1 はじめに
豪州は、日本、米国、韓国をはじめ100以上の国に牛肉を輸出している。このため豪州肉牛産業は、輸出依存型産業としてのイメージが定着しているが、仕向け先別数量で見ると豪州国内向けが最大の市場である。
豪州国内の年間1人当たりの主要な食肉消費量は110キログラム前後と安定的に推移する中、牛肉は鶏肉と並んで最も多く消費されている。また、近年では、牛肉小売価格の上昇が顕著であるにもかかわらず、安定した消費を維持している。本稿では、豪州国内における牛肉消費を支える消費促進活動について報告することとする。
2 豪州国内の牛肉消費などの動向
(1)食肉消費の動向
豪州における主要な食肉(鶏肉、牛肉、豚肉および羊肉)の年間1人当たり消費量は、長期的に見ると100〜110キログラム前後と安定的に推移している。近年の動向は、2006年は115.1キログラムで2003年の109.4キログラムから緩やか増加傾向にある。これは、短期的に見て鶏肉および豚肉消費が増加傾向を維持する一方、牛肉および羊肉消費が安定的に推移しているためである。牛肉については、2006年は38.1キログラムで2003年の38.2キログラムと比較してほぼ同水準を維持しており、鶏肉と並んで最も多く消費されている。
(2)日本との比較
豪州の食肉消費を日本と比較してみる。日本における主な食肉(牛肉、豚肉および鶏肉)年間1人当たりの消費量は1995年まで増加傾向で推移してきた。1994年以降は、28キログラム前後で推移しており、豪州の4分の1程度となっている。
このうち、牛肉については、2000年の7.6キログラムを頂点として減少傾向で推移しており、2006年には5.5キログラムとなっている。特に2001年の国内におけるBSEおよび2003年の米国におけるBSE発生により、牛肉消費の減少が加速したこともあり、豪州の約7分の1程度に相当する。
また、牛肉、豚肉および鶏肉の消費割合を見ると、おおむね日本で1:2:2に対し、豪州で2:1:2となっており、豪州では牛肉の比率が日本より高く、豚肉は低くなっている。
豪州国内の年間1人当たり食肉消費量
豪州、日本の主な食肉消費量(2006年)
(3)小売価格の動向
次に豪州における主要な食肉の小売価格の推移を見ると、鶏肉を除き特に2000年以降、急激に上昇している。牛肉については、2006年が1,551.9豪セント/kg(1,317円:1豪ドル=85円)で1999年の1,010.8豪セント/kg(858円)から53.5%上昇した。鶏肉については、牛肉、羊肉、豚肉と異なり、価格変動が緩やかである。1999年と2006年を比較するとほぼ同水準である。
最近の動向について、豪州統計局(ABS)が、豪州の主要8都市における主要な食品の小売価格を四半期ごとに公表している。昨年から今年にかけての穀物価格高騰を反映して、飼料穀物への依存の高い鶏肉などを中心として小売価格が一段と上昇している。
豪州の食肉小売価格
豪州における食肉の小売価格(シドニー)
精肉店での販売
(4)消費スタイルの動向
豪州における牛肉消費は、スーパーマーケットや精肉店での販売が主流である。外食産業での消費は全体の30%程度である。
【食のガイドライン】
豪州政府は、国民に対する食のガイドラインを公表している。この中で、野菜や穀類を中心に栄養価に富んださまざまな種類の食品を摂取する必要があるとしている。1日1人当たり摂取が必要とされる食品の単位量は次のとおりである。
ガイドラインによると、豪州の成人男性は、1日に65〜100グラムの調理済牛肉などの赤身、80〜120グラムの魚フィレ、小さいサイズの鶏卵2個または1/3カップの調理豆類といった分量のタンパク質を摂取する必要があるとしている。また、妊婦や授乳中の女性においては、成人男性よりも多くの食肉類を摂取する必要があるとしている。
また、このガイドラインでは、赤肉を週3〜4回摂取することが望ましいとしており、これができない場合には、鉄分を多く含む別の食品を摂取する必要がある。このことは、特に成長期の女子、成人女性、ベジタリアン、運動選手において重要であるともしている。
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3 牛肉の消費促進活動
赤肉(牛肉、羊肉およびヤギ肉)の業界団体である豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は、肉牛の売買に伴う課徴金(国内生産者から徴収)を原資として豪州国内外における牛肉消費促進活動を行っている。MLAが国内向け牛肉について行っている消費促進活動の概要を説明する。
(1)国内における牛肉供給の状況
豪州国内で流通している牛肉は、ほぼ国産である。グラスフェッド牛肉のほかグレインフェッド牛肉も流通している。特に取扱量の多い大手スーパーマーケットでは、肉牛の仕上げに当たり短期間穀物を給与した牛肉が主に販売されている。
(2)消費促進の概要
MLAが行っている牛肉の消費促進の多くは、ラム肉を併せた赤肉として活動を行っている。まずMLAでは、牛肉の消費拡大という目的を達成するための基本戦略として5つの柱を設定している。この5つの柱は、MLAが消費促進活動を始めて以来変わっていない。この基本戦略に基づいたマーケット・リサーチを行い、現状および課題の把握を行う。この結果に基づき、5つの柱を基本とした消費者を対象とした宣伝などの具体的なプログラムが仕組まれる。またプログラム終了後は、マーケット・リサーチにより実施プログラムの評価を行うとともに、現状および課題を把握し、次年度のプログラムに反映していく。
MLAが行っている活動の流れは下図のとおりである。
(3)基本戦略
MLAが牛肉の消費促進活動で定める5つの柱は次のとおりである。
[5つの柱]
(1)完全性
完全性とは、牛肉産業が牛肉製品の安全性について、責任感と倫理によって、消費者の信頼を維持することである。
(2)楽しさ
楽しさとは、消費者が牛肉製品に対する品質、おいしさおよび好みに対する認識を高めることである。
(3)栄養
栄養とは、消費者が食生活にとって牛肉製品は必要不可欠であるという認識を高めることである。
(4)利便性
利便性とは、牛肉製品の購入のしやすさや調理のしやすさを向上させることである。
(5)値ごろ感
値ごろ感とは、消費者が支払った対価に対する満足感を高めることである。
[MLAの牛肉消費促進活動の流れ]
(4)プログラム
2008/09年度の国内市場における牛肉の消費促進活動は次のとおりである。
[MLAの赤肉の消費促進活動(2008/09年度)]
(5)プログラムの内容
こういった消費促進プログラムのうち、具体的な取り組みとして次のような活動を行っている。
(1)消費者キャンペーン
MLAでは、赤肉(牛肉、ラム肉)の消費者向けキャンペーンとして、3つの大きなキャンペーンを実施している。マーケット・リサーチの結果、豪州の消費者は、一般的に基礎食品である穀類、野菜、果物、乳製品などと比べて、赤肉に対する食品の重要性の認識が低いという課題が明らかとなった。このため、MLAの栄養プログラムで食品としての赤肉の重要性に関する研究を行い、それを論証し、この研究結果について意見交換を行い、その結果を消費者キャンペーンに反映させている。
このキャンペーンでは、赤肉の栄養価に対する消費者の認識を高めるとともに、赤肉に対する楽しさや利便性について宣伝している。手段としては、テレビ、ラジオ、印刷物、小売店頭販売および食品等メディアへの掲載などを利用している。
◎“赤肉。それを食べるのはわれわれの定め
(We were meant to eat it)。”キャンペーン
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キャンペーン用ポスター「われわれの祖先が赤肉を食べていなかったら、われわれの脳は今日のように発達していなかった。夕食は何にする?」といったコピーが掲載されている。
テレビ・コマーシャルでは著名な俳優を起用し、これまで4つのシリーズのコマーシャルを放映している。ここでは、赤肉がタンパク質、鉄分、亜鉛、ビタミンB12、オメガ3S(必須脂肪酸)といった栄養に富んでいること。赤肉には、鶏肉よりも多くこれらの栄養が含まれていること。人間が赤肉を食べるようになったのは数百万年も前からで、脳の発達に役立っていることなどを宣伝している。
またテレビのほか、印刷物でも赤肉の有する栄養面のメリットを宣伝している。
◎“牛肉を食べよう(Beef. Get Into It)”キャンペーン
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このキャンペーンは、ラム肉向けの“ラムが大好き(We love our Lamb)”キャンペーンとともに、牛肉を食べることの楽しみに重点を置いている。冬期に行われたキャンペーンでは、牛肉のカセロール(鍋蒸し焼き料理)を紹介している。事前の調査では、81%がカセロールを食べたことがあるものの、定期的に食べているのは2%にすぎないとの結果となった。このキャンペーンは、テレビ・コマーシャルのほか、各種雑誌への掲載、店頭販売、ポスター、専門誌によるレシピの掲載などを行っている。
カセロールのレシピなどが掲載されている消費者向け情報誌「ENTICE」
(2)栄養プログラム
このプログラムでは、赤肉が健康に及ぼす影響について研究を行っている。これまでの研究成果では、タンパク質、鉄分、亜鉛、ビタミンB12およびオメガ3Sといった栄養価、体重管理、糖尿病、血圧、皮膚の健康、ガン、老化およびにきび予防などに関連した赤肉の効果が明らかになっている。また、こういった研究成果は、テレビ・コマーシャルなどを通じて消費者に伝達すると同時に、MLAの専門職員が一般医、栄養士や保健機関に対し情報提供を行い、研究成果の普及を促進している。
赤肉の栄養に関する研究成果をまとめた出版物「Nutrition & Dietetics」および栄養士などの専門家を対象とした情報誌「VITAL」
(3)小売、外食プログラム
MLAでは、赤肉の需要促進を目的としたマーケッティング・チームを州ごとに配し、小売や外食産業における食品の安全性、赤肉の品質、顧客サービスおよび従業員の知識向上など業界の意識向上を図るための支援をしている。
1,200以上の精肉店の会員を有するレッドミート・ワーキング・クラブでは、製品の販売方法や付加価値商品の開発など専門性、生産性および利益率の向上などについて、情報交換を行っている。大手スーパーマーケットは、一定水準の牛肉を大量に市場に供給する一方で、精肉店では大手スーパーマーケットでは対応できない商品作りにより小売市場での活路を見いだしている。
また、外食産業とも緊密な連携をとり、赤肉を用いた新しいメニューの開発や流行の把握に努めている。またMLAでは、1万以上の外食関係者を対象に専門誌を作成し、赤肉を使ったメニューの紹介、流行食品の安全性に関する記事などを掲載している。また、シェフズ・クラブを結成し、赤肉に関する知識の向上、イベントを通じた新たなメニュー作り、ワークショップ、ツアーの開催などを企画している。
赤肉を使ったメニュー紹介など外食産業向け情報誌「CHEF’S」
(4)その他
肉牛生産における地球温暖化ガス、生物多様性および水利用など環境に及ぼす影響への理解を促すための消費者向けパンフレットの作成などを行っている。
肉牛生産と環境への影響を説明したパンフレット
(6)予算
国内市場の消費促進活動に関する事業費規模は、年間、総額2,460万豪ドル(20億8,780万円)で、内訳は、完全性に関するものとして100万豪ドル(8,487万円)、楽しさについては1,100万豪ドル(9億3,357万円)、栄養については700万豪ドル(5億9,409万円)、利便性については500万豪ドル(4億2,435万円)となっている。プログラムごとの予算規模は、収入や年度ごとの取組内容により異なる。
(7)その他
MLAで、豪州国内における牛肉消費促進活動について聞いてみた。その概要は次のとおり。
ア プログラムの決定および評価について
具体的なプログラムの決定は、綿密なマーケット・リサーチによる現状認識や課題の把握に基づいている。マーケット・リサーチは、その対象を地域、民族、所得などにより分類して行い、それぞれのカテゴリーごとに量的および質的の両面から分析を行う。
具体的な消費促進活動は試行錯誤(トライ&エラー)の繰り返しであり、その中から効果的なプログラムを実施するという。また、具体的なプログラムのアイデアについては、国際食肉事務局(IMS)を通じて、他の国のメンバーと情報交換を行っている。例えば、英国でのアイデアを豪州で活用したり、豪州でのアイデアを米国で活用したりすることが行われている。
また、活動の評価としては、消費量も重要であるがそれ以上に販売額を重視している。
MLAのトマソン マーケット部統括部長
イ 基本姿勢について
国内の消費促進活動については、消費者に対して“牛肉を食べてください”ではなく“なぜ食べないのか?“という基本姿勢で臨むことが重要である。例えば、豪州の消費者は、牛肉の栄養価に関する認識が低いということが分かったので、専門家による牛肉の栄養価に関する研究を行い、その結果を栄養士などの関係者に普及していくという手法をとっている。
ウ 特殊性について
豪州には、さまざまな民族が居住しており、そういった面においてさまざまな種類の料理を受け入れやすい素地があるといえる。
また、豪州における牛肉の小売市場は、2大スーパーマーケットが圧倒的なシェアを占めている。このため、牛肉促進プログラムの実施に当たっては、両者の協力が不可欠となる。この点において、日本の状況は異なるが、日本では多くのスーパーマーケットが存在するので、より多様な消費促進活動を展開できるのではないかと指摘している。
スーパーマーケットでの牛肉販売
エ 今後の方向性について
消費者が食品としてタンパク源を選ぶ場合、商品の有する栄養価および楽しさが大きな基準となる。現在、消費者の食肉などに持っている楽しさおよび栄養に関する意識は次の図のとおりである。
牛肉はほかの食肉などと比較して、食の楽しさという面において優れているが、栄養(健康への貢献)という面において劣っていると認識している。この結果、食事の楽しさという側面が重視されるレストランなどにおいては選択される機会が多くなる一方、栄養に重点がある家庭消費においては選択される機会が少なくなる。
今後の消費促進としては、牛肉の栄養価に対する消費者の認識を高める必要性があると指摘している。
[消費者の食肉などに関する意識]
4 牛肉以外の食肉の消費促進活動
国内における牛肉消費を促進する上において、ほかのタンパク質供給源は競合相手となる。具体的には、豚肉や鶏肉のほか魚介類、豆類などが挙げられる。今回、特に牛肉の消費動向に密接に関連すると思われる豚肉および鶏肉について、どのような消費促進活動が行われているかを調査した。
(1)豚肉
ア 国内における豚肉の需給
豪州における豚肉市場は、生肉は国産品であるが、ハム、ソーセージなどの加工品は、米国、カナダ、デンマークといった国からの輸入品も使われている。特に近年、飼料穀物価格の上昇や急速な豪ドル高により、割安な豚肉輸入が大幅に増加したため、豪州国内で販売される豚肉加工品の約7割は、輸入原料から作られるといった状況に至った。国内市場に輸入品が多く出回っているという点は、牛肉、羊肉および鶏肉と状況が異なる。
イ 国内におけるマーケッティング
豚肉業界団体であるオーストラリアン・ポーク・リミテッド(APL)では、豚のと畜時の課徴金を財源として、国内外のマーケッティング活動を行っている。課徴金から得られる年間予算はおよそ1,800万豪ドル(15億2,800万円)で、このうち消費促進活動などにおよそ600万豪ドル(5億900万円)が充当される。
研究結果に基づく豚肉の栄養価や人の健康面での効能、豚肉を利用したレシピの紹介などを、雑誌への掲載、パンフレットなどを通じて普及している。このほか、消費者が正しく国産豚肉を識別できるようにするため、豚肉製品の表示に関するパンフレットを作成し、豚肉業界や精肉店などに配布している。
(2)鶏肉
ア 国内における鶏肉の供給体制
豪州国内で流通する鶏肉供給は、大部分が国産で、輸入鶏肉は全体の3%程度にすぎない。
3大鶏肉処理業者が生産量の75%を占めており、このほか7〜8の処理業者を合わせると全体の95%を占める。ひなの生産から鶏肉の処理・加工に至るまで大手鶏肉処理業者によるインテグレーションが整備されている。
イ 国内における消費促進活動
豪州国内における消費促進活動の状況について、豪州鶏肉連合(ACMF)に聞いてみた。
(1)方法
消費者に対する鶏肉の消費促進活動は、基本的に各鶏肉処理業者が行っている。こういった活動を支援する形で、ACMFは鶏肉産業や鶏肉に関する普及啓発事業を行っている。
(2)戦略
・利便性
鶏肉処理業者は、鶏肉の利便性、多目的な利用可能性といった観点から消費促進活動を行なっている。ただし、スーパーマーケットで販売されている鶏肉のうち、メーカー(処理業者)ブランドで販売されているものは20%程度にすぎず、残りはスーパーマーケットのプライベート・ブランドで販売されている場合が多い。
・健康、栄養
鶏肉のもつ健康面、栄養面の観点からの消費促進活動はこれまで少なく、ACMFでは今年5月、初めてこういった観点による鶏肉の優位性に関する委託研究結果を公表している。
・嗜好性
鶏肉のもつ嗜好性(おいしさ)という観点については、鶏肉が遺伝的形質を含め、品質の均一化が最も進んでいることから、この観点からの取り組みは難しい。
・その他
差別化商品として、オーガニック鶏肉やフリー・レンジ(平飼い)鶏肉の生産も行なわれているが、まだニッチ市場の域にある。
(3)今後の方向性
鶏肉価格は、ほかの食肉との優位性が今後も続く。また、早ければ2015年に導入される予定の農業分野における二酸化炭素排出権取引においても、鶏肉は、牛肉、羊肉、豚肉といった食肉と比較して優位性が高いとする研究結果もあり、価格面での一層の優位性が期待されている。
【消費促進活動は、食肉の栄養価や人の健康面が焦点】
牛肉、豚肉および鶏肉の消費促進活動では、それぞれの栄養価や人の健康面において他の食肉より優れているといった宣伝が行われている。食肉の栄養価や人の健康に対する関心の高さがうかがえる。
牛肉、豚肉の栄養価や人の健康を題材とした宣伝ポスター
◎牛肉vs鶏肉
牛肉は皮なしチキンよりタンパク質、鉄分、亜鉛、ビタミンB12およびオメガ3Sといった栄養価に優れている。
◎豚肉vs鶏肉
豚肉は皮なしムネ鶏肉より赤身率は少し低いが、優良なタンパク質、チアミン、ナイアシン、B6、B12、セレン、リボフラビン、亜鉛、オメガ3といった栄養価に優れている。
◎鶏肉
一方、ACMFは、こういった宣伝に対抗して、鶏肉の有する栄養価についての研究を実施している。 |
5 豪州における牛肉消費促進活動に関する今後の動向
MLAでは、今後の豪州における牛肉消費について下表のとおり見込んでいる。
豪州における牛肉の国内消費は、少なくとも今後5年間は堅調な状況を維持するとみている。この背景としては、安定した経済の持続、競合する食肉との相対的な価格の低下、牛肉の品質向上およびその浸透、消費促進活動の効果を挙げている。
[豪州における牛肉需給の見込み]
6 終わりに
豪州国内での牛肉消費促進活動は、本文で記述したとおり体系的に行われている。牛肉消費に影響を及ぼす要因として5つの柱を定め、この柱に基づきプログラムが仕組まれ、その評価や課題の洗い出しもこの柱に帰結している。
また、プログラム実施の手法についても、例えば栄養プログラムに見られるように、牛肉の栄養価に対する消費者の認識が低いという課題が見つかると、専門家による科学的研究を行い、その結果に基づき消費者だけでなく健康や栄養の専門家にも浸透させるという周到さが見られる。
豪州の牛肉市場と日本を比較すると、まず大きな違いは、日本のBSE発生のような食の安全性に重大な影響を及ぼす出来事が起こっていないことである。従って、国産牛肉の安全性に関する信頼度は非常に高い。このほか、牛肉の品質、文化的な背景や経済を取り巻く状況も異なる。豪州国内における牛肉消費促進活動が、そのまますべて日本に当てはまるわけではないが、いくつかのヒントが含まれているのではないかと思われる。
特に、今回、食肉団体で話を聞いた中で、豪州の一人当たりの食肉消費量がなぜこれだけ高い水準を維持しているのかという問いに対し、理由のひとつとして、牛肉、羊肉、豚肉、鶏肉、魚介類といった競合食品が、それぞれの消費拡大に向けて健全な競争をしてきたためであるとの言葉が印象に残った。
参考資料:
・MLAウェブサイト
・APLウェブサイト
・ACMFウェブサイト
・Industry Projection(MLA)
・Australian Commodity Statistics(ABARE)
・食料需給表(農林水産省)ほか |