はじめに我が国の養豚業は、配合飼料の原材料を海外からの安い穀物に依存することで発展してきたが、世界的に穀物飼料価格が高騰する中、自給率の向上や低コストで高品質、安全・安心な畜産物の生産を追求するためには、今後も育種改良や衛生管理の徹底を図ることはさることながら、配合飼料の原材料を国内生産された穀物などにシフトしていく必要がある。 一方で欧米諸国を中心とした、経済動物にもアニマルウエルフェア注1)の考えを取り入れようとする考え方に対応して、我が国においても家畜の快適性に留意した飼養管理のガイドラインを作ろうと検討会が開催されている。 このような中、当調査は養豚経営の置かれている現状を正確に把握し、今後の養豚生産基盤の確立に資するために、平成10年度から継続して実施しており、前年度に引き続き畜産業振興事業(地域養豚振興特別対策事業)の一環として実施してきている。 本年度は、経年変化をみるための定型設問のほか、調査の主眼として最近大きな話題となっている事故率、アニマルウエルフェア、リサイクル飼料についても集計注2)しているので、その概要について紹介する。 (注1:欧米諸国を中心に家畜に対するアニマルウエルフェア(家畜福祉)の考えが取り入れられてきており、家畜飼養に関する基準や規則、ガイドラインが定められている。国内においては平成19年度に「アニマルウエルフェアに対応した家畜の飼養管理に関する検討会(第一回推進委員会)」が開催され、今後は家畜毎の飼養管理指針を検討することとなっている。) (注2:集計に使用したのは無効回答(休業中、廃業予定、アンケート項目に無回答など)と廃業を除く4,453戸である。回答数は集計項目により異なるが、クロス集計における対象項目の回答数の異なりによるものである。) 結果概要【定型設問】 表1 調査に対する回答状況について(地域別) (2)養豚経営について 経営タイプでは、一貫経営が74.9%、繁殖経営15.0%、肥育経営10.1%と前年とほぼ同様の構成割合であった。地域別では、一貫経営は関東が989戸と最も多いが地域内割合では北陸88.4%、東海81.9%、関東81.5%と続き最も低いのが九州・沖縄の63.4%であった。繁殖経営では九州・沖縄が320戸と全体の48.0%と半数を占め地域内割合も20.8%と最も高く、逆に最も低いのは北陸6.6%であった。肥育経営でも九州・沖縄が245戸と全体の54.3%と半数を超えているが地域内割合では近畿17.6%に次いで15.9%となっている。肥育経営の地域内割合が最も少ないのは北陸5.0%であった。 (3)肉豚の出荷状況について 表2 豚肉の出荷状況(地域別、回答者数=3,473) (4)飼養頭数について 地域別では、子取り用雌豚が多いのは九州・沖縄204,962頭、北海道・東北170,092頭、関東165,846頭の順でこの地域で全体の84.9%を占めていた。 子取り用雌豚の内、純粋種の品種別は、バークシャーが46.1%(前年比3.5ポイント減)で最も多く、次いでランドレースが26.2%(前年比3.3ポイント増)、大ヨークシャーが17.8%(同0.1ポイント増)であった。 子取り用雌豚の内、交雑種はLW50.1%(前年比0.6ポイント減)、WL19.2%(同1.2ポイント減)、海外ハイブリッド22.4%(同0.9ポイント増)であった。 (5)人工授精実施状況について 図1 規模別の人工授精実施状況 (回答者数=3,834) 【注目される話題】 地域別では九州・沖縄が10.5%、関東が9.4%と高く、北海道・東北が6.9%と相対的に低かった(図2)。 図2 離乳後から出荷時(通算)までの事故率 (地域別 回答者数=2,943) 子取り用雌豚頭数規模別の「離乳から出荷まで(通算)」の事故率は、中間層の「100〜199頭」で10.5%と高かった(図3)。 図3 離乳後から出荷時までの事故率 (子取り用雌豚頭数規模別 回答者数=2,641) 「離乳後から出荷まで」の事故率の高かった地域で、平均の2倍以上の事故率(20%以上)を見ると九州・沖縄が16.8%(160戸)、関東が13.9%(111戸)もあり、一方、最も少なかったのは北海道・東北で6.9%(30戸)であった(図4)。 図4 離乳後から出荷までの事故率(階級別 回答者数=2,943) (7)成績改善への取り組み 実施した内容の内訳を見ると、「衛生対策」が76.7%と最も多く、次いで「生産環境改善」39.0%「生産方式の変更」29.3%と続いていた(図5)。 図5 成績改善への取り組みの内容(複数回答・地域別、回答者数=2,274) 成績改善のために実施した取り組みの内、最も割合が高かった「衛生対策」の具体的な実施内容では、「豚舎消毒の徹底」が65.5%と最も多く、次いで「疾病予防マニュアルの見直し、徹底」37.3%、「管理獣医師による検査と指導の導入」29.6%と、養豚場内部の取り組みが続いたが、外部からの病気の侵入対策として「人工授精の導入」18.9%、「種豚導入先の変更」14.6%等が高く、「農場衛生HACCPの導入」は4.0%にとどまった(図6)。 図6 成績改善への取り組みの内容のうち、衛生対策の内訳(複数回答・地域別、回答者数=952) (2)取り組みの効果 表3 取り組みの効果(回答者数=593) (8)衛生対策 表4 平成18年の肉豚1頭当たり衛生費(肉豚出荷頭数規模別、回答者数=2,048) (2)衛生費の今後の負担意向 図7 衛生費の今後の負担意向(地域別 回答者数=1,694) 肉豚出荷頭数規模別では、負担意向の割合が一番多いのは「1〜399頭」の1〜99円(30.1%)を除いて負担できないが最も多く、「20,000頭以上」が41.2%と非常に高い割合であった。負担できる金額では割合が最も多いのは「4,000頭〜9,999頭」の500〜999円(18.5%)、「10,000頭〜19,999頭」と「2,000〜3,999頭」の200〜499円(20.0%、19.0%)などであった(図8)。 図8 衛生費の今後の負担意向(肉豚出荷頭数規模別 回答者数=1,694) (3)AD(オーエスキー病)、PMWS(離乳後多臓器性発育不良症候群)等の慢性疾病対策を支援する事業の認知度 地域別では、「参加している」割合が高いのは関東21%、低いのは近畿1.2%、「全く知らない」割合が高いのは近畿66.7%、低いのは関東50.2%となっていた。 「地域で実施しているが参加していない」割合は最大で近畿の2.5%と少ない。参加しない主な理由は「効果が期待できない」「経費負担が大きい」などであった(図9)。 図9 慢性疾病対策を支援する事業の認知度(地域別 回答者数=4,430) (9)リサイクル飼料について リサイクル飼料の利用状況を地域別に見ると、近畿44.7%、東海29.9%、中国・四国20.3%、九州・沖縄18.1% と続いている(図10)。 図10 現在利用している飼料(複数回答 地域別 回答者数=4,446) (2)リサイクル飼料の種類 図11 リサイクル飼料の種類(複数回答 地域別 回答者数=635) (3)リサイクル飼料の原材料の種類 図12 リサイクル飼料の原材料の種類(複数回答、地域別、回答者数=626) (4)入手した原材料の利用方法(地域別及び肉豚出荷頭数規模別) 図13 入手した原材料の利用方法(複数回答、地域別、回答者数=547) 肉豚出荷頭数規模別に見ると、いずれの層でも「常温保管してそのまま利用」の割合が高いが、「発酵乾燥」では「4,000〜9,999頭」14.3%と「20,000頭以上」20.0%で割合が高く、「酸処理(リキッド)」では、「10,000〜19,999頭」27.3%と「20,000頭以上」30.0%で割合が高く、飼養頭数が増えると何らかの加工を施す割合が増えた(図14)。 図14 入手した原材料の利用方法(複数回答、肉豚出荷頭数規模別、回答者数=416) (5)給与飼料に占めるリサイクル飼料利用の割合 図15 給与飼料に占めるリサイクル飼料利用の割合(地域別、回答数=636) (6)リサイクル飼料の給与対象(詳細と図16はホームページに掲載) 図16 リサイクル飼料の給与対象(複数回答、地域別、回答者数=627) (7)リサイクル飼料(加工されたもの)又はリサイクル飼料の原料として入手した物 図17 リサイクル飼料(加工されたもの)又はリサイクル飼料の原材料として今後入手したい物 図18 リサイクル飼料(加工されたもの)又はリサイクル飼料の原材料として今後入手したい物 (8)加工したリサイクル飼料を利用する理由 地域別では、最も多いのは「購入価格が安い」であったが、「安全性が確保されている」「品質が優れて安定している」「定期的に量が確保される」の順番には地域差が見られた(図19)。 図19 加工したリサイクル飼料を利用する理由(複数回答、地域別、回答者数=331) (9)加工していない原材料を入手して利用する理由 図20 原材料を入手して利用する関心事項(複数回答、地域別、回答者数=480) (10)リサイクル飼料を利用していない理由 地域別で見ると、「原材料のまとまった入手が困難」の割合が高いのは、北海道・東北、中国・四国、九州・沖縄で、「原材料を加工する労働力が少ない」は北陸、「原材料の品質が栄養面で不安定」は北陸で、「イメージによる豚肉消費低下の恐れ」は近畿が高い割合であった(表5)。 表5 リサイクル飼料を利用していない理由(複数回答、地域別、回答者数=1,687) 【利用に関する今後の意向】 地域別では、「利用を拡大したい」割合が全国を上回ったのは北海道・東北から東海までの4地域で最も少ない九州・沖縄でも25.5%で前年に比べ12.4ポイントも増加した(図21)。 図21 今後におけるリサイクル飼料の利用意向(地域別)(地域別、回答者数=616) (12)リサイクル飼料を利用していない方の今後の利用意向 地域別では、「今後利用したい」割合が高いのは東海、近畿、中国・四国の3地域で「状況しだいで検討したい」割合が高いのは関東と中国・四国であった(図22)。 図22 リサイクル飼料を利用していない方の今後の利用意向(地域別、回答者数=3,731) (10)アニマルウエルフェアについて アニマルウエルフェアをめぐる情勢は、(1)OIE(国際獣疫事務局):「*5つの自由」をアニマルウエルフェアの基本原則と位置づけ、2005年には家畜輸送、と畜や殺処分に関するガイドラインを採択。(2)EU(欧州連合):60年代に密飼いなどが問題となり家畜の取扱い等に関して最低限の基準をEU指令で掲示(豚は2001年)。豚に関しては「分娩時を除く妊娠豚の群飼育の義務化」。新共通農業政策(CAP)における直接支払いの受給要件にアニマルウエルフェアに関する基準を追加している。(3)米国:連邦法により輸送やと畜に関し規制しているがアニマルウエルフェアについては、生産者団体がガイドラインを制定し、自主的に取り組んでいる。妊娠豚のストール飼育は認めた上で適正な面積や管理を実践しているところがEUと異なる。 (「*5つの自由」とは、(1)飢餓、渇き及び栄養不良からの自由、(2)恐怖及び苦悩からの自由、(3)物理的及び熱からの不快感からの自由、(4)痛み、負傷及び疾病からの自由、(5)通常の行動を表現する自由) (1)飼養環境について 表6 飼養環境について 一方、参考までにストールの使用を制限している欧州では、ストールを使用しない場合の母豚の跛行が問題になっている。 (2)飲水環境について 表7 飲水環境について(給水器の種類) また、群飼の場合の給水器1個当たりの肉豚頭数は、6〜10頭に1個が55.8%と半数を上回り、次いで11〜20頭が31.7%と続いており、1〜5頭以内と21頭以上はそれぞれ9.3%、3.2%と少なかった(表8)。 表8 飲水環境について(給水器1個当たりの頭数) (3)歯きりについて 「歯切り」の時期は、「生後1日以内」が68.2%で3分の2を超えており、生後7日以内までで98.2%とほとんど占めていた。また使用する道具では、ニッパーが92.7%とほとんどであった(表9)。 表9 新生子豚の歯切りについて (4)断尾について 表10 新生子豚の断尾について (5)雄豚の去勢について 表11 雄豚の去勢について (6)耳刻について 個体標識のため「耳刻」以外で実施しているものは、「耳標」が91.1%とほとんどで、次いで「入墨」が4.6%、最近話題となっている「ICタグ」は4.3%と少数であった。また、個体標識で「耳刻」を実施していると回答した1,234戸に対する割合を見ると「耳標」が54.6%と半数を超え、全体では60%が複数の個体標識を採用していることが伺えた(表12)。 表12 耳刻について (7)豚舎内の照明について 表13 豚舎内照明について |
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