◎地域便り


岩手県 ●「前沢牛」に続け、「奥州牛」

岩手県/高橋喜和夫


 「前沢牛」は、国内で最も権威があるとされている肉牛のコンクール「全国肉用牛枝肉共励会」において最多の名誉賞受賞を誇り、すでに全国的評価が確立された高級ブランド牛肉である。

 その「前沢牛」は、岩手県内陸南部を拠点とする岩手ふるさと農協の登録商標であるが、同農協の所管するエリアの中でも、奥州市前沢区(旧前沢町)で生産されたものに限定される。

 同農協は岩手県内で最も和牛肥育が盛んで、肥育牛の出荷は年間3千頭を超えている。前沢区で生産されるのはそのうちの約1/3で、残りの約2/3は奥州市の中の水沢区、胆沢区および衣川区の3地区と奥州市北部に隣接する金ケ崎町で生産されている。

 平成10年の農協合併以前は、5地区それぞれの農協がそれぞれの地区名を掲げて銘柄牛(前沢牛、水沢牛、胆沢牛、衣川牛および金ケ崎牛)のブランド確立に取り組んできた。当時合併により、銘柄の統一を目指す動きもあったが、まずは品質の高位平準化に取り組むことが先であるとして、見送られてきた経緯がある。

 平成13年の国内におけるBSEの発生、それに伴う牛肉トレーサビリティの普及、産地を明示して販売することに対する消費者ニーズの高まりなどを踏まえて、卸売関係者の需要は、小口の出荷者よりも、一定の数量を供給する能力のある出荷者にシフトする傾向が強まった。

 生産者自身、肥育牛の出荷の都度、そういった消費・流通環境の変化に接していたことが、銘柄統一に対する機運を高め、平成18年6月30日に、すでに確立された「前沢牛」を擁する前沢区を除く4地区が大同団結し、「奥州牛」としてスタートを切ることになった。

 もともと、「前沢牛」の生産エリアと隣接し、互いに競い合ってきた地域だけに、旧地区銘柄の段階でも市場関係者からの評価は高かった。

 平成18年11月30日に、東京食肉市場で開催された「いわて奥州牛枝肉共進会」では、肉質4等級・5等級の全体に占める割合が81.6%を占め、市場関係者をうならせた。

 新たな銘柄でのスタートと生産ロットの拡大は、新たな需要を引き出すという効果をももたらしている。

 年間2千頭の生産規模を持つ「奥州牛」は、統一銘柄となって間もないことも手伝って、今もそれぞれの地区の生産者がしのぎを削る良い競争関係が維持されている。

 加えて、同農協のエリアは県内屈指の和牛繁殖地帯でもあり、地域内で優良な素牛を確保できるという、他の銘柄牛産地にはない強みを持っている。

 岩手ふるさと農協では、今後さらに「奥州牛」の評価を高め、「前沢牛」との2大ブランドを掲げて、安全・安心・高品質の牛肉を、安定的に供給していきたいとしている。


 


現在商標登録申請中の意匠入のぼり
 


東京食肉市場での奧州牛初セリ風景


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