青森県/棟方 野乃
アイヌ語で小高い丘を意味する「タプコプ」を語源とする田子町は青森県の最南端に位置し、渓流や高原の牧場など豊かな自然に恵まれた人口約7,000人の町である。 農業を基幹産業とし、町特産のにんにくを生かした町づくりを進める「にんにくの町」であるとともに約100戸の肉用牛農家に約1,500頭の肉用牛が飼養されている肉用牛の飼育が盛んな地域でもある。 この町内の田子小学校(元沢正光 校長)では、畜産業についての理解を深め、郷土を愛する気持ちを育むことを目的として地域で生産された肉牛を学校で所有し体験学習に活用している。 きっかけは、同校卒業生有志が「田子の誇る肉牛を地域の子供達にもっと体験して知って欲しい」との思いから16年6月に1頭の肥育素牛「よこはなてる(愛称:てるちゃん)」を寄贈したことから始まった。 この時は飼養管理を地域の畜産農協に委託し、総合学習の時間や委員会活動を通じて牛の世話や観察を行った。17年度からは「COW COW CLUB」を設置し学校のクラブとして活動。12月には活動のかいあって体重560キログラムの牛に成長し出荷の運びとなった。 同校はさらに、1頭目の利益と町単独事業を活用し18年6月に去勢牛「国健(愛称:ケンちゃん)」を購入。地域の畜産農家蹴揚さんに肥育を委託し、夏期は学年ごとにCOW COW活動として全校生徒が、冬期はクラブ活動として5名の子供達が飼育体験を行っている。 クラブ活動初日は牛舎で牛の給餌方法を蹴揚さんから学んだ後、一人ずつ実践。子供達は乾草に「いい匂いがするね」と声を上げ、牛の舌の長さに驚き、角におっかなびっくりしながらの給餌と、1時間を超す体験作業を寒さの中でも顔を輝かせて行っていた。 蹴揚さんも子供達にわかりやすく丁寧に、時に厳しく、牛の先生として指導し、「子供達にも小さいころから生き物の温かさに触れて欲しい。また、地域の産業や食物の大切さをわかってもらえればと思っている」と熱く語っていた。 また、この体験活動を生かした以下の取り組みも行われており、子供達にも変化が生まれている。 牛の成育を調べた結果をもとに6年生の堀田さんが作った統計グラフ「牛を育てるって大変!でもおいしい日本の牛肉大好き」は、月齢、体重、胸囲、体高を1つのグラフで表し、今年度の統計グラフコンクールパソコン統計グラフの部で青森県特選、全国佳作に輝いた。グラフには、子供達の飼育体験の感想やこれからの畜産業への要望も盛り込まれている。 さらに、この体験で牛に魅せられた4年生のクラブ員宮村さんは「将来は獣医になる!」と毎週、蹴揚さんの畜舎に通い牛の勉強をしている。クラブ員には大きくなったら牛を飼いたいとの声も出始めている。 当該活動を担当している木村教頭は「これまでの活動の中で子供達は『牛は沢山の苦労と現場の工夫で大きくなっていっている』と一番感じており、地域の産業が一層身近になった」と、話す。 田子町では、他の小学校でも放牧見学や家畜市場見学を行っており、肉用牛を通じて地域と畜産農家のつながりが育まれている。 畜産農家も子供達も互いに生き生きとした顔で牛の世話を行っており、畜産農家と地域との交流の重要性を改めて感じるとともに、畜産業界の将来の担い手がこの活動の中から生まれてくるのではないかと期待している。
子供たちにわかりやすく、丁寧に、時に厳しく牛について指導する蹴揚さん
(左:夏期の授業で右:冬期のクラブ活動で) |
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