過去最悪だった前年度から一転し、1農家当たりの平均損益は黒字に転換
豪州農業資源経済局(ABARE)は4月末、最新の農業経営の動向を探る調査レポート「ファームサーベイ」を公表した。今回の調査では、2005/06年度から2007/08年度における農家経営の状況および損益見通しを報告している。この中で2007/08年度の農家経営について、一部では前年度の干ばつの影響による損益への影響があるものの、酪農部門などの改善により1農家当たりの経営収支見通しは、過去最悪となった前年度の水準から大きく改善するとしている。
ABAREによるこの調査では、部門ごとに農家を抽出して経営状況を分析しており、その対象は大きく分けて(1)穀物・畜産部門(穀物専業:小麦主体、穀物・家畜複合、肉牛専業、羊専業、肉牛・羊複合の5つに細分類)、(2)酪農部門─の2つで構成している。
2007/08年度の1農家当たり事業損益見通しについてABAREでは、全部門平均で11,900豪ドル(122万6千円:1豪ドル=103円)の黒字としており、大規模な干ばつの影響で平均49,610豪ドル(511万円)の損失を計上した前年度から一転して、好結果が期待されている。
広がる州間での損益格差、NSW州、TAS州では引き続き損失見込み
2007/08年度の事業損益について州別の状況を見ると、豪州全体では黒字が見込まれているが、州ごとの状況は大きく異なっている。まず、ニューサウスウェールズ(NSW)州では、1農家当たりの事業損益は86,800豪ドル(894万円)の損失としている。これは、干ばつの被害が特にひどかった前年度平均損失額82,200豪ドル(846万7千円)をさらに上回る見込みである。また、タスマニア(TAS)州でも、同じく46,400豪ドル(477万9千円)の損失が見込まれている。この主な要因として、前年度からの干ばつの影響が長引いた結果、主要収入源である穀物生産の大幅な縮小や、干ばつに伴う家畜の生産コスト上昇などが挙げられる。
一方、これら州とは対照的に、好調な結果が期待されるのが北部準州、クイーンズランド(QLD)州など比較的干ばつの影響を受けず、また、穀物や畜産生産が順調に推移した州であり、これらの州では、いずれも損益改善が図られている。
乳製品価格の高騰で酪農部門は大幅な改善、肉牛事業も回復
2007/08年度の事業損益を部門別に見ると、穀物・畜産部門では、穀物専業が干ばつの影響で大幅減産になったことで、1農家当たり平均16,700豪ドル(172万円)の損失としているが、その他事業についてはおおむね収益が改善し、穀物・家畜複合事業の36,000豪ドル(370万8千円)を筆頭に、黒字に転換するとみている。
この中で、農業として豪州で最も土地利用面積が大きく、広範囲に分布する肉牛専業の経営動向を見ると、QLD州や北部準州で比較的天候が順調であったことに加え、前年度の干ばつによる肉牛の淘汰(とうた)が終息したことで、素牛価格が平年より高い水準で推移していたことが好結果につながっている。
一方、酪農部門については、最大の酪農生産地域を抱えるビクトリア(VIC)州を中心に、干ばつによる生乳生産減少の影響があったものの、乳製品国際価格の上昇は生産者乳価に大きく反映したことから、結果として事業損益は大幅な改善を見込んでいる。
穀物生産については、2006/07年度が干ばつにより大幅減産となったことで、豪州国内の穀物価格は小麦を中心に3倍近くまで上昇し、各部門の事業損益に少なからず影響を及ぼしている。また、現在の価格も平年の2倍程度の水準を維持している。2008/09年度の穀物生産は、2008年当初から比較的降雨に恵まれたことで土壌の水分量も一定水準を維持し、また、種まき期である4〜5月上旬にかけて生産地で降雨が記録されたことで、穀物専業農家を中心に生産は意欲的である。ABAREの予測では、今期の穀物生産について、干ばつ以前の生産水準に回復も可能とみているが、いずれも今後の天候次第である。穀物生産は、各部門の事業損益にも大きく貢献するだけに、今後の動向に目が離せない。
農家経営の状況(州別:1農家当たり)
農家経営の状況(肉牛専業、酪農部門:1農家当たり)
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