今後の牛肉の生産動向について食肉生産流通部食肉課長 安井 護 |
1 はじめに 平成19年2月1日現在の肉用牛の飼養頭数は、前年比1.9%増の280万6千頭と4年ぶりに280万頭台に回復した。この背景には、枝肉価格が高値で推移したことに加え、各地で積極的に展開されている子取り用めす牛の増頭努力が着実に実ってきたことが挙げられよう。 2 6区分の牛肉生産 日本の牛肉の生産動向を見る場合、生産構造も経営形態も異なる和牛、乳用種、交雑種の3品種について、それぞれ分けて考察する必要がある。和牛は肉用種繁殖経営(子取り農家)から生産されるが、乳用種と交雑種は酪農経営から生産されるため、生乳の生産動向の影響を大きく受けている。
図1 品種別と畜頭数の割合(18年度)
(注)品種・性別の区分については、統計によってそれぞれ異なるが、本稿では一般的な方法に従い、と畜ベースで和牛(黒毛和種など)、乳用種(ホルスタイン種など)、交雑種(いわゆるF1)の3つに分け、さらにそれぞれ去勢とめすとに分ける(統計別の品種の対応については、文末の表を参照)。 3 去勢和牛 増加傾向が継続
(1)と畜頭数、20年度にかけて微増
図2 去勢和牛のと畜までの流れ(例)
そこで、今後のと畜動向を検討するために、まず、牛個体識別全国データベース(19年5月25日公表)から出生頭数の増減傾向を見ていく。19年度下期(19年10月〜20年3月)に30カ月齢のと畜適齢期を迎える集団は、30カ月前の17年4月から9月に出生したものとみなすと、この集団は前年同期の集団に比べ100.9%(前年同期比、以下同じ。)となっている。同様に20年度に30カ月齢のと畜適齢期を迎えるものは102.2%である。去勢和牛は出生からと畜までの期間が30カ月と長く、途中での事故や肥育期間の延長又は短縮などもあるが、出生頭数の増減傾向はと畜頭数の増減傾向とほぼ一致すると考えられるので、19年度下期から20年度にかけてと畜頭数はわずかな増加傾向にあると見込まれる(表1)。 表1 去勢和牛のと畜動向(対前年同期比)
次に家畜市場での子牛取引頭数の増減傾向を見てみる。19年度下期に30カ月齢のと畜適齢期を迎える集団は、20カ月前の18年2月から7月に家畜市場で取引されたものとみなすと、この集団は前年同期の集団に比べて100.4%となっている。同様に20年度に30カ月齢のと畜適齢期を迎えるものは100.1%となっており、この指標からも今後の微増傾向がうかがえる。月別の傾向を示したのが図3で、去勢和牛の家畜市場での取引割合は約8割と高く、また、上記の30月前の出生頭数ベースよりも短い20月前の子牛取引頭数がベースとなっているので、と畜頭数との相関はより高いと思われる。 図3 去勢和牛のと畜動向(対前年同月比 3月移動平均) また、牛個体識別全国データベースから月齢別の飼養頭数(19年3月31日現在)を見ると、19年度下期に30カ月齢のと畜適齢期を迎える集団は、前年同期の集団に比べて103.8%、同様に20年度に30カ月齢のと畜適齢期を迎える集団は、106.4%となっており、上記の二つの指標に比べ増加率は高いものの増加傾向を裏付けている。
以上3指標からみて、19年度下期から20年度にかけても、去勢和牛のと畜頭数は微増傾向が継続すると見込まれる。
表2 去勢和牛の枝肉重量
(3)子取りめす牛は、21年度以降も増加傾向 表3 肉用種子取り用めす牛の飼養頭数 よって、他の要因に大きな変動がない限り、子牛生産は増加し、と畜頭数の増加傾向も継続するものと期待される。
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めす和牛の生産量は、繁殖のための保留増加によると畜頭数の減少から、19年度に入っても減少傾向が継続している。 19年度下期も、枝肉重量に大きな変化がなければ、と畜頭数の減少が続くため、生産量の減少傾向が継続すると見込まれる。 |
めす和牛のと畜頭数は、上記のように繁殖用に仕向けられる頭数が増加していることから減少が続いており、19年度に入ってもその傾向が続いている(表4)。
乳用種去勢牛の生産量は、と畜頭数の減少などから17年度に減少に転じたが、19年度に入って、減少幅が縮小し、さらに枝肉重量が増加に転じたことから、前年並みとなる月が多くなってきた。 19年度下期は、と畜頭数が増加することに加え、枝肉重量の増加傾向が継続することから前年同期をわずかに上回ると見込まれる。 |
(1)と畜頭数、19年度下期はわずかに増加
乳用種去勢牛のと畜頭数は、18年度まで減少が続いてきたが、19年度に入って減少幅が縮小し、7月は久しぶりにプラスに転じた。
一般的に乳用種去勢牛は、酪農経営で生産され、生後すぐに育成経営に販売され、そこで、7カ月間の育成後、家畜市場又は相対で肥育経営に販売される。肥育経営では15カ月間の肥育後、22カ月齢でと畜される。つまり、19年10月にと畜される乳用種去勢牛は、22カ月前の17年12月に出生し、15カ月前の18年7月に家畜市場又は相対で子牛として取引されたとみなすことができる(図4)。
(2)枝肉重量、増加傾向
乳用種去勢牛の枝肉重量は、18年度まで前年同月比で減少が続いてきたが、徐々に減少幅が縮小し、19年度に入ってから、増加に転じている。飼料価格の動向にもよるが、今後の枝肉重量に大きな変化は見込まれないと思われる(表6)。
乳用種めす牛の生産量は、生乳の減産のため、と畜頭数が増加したことから17年度に増加したが、18年度はと畜が一巡したことから、減少に転じ、19年度上期も減少傾向が継続している。 19年度下期も、生乳需給に大きな変化がない限り、減少傾向が継続すると見込まれる。 |
乳用種めす牛のと畜頭数は、生乳の生産動向を受けて増減する。18年1月から10月まで、一時は1割を超える増加が続いたが、その後は、と畜が一巡したことから、前年の反動もあり、逆に1割以上の減少を記録する月もあった。
19年に入っても、前年の反動で1割程度の減少となっているが、減少幅は徐々に縮小していくと見込まれる。
一方、枝肉重量は2〜3%の減少が続いている(表9)。
交雑種の生産量は、17年度まで減少傾向にあったが、と畜頭数と枝肉重量の増加から18年度に増加に転じ、19年度上期も増加傾向で推移している。 19年度下期は、と畜頭数の増加が一巡するため、増加傾向は続くものの、増加率は縮小すると見込まれる。 |
(1)と畜頭数、19年度下期は増加率は縮小
交雑種のと畜頭数は、17年度まで減少が続いてきたが、18年度に入って増加に転じ、19年度も同様の傾向が続いている。
一般的に交雑種牛は、酪農経営で生産され、生後すぐに育成経営に販売され、そこで、8カ月間の育成後、家畜市場又は相対で肥育経営に販売される。肥育経営では17カ月間の肥育後、25カ月齢でと畜される。つまり、19年10月にと畜される交雑種牛は、25カ月前の17年9月に出生し、17カ月前の18年5月に家畜市場又は相対で子牛として取引されたとみなすことができる(図4)。しかし、交雑種の家畜市場での取引割合は小さいので、ここでは出生頭数に着目し、また、めすも肥育に回されるのが一般的なので、去勢とめすとは合わせて考察する。
そこで、今後のと畜動向を検討するために、牛個体識別全国データベースから出生頭数の増減傾向を見ていく。19年度上期(19年4月〜9月)に25カ月齢のと畜適齢期を迎える集団は、25カ月前の17年3月から8月に出生したものとみなすと、この集団は前年同期の集団に比べ99.0%となっている。同様に19年度下期に25カ月齢のと畜適齢期を迎える集団は、前年同期の集団に比べ97.7%と、いずれも減少を示している(表10、図6)。
(2)枝肉重量、増加傾向
交雑種の枝肉重量は、めす、おすともに同様の傾向を示しており、17年度以降増加傾向が続いている。飼料価格の動向にもよるが、今後の枝肉重量に大きな変化は見込まれないと思われる(表11)。
以上の考察を取りまとめると19年度下期の牛肉生産量は、前年同期に比べてわずかに増加すると見込まれる(表12)。なぜなら、生産量の3割を占めるめす和牛と乳用種めす牛はやや減少と見込まれるものの、7割を占める去勢和牛、乳用種去勢牛と交雑種はわずかに増加すると見込まれるからである(表12)。
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