肉用牛生産の特徴については、四季を問わず周年生産される草資源やさとうきびの梢頭部などの粗飼料により腹作りのできた子牛の生産を行っていることと、市町村有牛の導入による増頭が積極的に推進されている。なお、知名町では基幹作物であるさとうきびの生産振興が目標に掲げられており、耕作放棄地も少なく、営農意欲が高いため、土地が不足気味で、肉用牛の更なる規模拡大は飼料面積の制約という悩みもあるそうである。
(2)沖永良部島の「がんばる畜産」
○安田畜産(知名町)
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安田さんご夫妻
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有機たい肥を製造する袋詰め機械(安田畜産)
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台風対策のためコンクリート壁の 繁殖牛舎(安田畜産)
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知名町の安田畜産の経営主である安田さん(39歳)は、それまで都会で働いていたが、長男でもあり平成2年に肉用牛繁殖経営の後継者となった。平成2年当時15頭であった黒毛和種の繁殖雌牛も現在では100頭を飼養するまでに規模拡大を成し遂げ、安田さんのお父さんと奥さんが手伝っている。
規模拡大に伴い懸案事項となった家畜排せつ物の環境問題については、平成13年度「家畜排せつ物処理高度化施設整備事業」(県単事業)を活用し、たい肥舎(335m2)を整備した。ところが、14年の夏の台風により、たい肥舎の屋根部分が飛んでしまうという被害もあったそうである。また、ショベルローダーや袋詰め機などを導入し、たい肥を自己飼料畑へ還元するだけでなく有機たい肥を袋詰めし、「にくみ1号」の商号で、近隣のハウス農家や花き農家などに400円/袋(430円配達費込み)で販売するとともに、耕種農家へばらで販売(7,000円/2tトラック1台)し、たい肥の有効活用を図っている。
飼料については、1,000a(うち600aは借地)の飼料畑でローズグラス(800 a)、トウモロコシ(200a)などの飼料が周年作付けされ、100頭の繁殖めす牛分をすべて自給飼料で賄っている。
経営の特徴としては、宮崎県など県外からの優良血統の繁殖雌牛を導入し、母牛の供用期間は、少なくとも1頭当たり10産、多いものでは13産となるときもある。今回、訪問した隅元弘喜さん(知名町黒貫)もそうであったが、繁殖牛の供用期間が長いのはこの島の特徴で、中には15産取るという母牛もいるという。また、田尻民福さん(知名町下城)は、5産を超えた経産牛を島内市場で購入し、これにさらに4〜5産させるという生産体系もあった。現在、平均分娩間隔は13カ月であるが、分娩間隔については生産性の向上を図るため、今後さらに短くしていきたいということであった。また、監視室を牛舎に隣接させ、分娩の時などは、泊り込みで監視を続ける時もあり、子牛の事故率の低下に努めている。
これまでの苦労を聞くと、平成3年の牛舎増築に伴う資金面(農業近代化資金の借り入れなど)の問題だったそうだ。13年9月にわが国で初めてBSEが発生した影響により、肉用子牛の取引価格が大きく低下したときのことについては、「当時は死活問題であったが今では忘れてしまった。」と前向きである。
なお、今後については、島では1経営体での繁殖雌牛100頭が限界であり、家族経営でみてもこれ以上の規模拡大は考えておらず、飼養管理の面から自動ほ乳システム(ほ乳ロボット)の導入を考えたいという。また、たい肥発酵処理の促進を図るための水分調整用のバカス(さとうきびの絞りカス)やオガクズなど敷料不足の問題があるものの、耕種農家の意向に即したたい肥の生産を目指すとしている。安田さんは肉用牛の繁殖経営のほかにも、家畜商や肉屋を営むなど精力的で地域の担い手としてリーダーシップを発揮するとともに、一緒に働いている奥さんと毎年家族旅行をするなど家族円満な2人である。
○伊口畜産(和泊町)
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13年に整備された牛舎(伊口畜産)
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和泊町の伊口畜産の経営主である伊口重孝さん(42歳)は、鹿児島県立農業大学校卒業後、昭和57年に肉用牛繁殖経営の後継者となった。昭和57年6頭であった黒毛和種繁殖雌牛も現在では38頭を飼養するまでに規模を拡大し、兄弟3人で繁殖経営を行っている。また、伊口さんは人工授精師として周辺農家28戸、年間500頭の種付けを行う一方、ゆりとの複合経営を行っている。
家畜排せつ物については、平成14年度「畜産環境整備リース事業」を活用し、たい肥舎(120m2)を整備し、一時貯蔵した後、町のたい肥センターへ搬入している。
飼料については、500a(うち100aは借地)の飼料畑でローズグラスが周年作付けされ、乾草で5回、ロールベールサイレージ用では7回の刈り取りが可能という。平成13年度には補助事業により飼料作物調製用機械(ロールベーラー、ラッピングマシン)を導入し、ロール体系にしたことにより、繁殖雌牛の管理がしやすくなり、10年で30頭の増頭目標がわずか3年で達成されたという。今後、70〜80頭、そして100頭まで規模拡大することが目標だそうである。
伊口さんは、鹿児島県加世田市の肥育農家で研修し、肥育農家側がどのような肥育素牛を求めているかなどの研究を徹底して行ったそうである。そこから導き出された結論は、「購買者の好みの牛をつくれば高く売れる。」ということで、繁殖雌牛の系統にあった種付けを実施するなどした結果、伊口さんの子牛は、町平均よりもかなり高い価格で取引されている。伊口さんの経営理念は、経費をかけず、繁殖雌牛を大事に育てた子牛作りである。すなわち、繁殖雌牛には余りお金をかけない代わりに、触ってあげて愛情を注げば小さな牛でも大きくなるという。そして母牛を大事にさえしていれば、子牛の事故もほとんど無くなるそうだ。
このように、母牛の飼養管理を徹底し、子牛は3日から1週間で離乳させ、自家製のカーフハッチで50日間人工ほ育を行っている。
伊口さんは、人工授精師として他の繁殖農家を回るだけでなく、青年グループとして削蹄や鼻通、除角作業や肉用牛ヘルパー事業なども実施しており、地域の担い手としてリーダーシップを発揮している。
○大栄畜産(和泊町)
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大栄さんご夫妻
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和泊町の大栄畜産の大栄善亨さん(41歳)は、平成13年度「畜産基盤再編総合整備事業」により整備した388m2の牛舎で現在約30頭の黒毛和種の繁殖雌牛を飼養し、ほかに自作地、借地合わせて800aの土地でさとうきびも生産しており、大栄さんのご両親と奥さんが主に担当している。さとうきびの梢頭部を飼料に、また、ハカマを敷料として活用し、さとうきびとの連携を図っている。また、家畜排せつ物をたい肥としてさとうきび畑に還元するなど、さとうきびと畜産を効果的に組み合わせた複合経営を見事に実践している。飼料畑は自作地、借地合わせて400aあるが水の確保が困難な土地条件であることから、十分な粗飼料が確保できないという。飼料はソルゴーとトウモロコシおよびローズグラスのラップサイレージで、「乾草もやっているがラップした方が栄養価も高く、経費節減にもなる。また、台風の被害も防げる。」ということである。
大栄さんの肉用牛との係わりは昭和60年頃、黒毛和種繁殖雌牛3頭で飼養し始めたのが最初で、当時は、サラリーマンとの兼業であった。その後、平成13年度「畜産基盤再編総合整備事業」で牛舎が整備され本格的に繁殖経営に取り組んだ。大栄さんは、家畜繁殖学を学んだ後、米国の繁殖農家へ留学し、その経験を活かして早期の規模拡大を実現した。子牛の離乳は3日から1週間程度と人工ほ育体系による早期離乳を実施している。大栄さんのお父さんは地域のさとうきびの指導者として活躍されており、また、大栄さんもさとうきび推進委員を務めている。大栄さんの夢は、自家保留を主体とした増頭により成牛50頭規模を実現し、10年後には100頭規模にすることだが、さとうきびとの複合経営は続けるそうだ。そして夢はもう1つ。現在、大栄さんの長男は中学一年生、将来は獣医師を目指している。以前から趣味であった船も今は忙しくなかなか乗る機会がないので、「息子が後を継いだら漁師になる。」という夢もお持ちである。夢は大きい。
3.徳之島の畜産
(1)農業および畜産の概況
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さとうきび畑から一望する太平洋(徳之島)
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奄美群島で奄美大島に次いで2番目に大きい島(総面積は247.9km2)、徳之島は南北に連なる群島のほぼ中央に位置し、山脈が島の中央を走り裾野には平地が広がる。耕地面積は6,890haと群島最大で、耕地率は27.8%である。徳之島町、天城町、伊仙町からなり人口は約2万8千人である。産業面ではやはり農業が中心で、粗生産高が群島全体の5割を占めるさとうきびを中心に、温暖な気候と赤土を活かした「ばれいしょ」や肉用牛との複合経営が行われている。また、輝く太陽に育まれたマンゴー、パッションフルーツなどの南国のトロピカルフルーツも生産されている。本島の肉用牛生産農家数は1,261戸、飼養頭数は11,831頭でともに本群島で最多である。畜産農家の生産意欲も高く、また農家の経営安定、子牛育成部門の充実を図るためさまざまな努力がされている。
(2)徳之島の「がんばる畜産」
○天城町敷料生産施設
徳之島では製材業者が少なく、水田面積も少ないため、オガクズやもみ殻などの敷料が手に入りにくい。さらに敷料として利用可能なバカスについても、その大部分を製糖工場が燃料として利用するため、畜産農家が敷料として十分利用できないという悩みがあった。しかし、繁殖雌牛の生産性向上や肉用子牛の商品性向上のため、また、良質なたい肥作りの水分調整材として敷料は不可欠であるため、天城町は平成15年度「畜産基盤再編総合整備事業」を活用し家畜敷料生産施設を整備した。本施設は本年5月より本格稼動し、天城町、肉用牛振興会および民間企業(木材部門)により組織された敷料生産組合に25年無償貸与され、同組合により管理・運営がされている。
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トラックに積載された敷料(オガクズ)
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天城町を囲む一連の山岳より調達されたクイやヤイロなどの豊富な木材を資源として生産された敷料(オガクズ)は本町内にある繁殖農家450戸のうち、繁殖雌牛を10頭以上飼養している約400戸の畜産農家へ1,200円/m3(配達費込み)で販売されている。「保温効果もあり腹を壊さなくなり、食い込みがよくなった。」と生産者からの評判も上々だそうだ。
本施設における1日の敷料生産量は50〜60m3であり、オガクズの裁断のサイズについては、農家と相談しつつ今の形に落ち着いたそうである。「現在本施設が稼動しているのは月に10日程度のため、今後は町外や島外の畜産農家へもPRし、稼働率を上げていかなければ。まだまだ余力は十分ある。」と生産組合の中野一さんは意欲的に話す。
中野さんのお父さんである(有)中野木材代表取締役中野文太郎さんは、「この島で林業を行うところは、うちしかいなくなってしまった。それでも、森を守いたいという信念で今までやってきた。この事業は、畜産農家のためだけでなく、森を守るという観点からもその価値は大きい。」と、息子の一さん達への期待を語ってくれた。
もうすぐ本施設で生産された敷料により育成された子牛が市場に出荷されることになる。どのような評価がみられるのか注目していきたい。本格稼動からまだ3カ月であるが、天城町そして徳之島の子牛のためにガンバロー天城町敷料生産組合。
○あまぎチャレンジ牧場(天城町)
昭和61年度に整備した天城町公共牧場をより有効的に利用するため、平成15・16年度における「畜産基盤再編総合整備事業」を活用し、牛舎やたい肥舎などの整備が行われた。肉用牛の繁殖部門および子牛育成部門の充実を目的として、本年5月から本格的に稼動した「あまぎチャレンジ牧場」は、町内の6名の若手畜産農家により形成される4Hクラブ(天城町農業青年クラブ)にその管理運営が委託されている。4Hクラブは牧場所有の種雄牛による繁殖めす牛の増頭や、町内の肉用牛生産農家から育成牛の預託を受け入れ、子牛の商品価値の向上に努めている。
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オガクズのベッドでくつろぐ子牛 (あまぎチャレンジ牧場)
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通常、生後3日から1週間程度の子牛が預けられ、預託料は1日600円となっている(8カ月:約14万4千円)。当牧場では、整備された育成施設や子牛ほ乳施設(ほ乳ロボット)の下、コンピュータにより1頭ごとの体重およびほ乳量が管理され、子牛の適正な発育が図られている。預託牛は高齢の生産者をターゲットにしているため、中には子牛をなかなか手離そうとしない生産者もいるそうで、出資者の1人である重村勝司さんによると「生産者との信頼関係が一番。大事に育ててあげないと。」と強調している。また、同じく出資者の竹田邦男さんによると、「当初、高齢化による離農が進むことが懸念されたため、このような預託施設で子牛を受け入れていこうと考えた。しかし、さとうきびのハーベスターの導入による機械化で省力化が実現し、複合農家の離農が食い止められている状況にある。まずは、自分達の子牛を預託し、どのような子牛が生産、出荷されたかを農家に示し、今後につなげていきたい。」と語ってくれた。
250頭まで飼養可能であるが、稼動し始めたばかりの現在は、子牛が46頭(うちほ育牛は18頭)、繁殖めす牛が14頭とまだまだスペースには余裕がある。今後、当牧場から立派な子牛が出荷され、町内外からの預託子牛で一杯となり、その評価をうけて将来、天城町の子牛生産の発展を担っていくことを期待したい。
おわりに
徳之島、沖永良部など奄美群島の畜産は、暖かい風土、豊富な草資源と恵まれた条件にある一方、台風の脅威などの厳しい自然条件や島しょであるための地理的不利などこれまでさまざまな試練を乗り越え、さとうきび、野菜、花きなど地域特有の作物との複合経営を実践することにより着実に発展してきた。
本年11月1日より「家畜排せつ物法」においては、より厳しい家畜排せつ物の管理や処理・保管施設の構造設備基準などへの対応が迫られている。このような課題につても、本群島の畜産関係者は、「ふん尿はただの家畜排せつ物ではない、有機資源だ。どんどんたい肥を作ろう、作らなければならない。規模拡大を図るんだ。」と瞳を輝かせて話すなど、「島の畜産」をPRする絶好の機会と捕らえ、生産者、自治体、農協などの関係者が一体となって「意識改革」を心がけていた。まるで逆境を追い風に代えていくような畜産にかける情熱を感じた。今後、ますます「島の畜産」が「島人ぬ宝」となるよう願いたい。
ところで、子牛価格は現在、米国のBSE発生などから非常に強含みで推移しており、生産者の方は、子牛価格が高いがゆえに、一方では、後継牛の確保や増頭が思うに任せない状況に頭を痛めていた。生産基盤の確保・拡充の面から、わが国の肉用牛産業がますます発展し、全体としてよい方向に進んでくれることを期待したい。
最後に今回の取材に際し、御協力いただいた鹿児島県畜産課、県大島支庁農林課、知名町、和泊町、天城町各役場の関係者をはじめ訪問農家などの沢山の方々に厚くお礼を申し上げたい。
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