◎調査・報告


共同利用型バイオガスプラントによる
地域バイオマスの循環利用の展望と課題

(独)土木研究所寒地土木研究所資源保全チーム
上席研究員 横濱 充宏


1.はじめに

 国産生乳の4割強を生産する北海道では1960年以降、乳牛飼養頭数の増加と戸数の減少が進んだ。その結果、労力不足による乳牛ふん尿の不適切な貯留による環境負荷が懸念されるようになった。このため、乳牛ふん尿の循環利用による環境負荷の防止が必要となっている。

 デンマークやドイツなどの国々では、家畜ふん尿を主原料として嫌気発酵させ、取扱い易い液肥の製造と再生可能エネルギーの産出のためにバイオガスプラントの活用がなされている。北海道でバイオガスプラントの活用が進めば、乳牛ふん尿の液肥、エネルギーとしての循環利用が進み、乳牛ふん尿による環境負荷が減少することが期待される。しかし、前述の国々と北海道とでは、気候条件や乳牛の飼養形態の違いなどが大きく、北海道でバイオガスプラントを普及させるにはこれらの条件の違いに適応させるための技術開発が必要である。

 このような背景の中、(独)土木研究所寒地土木研究所は北海道東部の別海町に共同利用型バイオガスプラントを建設し、北海道立農業・畜産試験場、北海道農業研究センター、別海町などの協力を得ながら、乳牛ふん尿だけでなく、地域で発生するその他のバイオマスを循環利用する実証研究を行ってきた。本稿ではその成果と今後の課題について述べる。


2.別海バイオガスプラントの概要

 別海バイオガスプラントの発酵漕の容量は1,500立方メートルで、中温発酵(37℃、処理量50立方メートル/日、滞留日数30日)と高温発酵(55℃、処理量75立方メートル/日、滞留日数20日)での発酵処理が可能なように設計されている。従って、本プラントでは、中温発酵では成牛換算で1,000頭の、高温発酵では同1,500頭の乳牛ふん尿の処理が可能である。本プラントで生産されたバイオガスは65キロワット×3台のコジェネレーター(電気と熱エネルギー(温水)の両方を発生させるエネルギー発生装置)と186キロワットのバイオガスボイラーで電気エネルギーないし熱エネルギーに変換され、プラントで必要とするエネルギーを自給するとともに、余剰電気を売電している。バイオガスとともに発生する消化液は液肥として、ふん尿搬入農家の牧草地に施用される。



別海バイオガスプラントの外観


3.固形ふん尿への対応

 ドイツやデンマークでの乳牛の飼養形態は、敷料の混入の少ないスラリー状ふん尿(以下、スラリーと略す)を排出する方式がほとんどであり、これらの国々では、乳牛ふん尿を直接バイオガスプラントの原料として利用できる。一方、北海道の乳牛の飼養形態は、敷料が多量に混入し、たい肥盤にたい積される「固形ふん尿」と、尿溜に貯留される「尿」を排出する方式が大部分であり、スラリーを排出する方式は2割に満たない。このため、北海道で乳牛ふん尿をバイオガスプラントの原料として利用する場合、配管やポンプ類の詰まりを防止するため、固形ふん尿の固液分離作業が必要となる。プラントにおいて固液分離作業を行う場合、固液分離装置と分離固分を資源循環利用するためのたい肥発酵・貯留施設が必要となり、ドイツやデンマークに比べ、施設整備費および維持管理費の増大を招くことになる。


4.農家庭先の整備の必要性

 共同利用型バイオガスプラントの場合、原料となる乳牛ふん尿をプラントまで搬入する必要がある。しかし、農家側の各施設が乳牛ふん尿の搬送に適した状態にあるとは限らない。乳牛ふん尿の搬送には、大容量の輸送車を利用すれば効率的だが、農家の敷地内の道路やたい肥盤などは脆弱な場合が多く、これらの補強、拡大等の整備が必要なことがある。

 また、農家の従前のふん尿処理形態の中では、冬期の乳牛ふん尿は春のほ場施用期まで貯留が可能であれば問題ないわけであり、冬期のふん尿凍結対策はなされていない場合が多い。しかし、乳牛ふん尿をバイオガスプラントで利用する場合、冬期であっても定期的に農家からプラントへの搬入する必要がある。したがって、冬期の農家貯留施設内での乳牛ふん尿の凍結防止対策を講ずる必要がある。「別海プラント」では、固形ふん尿の凍結はそれほど問題にならなかったが、スラリーの農家貯留漕での凍結が問題となった。「別海プラント」では、パーラー排水が農家の貯留漕に流入するようにして、貯留スラリーの粘度を低下させるとともに、農家貯留漕への土盛りや上屋掛けを行い、農家貯留漕での凍結防止を行った。


5.経済的に有利な運転形態

 別海バイオガスプラントは2001年5月から稼働していることから、長期間にわたるエネルギー収支、維持管理費、補修費などの実績データの集積がある。このデータをもとに、ガス発生量、コジェネレーターおよびバイオガスボイラーの運転時間に応じたプラントの運営経費を試算し、最も経済的な運転形態をシミュレーションした。

 バイオガス発生量が増加すれば、プラントに必要なエネルギーの自給が可能になるとともに、余剰電力による売電収入が増加し、プラントの運営経費は減少した。また、同一ガス発生量の中で比較すると、バイオガスボイラーのみを使用し、コジェネレーターを用いない場合、発電機の保守・点検費や更新費は発生しないが、プラント運転に必要な電力の購入電力料金が増大し、コジェネレーターの運転を行う場合に比べ、プラント運営経費は増大した。一方、コジェネレーターのみを運転し、バイオガスボイラーを運転しない場合は、バイオガスボイラーの保守・点検費や更新費は発生しないが、コジェネレーターの保守・点検間隔や更新間隔が短縮され、これらの年間経費の増大を招き、運営経費的には最適ではなかった。最も経済的な運転形態は発生ガスをバイオガスボイラーで優先的に燃焼させ、余剰ガスをコジェネレーターで燃焼させる方法であった。



電気と熱エネルギーの両方を発生させる装置
コジェネレーター


6.受け入れふん尿形態、処理頭数規模による運営経費の経済比較

 施設建設費および機械設置費の補助率をそれぞれ95%および50%として、乳牛ふん尿のみを受け入れるという条件下で、受け入れふん尿の形態別および処理頭数規模別の運営収支の経済比較を行った(図1)。

図1 共同利用型バイオガスプラントの運営形態別の経済性の比較



 その結果、収支的に成立し得るのは、固形ふん尿を受け入れる場合は処理頭数規模が2,000頭規模であることが必要で、固形ふん尿を受け入れずに、スラリーのみを受け入れる場合は、1,000頭規模でも収支的に成立し得ることが分かった。別海バイオガスプラントのように、固形ふん尿を受け入れて、処理頭数規模が1,000頭の場合、乳牛ふん尿処理に係る農家の便益額と売電収入だけでは経済的に成立せず、他の収入源を確保する必要があった。



7.乳牛ふん尿以外の地域バイオマス受け入れに伴う収入

 固形ふん尿を受け入れる場合、収支均衡が困難なことが分かったので、地域で発生する各種バイオマスを副資材として受け入れ、その処理収入を得ることによる収支均衡の可能性を探るため、寒地土木研究所、別海町、地元廃棄物処理業者と3者でバイオガスプラントの実用化運転に関する共同研究を2005年度より開始した。

 乳牛ふん尿以外の地域バイオマスの積極的受け入れを開始して以来、地域バイオマスの受入量は順調に増加している(図2)。各種地域バイオマスの受入量は全原料受入量の15%に過ぎないが、全処理収入に占める割合は75%に達し、別海バイオガスプラントの主要な収入源となっている(図3)。

図2 各種地域バイオマスの受入実績



図3 各種受入原料の処理量と処理収入(2005年7月〜2006年6月)



 2007年度上半期の乳牛ふん尿と各種地域バイオマスの処理収入は21百万円に達し(図4)、本年度はこれらの処理収入だけで、別海バイオガスプラントの年間必要経費40百万円を上回る勢いで、地域バイオマスの資源循環によるバイオガスプラントの経済的自立が現実味を帯びてきている。


図4 受入原料の処理収入の推移





8.今後の課題

 現在、地域バイオマスは発生元の発生事情に合わせて、これらの受け入れを行っているが、その結果、各種地域バイオマスの各月ごとの受入量が非常に不規則になっており、地域バイオマスの受け入れが必ずしもバイオガス発生量の増大に結び付いていない。バイオガス発生量の増大に結び付く地域バイオマス受入手法の確立が今後の課題である。

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