◎調査・報告


輸入飼料高騰下において、 エコフィードに寄せられる期待
〜地域循環型社会へのすすめ(横浜市の事例より)〜

調査情報部 調査情報第1課 高島 宏子/入江 美帆


はじめに

 平成13年5月に施行された「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」いわゆる食品リサイクル法の改正法が本年6月に成立・分布、本年12月1日にも施行される予定である。

 今回の法改正は、食品関連事業者により取り組みに格差が見られ、特に食品小売業、外食産業などで取り組みが遅れていることからこれらの事業者への指導強化およびリサイクルの取り組みの円滑化を目的としている。(図1)(表1)




表1 食品廃棄物等の年間発生量および再生利用等の仕向け量


資料:農林水産省大臣官房統計部
「平成18年食品循環資源の再生利用等実態調査の概要(17年度実績)」
注:1)業種別については、食品産業計の年間発生量を100とする構成比である
  2)食品廃棄物の年間発生量に対する割合
  3)再生利用への仕向け量に対する割合



 また近年、食料自給率の低下が懸念されているが、平成18年度の食料自給率(カロリーベース)が前年度を1%下回る39%となり、低下の一因となった食品として畜産物も挙げられている。この主要因は飼料の自給率が低下し、国産熱量が低下したためである。特に家畜に給与する配合飼料の主原料はトウモロコシなどの穀類であり、わが国はそのほとんどを米国からの輸入に依存しているのが現状である。

 さらに、原油価格の値上がりによる輸送費の高騰に加え、米国のバイオ燃料の生産拡大により世界の穀物価格は高騰を続け、円安の為替レートが重なり、輸入飼料価格が高騰し、わが国の畜産業界は厳しい状況に立たされている。(図2)

図2 配合飼料価格の推移


資料:財務省「貿易統計」
農林水産省「農業物価指数」
注 税抜き価格、若豚肥育用配合飼料


 このような状況下で、食品残さ飼料「エコフィード」は食品リサイクルという環境面だけではなく、食料自給率の向上という点においても高い期待が寄せられている。

 本稿では、学校給食やスーパー、食品製造工場などから出る調理くずなど、従来「生ゴミ」や「産業廃棄物」として取扱われてきた食品循環資源を用いて「リサイクル・ループ」(食品製造業などから出た食品残さを肥料や飼料にすることで、農畜産物に生産し、それを再び食品製造業などが利用する仕組み)を構築し、有効利用かつ飼料の自給率向上への寄与を行うべく取り組む、横浜市を中心とした事例についての紹介する。(図3)

図3 食品循環資源の飼料化と豚肉生産の流れ(横浜市)



1 再生利用事業者の「エコフィード」の生産

 横浜市有機リサイクル協同組合の概要とエコフィード生産
 横浜市有機リサイクル協同組合(以下「横浜有機」という)は平成13年2月に、市内の一般(産業)廃棄物処分業者、収集運搬業者4社が食品残さの資源化のために設立した組合である。同年10月に横浜市金沢区に食品循環資源飼料化施設として、「横浜市食品リサイクル加工センター」(以下「加工センター」という)を稼働させ、エコフィードの生産を行っている。

 組合設立と同時期に、横浜市では、環境問題への対策から学校給食の調理くずや食べ残し、スーパーなどの調理くずを飼料としてリサイクルするために「横浜市食品循環資源飼料化協議会」を立ち上げていた。同市は、民活の観点から飼料化施設の拠点を横浜有機の加工センターに置き、排出業者や処分業者などの事業者、養豚農家を取り込んで、食品循環資源の排出物実態調査や飼料化および給与試験を中心に、飼料の品質向上、地域循環システムの構築などの取り組みを開始した。

 現在、横浜有機の食品廃棄物の収集先は、横浜市を中心とした小学校約40校および、スーパー、デパート、コンビニ、食品工場など参加企業は約400ヵ所で、その収集量は1日当たり15〜18トンにも上る。

 これらの排出事業者は、それぞれ異物を除去した上で、原料ごとに専用のふた付きリサイクルカートに分別保管している。さらに、横浜有機では鮮度を保つために保冷車で収集している。



排出事業者で分別保管される食品廃棄物


横浜有機では保冷収集車で新鮮なうちに回収する


 横浜有機の生産するエコフィードの原料区分は、(1)調理加工品(コンビニエンスストアの販売期限切れ弁当、社員食堂の残さ)、(2)野菜くず(スーパー、食品製造業者などからの残さ)、(3)パン(スーパーのインナーべーカリー、製パン業者など)(4)その他(おから、麺類など)−の4区分である。横浜有機では、これらの排出業者から1キログラム当たり19〜35円の処理料を徴収している。

 収集した原料を見せていただいたところ、一定時間がたって廃棄された弁当類や、形の悪い野菜など、商品としての価値は低いものの、十分食べられる鮮度であった。

 製造工程および飼料化
 横浜有機では、「食品リサイクル法」の登録再生利用事業者として、現在、豚用飼料(商品名:ハマミール)を生産している。回収された約15トンの食品循環資源は飼料化プラントで次のような工程で処理される。



加工センターの飼料化プラント

 (1)原料の細断・破砕→(2)原料ごとに貯蔵タンクに保管、適切に配合→(3)蒸気間接型乾燥機によりボイル乾燥(含水率12%まで乾燥)→(4)常温まで冷却後、ふるい機で小さいゴミ、ビニールなどの異物を除去→(5)加熱殺菌処理→(6)脱脂(脂肪分6%まで)→(7)ふるい機で粒度を均一にする→(8)約5トンの製品となって製品サイロに貯蔵する。(製品は、粉粒状で茶褐色)

 なお、製造ロットごとに、原材料が若干異なるため、品質管理として製品サイロに入れる直前にサンプリングを行い、近赤外線成分分析装置や水分測定計で水分、粗タンパク質、粗脂肪、粗繊維などを分析し、食品副産物「ハマミール」として、月産90トン生産している。

 「ハマミール」について
 この「ハマミール」は平成19年5月に飼料の公定規格を取得している(平成19年5月1日 農林水産省告示第569号)。公定規格を取得することで、飼料メーカーの生産する配合飼料の原材料として使用することが可能となる。これは、食品循環資源を利用した飼料の成分が明確となり、安定した生産が可能であることを裏付けており、また、横浜有機の原料の収集技術と加工技術がかなり高度であることを意味している。

飼料の公定規格の抜粋



 横浜有機の前川事業本部長は食品循環資源を利用した飼料で「第二の配合飼料」を目指しているという。加熱処理することドライ製品にこだわることがこの理由である。

 横浜有機では、生産した「ハマミール」の一部を神奈川県以外の養豚農家に1キログラム当たり25円(運搬料込み)で販売しているが、横浜市内の養豚農家への引き渡し価格は、運搬料込みで1キログラム当たり18円と低価格に抑えている。これは、加工センターが横浜市内にあるため運搬費が抑えられることと「横浜市食品循環資源飼料化協議会」の立ち上げ当時から市内養豚農家とともに飼料化に携わったという関わりがあるからである。

 さらに、横浜有機では、「ハマミール」出荷時には毎回成分分析値と主原料を明記した「ハマミール原料表」を農家に渡している。このような手間を惜しまず、品質管理に力を入れている点も「ハマミール」の品質へのこだわりである。現在、「ハマミール」は神奈川県(15農家)と千葉県(4農家)の養豚農家に供給されているが、一般の配合飼料と比べ低価格であるため、需要が増えてきている。

 エコフィード生産の課題として、飼料の安全性の確保や季節による成分変動がある。これらについて聞いたところ、原料の季節性について変化が生じるのは、野菜の種類ぐらいであって成分変動は、さほど大きくないとのことであった。 また、飼料の安全性については、原材料がもともと人の口に入る食品であること、加熱処理後の製品が汚染されないようなモールドタイプのプラントであることから確保されているとのことであった。

 もう一つの課題としては、原材料となるコンビニやスーパーの調理加工品にはご飯のほかに様々なおかず類があり製造した飼料には脂肪分や塩分が多く含まれていることが挙げられる。横浜有機では、製造工程で脱脂することで脂肪分を抑え、塩分濃度も20%以下に抑えて配合している。このため、より適正な配合するためにはパンなどの穀類や野菜などの繊維類の収集量を確保する必要があるという。

環境に配慮した廃棄物処理施設とループの構築
 横浜有機では、プラント設備の燃料に化石燃料でない電気や都市ガスを利用することや小規模地域内での原料収集で運搬車のCO2排出量の削減するなど、環境に配慮した事業設計がなされていた。また、このような処理施設の周囲では臭気が気になるのではないかと思っていたが、食品循環資源投入口の近くでさえほとんど臭いが気にならなかったのが印象的であった。前川本部長によると、処理工程で発生する臭気をさらに高温で燃焼させることで臭いはほぼ消えるということだった。

 横浜有機での食品循環資源の飼料化技術は食品循環資源の集荷区分と運搬システム、原料の配合設計、飼料化技術、環境負荷を低減するプラント設計に加え、「ハマミール」供給先農家が出荷した豚肉を自ら買い取ってスーパーなどに販売も行っていることから、まさに「リサイクル・ループ」を構築していた。


2 養豚農家〜はまぽーく出荷グループの取り組み〜

 昭和40年代横浜市内には小規模経営も含めて養豚農家が1,500戸あったが、現在では17戸と少なくなってしまった。しかし、これらの養豚農家は都市化の波に負けず、高い意欲を持ち元気で質の高い豚の飼養に励んでいる。

 横浜市を中心とした排出事業者から出る食品循環資源から作られたエコフィードを食べて育った豚肉を「はまぽーく」と名付け、横浜市内で販売するという循環型の養豚に取り組む「横浜農協食品循環型はまぽーく出荷グループ」(以下「はまぽーく出荷グループ」という)にお話をうかがった。

 「はまぽーく」と食品循環型飼料
 はまぽーく出荷グループの飼養概況は、11戸の農場(すべて一貫経営)で常時10,000頭を飼養し、年間出荷頭数は6〜7,000頭となっている。肥育期間は180日程度、出荷時体重は115キログラムで、品種はLWDである。豚肉の販売方法は市場上場で中・上物率は70〜80%である。

 ここではまぽーくの定義を紹介する。

 「はまぽーく」の定義

食品リサイクル(学校給食・事業系食品等)で出来た飼料と配合飼料(小麦、トウモロコシ等)を混合給与し、横浜の生産者が育てた、日本食肉格付協会の評価を得た、良質良好な豚肉を「はまぽーく」と定義する

また、はまぽーくの飼料給与体系は(表3)の以下の通りである。

表3 はまぽーくの給与飼料(例)


資料:はまぽーく出荷グループ作成資料から抜粋


 調査時には、上記の表の通り子豚用前期に「食品循環型飼料」として横浜有機が生産する「ハマミール」を20%ほどの添加で給与してしいた。

 以前、残飯で育てた豚肉は色が悪く、脂肪分が少なく身のしまりが悪い肉質になると言われ市場での評価は低かった。しかし、「はまぽーく」は、肥育期に指定配合を給与し仕上げているため一般の豚肉と比較した食味試験においても、けもの臭が少なく、脂がのっておりおいしいとした人が多く、肉質もやわらかく甘みがあるという評価を得ている。

 エコフィードを使うメリットとしては、一般的な配合飼料より安く購入できるため、コストの削減につながることである。残念ながら出荷グループでは、まだその結果が解析されていないが、「1頭当たり50銭でもえさ代が安くなれば徐々にコストは下がっていくし、「はまぽーく」というブランドが定着すれば経営は安定する」とグループ代表者は言う。



図4 「はまぽーく」ブランドのマーク
キャラクターを取り囲むのはピンク色のゴミ袋になっている


 都市型養豚の特徴を生かした取り組み
 横浜市は人口300万人を超え、今回調査に伺った養豚農家も周辺に住宅地が迫り、はまぽーく出荷グループの他の養豚農家においても畜舎の50メートル範囲内に団地があるなど、臭気や騒音対策などの環境対策に考慮した畜産経営が求められていた。

 ここでの都市型養豚は、土地の制約があり規模拡大が困難となる中で、(1)生産する豚肉に付加価値をつけること、(2)飼育環境に配慮して、周囲の住民に受け入れられることに生き残りをかけている。

 横浜市は公共下水道への家畜のふん尿放流が可能であることから、毎日豚舎の清掃をすることで臭気が抑えられている。また、養豚農家自身が環境整備に努力しており、畜舎周辺や、下水施設などの水回りにオゾン発生装置が配備され、ほとんど臭いがしないような工夫がなされていた。

 さらに、特筆すべきは、一般的に衛生問題から見学者や訪問者の豚舎内への立ち入りを禁ずる養豚農家が多い中で、はまぽーく出荷グループは積極的に小学生の総合学習体験や、消費者グループに豚舎を開放していることである。

 見学者の受け入れ、試食会(参加費300円/大人1人徴収)などのサービスをすることが周辺住民に対する養豚知識の醸成や新たなユーザー拡大への手段にもなっている。

 こうしたことが可能なのは、はまぽーく出荷グループが管理獣医師をおき、良質な豚肉生産のためにHACCPに準拠した衛生管理を導入し、各農場の飼養管理や衛生管理の状況をチェックしているからであり、豚を密飼いせずオールインオールアウトを徹底しているからである。また、豚舎見学の際には、使い捨ての白衣、靴カバー、キャップなどを用意し、外部からの汚染の心配を断ち切っている。

 「はまぽーく」は平成16年度から販売を開始し、豚肉の出荷先には生産履歴を開示している。それらはすべてグループ自主運営の中での手作りの資料であり、食品循環資源を使っていること、ワクチンを接種していること、肺炎になったときには抗菌製剤を投与することなどが正直につづられている。

 このような、飼養管理内容の開示ができるのは、前出の「横浜市食品循環資源飼料化協議会」発足時に集荷先からの食品残さの内容をつぶさに調べ上げ、ごみやタバコの吸殻などが入っていた場合は直ちに排出業者にフィードバックして改善させた排出物実態調査や、試験研究機関(県や市)との飼料給与試験(農家ごとに食品循環資源の混合率を替えた給与試験やその肉質検査)を行うなどの地道な努力があるからである。はまぽーく出荷グループ代表者は、「エコフィードをやるなら食品残さが豊富にあり、消費者も近くにいる都会のメリットを十分生かした地域内循環で成功させたい」と意気込みを語っていた。

 以上のように「はまぽーく」生産には、食品リサイクル飼料給与が必須条件となっている。これは、グループが横浜市の手がけた食品循環およびごみ減量の目的のための学校給食の飼料化、豚への給与実験などに参加したことがきっかけとなったが、この取り組みの主旨と豚肉の品質のよさこそが、リピーターがついているゆえんである。

 今では、「はまぽーく」は横浜市内の有名百貨店、大手量販店で取り扱われているほか、有名シュウマイや高速道路のサービスエリアで「はまぽーく肉まん」に利用されるなどの人気商品となっている。しかし、グループはその人気におごらず消費者に対しての広報活動も欠かしていない。グループでは、「はまぽーく」として販売された豚1頭当たり100円の資金を蓄えて、年一回小学校や事業所などへの「はまぽーく通信」発行やHPの作成を行うとともに、横浜市のごみ減量とリサイクル環境学習の広報活動などにも参加し食品リサイクルや地産地消についてのPRも行っている。

 このような安心・安全、そしておいしさが揃った「はまぽーく」は、横浜の市民に受け入れられ横浜の地にしっかりと「地産地消」を根付かせている。

 また、食育にも一役買っている。小学校の給食の残さを用いた飼料で飼養していることもあり子供達に食べ物の大切さを学ぶ機会を作ることで、循環型社会への貢献、地産地消、リサイクルなどの大切さを伝え、次世代の理解ある消費者を養成することにつながっている。



はまぽーく出荷グループの分娩房


おわりに

 今回の食品リサイクル法の改正を受け、収集エリアの拡大が見込まれ、さらにエコフィードの原材料(食品循環資源)の増加が期待される。農林水産省も、来年度はリサイクル・ループの活用などによるエコフィードの増産に重点的に取り組む予定である。

 横浜市の調べによると平成19年度においては横浜市内にある小学校362校から給食残さの収集を行っているが、日によって多少の差はあるものの1校当たり平均30キログラムの食べ残しおよび調理残さがあるとされる。

 横浜市内の小学校から排出される食品循環資源だけでも1日に約11トンも出ていることとなる。

 今までは、生ゴミとして燃やされていた食品循環資源が、飼料化されることで、エネルギーの削減、食料自給率の向上、リサイクルの推進など多くのメリットが生まれる。

 今後、産官学が一体となり、エコフィードに対する消費者の理解を育み、次世代の日本を担う子供たちへの食育、食品循環資源の再生利用を企業活動として取り組むことなどを推進することで、循環型社会が形成されることが期待されている。


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