◎調査・報告


専門調査レポート

エコフィードによる地域食品産業の活性化と
低コスト畜産経営の確立
〜南九州の焼酎かすの飼料化を事例として〜

九州大学大学院農学研究院 教授 甲斐 諭


1.調査研究の背景と課題

 周知のように配合飼料価格が最近急騰している。その要因は、(1)国際飼料穀物相場の高騰、(2)海上運賃の高騰、(3)円安の為替レートなどである。配合飼料価格(工場渡価格)は、平成18年当初は、為替相場が円安傾向であったことなどから、1トン当たり43千円程度であった。しかし、その後は、トウモロコシのシカゴ相場がバイオエタノール生産向け需要の増加により上昇したことなどの影響を受け、配合飼料価格は連続して値上げが行われ、19年4月の工場渡し価格は、50千円程度になっている。

 それに伴い、配合飼料価格安定制度による補てんが発動されたものの、飼料高騰分を生産物価格に転嫁できない養鶏業は、主産地の九州などで、倒産が急増し(西日本新聞:平成19年8月29日)、また、養豚業も苦境に立たされている。

 日本の畜産業が直面している配合飼料価格の高騰という苦境をエコフィードなどの利用により食い止め、あるいは、引き下げる方策が今、強く求められている。エコフィード資源は各種の未利用資源が考えられるが、その1つが焼酎かすである。

 九州は「本格焼酎」(焼酎 乙類のうち、一定の条件をクリアしたものだけが表示できる名称)の生産が盛んな地域である。特に熊本・大分・宮崎・鹿児島の4県の本格焼酎生産量は48万5,705キロリットル(平成17年度)で、これは全国の本格焼酎生産量の約8割である。過去5年間の焼酎乙類製成数量の推移を表1に示す。近年の本格焼酎ブームによって、焼酎乙類製成数量は5年前の約1.6倍に増加している。

表1 過去5年間の焼酎乙類製成数量の推移


資料:国税局ホームページより作成。

この製成数量の増加に伴い、焼酎かすの発生量も増加している。焼酎の製造過程において、蒸留工場では大量の焼酎かすが発生する。焼酎かすは、本格焼酎を蒸留したあとに残るもろみで、その95%が水分である。焼酎かすは腐りやすく、また大量に発生するために安定的に処理することが難しく、その大半が廃棄コストの安い海洋投棄によって処理されてきた。

 しかし、今年度から施行された改正海洋汚染防止法(海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律)によって焼酎かすの海洋投棄が原則禁止となり、焼酎かすの陸上処理が急務となっている。陸上処理の方法としては土壌還元、飼料化、肥料化、焼却処理などがあるが、土壌還元は地下水汚染防止の観点から廃棄量に規制があり、また、飼料化、肥料化、焼却処理には多大な設備投資を必要とする。零細企業が多い焼酎メーカーにとって、焼酎かすをいかに低コストで処理できるかが重要問題となっている。

 本調査の目的は、上記の飼料需給事情を踏まえて、(1)焼酎メーカーの焼酎かす処理の実態、(2)わが国の飼料自給率の向上対策、(3)畜産農家への安価で良質な飼料の供給対策、(4)未利用資源の有効な活用法、について考察することである。


焼酎製成過程で発生する焼酎かす(右)とその分離液(左)


2.サザングリーン協同組合における焼酎かすの飼料化の実態

(1)サザングリーン協同組合の概要

 サザングリーン協同組合は、平成13年1月19日に、薩摩酒造(株)をはじめ指宿酒造組合と知覧酒造組合に所属する焼酎メーカー16社(20工場)が出資して設立された。薩摩酒造が最も焼酎かす排出量が多く、また参加した16社の地理的中心でもあったので、同組合の事務所は薩摩酒造頴娃えい工場敷地内に設置された。

 出資金総額は1,800万円であり、その75%は薩摩酒造はじめ大手3社が負担し、25%は焼酎かす排出量に応じて出資された。

(2)協同組合設立の契機

 鹿児島県は芋焼酎の生産が盛んな地域である。芋(甘藷:かんしょ)は米や麦などの穀類と比べて重量当たりのデンプン量が少ないので、アルコールを抽出するのに、より多くの原料を必要とする(デンプン含量は芋が25〜35%、穀類約70%)。

 そのため、米・麦焼酎などと比較して焼酎かすの発生量が多い。また、芋は保存が難しいために限られた時期(8〜12月)に仕込みを行うので、焼酎かすの発生に季節性が生じる。この、短期間に大量に発生するという芋焼酎かすの特徴に各焼酎メーカーは悩まされてきた。過去には、そのまま牛や豚へ直接給与したり、畑への散布、産廃業者へ処理委託などをしていたが、生産量が増えるに従い処理は困難となった。

 薩摩酒造では昭和47〜48年に焼酎かすを濃縮して飼料化していたが、(1)オイルショックによる燃料の高騰、(2)焼酎かす発生の季節性(8〜12月)による飼料生産時期の偏り、(3)飼料の品質が変わりやすい(再吸収が生じて固まる)という理由から飼料化を断念し、低コストの海洋投棄が主な処理法となっていた。

 しかし、平成19年4月施行の改正海洋汚染防止法によって焼酎かすの海洋投棄が原則禁止になること、また鹿児島県内には零細芋焼酎メーカーが多く、短期間で大量に出る焼酎かすを各メーカーで陸上処理するには多大な設備投資と運営コストが必要なことから、組合方式の焼酎かす処理施設であるサザングリーン協同組合が設立された。

 サザングリーン協同組合の事業内容は、焼酎かすの飼料化と肥料化によるリサイクル事業である。しかし、焼酎かすは法律上“産業廃棄物”となるため、飼料化、肥料化するための工場は産業廃棄物処分場となる。そのため設立の際は地域住民への説明会、敷地内の環境アセスメント、書類上の手続きなど多大な手間を要した。地元住民の反対などもあり、設立には紆余曲折があったが、甘藷の生産者の設立要望もあり、設立された。

(3)飼料化事業の概要

 サザングリーン協同組合で処理する焼酎は季節により原材料が異なる。1〜7月は、米・そばが5%、麦95%で、8〜12月は、芋がほぼ100%であり、米・そば1〜2%である。結局、芋の利用は年間55〜60%である。

表2 サザングリーン協同組合の焼酎かす処理量


注:年度は酒造年度(7月〜6月)である。
資料:サザングリーン協同組合提供資料より作成。

 平成17年酒造年度は、台風の影響で芋の生産量が落ち、焼酎製造量が減少したため焼酎かす処理量が低い値を示しているが、処理量は順調に増えてきている。

 処理施設に収集された焼酎かすは遠心分離機によって固液分離され、固形部は乾燥させて乾燥飼料となる(図1)。液部はメタン発酵装置に送られ、メタンガスを発生する。このメタンガスは固体部の乾燥に利用される。なお、飼料化工場の燃料の66.5%は、液部から発生するメタンガスによって賄われている。

図1 サザングリーン協同組合焼酎かす再資源化フロー


資料:サザングリーン協同組合提供資料より作成。


食品リサイクル施設 説明用パネル
(サザングリーン協同組合)


 メタンガス発生後の液部には、リンが含まれており、肥料の原料となる。マグネシウム塩を添加し、適当なph値に調整すると、液体中のリン酸イオンとアンモニウムイオンとマグネシウムイオンが反応し、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP粒子)ができる。これはトンあたり1〜2万円で農家に販売されている。


サザングリーン協同組合
飼料プラント工場内部


(4)焼酎かす飼料(エコフィード)の販売経路

 生産された乾燥飼料は全農を通じて、鹿児島県経済連のグループ企業である南日本くみあい飼料(株)の志布志工場、谷山工場で牛・豚・採卵鶏の配合飼料の原料として利用される。乾燥飼料の価格は1キログラム当たり5円である。また、乾燥飼料は漁業関係(カンパチ養殖業者)や個人の養鶏農家等に販売されており、ペットフードへの利用も検討されている。また、脱水ケーキは養豚農家や酪農家に1キログラム当たり50銭〜1円で取引されている。

 焼酎かす飼料は、まさにエコフィードであり、輸入飼料穀物の代替飼料原料になっている。

表3 サザングリーン協同組合の焼酎かす飼料の販売量


注:年度は酒造年度(7月〜6月)である。
資料:サザングリーン協同組合提供資料より作成。


(5)焼酎かす飼料化の収益性

 プラント建設に関わる総事業費は18億円であった。そのうち、補助金は国・農林水産省からが7.34億円、日本酒造組合中央会からが5.4億円であった。残額は自己資金であった。

 焼酎かす飼料化の収益性を検討しよう。総費用は、固定費と変動費から構成される。固定費は主に減価償却費であり、9,000万円である。さらに、変動費は材料費、人件費、動力費、メンテナンス費用、雑費などであり、1トン当たり4,515円である。平成18年度の焼酎かすの処理量は81,837.4トンであったので、総費用は4億5,950万円である(=9,000万円+0.4515万円/トン×81,837.4トン)。

 一方、総収入は焼酎かす製品の販売収入と組合員から徴収する処理費用(焼酎かす1トン当たり0.72万円)から構成される。平成18年度の場合、焼酎かす製品の販売収入は、乾燥飼料の販売額の1,275万円(=2,550トン×0.5万円/トン)と脱水ケーキの販売額の9.4万円(=94トン×0.1万円/トン)の合計額の1,284.4万円である。組合員から徴収する処理費用は5億8,923万円(=0.72万円/トン×81,837.4トン)である。

 従って、平成18年度の総収入は、製品の販売額の1,284.4万円と処理費用の5億8,923万円の合計額の6億207万円である。

 平成18年度の焼酎かす飼料化の収益は、総収入の6億207万円から総費用の4億5,950万円を差し引いた1億4,257万円である。平成18年度の場合、焼酎かす飼料化事業の収益は1億4,257万円の黒字になっている。

 平成18年度の黒字は、過去の累積赤字の補てんに利用されているが、今後、累積赤字が解消されれば、現在1トン当たりの0.72万円の処理費の縮減が可能になる。

(6)焼酎かす処理費用の縮減予測と焼酎かす飼料化の経済評価

 今後の1トン当たり処理費を予測してみよう。前提は、平成18年度の状況が維持されると仮定している。すなわち、年間81,837.4トンの焼酎かすが処理され、総費用として4億5,950万円が必要であるが、製品販売額として1,284.4万円の収入があると仮定する。

 総費用の4億5,950万円を製品販売額の1,284.4万円ではカバーできないので、どうしても差額の4億4,665.6万円を81,837.4トンの焼酎かすに案分すれば、1トン当たり処理費は5,458円になる。

 今後、赤字が解消されれば、焼酎かす1トン当たりの徴収費は約5,500円に落ち着くと予測される。以前の海洋投棄の費用が焼酎かす1トン当たり6,000円程度(工場から港までの距離により異なっていた)であったことを考慮すると、1トン当たり500円の縮減になるものと予測される。サザングリーン協同組合の処理システムは環境面のみならず、経済的にも十分評価できる水準にあると言えよう。

(7)今後の展望

 焼酎かす製品を、今後は、人間向けのサプリメント、ペットフード、魚のエサへ活用できないかサザングリーン協同組合、焼酎メーカー各社で研究している。焼酎かすから作られた飼料はエサの由来がはっきりと分かる安全な飼料のため、全農からの需要が高く飼料の販売先には困っていない。

 脱水ケーキは保存性が悪い上に運搬の手間がかかるため、生産量は少ないが、利用している酪農農家からは、(1)価格が安い、(2)し好性が高く、栄養価も高い、(3)夏場の乳量が落ちない、と高い評価を受けている。脱水ケーキの価格は安いが、乾燥コストを要しないため、処分できれば、組合の都合は良い。

 今後の組合の課題としては、(1)脱水ケーキの利用用途を広げることによってさらなるエネルギーの節約を図ること、(2)低コストでの飼料の生産、高付加価値な新商品の開発が挙げられる。


工場から産出される焼酎かすの脱水ケーキ


3.H牧場における焼酎かす製品である脱水ケーキ利用の効果と評価

(1)H牧場の経営概要

 サザングリーン協同組合が製造した焼酎かす製品である脱水ケーキを乳用牛の飼料として利用するとともに、飼料作物の肥料としてリン酸肥料を利用している鹿児島県川辺町のH牧場を訪れた。

 飼養頭数は87頭である。その内訳は搾乳牛41頭、乾乳牛14頭、育成牛18頭、その他14頭である。搾乳牛の牛舎は56頭の対頭式であり、乾乳牛、育成牛などは敷地内の簡易牛舎で飼養されている。

 飼料畑は27ヘクタールで、自給飼料が豊富に生産されている。労働力は経営主と妻と長男それに1名の雇用者の計4名である。

 H牧場では昭和50年から昭和53年にかけて生の焼酎かすをそのまま牛に給与していたが、採食性が悪いということと、乳に臭気が発生したことから、給与を中止した。

 その後、昭和60年から今度は焼酎かす脱水ケーキの給与を実験的に夏と秋冬に実施し、し好性、泌乳性、乳成分、味、風味について調査を行った。平成元年から通年利用を行っている。現在は脱水ケーキを牛1頭1日当たり15キログラムを給与している。麦焼酎由来の焼酎かす脱水ケーキより、芋焼酎由来の焼酎かすから生じた脱水ケーキの方を牛が好むので、芋焼酎由来の脱水ケーキを利用している。H牧場は27ヘクタールもの飼料畑を保有していて、カルシウム・ビタミン剤といった添加剤以外はすべて自給している。

表4 H牧場における搾乳牛の飼料給与量


資料:サザングリーン協同組合提供資料より作成。


(2)脱水ケーキの給与効果と留意点

 経営主は、脱水ケーキの給与効果を4点指摘している。(1)乳質に問題が発生しことは一度もない。(2)牛が夏バテしなくなった。平均乳量は1日当たり約24キログラムであるが、夏場でも乳量が落ちない。また、乳成分の数値が良好である。乳業メーカーから提示される乳成分は、地域内でいつもトップクラスである。(3)牛が病気をせず、常時、健康である。足の関節の腫れがほとんどなく、毛艶が良い。牛がよく寝るようになりストレスがたまらないようである。(4)栄養価が高く、発育がよい。配合飼料が少なくても育つ。飼料コストの削減につながる。


脱水ケーキのサイレージを置いたとたん食べはじめる乳牛(H牧場)

 しかし、経営主は脱水ケーキを利用するに当たっての留意点も3点指摘している。(1)脱水ケーキは水分を75%程度含むものであり、カビが生えやすく、腐りやすい。芋焼酎由来の脱水ケーキは季節性(8月〜12月)があるので、通年で利用するためには貯蔵用のサイロが必要である。H牧場ではタワーサイロとバンカーサイロの2カ所で保存している。ビニールなどで空気と完全に遮断すれば長期間の保存は可能である。(2)脱水ケーキは多量の水分を含むために、重く取り扱いにくい。H牧場ではサイロから軽トラックに積載し、飼槽に運び牛に与えている。(3)給与量を間違えるとボディコンディションをくずすので、脱水ケーキの栄養特性を知った上で飼料設計をすることが必要である。

 H牧場から排出されたたい肥はサザングリーン協同組合で作られたリン肥料と混ぜ合わせ、飼料畑に還元される。H牧場から出たたい肥のみでは足りないので、他の畜産農家からもたい肥をもらい受けている。リン肥料を混ぜた土で育ったトウモロコシは実が大きく、立派なものができると指摘している。

 H牧場は自給飼料と安価な脱水ケーキをうまく利用することによって、低コストで安定した酪農経営を行っている。


4.雲海酒造飼料事業部におけるTMR製造と評価

(1)飼料事業部概要

 宮崎県の酒造メーカーの中でいち早く焼酎かすに飼料としての可能性を見出し、良質な飼料を製造している雲海酒造について検討する。

 平成12年までに海洋投棄を全廃するという焼酎業界の自主規制に基づき、平成10年から飼料開発および現地給与試験を開始した。平成11年8月に飼料工場を建設し、また、飼料事業部を設置した。

 事業施設としては、焼酎かす処理施設と肥料化施設であるリサイクルセンターが宮崎県の綾町と五ヶ瀬町の2カ所にある。

 綾町にある飼料工場の製造量は、最大能力がウエットTMR飼料で年間2万1千トン、ドライタイプ混合飼料は年間2千トン、リキッドタイプ飼料は年間は2千トンである。

表5 焼酎かす発生量と飼料生産量


※ドライTMRは鹿児島県の全酪連飼料工場に製造を委託。
資料:雲海酒造提供データより作成。




雲海酒造(株)飼料事業部への人口
(産業観光施設「酒泉の杜」(手前)に隣接)

(2)多様な飼料の製造

 雲海酒造の宮崎・鹿児島両県の4工場から発生する焼酎かすは、麦45%、そば35%、芋・米20%である。麦・そば由来の焼酎かすが多いため、毎月比較的安定して焼酎かすが発生する。しかし、9〜12月の芋焼酎の生産量が多い時や、設備メンテナンスの時に工場の飼料化能力が追いつかないときがあるが、そのときは肥料生産に回す焼酎かすの割合を増やすことによって調整している。8月と1月は焼酎かす発生量が比較的少ない。

 製造している飼料は次の通りである。

 (1)ウエットタイプTMR飼料は8種類で、乳牛用、和牛繁殖、和牛子牛、F育成用などである。
 (2)ウエットタイプ混合飼料は4種類で、和牛用、和牛肥育用などである。   
 (3)ドライタイプTMR飼料は2種類で、和牛繁殖用、和牛子牛用である。
 (4)ドライタイプ混合飼料は2種類で、和牛若齢牛用である。
 (5)ドライタイプペレット混合飼料は1種類(各畜種で利用)である。
 (6)液体飼料は3種類で、各畜種で利用されている。

  ただし、ドライタイプTMR飼料は、鹿児島県の全酪連飼料工場に製造を委託し、焼酎かす由来の原料をその工場に綾町から運搬している。

 雲海酒造では宮崎・鹿児島両県の4工場から発生する焼酎かすをすべて自社で処理している。4工場から集められた焼酎かすは、焼酎かす処理施設で一次処理(固液分離)され、ろ液と脱水ケーキに分けられる。ろ液はすぐに二次処理(濃縮)され6分の1に濃縮される。その後、脱水ケーキはドライタイプ飼料に、濃縮液はウエット・リキッドタイプの飼料の加工に利用される。なお、ドライペレットの一部は全酪連工場へ輸送され、ドライタイプのTMR飼料に加工される。


ウエットタイプTMR飼料を手にする横山飼料事業部長(左)と筆者



穀類、牧草などの配合原料を投入し焼酎かす濃縮液を混合する(ウエットTMR飼料)


図2 雲海酒造飼料製造フロー図




 ウエットTMR飼料が減産傾向にあるのは、酪農家が減少したためである。逆に、ドライTMR飼料の増産傾向はTMRを利用する肉牛農家が増えていることによる。また、リキッド飼料が増加しているのは、ウエットTMR飼料の減産に伴ってのことである。

 製造された飼料は全酪連、全農、生産組合、飼料業者を通して畜産の盛んな宮崎・鹿児島・熊本・沖縄の各県を中心に全国の酪農家、肉用牛農家に販売される。製品は、品質と採食性が良く、利用農家は飼料の配合や設計の手間がなく、好評を得ている。

(3)雲海酒造の飼料事業部の収益性

 雲海酒造の飼料事業部の収益性を分析しよう。販売額が最も多いのはウエットTMRの約3.4億円であり、2位はドライTMRの約3.3億円で、3位はドライペレットの約1億円である。飼料の販売総額は約7.7億円である。

 それに加えて、その他の飼料、液体複合肥料・養魚用の撒き餌などの約3億円があるので、飼料事業部の販売額総額は約10.7億円である。

 次に、総費用の計算が必要であるが、上記のように、ドライTMRの製造は鹿児島県内の工場に委託しているので、その費用に関する資料を入手できなかった。しかし、生産量が最も多いウエットTMRに関する費用を入手したので、ウエットTMR部門についてのみ部門費用を計算する。

 資料によれば、固定費用は9,230万円であり、変動費は2億3,416万円であるので、ウエットTMR部門の総費用は3億2,646万円になる。

 従って、ウエットTMR部門の収益性は販売額(3億4,184万円)から総費用(3億2,646万円)を引いた1,538万円となり、黒字である。

 さらに、聞取り調査によれば、県外に製造委託しているドライTMR部門も黒字であるとのことであるので、雲海酒造の飼料事業部の収益性は黒字であると結論できよう。

図3 雲海酒造肥料化フロー図


資料:雲海酒造資料より作成。


図4 肥料化による焼酎・ワイン・ビールのかすの消滅型処理


資料:雲海酒造資料より作成

(4)飼料化以外の焼酎かすリサイクル

 雲海酒造は焼酎以外にワインやビールを生産しており、それらのかすも発生する。これらは量的に少ないために飼料化が難しく、2カ所のリサイクルセンターにおいて肥料化される。焼酎かす処理で生じた一部の脱水ケーキ、濃縮液も肥料生産に利用される。肥料生産に脱水ケーキと濃縮液が調整材として利用される。

 この肥料化の優れている点は、できた肥料を水分調整材として再び生産ラインに戻している点である。原料である濃縮液、脱水ケーキ、ワインとビールのかすは水分を75〜80%含んでいる。発酵を進めるためには水分を60%以下にしなければならない。仮に20トンの原料(水分80%)を水分60%にするには水分調整材(水分40%)が20トン必要である。できた40トン(水分60%)はリサイクルセンターで発酵させ、約1カ月後に6トンの肥料(水分35%)が完成する。この完成した肥料は再び水分調整材の一部として利用される。この肥料化システムは排出物が皆無である。消滅型処理となっている。なお、肥料の販売はほとんどしていない。肥料化のほかに魚の撒き餌、畑作用の液体複合肥料を作り、販売している。

(5)雲海酒造飼料事業部の特徴

 雲海酒造の飼料事業部の特徴は3つある。第1はさまざまな畜産経営に対応したTMR飼料を生産していること、第2は飼料の給与量や種類などをきめ細かに指導するアフターケアがしっかりしていること、第3は畜産を熟知している優れた技術者がいること、が指摘できる。

 第1の特徴については、TMRは完全混合飼料であるので、飼料の配合や給与設計をする必要がなく、畜産農家の省力化・合理化に役立っている。そのため少人数でも多くの牛を管理することが可能である。飼料の種類は乳牛用、若齢牛用、繁殖用、F1育成用などに分かれており、形状も単体飼料からTMR飼料、液体飼料と多種多様である。

 第2の特徴については、雲海酒造は全酪連・農協と共同で“TMR研究会”を組織し、畜産農家の給与管理指導を行っている。飼料給与は維持期、分娩期、授乳期、また月齢ごとに細かくステージ管理されており、その成長過程に合わせた最適な飼料量を提示している。

 農家から牛が病気になった、種付けが悪くなったなどとのクレームがあると、すぐに現地に駆けつけ、対応している。焼酎かすを使った飼料はまだ知名度が低く、量が出回ってないため、牛に何か異常が生じた場合、焼酎かす飼料が原因ではないかと疑われやすい。そこで誤解をなくすためにも、細かいアフターケアを重要し、問題点の解決に努めている。

 第3の特徴については、雲海酒造の飼料事業部長は畜産畑出身である。畜産農家がどのような種類・栄養構成・形状の飼料を求めているかを熟知しており、畜産農家や機械プラントメーカーに提言することができる。それにより、焼酎かす処理のためのプラントでなく、畜産農家に役に立つ飼料の製造プラントになっている。

(6)今後の課題

 季節的に焼酎かす発生量と飼料販売量との間にアンバランスが発生するので、その均衡を図ることが今後の課題の一つになっている。雲海酒造では、麦・そば由来の焼酎かすが多いため、毎月比較的安定して焼酎かすが発生しているが、しかし9〜12月の芋焼酎の生産量が多い時に、飼料の販売量との均衡を図ることが課題になっている。

 さらに、家畜飼料だけではなく、ペットフードや養殖用の魚の餌の開発など新たなリサイクル商品の開発が今後の課題になっている。


5.N牧場における雲海酒造TMR利用の効果と評価

(1)JA宮崎中央の国富畜産団地の概要

 日本一の葉タバコ生産量を誇る国富町の葉タバコ畑の一角にJA宮崎中央の国富畜産団地がある。総事業費約5億5,800万円(国の補助金2億6,600万円、国富町の補助金1億3,300万円、JA宮崎中央の負担金1億5,000万円)で建設された。

 団地の牛舎は、JA直営施設部分と入植施設部分から構成されている。JA直営施設部分では、924頭(繁殖牛50頭、育成牛70頭、子牛300頭、肥育牛504頭)が飼養されている。また、入植施設部分では540頭(繁殖牛240頭、育成牛300頭)が飼養されている。入植牛舎費用は、牛1頭につき年間7,600円である。

 JA直営施設と入植施設の両方が利用できる立派な堆肥処理施設が隣接し、堆肥の有効利用が図られている。


アパート形式畜産団地で繁殖牛を飼養するN牧場朝の飼料給与の後、夕方の分も通路に準備しておく


(2)N牧場における雲海酒造TMRの利用効果と評価

 N氏は、JA宮崎中央に牛1頭につき年間7,600円の入植費用を払って国富畜産団地に入植している。N氏は3年ほど前から雲海酒造のTMRを利用している。N氏は、この団地で繁殖母牛を54頭飼養し、さらに隣接する農協の子牛育成施設に子牛25頭を委託している。労働力は本人、長女、次女の3名である。以前は64〜65頭ほどの肥育牛を飼養していたが、次女が後を継いだことから、管理が比較的やりやすい繁殖牛飼養へ2年半かけて転向した。

 飼料は、以前は近くの農家からソルゴーとトウモロコシを買い、毎日軽トラック3台分を牛舎に搬入していたが、3年ほど前に雲海酒造のTMR飼料を使い始めたことにより、ソルゴーとトウモロコシの購入と運搬を止め、TMR給与を継続している。

 雲海酒造のTMR飼料に切り替えたことで、飼料の管理が省力化され、非常に楽になっている。飼料は維持期、分娩前2カ月期、授乳期などのステージごとに飼料の給与量が細かく規定されており、給与計画を練る必要がない。TMR飼料は牛の成長に必要な栄養分がすべて入った完全混合飼料であるため、毎日飼料を計量して与えるだけでよい。

 以前のように飼料の給与計画、自給飼料の栽培・収穫・運搬の手間がなく、自給飼料確保に関わる労働時間が大幅に減少した。

 TMR飼料の利用が、繁殖牛頭数の多頭化につながっており、また、次女のように家庭を持った女性や高齢者でも畜産経営を維持することが可能になっている。

 N牧場では、畜産経営の一層の近代化を図っている。例えば、(1)発情・分娩の予兆は牛舎にある監視カメラでチェックしており、自宅にいながら牛舎の様子を確認している。(2)微生物製材を利用することにより、牛舎のアンモニア発生を低減させ、悪臭の発生を抑制している。(3)昼間分娩法を試み、分娩事故の危険性を低下させるとともに、家族の負担を軽減している。

 (4)N牧場では朝と夕の2回、それぞれ2時間程度かけて飼料給与と翌日の飼料給与準備を行い、牛の健康状態や発情具合を確認するだけで、後は飼養管理部門にはほとんど時間を割いていない。合理化、効率化が進んだ省力的畜産経営を営んでいる。雲海酒造のTMR飼料を利用しているため、自給飼料確保が不要になり、労働力にまだ余裕があるので、今後1年につき5〜7頭の増頭していく予定である。

 以上のように、雲海酒造のTMR飼料は畜産農家の省力化と多頭化に寄与するなど、高く評価されている。


アンモニアの発生を低下させた良好な牛床(N牧場)


6.焼酎かすリサイクル事業の評価と今後の課題

(1)エコフィード生産効果〜魅力的な食品リサイクル資源としての焼酎かす〜

 焼酎かすには、豊富にアミノ酸とビタミンが含まれている。水分が多く、腐りやすいので扱いが難しいが、一定の品質のものが大量に排出されるので、比較的再利用しやすい食品リサイクル資源と言える。ただし、処理施設の建設には多大な投資が必要である。雲海酒造のような大規模焼酎メーカーであれば、自社でプラントを建設できるが、零細メーカーはそうはいかない。サザングリーン協同組合のように数社で共同して処理するのが理想的である。薩摩酒造のように中心となる酒造メーカーが存在すればよいが、中心企業がいない地域では、どのようにして低コストで焼酎かすを処理するかが課題になるであろう。

 サザングリーン協同組合では価格面で、雲海酒造の飼料は品質面で評価が高かった。どちらの飼料も買い手がおり、これは焼酎かすの飼料化が有効な処理方法であることを物語っている。

 このようなエコフィードの生産は、わが国の飼料自給率の向上につながる。雲海酒造のウエットTMRの原料が国内の稲わら、穀類を使用できれば、さらに自給率は上がるが、大量に均質な国内産原材料の確保が困難であるために、どうしても輸入原材料に依存しなければならない実態にある。

(2)環境に優しい循環型事業効果

 焼酎かすリサイクル事業を行っているサザングリーン協同組合、雲海酒造ともに循環型の処理システムを構築し、工場で飼料と肥料を製造し、水のみを排出している。

(3)経済的に成立する処理事業効果

 サザングリーン協同組合、雲海酒造共に経営面で単年度黒字を出すことに成功している。焼酎かす処理費用を海洋投棄や焼却処理レベルのコストに抑えようという“守り”でなく、焼酎かすを加工・飼料化して販売し、利益を上げるという“攻め”の姿勢がうかがえる。

(4)TMR利用による新規参入者勧誘効果と多頭化誘発効果

 雲海酒造が製造するTMR飼料は、完全飼料であるために、畜産農家は粗飼料生産ほ場、粗飼料栽培用・収穫用の機械、粗飼料・機械保管庫などが不要である。その分だけ、新規参入障壁を低くし、新規参入者を勧誘する効果がある。

 牛舎と導入資金、運転資金さえあれば牛を飼うことができる。しかも、牛舎は事例で示したようにJAなどによるアパート方式による貸付も準備されている場合がある。たい肥の循環を考えておけば、良いことになる。さらに、TMR利用により、既存畜産農家の一層の多頭化を誘発する効果もある。

(5)エコフィード事業の一層の展開〜宮崎県の焼酎かす処理の現状〜

 宮崎県には39社(43工場)の焼酎メーカーが存在する。平成16年酒造年度(平成16年7月〜平成17年6月)に生産された焼酎は13万3,671キロリットルであり、これは鹿児島県の25万5,822キロリットルに次いで全国2位の生産量である。宮崎県では焼酎製造に伴い約23万3千トンの焼酎かすが発生している。その処理の内訳は次のようになっている。

表6 宮崎県の焼酎かすの処理内訳


資料:宮崎県畜産課資料より作成。


 処理方法としては業者委託が最も多く、約半分を占める。焼酎メーカー自社が行う処理としては焼却処理の26.2%が最も多く、次にその他の15.1%(主に水処理)が続く。平成16酒造年度は大手焼酎メーカーの焼酎かす処理プラントが、まだ建設中および稼動初期段階であったため、焼酎かすの飼料化と肥料・たい肥化はともに5.4%と低い値を示しているが、処理プラントが稼動している現在は飼料化、肥料・たい肥化される焼酎かすの割合は上昇している。

 業者委託については海洋投棄が18.6%と最も多く、次いで飼料化の8.4%が続く。なお、現在は改正海洋汚染防止法の施行により、海洋投棄は行われていない。その他(主に水処理)が多いのは、単に全ての業者が焼酎かすをそのまま水処理しているのでなく、飼料化、肥料・たい肥化のために焼酎かすの固形分を抽出後、残った液体部を水処理しているためである。

 委託手数料の高い業者への委託や焼却コストが年々上昇している焼却処理に比較して、飼料化、たい肥・肥料化はコストが低い。現在、約7割にあたる焼酎メーカーが、焼酎かすを飼料化・肥料化する方向で検討しているので、その飼料化を更に促進し、エコフィード化を促進する支援対策の強化が望まれる。それは飼料自給率の向上にも寄与し、社会的意義が大きい。

《追記》
 本調査研究に際して、台風の接近にもかかわらず、サザングリーン協同組合、雲海酒造、宮崎県畜産課、宮崎県畜産協会の関係者から御教示と資料提供などの御協力を頂いた。記して、感謝の意を表します。


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