◎調査・報告


専門調査レポート

未来めむろ牛(北海道)と
スーパーマルナカ(四国)との産直取引

宮城学院女子大学生活文化学科 教授 安部 新一


はじめに

 国内外のBSE発生による食肉の安全性に対する関心が高まる中、産地と生産過程が明らかな「安心・安全」をセールスポイントとした産直取引ルートが、より強く注目されてきている。消費者の食の安全・安心の意識の高まりを受けて、生産・出荷側では給与する飼料などを含めた生産履歴を明らかにするとともに、トレーサビリティに加えて、生産情報公表JASに取り組む事例もみられるようになっている。一方、スーパー側では業種・業態間での販売競争が激化してきていることから、生産履歴を消費者に開示し安全性を訴求した商品の品揃え販売を行って、他店との差別化を図っているところもみられる。こうした意識を持つ生産者・出荷者側と小売側とが結びつくことにより、生産流通過程が明らかな「安心・安全」をセールスポイントの一つにした産直取引が注目されてきている。

 そこで、今回の調査では、消費需要の低迷状況下におけるスーパーなど量販店の過去と現在の販売方法および今後の販売方法のあり方(販売戦略)を把握するとともに、スーパーなど小売側が求める商品を品揃えするための仕入・調達方法についても併せて調査を行った。特に、スーパーなど小売側が求める商品の仕入れ・調達方法に関連して、産地・生産者側との産直取引ルートにおける取引の経緯と取引内容および取引を推進していく上での、小売側からみた問題点と課題などについて実態調査を行った。

 本稿では北海道十勝支庁の芽室町内で生産された肉牛と四国の食品スーパーマルナカとの産直取引を事例として、産直取引の経緯と供給側である肉牛生産者の飼育方法と産直取引の実態および取引を推進していく上での課題を明らかにしたい。


1 「未来めむろ牛」生産者・ホクレンとスーパーマルナカとの産直取引

(1)産直取引開始の経緯
 未来めむろ牛の産直は平成15年10月にホクレンと福留ハムを経由してスーパーマーケット・マルナカ(以下「マルナカ」)との間で開始された。従来からホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」)と福留ハムはスポット的な取引を行っていた。こうした中で、ホクレンから福留ハムに対して抗生物質無添加のNon-GMO(非遺伝子組み替え)飼料を給与し飼育方法にもこだわり、さらに販売先である店頭までのトレーサビリティも確立したこだわりの未来めむろ牛があることを伝えていた。一方、マルナカの本社がある香川県は、大手量販店の相次ぐ進出により、全国的にみても有数のスーパー間の熾烈な販売競争が行われている地域である。このため、消費者に受け入れられる新たな差別化商品の品揃えを強化していくことが地元スーパーとしての生き残りをかけた販売競争には是非とも必要であった。抗生物質を使用しない鶏肉(すこやか21)の取扱いを開始した。さらにその後、抗生物質を使用しない豚肉についても取扱い、消費者に安全・安心で生産地(生産者)が明らかな食肉を提供することをコンセプトにした差別化商品の取り扱いを開始していた。そうした中で牛肉についての取扱いがないことから、抗生物質を使用しないなどのこだわりのある牛肉の仕入ルートについて、取引先である福留ハムに相談を行っていた。また、ホクレン側でも、従来、未来めむろ牛の販売先として道内のスーパーへの販売を行っていが、取引先のスーパー側では食肉の売場においてこだわりのある未来めむろ牛について特別な販売方法を採用してはいなかった。このため、こだわりの飼育方法で肥育された未来めむろ牛を牛肉売場において差別化商品として重要視して販売してくれる販売ルートの開拓を模索していた。こうした背景を持つ産地側のホクレンと小売サイドのマルナカの考え方が合致したことから、平成15年8月に福留ハムの仲介によりホクレンとマルナカとの商談とマルナカの担当部長の未来めむろ牛の生産牧場への視察が行われた。こうして、肉牛生産者と流通業者としてのホクレン、福留ハム、および小売業者としてのマルナカを中核とした取引ルートが構築され、産直取引が開始された。

(2)産直取引の担い手と流通ルート
 未来めむろ牛の肥育牛生産者は、株式会社大野ファームと素牛生産も行っている株式会社オークリーフ牧場(調査時は2社とも有限会社)である。オークリーフ牧場では初生牛を東北の家畜市場から家畜商を通じて仕入、また、北海道内からは芽室町農協を通じて仕入れている(図1参照)。オークリーフ牧場で生後225日(約7.5カ月間)育成後に大野ファームに販売され、一部はオークリーフ牧場内で肥育に回されている。マルナカと取引されている未来めむろ牛は乳用種去勢牛であり、出荷月齢は約19.5カ月齢である。出荷作業は農協により行われ、帯広にある北海道畜産公社十勝事業所でと畜解体と部分肉カット加工され、その後、四国高松市の福留ハム高松支店へ毎週土曜日に到着する。このため肥育牛の出荷とと畜は火曜日と水曜日であり、木曜、金曜、翌週の月曜日までに部分肉加工後、水曜日にホクレン帯広支所を出発する。輸送ルートは、帯広から小樽まで陸送、小樽からフェリーで敦賀、その後陸送で高松市の福留ハム高松支店へ土曜日に到着するが、輸送ルートは委託する運送会社により異なる。北海道からの輸送は週に1回の輸送となっている。

図1 マルナカ向け「未来めむろ牛」の流通ルート



 福留ハムの高松支店からマルナカへの配送については、香川県内以外の徳島県、愛媛県および高知県内の各店舗へは、マルナカ配送センターへ一度納入されそこから県外の各店舗へ配送される。ただし、店舗数の最も多い香川県内の店舗については、福留ハム高松支店から直接各店舗へ配送されている。各店舗へはセット形態のまま配送され、各店舗でインストアーパックが行われている。

 商流については、肥育牛の取引は、ホクレン帯広支所がと畜・解体後に枝肉形態で買い取る方法である。さらに、部分肉加工後にはホクレン内部でも帯広支所とホクレン販売本部(東京)間での取引も見られる。また、販売本部と福留ハムとの取引、福留ハムとマルナカとの取引では、それぞれセット形態での販売となっている。未来めむろ牛の産直取引には、このようにほ育・育成農家、肥育農家、地元農協、ホクレン、福留ハム、およびマルナカが関わっている。そこで、産地側であるオークリーフ牧場と大野ファーム、流通業者としてのホクレンと福留ハム、小売業者としてのマルナカについて、それぞれの果たしている機能と役割について実態を明らかにする。


2 未来めむろ牛を生産する育成・肥育農家の取り組み

 未来めむろ牛を生産しているオークリーフ牧場と大野ファームは肉牛生産において、強い理念を持って生産に携わっていることが大きな特徴である。そのことを情報発信すべくホームページを立ち上げたのが「十勝・青森未来日記」である。両牧場の牛肉生産状況を把握するためにも、牛肉生産に携わる上での基本となる考え方からみてみよう。



オークリーフ牧場 ほ育舎


(1)未来めむろ牛生産への取り組み理念
 わが国でのBSEの発生や偽装表示問題の発生を契機として、オークリーフ牧場の柏葉社長と大野ファームの大野代表は、何よりもまず安全な飼料で牛を育てることを基本理念として、抗生物質無添加、Non-GMOの飼料を給与し、徹底した衛生管理と安全な環境の下で牛を育てることを基本目標としている。さらに、生産し出荷して終わりではなく、生産した牛肉が消費者の手元に届くまで責任を持つべきであるとの考えから、「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」の施行以前から牛肉の生産情報を記録し、一般に公開するためのトレーサビリティシステムの導入を図っている。こうした生産者側の思いを理解し共感し、責任を持って販売してくれる販売先の開拓、および販売先までの流通の仕組みづくりを構築することにまで責任をもって関わっていく必要があるとの考えである。また、「安心して食べられる、おいしくて健全な食品を提供するとともに、生産・流通コストを切りつめ、効率のみを追い求めるのではなく、手間暇がかかっても消費者の真の利益を優先する」という理念のもと、ホームページ上で肉牛の誕生から出荷までの情報を広く一般に公開し情報発信している。



大野ファーム 肥育舎


(2)オークリーフ牧場の飼養管理の特徴
 未来めむろ牛の生産を行っている大野ファームが肥育素牛を導入している供給先が同じ芽室町内にあるオークリーフ牧場である。オークリーフ牧場は、平成6年6月に有限会社として設立された。オークリーフ牧場の業務は、牛の育成販売のほかに、果樹の生産販売、馬の生産販売、養鶏および鶏卵の生産販売、農作業の受託等の事業を行っている。現在、常時ほ育・育成牛飼養頭数2,400頭(乳用オス牛1,900頭、交雑牛500頭)、肥育牛900頭である。従業員は専従職員8名(事務1名、飼養管理7名)とパート6名(飼育管理4名)である(表1)。

表1 有限会社オークリーフ牧場



 オークリーフ牧場では、当初、ほ育・育成のみであったがマルナカからの増頭の要請を受けて平成17年から肥育牛の飼育も開始した。飼養管理は0カ月齢から3カ月齢までのほ乳・ほ育期間、4カ月齢から7.5カ月齢までの育成期間、7.5カ月齢から19カ月齢までの肥育期間である。

 ほ育期間において給与するミルクは抗生物質無添加であるため、子牛が病気にならないよう健康管理には特に気をつけて飼養管理を行っている。また、育成段階での飼料は、飼料会社に依頼して、抗生物質無添加、Non-GMOの配合飼料を給与している。飼養管理では、牛が健康に成育するように牛舎の床には木の皮や麦わらを敷き詰めている。牛舎から搬出した敷料は、強制的に空気を送り込み微生物の働きを活性化させて発酵を促進させている。発酵温度が70度を超えるため細菌は死滅し、アンモニア臭もなくなるので、敷料として何度か再利用され、最終的には良質のたい肥として近郊の農家で利用される。このように、循環型リサイクルシステムが確立されており環境にも配慮されている。さらに、週に1回は必ず牛舎のすみずみまで消毒を行っている。また、子牛にミルクを与えるほ乳瓶もきれいに消毒が励行され、衛生面からの配慮もなされて病気にならないようきめ細かな飼養管理が行われていることが大きな特徴である。

 オークリーフ牧場では初生牛の導入は、先に述べたように東北の家畜市場から家畜商を通じて仕入ルートと道内の農協を通じて仕入れるルートがみられる。一方、育成牛の販売は大野ファームへ1週間に約30頭、月間では約105頭を販売し、残りを肥育に回している。育成牛の販売価格は、当月のホクレン発表ホル素牛相場を決定している。

(3)大野ファームの肥育飼養管理の特徴

 1)大野ファームの経営概況と経営理念

 大野ファームは昭和61年7月に設立された。大野ファームは肉牛経営と畑作経営の複合経営である。現在、肉牛経営は乳用肥育牛と交雑牛を常時1,900頭飼養している。土地面積については、草地20ヘクタール、原野15ヘクタールのほかに、耕地面積70ヘクタールに小麦作付面積35ヘクタール、てん菜17.5ヘクタール、大豆17.5ヘクタールを作付けしている。従業員は6名、その他に実習生1名、パート1名で肉牛の飼養管理、飼料生産、および畑作生産にも従事している(表2)。

表2 有限会社大野ファーム



 大野ファームにおける基本原則となる3本柱は、人、自然、牛が「健康であること」である。第1に健康な作物は健康な土づくりからこだわり、第2にエサになる牧草と麦わらは農場内で生産されたものと地元で生産されたものを給与し、一頭一頭愛情を込めて健康な牛づくりに努め、第3に土づくりと牧草にこだわることで食べて安心できる牛肉を消費者に提供でき、健康な人づくりにも貢献できることを狙いとしている。

 2)発展経緯と出荷販売実績

 次に、大野ファームの発展経緯をみてみよう。大野ファームを設立した昭和61年は、代表の大野泰裕氏が就農した年であり父親の指導により肉牛経営と畑作経営を開始した。肉牛経営は昭和58年の冷害による畑作の不作を契機に経営安定のため父親がアンガス種とヘレフォード種15頭を導入し肉牛経営を開始したのが始まりである。その後、平成5年にはこれまでのアンガス種とヘレフォード種のほかに、交雑牛を導入し、常時飼養頭数170頭へと増頭した。その後、平成11年にはこれまでのアンガス種とヘレフォード種の飼養を中止し、交雑牛のみ飼養し常時飼養頭数を600頭へと増頭した。さらに、平成14年には先に述べたようにオークリーフ牧場の柏葉氏の理念である安心して食べられる、おいしくて健全な牛肉を消費者に供給していく考え方に共鳴して、新たに乳用牛を導入し、平成15年には常時飼養頭数も交雑牛を含め1,000頭へ増頭している。近年の常時飼養頭数の推移をみると、平成15年には1,000頭、17年には1,600頭、さらに現在では2,000頭へと頭数規模拡大を図ってきている(表3)。飼養頭数のうち、マルナカとの主な取引となる乳用種去勢牛の飼養頭数は平成15年には550頭、17年には1,150頭、19年には1,300頭へと増頭している。頭数規模拡大に伴い、草地面積も平成15年の15ヘクタールから19年には20ヘクタールへと拡大し、また、牛舎についても平成15年の5棟から19年には8棟へと施設投資を図っている。このように、常時飼養頭数の規模拡大により、出荷販売頭数も平成15年の800頭から19年の目標は1,500頭へと拡大を目指している。そのうち乳用種去勢牛は平成15年の550頭から17年には1,150頭、さらに19年の出荷予定は1,300頭を目指している。

表3 大野ファームの飼養・出荷頭数、牛舎、草地面積の推移



 3)飼養管理の特徴

 次に大野ファームの飼養管理の特徴をみてみよう。肥育素牛を7.5カ月齢で導入し、7.5カ月齢から9.5カ月齢までを肥育前期、9.5カ月齢から12.5カ月齢を肥育中期、12.5カ月齢から15.5カ月齢までは肥育後期とし、15.5カ月齢から19.5カ月齢までの仕上げ期に区分して飼養を行っている。

 そこで、飼養管理段階別に飼養の特徴をみてみよう。飼料は肥育段階ごとに異なる配合飼料を給与しているわけではない。飼料メーカーでは肥育段階ごとのNon-GMOの配合飼料を製造することは手間暇がかかるため製造してくれない。このため、大野ファームの指定配合をメーカーに委託し、これを基礎配合飼料とし、これに粗飼料としてチモシー(乾牧草)、麦わら、単味飼料としてビールかす、大豆かす、果実かす、醤油かす、大豆くず(圧片処理)、小麦圧ぺん、小麦くず、ビートパルプ、米ぬかなどを加えて自家配合している。肥育段階区分別に給与飼料をみてみよう。肥育前期では、自家配合に加えて、さらに食い込みをよくするためにチモシーと麦わらの粗飼料を多く給与し、また、タンパク質量を上るため大豆かす、大豆くず、フスマなどを多く給与している。肥育中期はエネルギー量を上げ、食い込ませ増体重を上げていく時期である。このため、タンパク質の単味飼料である大豆かす、フスマなどとチモシーについても肥育前期に比べ減らす。ただし、麦わらについては肥育中期から仕上げ期まで不断給餌で給与することにより、鼓脹症の対策にもつながっている。肥育後期にはエネルギーをさらに高めるため、また、サシを入れ肉質の向上を図るため、小麦圧ぺんと小麦くず、米ぬかを多く給与する。仕上げ期でもさらに肉質の向上を図り、肉質のしまりをよくするために後期と同様に小麦圧ぺん、小麦くず、米ぬかをさらに増量して給与を行っている。

 今後、Non-GMO飼料穀物の量的な確保が懸念されている状況にあり、また、購入飼料の価格高騰に対応していく観点からも自給飼料の確保が緊急を要する課題となっている。20年には畑作物の小麦の作付面積を減らし、代わって飼料作物のデントコーンを16ヘクタール作付けを予定している。何よりもまず安全な飼料で牛を育てることを基本理念としていることから、地元で生産された飼料を給与することを実践するため、地元で発生した大豆かす、果実かす、醤油かすなどを積極的に飼料として有効利用を図っている。さらに、牛舎から発生したたい肥は耕種部門の小麦、大豆、てん菜などの畑作地へ還元され、さらに余剰たい肥は近隣の畑作農家へ提供し、麦わらと交換を行っている。これにより、地域内資源循環型の農業生産を実践していることも大きな特徴である。


3 スーパーマルナカの機能と役割

(1)牛肉売場における未来めむろ牛の位置付け
 マルナカは昭和27年に設立され、1960年にスーパーマーケットチェーンとして香川県内で1号店をオープンし、これまでに四国の各県に店舗展開しており、19年現在ではスーパーマーケット直営店121店舗(香川県68店舗、徳島県27店舗、高知県12店舗、愛媛県14店舗)、FC4店舗、ホームセンター3店舗である。さらに、関連企業として、スーパーマーケットチェーンの(株)山陽マルナカ(岡山県51店舗、兵庫県6店舗、大阪府7店舗、広島県2店舗)のほかに、総菜・弁当製造調理、マグロ専門商社、お茶の製造、素麺の製造、清涼水の製造の各企業、さらに旅行代理店など広範な事業展開を行っている。マルナカでは「より良いものをより安く」を実践し、「お客様第一主義」の基本理念を堅持して成長を遂げてきたスーパーマーケットチェーンである。取扱商品は一般食料品、生鮮食料品を中心に、日用雑貨を取り扱う食品スーパーである。



スーパーマルナカ パワーシティレインボー店(高松市内)


 マルナカの121店舗のうち、今回調査事例として取り上げた未来めむろ牛を取り扱う店舗は85店舗(香川県46店舗、徳島県17店舗、高知県10店舗、愛媛県12店舗)である。取り扱っていない店舗は売り場面積の小さな店舗である。マルナカの食肉別取扱い金額構成比の変化をみると、5年前の14年(6月の実績)には、牛肉27.8%、豚肉20.9%、鶏肉13.2%、その他(ミンチ、内臓、総菜など)38.1%であったが、現在、19年(6月実績)では牛肉28.4%、豚肉20.5%、鶏肉13.8%、その他37.3%である。将来、5年先の構成比は、牛肉25%、豚肉20%、鶏肉14%、その他41%の予想である。近年、食品の販売額に占める食肉の構成比が落ちてきているとの発言が聞かれた。これは、食肉は比較的若い年齢層で多く消費される傾向がみられるため、高齢社会を迎えて肉類の消費が落ちてきているとも考えられる。さらに、将来における牛肉の構成比が低下しているのは、和牛肉の消費の低迷と、総菜などの中食の需要増加を見込んでいることによるものとみられる。そこで、牛肉の種類別の内訳について、未来めむろ牛の取扱い以前の12年、取扱い開始翌年の米国のBSE発生の翌年である16年と19年の経時的な変化をみてみよう。未来めむろ牛の産直取引開始以前の12年における構成比は、和牛24%、交雑牛17%、乳用牛33%、輸入牛のうち米国産23%、豪州産3%であった。その後、ホクレンとの未来めむろ牛の産直取引開始翌年の16年には、前年の12月に米国でのBSEの発生による米国産牛肉の輸入禁止のため、米国産牛肉の取扱いは皆無となり、それに伴って交雑牛は33%、乳用牛は38%、豪州産は12%と、12年に比べ交雑牛は16ポイント、乳用牛は5ポイント、豪州産は9ポイントそれぞれ構成比を高めて対応を図っている。このように、米国産の輸入禁止措置による牛肉仕入れ対応としては、交雑牛と豪州産輸入牛肉で対応を図ったことが明らかである。18年には米国産牛肉の輸入解禁となり、また、未来めむろ牛の取扱いも増加した19年には、和牛20%、交雑牛26%、乳用牛41%、輸入牛のうち米国産9%、豪州産4%の構成比となっている。平成12年に比べ和牛は4ポイント低下しており、和牛の販売促進活動を行っても売上げ増には結びつかないことから、和牛の取扱いの増加を図る考えはみられない。また、交雑牛は市場取引価格が高くなると売価も高くなるため利益率が低くなり、市場取引価格が値下がりしなければ利益の出ない牛肉との考えである。このため、12年に比べ19年には9ポイント増加しているが、今後は仕入割合を高める考えはみられない。次に、乳用種去勢牛肉については、12年に比べ19年には8ポイント増加している。ただし、マルナカが取り扱っていた乳用種去勢牛肉については、国内でのBSE発生前まではB3規格等級の牛肉が仕入れられていたが、近年では以前に比べ品質が落ちて主にB2規格等級の牛肉の仕入となっていた。このため、マルナカでは取引先に対して、乳用種去勢牛肉のB3クラスの構成比率を高め精肉売場での販売促進を図る考えである。このため、未来めむろ牛についても品質の向上を図るよう要請を行ってきている。未来めむろ牛を取り扱って、肉の味の面では交雑牛に近づいているとの評価である。ただし、肉の見栄えの観点から脂肪交雑の入りの良い牛肉を希望していることから、B3クラスの乳用種去勢牛肉の仕入量を増やしていくことが課題となっている。マルナカが未来めむろ牛に対するさらなる品質の向上を要望している背景には、今後とも乳用種去勢牛におけるメイン取扱い牛肉として位置付けているためである。このように、マルナカの牛肉売場における未来めむろ牛の位置付けは高く、産直取引に対するさらなる取引強化がうかがわれる。

(2)産直取引の内容
 未来めむろ牛の取引は、大野ファームから1週間に20頭、オークリーフ牧場から8頭が出荷され、そのうち、マルナカへは20頭が販売され、その他はホクレンが独自ルートで販売を行っている。未来めむろ牛は1週間に1回の取引であり、毎週、水曜日に帯広市から出荷され、高松市の福留ハム高松支店の配送センターには土曜日に到着する。福留ハムでは、香川県内のマルナカの各店舗へは月曜日と火曜日に直接、配送を行っている。ただし、その他の愛媛県、徳島県、高知県の店舗については、月曜日に一度、マルナカの配送センターに納入され、そこからマルナカ側で各店へ配送を行っている。未来めむろ牛の取引形態は、部分肉パーツ取引ではなくフルセットでの取引である。ただし、通常のフルセット取引では半丸枝肉を部分肉加工したものであるが、ホクレンとマルナカとの取引では枝肉を背割りした半丸枝肉のフルセットをAセット、Bセットとに分けている(表4)。このことから、一頭の枝肉から4分の1セットを各店舗に1週間に1回の配送を行っていることになる。マルナカでは未来めむろ牛のセットでの仕入を基本として、季節ごとに必要とする不足部位をパーツ仕入で対応している。セット仕入を基本としている背景には、パーツでの仕入では必要とする部位を必要時期に仕入量を確保するためには、一つの産地だけでは対応しきれず、いくつもの産地から仕入ることになるため、品質の一定したものが仕入れられないためである。また、セットで仕入れることにより各店舗のバイヤーは各部位から多様な商材づくりと売場づくりを行って売上げを伸ばしていく上で重要であるとの考えによる。マルナカでは本部から基本の商品アイテムと売場のレイアウトを提供している。ただし、各店舗の精肉売場主任が、対象となる顧客層の購買行動を考慮して、商品アイテムの品揃え政策を各店ごとに独自に変更して販売を行っている。



マルナカ店内精肉売場に掲げられた
未来めむろ牛のポスター


 未来めむろ牛は各店舗に毎週火曜日までには配送されており、各店舗では水曜日と木曜日、または木曜日に特売が行われていることもあり、土曜日、日曜日には売り切れて売場に商品がない状況となっている。このため、産直取引の開始当初には未来めむろ牛コーナーが設置されていたが、現在ではコーナーは廃止されている。マルナカでは1週間を通して品揃えができない状況にあることから、さらなる増頭出荷を産地側に求めてきたのである。また、未来めむろ牛の販売促進の一環として4月と10月の年に2回「北海道フェア」を開催している。この目的は未来めむろ牛のブランドを顧客に認知してもらうことにある。このため、チラシによる広告宣伝と未来めむろ牛を取り扱っている全店で4日から5日間にわたって特売セールを行っている。フェア向けの出荷量に対応するために、平成20年から出荷開始できるように新たな牛舎の増築と増頭が図られてきている。



商材づくり、売場づくりを工夫するマルナカの店舗



高松市内店舗の「北海道フェア」に際して
販促活動に訪れた柏葉氏と大野氏


 産直取引での品質等級の取り決めとしては、B2とB3であった。ただし、肉の色については淡い色で見た目が良くなり問題はなくなったが、ロース芯が小さいとの欠点が指摘されていた。このため、生産段階では子牛の段階での胃袋を強くして肥育期間に食い込みをよくすることにより、また肥育期間も当初の18.5カ月から19.5カ月へ延ばすことにより対応を図ってきた。マルナカでは顧客への販売強化を図る観点からサシの入りをさらに高めた見栄えの良いB3クラスの生産出荷への強い要望が聞かれる。このことは、産地の生産者に対してさらなる肥育月齢の延長を強いることになり、現在においても割高なNon-GMO飼料穀物を給与し、さらに近年の配合飼料の価格高騰などの問題もあることから、今後の重要な検討課題と考えられる。



未来めむろ牛の特売用平台ケースでの陳列


表4 AセットとBセットに含まれる部位(枝肉半丸)



4 ホクレンと福留ハムの機能と役割

 これまでの産直取引における生産・流通の担い手としては、生産者、単協と生協・スーパーなどの小売業のほかに食肉加工メーカー、全農などが流通業者として代金決済や季節別の部位別需給調整機能などの業務を行ってきている。本事例では、産地側である生産者、農協と小売業者であるスーパーのほかにホクレンと食肉加工メーカーの福留ハムが流通業者として重要な役割を果たしている。そこで、産直取引を円滑に推進していく上でのホクレンと福留ハムの果たしている機能と役割をみてみよう。

 未来めむろ牛の産直取引におけるホクレン内の部署は、帯広支所と販売本部(東京)が流通の担い手として関わっている。ホクレン帯広支所では、大野ファームとオークリーフ牧場から出荷された肥育牛をマルナカ向けとその他の販売先向けに振り分ける選畜することのほかに、部分肉加工指示および配送の手配と指示を行っている。また、生産者側が抱えている問題点などの情報収集と連絡の窓口となり、そうした生産者側の声をスーパー側に伝える役割を担っている。一方、販売本部では取引販売業務を行っている。毎年、8月から9月に年1回の取引交渉をマルナカ、福留ハムとホクレン販売本部の3者が芽室に集まり、枝肉検品と10月から翌年の9月からまでの一年間の新たな取引価格・頭数の交渉を行う。また、マルナカ、福留ハムからの産直取引を推進していく上での要望事項については、販売本部が窓口となって要望事項を受けている。

 次に、近年の偽装表示問題などの多発により、食の安全・安心に対する消費者の目はさらに厳しさを増してきているがホクレンでも未来めむろ牛を含めたトレーサビリティの導入が図られている。ホクレンが作成するトレーサビリティ情報明細書には、原産地、枝肉番号、加工日、個体識別番号が記載され、これによりほ育段階までさかのぼって生産履歴が明らかとなる。こうした、産地側の情報とともに、と畜処理、部分肉加工、パック包装作業などを含めた生産、加工、販売工程の全般にわたる生産から流通までの履歴についての情報開示が行われていくことが、生産者側だけでなく、ホクレン、福留ハムおよびマルナカの流通の担い手に対して、今日より強く求められている。

 さらに福留ハムの役割としては、マルナカの意向を受けて取引価格交渉の商談窓口として、ホクレン側との事前交渉を行っている。また、帯広支所から輸送された未来めむろ牛を香川県内の各店舗と県外向けにマルナカの配送センターの配送業務を行っている。


5 未来めむろ牛の展開方向と課題

 ホクレンを通じたマルナカとの未来めむろ牛の産直取引は、平成15年10月の週3頭取引から開始し、平成17年10月には週10頭、18年3月からは週20頭へと年々拡大を続けてきている。ただし、産直取引を継続していく上での問題点と課題もみられる。

 先に述べたようにマルナカからは、さらなる品質の向上を図りB3クラスのサシの入りの良い牛肉への強い要望が聞かれる。生産者側も生体重780キログラムを目標に飼育を行ってきているが、現在でも目標には達していないのが現状である。このため、さらに肥育日数を伸ばして、生体重を800キログラムまでを目標にしたいとの考え方も聞かれる。こうした、肉質の向上を図るためには肥育日数を伸ばしていかなければならず、生産コストの上昇を招くことにつながりかねない。一方、生産コストが上昇しても取引価格も年々値上げしている中で、今後さらに大幅なアップでの取引は困難との考えが聞かれる。また、取引価格の大幅な上昇は、交雑牛の売価と同じ価格帯に近づくことになりかねず、乳用種去勢牛を取り扱う意味を失いかねない問題をもはらんでいる。

 さらに、マルナカ本部の食肉担当責任者が未来めむろ牛の特徴を理解しても、取引価格の上昇に伴い各店舗では売価の値上げとともに、利益率が低下してくることが予想され、一定の利益率を追求される各店舗の精肉担当者は未来めむろ牛を積極的に取り扱わない店舗も出てくるとも考えられる。そのためにも、産直取引当初の経営者の経営理念と担当部長の求めてきた安全・安心を追求した食肉の品揃え強化を図ることにより、消費者に安全な商品を提供することを使命として開始したことを再度、改めて認識することが必要であろう。そうした差別化商品の品揃え強化を図ることが、他店との厳しい販売競争に勝ち残るための戦略でもあったわけである。こうした視点に立って再度、各店舗の精肉担当者が産直取引の意義と未来めむろ牛の商品特性をよく理解し、消費者にアピールする新たな商品開発による品揃えの充実と売場づくり、および店頭での販売促進活動を積極的に行っていくことが、今後の未来めむろ牛の安定的な販売のためには何よりも重要な課題である。

 一方、産地側でも子牛価格の値上がりのほかにNon-GMO飼料価格の大幅な値上がりによる配合飼料価格の上昇、それに伴う生産コストの大幅なアップがみられる。こうした状況に対応するため生産者側では、配合飼料価格高騰への対応のほかに、牛の健康の観点からも自給飼料の確保を図る考えである。また、Non-GMO作物を海外から調達していくことが困難になりつつある中で、国内で調達し確保していく方向を模索している。さらに、現在においても地域の食品企業で発生した食品残さを家畜の飼料として利用を図ってきているが、今後、さらに新たな調達ルートを開拓して未利用資源の有効活用を図っていく考え方も聞かれる。このように、今後とも消費者に安全・安心な牛肉を生産し、供給していくことが産地側に求められる重要な課題である。

 このように産直取引の継続には問題点と課題もみられるが、先に述べたように、生産者側は「安心して食べられる、おいしく健全な牛肉の提供、手間がかかっても消費者の真の利益を優先する」ことを取組理念として肉牛生産を行っており、一方、小売側のマルナカは「お客様第一主義」を基本理念として抗生物質を使用しない食肉を取り扱うなどの安全・安心な食肉を提供していくことをモットーに商品の仕入を行ってきている。このことから、生産側と販売する小売側の理念の一致がみられることから、マルナカでは牛肉売場において未来めむろ牛をメインの牛肉として位置付けて販売していく考えであり、今後とも産直取引の拡大が期待される事例である。


元のページに戻る