大臣官房企画評価課
調整班 天野 絵里
平成17年3月25日、今後10年程度の政策展開の基本方向を示した新たな食料・農業・農村基本計画が閣議決定されました。 その中で、これまでの食料・農業・農村を取り巻く情勢の変化や施策の検証結果を踏まえて食料自給率目標を設定するとともに、目標の達成に向けて生産および消費の両面において重点的に取り組むべき事項を明らかにしております。また、具体的な施策の展開方向として、(1)担い手の明確化と支援の集中化・重点化、(2)経営安定対策の確立、(3)環境保全に対する支援の導入、(4)農地・農業用水などの資源の保全管理施策の構築などの新たな政策の方向性が示されたところです。 今後、関係者の理解を得ながら、新たな基本計画に基づいて各般の施策を具体化していく考えです。そのポイントをご紹介します。 【どうして今、農政改革が必要なのか】 【食料自給率目標はどうなるか】 なお、畜産関係の食料自給率目標に関しては次のようになっています。 (1)平成27年度における望ましい食料消費の姿 牛乳・乳製品:95kg(うち飲用39kg、乳製品55kg)、肉類:26kg(うち牛肉7.7kg、豚肉8.8kg、鶏肉9.1kg)、鶏卵:16kg (2)平成27年度における生産努力目標 畜産物 生乳:928万トン 牛肉:61万トン 豚肉:131万トン 鶏肉:124万トン 鶏卵:243万トン 飼料作物:524万トン(可消化養分総量(TDN)) (3)(1)の望ましい食料消費の姿及び(2)の生産努力目標を前提として、諸課題が解決された場合に実現可能な水準としての平成27年度における食料自給率の目標 牛乳・乳製品:75%、肉類:62%(うち牛肉39%、豚肉73%、鶏肉75%)、鶏卵:99% 【担い手の明確化とは何か】 これまで地域の農業者により行われてきた食料の生産や集落の維持が、農業者の減少や高齢化、農地面積の減少などが進んだために困難になってきています。このまま放っておけば、食料の安定供給や農村社会の維持・発展ができなくなります。これを解決するため、地域の皆さんで合意して担い手を明らかにし、面的にまとまりのある農地を利用・集積することなど将来の集落について合意形成する必要あります。具体的には、市町村が地域の農業経営者の意欲や能力を尊重して認定する「認定農業者制度」の活用、個別経営のみならず、小規模な農家や兼業農家なども担い手となる営農組織を構成する一員となることができるよう集落営農の育成と法人化を推進します。 【なぜ担い手に支援を集中化・重点化するのか】 我が国農業の脆弱化の進行は著しく、(1)過去10年間で農業就業人口は約2割減少、(2)農業就業人口に占める65歳以上の割合は約6割まで増大、(3)過去10年間で農家1戸当たりの平均経営耕地面積の拡大はわずか0.2ヘクタールとなっています。このように稲作などの土地利用型農業では規模拡大が遅れており、力強い我が国農業を作っていくために構造改革を進めることが重要です。このため、効率的かつ安定的な農業経営が生産の相当部分を占める力強い我が国農業を作っていけるよう、農業経営に関する施策を担い手に集中化・重点化していきます。 【経営安定対策の確立、品目横断的政策とは何か】 現在、WTOでは、関税の引き下げや国内の補助金の制限・削減などが議論交渉されており、17年12月に開催が予定されている香港での閣僚会議に向け、今後、交渉の本格化が見込まれています。このように農産物貿易のグローバル化が進む中で、我が国農業の生き残りをかけて農政を転換する必要があります。このため、19年産から担い手に対し品目横断的な政策として直接支払制度を導入します。 品目横断的政策は、複数の作物を組み合わせた営農が行われている水田作および畑作について、品目別ではなく、担い手の経営全体に着目して講じるものです。具体的には、「諸外国との生産条件格差を補うための支援」として、輸入農産物との生産条件格差により、農産物価格が農業経営にとって十分なものとなっていない場合にその格差について経営単位で支払う仕組みを直接支払として導入します。また、販売収入の変動が経営に及ぼす影響が大きい場合に、「収入・所得の変動を緩和するための支援」として、市場で形成される農産物価格が下落した場合に、経営単位の収入・所得の変動に応じて支払う仕組みの必要性を検証します。 【畜産政策はどうなるのか】 畜産については、部門専業的な経営が多く、構造改革が土地利用型農業に比べれば進んでいる状況にあります。畜産における経営安定対策は、これまでの施策の目的と効果や、畜産の特性を踏まえ、対象経営の明確化や施策の見直しを検討します。19年度には見直し後の施策に移行することとしています。 【環境に優しい農業をどのように進めるのか】 農業者が環境の保全に向けて取り組むべきことがらを整理し、自己点検に用いるものとして、農業環境規範を17年3月に策定しました。農業環境規範は、(1)作物の生産と、(2)家畜の飼養・生産から成っており、実践しなければ農業ができなくなるわけではありませんが、国の各種支援策を受ける場合にはその実践を求められます。また、環境の保全が特に必要な地域における先進的な取り組みへの支援を19年度から導入します。 【どうして資源保全施策が必要なのか】 農地・農業用水などの保全管理は、これまでは地域共同の取り組みにより維持してきましたが、過疎化・高齢化・混住化などが進み集落機能が低下したため、地域共同活動への参加の減少、農地や水路へのごみ投棄など保全管理上の課題が増大しています。国民共有の財産である農地・農業用水などの資源を良好な状態で次世代に継承するための施策を19年度から導入します。具体的には、集落などのまとまりのある地域を対象に、農家や地域住民、都市住民、NPOなどが一緒になって、農地・農業用水や農村環境を保全していく仕組みをつくります。 【輸出促進に向けた取り組みはどうなるのか】 世界的な日本食ブームやアジア諸国の経済発展による高所得者層の増加の中で、高品質で安全・安心な国産農林水産物・食品の輸出の可能性が増大しています。この機会を好機と捉え、関係者が連携し、通年の販売促進や輸出ニーズに対応した産地づくり、EPA(経済連携協定)などを通じた輸出先国の市場アクセス改善などを総合的に推進します。 【農業と食品産業の連携をどのように進めるのか】 今後とも増大が見込まれる加工・外食用需要に対応した取り組みを推進するとともに、地域における食品産業関連の産学官の連携の形成や産地ブランドの振興などを通じて、農業と食品産業との結びつきや異業種の知恵の活用を強化します。 【基本計画に掲げた施策をどのように推進していくのか】 以上の各分野の施策について基本計画にとりまとめても、それだけでは絵に描いた餅に過ぎません。しっかりと施策を推進するために、(1)内閣総理大臣を本部長とする食料・農業・農村政策推進本部を中心として、政府一体となって施策の推進を図る、(2)施策の推進に関する手順、実施の時期と手法、達成目標などを示した工程表を速やかに作成して、それを的確に管理する、(3)政策評価を積極的に活用して施策の効果などを検証し、必要に応じて施策内容の見直しを行って、翌年以降の施策の改善に反映させる、こととしています。 特に、食料自給率向上のための取り組みについては、政府や関係者からなる協議会を設立し、計画的な取り組みを推進していきます(この協議会において、毎年の行動計画を策定し、これに基づく取り組みの進捗状況をチェックしながら進めていくことが予定されています)。 以上、限られた紙面で、基本計画の主要部分のみを説明しました。農林水産省のホームページでは、基本計画の本体、工程表などの資料、概要などを説明したパンフレット、さらには、基本計画の策定にいたるまでの食料・農業・農村政策審議会における議論(全ての会議資料、議事録)を見ることが出来ますので、是非ご参照ください。 また、食料・農業・農村政策審議会は、6月をめどに委員の改選が行われることとなっており、委員のうち3名程度は一般公募によることとし、現在、募集を行っています。今回の基本計画策定の議論においても、公募によって選ばれた委員の方々は、消費者あるいは農業者の立場から、議論に大きな貢献をいただいたところです。ご関心のある方は、是非一度、農林水産省のホームページをご覧ください 食料・農業・農村基本計画のポイント 第1 食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針 ○ 前計画策定後の食料・農業・農村をめぐる大きな情勢の変化を踏まえ、10年程度を見通した上で農政全般にわたる改革を早急に実施 [情勢の変化] ○ 改革の推進に当たっては、特に以下の点に留意 [改革の視点] 第2 食料自給率の目標 ○ 食料自給率向上に向けた取組が十分な成果をあげていない要因を検証 [動向] 前基本計画を策定した平成11年度から15年度まで、供給熱量ベースの総合食料供給熱量ベースの総合食料40%で横ばい。品目別自給率も、麦・大豆等以外は、横ばい又は低下 [検証] (1)消費面 (2)生産面 ○ 今回の目標設定に当たっては、上記の検証を踏まえ、生産及び消費の両面において重点的に取り組むべき事項を明確化 [重点的に取り組むべき事項] 消費面: 生産面: ○ さらに、消費者・実需者の多様なニーズに対応した国内農業生産の増大を図ることが急務であることを踏まえ、カロリーベースの目標設定を基本としつつも、生産額ベースの目標も併せて設定 ○ 自給率向上の取組が迅速かつ着実に実施され、できるだけ早期に向上に転じるよう、施策の工程管理を適切に実施。また、国だけでなく、地方公共団体、農業者・農業団体、食品産業事業者、消費者・消費者団体からなる協議会を設立し、適切な役割分担の下で主体的に取組 [関係者の主体的取組] ・ 地方公共団体:地域の条件や特色に応じて、地域の基幹産業としての農業の振興の取組(地域の食料自給率や地産地消の取組の目標の設定等) ○ 基本的には、食料として国民に供給される熱量の5割以上を国内生産で賄うことを目指しつつ、平成27年度の自給率の目標は、上記の取組により実現可能な生産と消費の水準を踏まえ、以下のとおり設定。 第3 食料、農業及び農村に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策 食料・農業・農村をめぐる情勢の変化への的確な対応や、自給率向上に向けた施策の充実等に重点を置き、施策を展開 食料の安定供給の確保に関する施策 ○ 食の安全と消費者の信頼の確保 科学的原則に基づいたリスク管理を通じ、農場から食卓までの食の安全を確保するとともに、原産地表示の推進やトレーサビリティの導入拡大を通じ、消費者の信頼を確保 ○ 望ましい食生活の実現に向けた食育の推進 適正な食事の摂取量を分かりやすく示したフードガイド(仮称)の策定・活用を始め、世代別の対象に合わせた実践的な食育の取組を国民運動として推進し、国民一人一人が食について考え判断できる能力を養成 ○ 地産地消の推進 生産者と「顔が見え、話ができる関係」で地域の農産物・食品を購入する機会を消費者に提供するとともに、地域の農業と関連産業の活性化を推進 ○ 食料の輸入の安定確保と不測時における食料安全保障 EPAの締結等を通じた食料輸入の安定化・多元化、適切かつ効率的な備蓄、食料安全保障マニュアルの点検・整備等を推進するとともに、途上国への技術協力・資金協力や食料援助、国際的な食料備蓄体制の整備を推進 農業の持続的な発展に関する施策 ○ 望ましい農業構造の確立に向けた担い手の育成・確保 認定農業者制度の活用により、地域における担い手を明確化し、これらの者を対象に、施策を集中的・重点的に実施 その際、集落を基礎とした営農組織のうち、将来効率的かつ安定的な農業経営に発展すると見込まれるものも担い手として位置付け、小規模農家や兼業農家も、担い手となる営農組織の一員となることができるよう、農地の利用集積を図りつつ、営農組織の育成と法人化を推進 ○ 人材の育成・確保等 就業形態や性別等を問わず、新規参入を促進し、幅広い人材を確保。さらに、女性の農業経営、地域社会への参画を促進するとともに、高齢者が生きがいを持って活動するための取組を促進 ○ 農地の有効利用の促進 優良農地の確保と有効利用の促進の観点から、担い手への農地の利用集積を推進するとともに、 (1) 耕作放棄地の発生防止・解消のための施策の充実 ○ 経営安定対策の確立 農業の構造改革を加速化するとともに、国際規律の強化にも対応し得るよう、品目別に講じられている経営安定対策を見直し、施策の対象となる担い手を明確化した上で、その経営の安定を図る対策に転換 ○ 多様な経営発展の取組の推進 農産物の加工・直売等の経営の多角化、契約栽培や環境保全型農業への取組も含んだ経営の複合化など、経営発展に向けた多様な取組を推進 米の需給調整の在り方については、農業者や産地が需要に即応し、主体的な判断により、売れる米を適量生産する姿の実現に向けて米政策改革を推進する中で、あるべき姿を構築 ○ 農業と食品産業の連携の促進 今後も増大が見込まれる加工・外食用需要に対応した取組を推進するとともに、地域における食品産業関連の産学官の連携の形成や産地ブランドの振興等を通じて、農業と食品産業との結びつきや異業種の知恵の活用を強化 ○ 農産物・食品の輸出の促進 我が国の高品質な農産物の特性を活かした輸出を促進するため、関係者が連携し、通年の販売促進や輸出ニーズに対応した産地づくり、EPA等を通じた輸出先国の市場アクセス改善など、総合的な取組を推進 ○ 経営発展の基礎となる条件の整備 担い手による現地実証を行うなどにより、生産現場のニーズに直結した新技術の開発・普及を進めるとともに、関係団体や都道府県による行動計画の改定・公表の取組を通じて農業生産資材費の一層の低減を促進 ○ 農業生産の基盤の整備 地域の営農ビジョンに即し、担い手の育成・確保の契機となる農業生産基盤の整備や農地・農業水利施設等の適切な更新・保全管理等を推進 ○ 農業生産環境施策の導入 我が国農業全体を環境保全を重視したものに転換 (1) 農業者が取り組むべき規範を策定し、それを実践する農業者に対して各種支援策を講じていく(クロス・コンプライアンス) ○ バイオマス資源の利活用 従来の利活用の中心であった廃棄物系バイオマスだけでなく、未利用バイオマスや資源作物の利活用を積極的に推進することにより、食料生産の枠を越えた農業の新たな展開を促進 農村の振興に関する施策 ○ 資源保全施策の構築 農地・農業用水等を適切に保全管理するため、地域住民等が一体となり、農村環境の保全等にも役立つ効果の高い取組を促進 ○ 農村経済の活性化 先進事例の全国への発信等の取組を通じ、地域の特色を活かした多様な産業の育成を図るとともに、中山間地域等では農業生産条件の不利の補正等を継続的に実施することにより、農村経済を活性化 ○ 都市と農村の共生・対流 観光立国の枠組みとも連携して、グリーン・ツーリズムの取組を充実させるなど、都市と農村の共生・対流を推進 ○ 快適で安全な農村の暮らしの実現 道路、汚水処理施設、情報通信基盤等の生活環境の整備や、高齢化に対応した医療・福祉等のサービスの充実、治山・治水対策、土砂災害対策、道路防災対策、農地防災対策等の防災対策を推進 団体の再編整備に関する施策 関連する諸制度の在り方の見直しに併せた、団体(農業協同組合系統組織、農業委員会系統組織、農業共済団体、土地改良区等)の効率的な再編整備、団体と関係機関相互の担い手育成支援窓口の一元化を推進するとともに、地域のニーズに応じた森林組合、漁業協同組合を含む団体間の連携促進方策を検討 第4 施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項 ○ 食料・農業・農村政策推進本部を中心に、政府一体となった施策の推進 ○ 施策具体化の工程を明らかにし、政策評価を活用して計画的に推進 ○ 目的に応じた施策の選択と集中的実施を通じ、財政措置を効率的かつ重点的に運用 ○ 情報公開と国民との意見交換を通じ、施策決定・実行の透明性を確保 ○ 施策の効果的・効率的な推進のための体制を整備 |
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