静岡県中小家畜試験場/堀内 篤
静岡県では1986年に中国 淅江省 から金華豚の寄贈を受け、その特性調査を行うとともに遺伝資源としての活用法を検討してきた。金華豚は欧米種と比べ肉質が非常に優れているものの、産肉能力が劣っている。そのため、これらを単純に交雑すると、両品種の優れた特性を打ち消し合う結果となり、交雑利用は困難と考えられてきた。 近年、分子生物学の進歩は目覚ましく、と畜しなければ調査できなかった肉質がDNAを調査することにより、生前に評価できるようになった。当場は、(独)農業生物資源研究所、STAFF研究所、千葉県、神奈川県との共同研究により、金華豚と静岡県の系統豚フジロックを用いた大規模実験家系を構築し、産肉性や肉質などの経済形質と連鎖するDNA領域(以下QTL)との関係を調査した。その結果、多くの経済形質に関与するQTLが検出された。中でも第2染色体のシェアバリュー(剪断力価)に関するQTLは、金華豚のDNAを受け継いだ個体(金華豚型)で0.625ポンド/平方センチメートル肉が柔らかくなる効果があり、比較的大きな効果を持つ遺伝子の関与が推察された。 そこで、この金華豚の肉の柔らかさに関するQTLをDNAにより選抜し、肉の柔らかいフジロック(合成豚)を開発した。その具体的方法は、金華豚とフジロックのF1にフジロックを交配し、目的とするQTLが金華豚型の個体を選抜する戻し交配を2回行った。次に、これら選抜した個体同士を交配し、得られた産子の中で両親から金華豚型のQTLを受け継いだ個体だけを選抜して完成する。完成した合成豚の金華豚血液割合は12.5%まで減少しているが、肉の柔らかさに関連するDNA領域は金華豚由来である。したがって、金華豚の柔らかい肉質特性を持ちながら、産肉性はフジロックに近い能力を持っており、選抜過程における肉質調査からQTLの効果が証明された。 さらに、肉質に関するQTLとともに、欧米種と異なる金華豚の黒い毛色遺伝子(MC1R)も同時に選抜した。これによって、流通過程における生肉や加工品をDNA鑑定することにより銘柄が識別でき、安心・安全な豚肉の生産が可能となった。 また、新たな手法で開発した高品質合成豚の普及に当たっては、銘柄の愛称を公募するなど、生産流通体制の整備を図り平成19年度内の販売を目指している。
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