米国の生乳生産者団体は2008年12月10日、同年2度目となる牛群とう汰事業の実施対象として184戸の酪農家の申請を認め、61,078頭の搾乳牛と1,548頭の初妊牛をとう汰すると公表した。米国においては、2003年7月に酪農家の出資により酪農協共同基金(Cooperative Working Together:CWT)が設立され、生乳出荷量100ポンド当たり10セントの生産者積立金を原資とする生乳出荷削減のための事業が行われており、乳用牛のとう汰は今回で通算6回目の実施となる。 搾乳牛61,078頭に加え、初妊牛1,548頭もとう汰へ今回の事業は、2008年10月24日から11月24日まで参加を受け付けていたもので、40州からの471戸の申請に対し、184戸が事業対象として暫定承認されている。同年12月中旬以降、農場での現地確認を経て、年間12億1千万ポンド(54万7千トン)の生乳を生産してきた61,078頭の搾乳牛が順次とう汰される。また、前回からとう汰事業に追加された初妊牛については、1頭当たり1,225ドルの補償単価で1,548頭が事業対象とされている。 同年6月から9月にかけて実施された第5回目の事業では、607戸の申請に対して201戸の酪農家が事業対象として認められ、24,585頭の搾乳牛と275頭の初妊牛がとう汰された。今回の事業が完了すれば、2008年は2度の牛群とう汰事業により、前年の年間生乳生産量の約0.88%に相当する16億4千万ポンド(74万3千トン)の生乳生産が削減されることになる。これは、2005年に実施された第3回牛群とう汰事業による生乳生産の削減率0.69%を上回り、過去最大の削減率となる。 生産コストの低下を上回る生乳価格の急速な下落が背景にCWTを運営する全国生乳生産者連盟(NMPF)のコザック会長は、2008年10月24日の事業実施の公表に際し、金融危機により流動資金の調達が困難となっている中で、生乳価格が本年上期に比べて急落していることを指摘し、牛群とう汰事業により2009年に向けて生乳価格の引き上げを図るべき時期にあると述べている。また、生産者乳価の低下に比べて牛乳の小売価格が低下していないことが、事態をさらに悪化させているとして、暗に市乳を生産する乳業者を批判している。 さらに、同会長は2008年12月10日の事業承認状況の公表に際し、同年2度目の事業実施にもかかわらず大規模生産者からも多くの参加申請があったのは、生乳価格が生産費を下回る中で多くの酪農家が経済的に苦境にあることを反映したものであるとし、乳牛用飼料や軽油向けの経費減少を上回る速度で生乳価格の下落が進んでいることに懸念を表明している。 米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)が公表した2008年11月の生乳価格(農家受取価格・速報値)は100ポンド当たり17.4ドル(キログラム当たり35.3円:1ドル=92円)と前年同月に比べて2割以上低下している。また、USDA世界農業観測ボード(WAOB)が同年12月11日に公表した2009年の生乳価格予測値は100ポンド当たり14.95〜15.75ドル(同29.7〜31.3円)と前月の予測値を下方修正しており、生産者乳価は2008年に比べて2割弱低下すると予測している。 乳用牛のとう汰の実施は大半が1月以降に今回、事業への参加が承認された184戸の酪農家に対しては、2008年12月15日以降、調査員が現地確認を実施し、過去1年間の生乳生産記録と飼養頭数を確認し、とう汰予定牛に耳標をつける。酪農家は現地確認の終了後15日以内に当該家畜を食肉処理場に出荷することになるが、すべての申請農家に対して今回の事業承認の可否が伝えられるのは2009年1月12日とされていることから、実際に多くの乳用牛がとう汰されるのは1月以降になる。 事業に参加した生産者には、その牛群が過去12カ月間(2007年10月から2008年9月末まで)に生産した生乳量に応じた補償金が支払われる。しかし、補償単価が入札により決められる(安い補償単価で入札した酪農家が事業参加を認められる)仕組みとなっているため、CWTの事務局は、平均落札価格を含む更に詳細な入札情報は、農場の現地確認が終了するまでは公表しないとしている。
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