◎調査・報告


生乳加工副産物ホエイの
安定貯蔵法と子牛への給与法の開発

―平成18年度畜産物需給関係学術研究情報収集推進事業―

北里大学獣医学部 教授 萬田 富治
助手 中井 淳二
独立行政法人家畜改良センター 岩手牧場
種畜課 山之内 忠幸


1.目的

 生乳からチーズなどを加工する際に生産される副産物のホエイは、乾燥または濃縮して利用されている。チーズの消費量は過去10年間で約1.2倍に増加し、今後も増加が見込まれており、ホエイの効率的な利用技術の開発が求められている。

 低コストで簡易な方法として生産された液状ホエイを直接、家畜用飼料として利用する方法は、わが国では一部の地域で豚への給与事例が散見される程度である。また、家畜飼料としての利用を図るには、チーズ製造工場と畜産農家が近接していることが輸送コストなどから考えて望ましい。

 当研究は、チーズ製造工場の副産物ホエイを畜産農家が家畜飼料として利用するため、液状ホエイの安定貯蔵法とホエイの子牛への給与法を検討した。


2.方法

(1)ホエイの安定貯蔵試験

1)有機酸および乳酸菌添加によるホエイの酸貯蔵法

 ホエイの安定貯蔵法として酸貯蔵法について検討するため、ホエイ原料に直接、有機酸および乳酸菌を添加して安定貯蔵至適pH4.2を指標として以下の方法で添加量を決定した。

 ホエイ100ミリリットルに純度90%乳酸(L)、99%酢酸(B)、99.5%プロピオン酸(P)および85.5%ギ酸(F)の4種類の有機酸を添加攪拌(かくはん)し、ホエイのpHが4.2に達した時点の有機酸の添加量を基準添加量とした(表1)。なお乳酸、プロピオン酸、ギ酸は飼料添加物規格、酢酸は食品添加物規格を使用した。

表1 ホエイ100mlをpH4.2に調整するのに必要とする各有機酸の添加量(μl)



 この基準添加量に基づき、各区300ミリリットルのホエイを広口ポリ瓶に採取し、各有機酸の基準添加量を添加した標準区、標準区の1/2倍を添加した1/2倍区、標準区の2倍を添加した2倍区をそれぞれ2反復の処理を行った。乳酸菌(Lb)はサイロ用菌末トーア(東亜興業株式会社)を用い、推奨添加量である原料草1トン当たり200グラムを乳酸菌の基準添加量とし基準添加量を添加する標準区、標準区の1/2倍を添加する1/2倍区、標準区の2倍を添加する2倍区、同5倍を添加する5倍区および同10倍添加する10倍区を、それぞれ2反復した。なお、対照区として無添加区(C)を4反復、設定した。各有機酸および乳酸菌の添加量を表2に示した。

表2 各試験区における有機酸および乳酸菌の添加量(%)


*サイレージ調整時における推奨添加量(200g/原料草 1t)を基準

2)貯蔵期間中のpHの推移および発酵品質分析

 乳酸菌および各有機酸の添加時を0日目として、以後1、3、7、14、21、28、56、84、112日目にpHを測定した。また、貯蔵ホエイの品質を確認するため、0、7、14、21、84日目にホエイを採材し、発酵品質(乳酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アンモニア態窒素含量)を測定した。

(2)ホエイのほ乳子牛への給与試験

1)各酸貯蔵ホエイのほ乳子牛によるし好性

 ほ乳子牛への給与試験用として乳酸菌と有機酸4種類(乳酸、酢酸、プロピオン酸、ギ酸)をいずれも試験1で求めた基準添加量の2倍量を添加し、酸貯蔵ホエイを調製した。

 し好性試験は、6頭の15〜31日齢乳用種雄子牛を供試した。(1)貯蔵5区のうちから任意の3区を組み合わせて行った。1日目を馴致(じゅんち)日とし、その後2日間摂取量を測定した。(2)その後、(1)より選び出した1種の貯蔵ホエイ区と、残り2種類の貯蔵ホエイ区の3区により(1)と同様な手順で給与試験を行った。

2)酸貯蔵ホエイの子牛への長期給与試験

 6頭の雄子牛を用いて行った。試験2−1)で最も成績の良かった貯蔵ホエイを3頭の子牛(ホエイ区)に、残りの3頭には水(対照区)を毎日給与した。これらの子牛は、生後5日目まで6リットル/日の初乳給与を行い、その後は代理乳5リットル/日の定量給与を行った。離乳は、定量給与時の半分量(2.5リットル/日)を36日齢から7日間給与した後に行った。スターターの給与は、6日目から50グラム/日の給与を始め、離乳時に1.6キログラム/日となるように漸増した。いずれの子牛も生後8日目より試験に供した。貯蔵ホエイの摂取量およびスターターの摂取量は10、20および30日齢に測定した。0および30日齢に体重、体高および胸囲を測定し、発育値を比較した。なお、毎日子牛の健康観察とふん便状況を観察し、記録した。


3.結果

(1)ホエイの安定貯蔵試験

1)pHの推移

 無添加区(C)、乳酸菌添加区(Lb)、乳酸添加区(L)、酢酸添加区(A)、プロピオン酸添加区(P)、ギ酸添加区(F)のpHの推移を図1〜5に示した。

 乳酸菌添加区は、いずれの添加量でも1日目以降低下し、5日目にはpH4.2以下を示した。その後、1/2倍区は14日目に、標準区は28日目に、2倍区、5倍区および10倍区は56日目に最低値を示し、その後上昇した。2倍区、5倍区および10倍区はpH2.7以下を示し、牛用飼料としては低すぎると考えられた。(図1)

図1 pHの推移・乳酸菌添加区



 乳酸添加区は、1/2倍区でpH4.2を下回ることなく推移し、56日目以降急激に上昇した。標準区は84日目までほぼ大きな変動は見られず、その後上昇した。2倍区は、14日目までpH4.2以下で安定していたが、その後緩やかな上昇傾向が見られた。(図2)

図2 pHの推移・乳酸添加区



 酢酸添加区は、1/2倍区で5日目まで変動が見られなかったが、その後緩やかに上昇した。標準区は7日目まで変動が見られなかったが、その後緩やかに上昇した。2倍区は56日目までpH4.2以下で安定的に推移した後、上昇した。(図3)

図3 pHの推移・酢酸添加区



 プロピオン酸添加区は、各区とも大きな変動は見られなかったが、1/2倍区および標準区では7日目以降、緩やかに上昇した。また、2倍区では84日目までpH4.2以下で安定的に推移した。(図4)

図4 pHの推移・プロピオン酸添加区



 ギ酸添加区では、各区とも7日目まで安定的に推移したが、その後上昇した。(図5)

図5 pHの推移・ギ酸添加区



 いずれの酸添加区においても、無添加区は、添加後一時的にpHが上昇し、その後、低下し、5日目ではpH4.2以下を示し、7日目以後は再び上昇し、84日目以降は、著しく上昇した。

2)発酵品質の推移

 貯蔵ホエイの乳酸含量は、乳酸菌添加区(Lb)の標準区および2倍区でほかの添加区に比べ大きく増加したが、21日目以降は急激に減少した。乳酸添加区(L)では、14日目以降標準区が2倍区より高く推移した。酢酸添加区(B)、プロピオン酸添加区(P)およびギ酸添加区(F)では、大きな変動は見られなかった。また無添加区(C)は0日目から7日目にかけて増加した後、緩やかに減少した。(図6)

図6 発酵品質の推移・乳酸



 貯蔵ホエイの酢酸含量は、酢酸添加区(B)がほかの添加区に比べ高く推移した。特に酢酸添加2倍区は、添加時より高く推移した。しかし21日目以降急激に減少し、84日目には痕跡程度となり、ほかの区と差がなかった。(図7)

図7 発酵品質の推移・酢酸



 貯蔵ホエイのプロピオン酸含量は、プロピオン酸添加区(P)がほかの添加区に比べて高く、特にプロピオン酸添加2倍区が高い値で推移した。ほかの添加区は21日目以降で、多少増加した区が見られたが、その差は大きくはなかった。(図8)

図8 発酵品質の推移・プロピオン酸



 貯蔵ホエイの酪酸含量は、多くの添加区で低かったが、無添加区(C)、酢酸添加2倍区およびギ酸添加2倍区で21日目以降急激に増加した。これは、試験中にホエイ表面に発生したカビの影響によるものと考えられた。(図9)

図9 発酵品質の推移・酪酸



 貯蔵ホエイのアンモニア態窒素(NH4-N)含量は、試験開始時には各区とも低かったが、乳酸菌添加区(Lb)および無添加区(C)では徐々に増加し、21日目以降急激に上昇した。また酢酸添加2倍区では、21日目までほとんど増加が見られなかったが、その後急激に増加した。そのほかの添加区では、NH4-Nの著しい上昇はなかった。(図10)

図10 発酵品質の推移・NH4-N



(2)ホエイのほ乳子牛への給与試験

1)各酸貯蔵ホエイのほ乳子牛によるし好性

 i)乳酸菌および有機酸添加ホエイのpHの推移

 有機酸添加区は添加直後に目的とする至適pH4.2に達した。一方、乳酸菌添加区は乳酸菌添加後、2〜3週間で目的とするpHまで低下した(図11)。

図11 乳酸菌および有機酸添加によるホエイのpHの推移



 ii)し好性試験

 し好性試験(1)では、乳酸菌区、酢酸区、乳酸区の貯蔵ホエイを用いた。これら3区のうち酢酸区が最もし好性が悪かった。乳酸菌区と乳酸区は1・2日目ともに平均値としては似たような値を示していた。しかし、個体ごとに見てみると乳酸菌区は特定の個体だけに偏って摂取されていたのに対し、乳酸区は各個体で多少のばらつきはあるものの一様に摂取していた。また、グラフからも分かるように乳酸区が乳酸菌区に比べてばらつきが小さかったので、試験(2)では、乳酸区を選定した(図12)。

図12 し好試験1



 し好性試験(2)では、試験(1)で選定した乳酸区とギ酸区、プロピオン酸区を用いた。これらのうちプロピオン酸区が最もし好性が悪かった。平均値で見ると、1日目は乳酸区、2日目はギ酸区のし好性が良かったが、個体別で見ると乳酸区が全体的に摂取されているものの、ギ酸区については一部の個体のし好性が優れていた。また、総摂取量から見ても乳酸区が最も多かった(図13)。

図13 し好性試験2



 試験(1)と(2)の結果から、乳酸区を次の2)の試験に供することにした。

2)安定貯蔵したホエイの子牛への長期給与試験

 i)ホエイと水の摂取量

 貯蔵ホエイは、し好性試験により選ばれた乳酸を添加したものを用いた。冬季ということもあり、対照区の水の摂取量はほとんど無かった。一方、ホエイ区では、試験開始当初はほとんど摂取しなかったが、日齢が進むにつれて摂取量が増加した(図14)。

図14 ホエイと水の摂取量



 ii)ホエイ給与によるスターター摂取量調査

両区におけるスターターの摂取量には違いは見られなかった(図15)。

図15 スターターの摂取量の比較



 iii)ホエイ給与による下痢スコアの比較

 試験開始日から毎朝個体ごとにふん便状況を観察し、ふん便の状況を4段階に分け、正常便:0、軟便:1、泥状便:2、水様便:3とスコア化した。このスコアを積算し、図16に示した。ホエイを給与することで、下痢頻度が低下する傾向が見られた。

図16 ほ乳子牛の下痢スコアの比較



 iv)ホエイ給与による発育値の比較

 ホエイ給与による初期発育への影響を見るために、出生時と30日齢時における体重(図17)、体高(図18)および胸囲(図19)の比較を行った。両区ともに順調な発育を示した。0日齢においては各測定値ともホエイ区が小さかったが、30日齢時ではホエイ区がその差を縮小あるいは逆転した。このことより、ホエイ給与による子牛の発育への悪影響は無いものと考えられた。

図17 ほ乳子牛の体重の推移




図18 ほ乳子牛の体高の推移




図19 ほ乳子牛の胸囲の推移



4.考察

 ホエイの室温安定貯蔵は、プロピオン酸添加2倍区が84日目まで至適pH4.2以下を保持し、最も成績が良かった。また、酢酸添加2倍区が56日目まで安定していた。貯蔵期間が14日以内と比較的短期間で利用する場合は、乳酸添加も有効であることが示された。酪酸は各添加区ともほとんど生成されず、良好な発酵品質のホエイであると評価された。発酵品質は、乳酸添加区および乳酸菌添加区で乳酸含量が高く、酢酸は酢酸添加区が、プロピオン酸はプロピオン酸添加区で含量が多かったが、乳酸および酢酸含量は21日目以降急激に減少することが示された。これらのことより、ホエイへの有機酸の添加は室温安定貯蔵が可能であることがわかった。乳酸菌の高濃度添加は強酸性となるため、飼料としての利用については再考が必要と考えられた。

 酸貯蔵ホエイの子牛のし好性はよく、水を給与した対照区と比較して飼料摂取量に違いは見られず、また下痢の発症例が減り、増体量にも好影響を与えた。

 以上の結果より、ホエイの有機酸添加による室温安定貯蔵が可能であり、ほ乳子牛のし好性が高く、飼料として給与可能であることがわかった。しかし、表面にカビの発生が見られたこともあり、実用化に際してはさらに安定貯蔵法の検討が必要である。また、子牛への給与に際しては、季節によって飲水量が異なる場合の酸貯蔵ホエイの摂取量への影響などについて、さらに供試頭数を増やして検討し、ホエイの安定貯蔵および牛給与に関する技術を確立する必要がある。


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