腸管出血性大腸菌O157や黄色ブドウ球菌による大規模な食中毒事件、BSEの発生、最近では米国産牛肉の輸入再停止など食に関する一連の問題により、消費者の食に対する信頼が大きく揺らいでおり、消費者の視点に立った食の安全・安心の確保は、重要かつ緊急の課題となっている。このため、日本の食糧基地とされる北海道では、道民の健康保護と消費者に信頼される安全で安心な食品の生産・供給を目指し、平成17年3月に「北海道食の安全・安心条例」を制定した。このような中で、食品の製造・加工施設で普及しつつあるHACCP方式の衛生管理について、畜産物の生産現場においても、この考え方による衛生管理(以下、農場HACCP)の導入が急務となっており、宗谷支庁管内では現在、酪農家15戸および肉牛農場3戸が農場HACCPを実践している。今回、これらの農場のうち、消費者に軸足を置いた肥育素牛生産に精力的に取り組んでいる歌登町の秋川祥雄牧場を紹介する。
歌登町は、北海道の最北部である宗谷支庁管内の南部に位置し、町の中心部から北東方向へ約10キロメートルでオホーツク海に達する。人口は約2,300人、基幹産業は酪農を中心とした農業で、乳用牛・肉用牛の飼養頭数は人口の2倍以上となっている。秋川牧場は乳用雄牛600頭を飼養する肥育素牛生産牧場で、毎月、1〜2週齢の初生牛90頭を導入し、ほ育・育成して、6.5カ月齢で他管内の肥育牧場に出荷している。秋川さんは北海道肉牛協議会に参加しており、安全・安心な牛肉の生産と生産履歴の開示ができる体制づくりのためには、農場HACCPの導入が必要であることを十分に認識していた。また、関係機関(宗谷家畜保健衛生所、農業協同組合、役場、管理獣医師)が推進メンバーとして、積極的に牧場を後押しできる環境下にあったことから、スムーズに導入することができた。推進チームは秋川さんをリーダーとし、牧場構成員が総括班として作業・管理部門を、関係機関が支援班として飼養衛生管理指導・出荷・検証部門を、管理獣医師が診療班として健康管理部門をそれぞれ担当した。危害因子には、牛肉の安全性確保に必須で、農場の作業工程の中で制御可能な、(1)食中毒菌(O157、サルモネラ)による牛体汚染、(2)抗菌性物質残留、(3)注射針残留、(4)BSEの4項目を設定し、危害防止措置には、(1)健康・牛体チェック、(2)休薬期間遵守、出荷時投与記録簿との照合、(3)注射針使用本数確認、残留牛とう汰、(4)給与飼料内容確認を設定した。平成16年6月から実践を開始し、関係機関では定期的に巡回し衛生管理記録表の記帳状況確認、飼養衛生管理指導と飼養牛のO157およびサルモネラのモニタリング検査を実施している。実践から1年8カ月が経過し、これまで出荷した牛はすべて設定した危害因子を防止することができた。出荷先の肥育牧場は素牛を厳選して購入しているが、秋川牧場が飼養衛生管理を徹底していることが、記録表というかたちで客観的に証明されているので、取引上の信頼につながっている。また、消費者から牛肉の生産履歴に関する問い合わせがあっても、速やかに対応できる体制が確立し、生産現場から安全・安心のメッセージを発信している。
農場HACCP推進チーム(前列左 秋川祥雄氏) |
飼養牛のO157モニタリング検査の様子 |
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