食肉生産流通部 | 食肉需給課長 藤野 哲也 課長補佐 北村 徹弥 |
豚肉の需給は、近年海外における家畜疾病の発生による他の食肉の輸入量の減少に加え、平成20年1月の中国産ギョーザ事件などの要因から代替需要が増加し、好調に推移している。さらに、不況による消費者の節約志向は、「外食の低価格化」さらには「外食から内食」、「低価格志向」への転換を加速させてきた(詳細は「畜産の情報」2009年4月号参照)。 豚肉は、牛肉、鶏肉と比較して家計消費の割合が44%(平成19年)と約1割高く、また、その他(業務用、外食等)向けの割合が31%(同)と約2割以上低いため、豚肉の需要がさらに増加する一つの背景となっていると思われる。 豚肉は、料理の種類も多く、牛しゃぶに代わって豚しゃぶが全国区で市民権を得るなど、さまざまな料理方法が普及、定着したことも需要増加を支えている要因の一つとして考えられている。 先月の牛肉に続いて、今月は、豚肉の今年度上期の需給について、量販店、卸売業者、生産者団体、輸入商社へのインタビューやアンケートなどから見てみたい。 ポイント
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図1 国産豚肉の卸売価格の推移(対前年増減率)
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消費者の節約志向で内食が増加したことなどから、20年の1人1年当たりの食肉の家計消費支出額は、前年比106.2%とかなりの程度増加している。
中でも豚肉は鶏肉同様、金額、数量とも前年を上回っており、単なる牛肉の代替ということでなく、その食味、品質などが消費者に広く認識されているように見える。このことから、世帯主の年収別および年齢階層別による家計消費の動向について見てみたい。
図2 生鮮肉の全国1人当たりの世帯年収階層別支出額の推移
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図3 生鮮魚類の全国1人1年当たりの世帯年収階層別支出額の推移
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総務省の「家計調査報告」による2人以上の世帯の年間収入5分位階層別(注)の1人1年当たり支出額を見ると、生鮮肉は、19年以降すべての階層で増加したのに対し、逆に生鮮魚介は、近年おおむね減少傾向で推移しており、20年はすべての階層で減少した(図2、3)。
階層別に1人1年当たりの支出額を見ると、生鮮肉は、世帯年収が高い順に比例して支出額が多いのに対し、生鮮魚介は、逆に収入が低い第T階層で最も多く支出し、次いで第X、第Uの順となっており、第Vおよび第W階層の中間所得世帯での支出額が少なくなっている。
(注)年間収入5分位階級とは、世帯を年間収入の低い方から順番に並べ、それを調整集計世帯数で
5等分して5つのグループを作った場合の各グループのことで、年間収入の低い方から順次第T、
第U、第V、第W、第X5分位階級という。
例えば、平成20年の各階層別の年収は、第T(351万円未満)、第U(351万円以上473万円未
満)、第V(473万円以上627万円未満)、第W(627万円以上862万円未満)、第X(862万円以
上)となっており、それぞれの世帯主の平均年齢は、第T(63.0歳)、第U(58.4歳)、第V(52.7
歳)、第W(51.3歳)、第X(53.0歳)であった。
生鮮魚介の1人1年当たりの支出額を世帯主の年齢階層別に見ると、70歳以上および60歳代の世帯主の支出額がそれ以外の年齢階層に比べて高くなっている。また、1年1人当たりの消費量も同様の傾向にあることから、収入の少ない高齢者および収入の高い団塊の世代を中心とした60歳代の魚介の消費量が多いことを反映しているものと考えられる(図4)。
一方、生鮮肉の1人1年当たりの支出額で見ると、60歳代、50歳代に次いで70歳以上の世帯主の支出額が高いが、1人当たりの消費量を見ると、70歳以上は、29歳以下に次ぐ低さとなっている。これは購入単価の差に表れており、29歳以下の牛肉の100グラム当たりの20年の購入単価が221円である一方、70歳以上では370円と1.7倍の開きがある。このことから、70歳以上の世帯主家庭は、それ以外の家庭に比べて、魚介の消費量が多い一方で、食肉、とりわけ牛肉の中でもより品質の良いものを購入したいと考えている傾向が強いものと考えられる(図5、6)。
なお、生鮮肉を品目別・世帯主年齢層別の年間支出額で見ると、豚肉の40歳代の1世帯当たりの支出額が最も多く、次いで豚肉の50歳代となっている。また、20年の豚肉の年間支出額を実質増減率で見ると、すべての世帯で増加していることから、豚肉が家計で大きな地位を占めていることがうかがえる(表1)
図4 生鮮魚介の全国1人1年当たりの世帯主年齢階層別支出額の推移
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図5 生鮮肉の全国1人1年当たりの世帯主年齢階層別支出額の推移
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図6 生鮮肉の全国1人1年当たりの世帯主年齢階層別消費量の推移
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生鮮魚介の世帯年収階層別の1人1年当たりの支出額は、すべての世帯で減少しているが、20年では第U世帯が最も大きく減少し前年比6.1%減、次いで、第W世帯の同5.9%減となっている。また、世帯主の年齢階層別では50歳代の世帯主の消費量の減少幅が最も大きくなっている。
一方、生鮮肉について見ると、20年の1人1年当たりの支出額が前年を下回ったのは、牛肉の世帯主年収階層別第X世帯および世帯主年齢階層別30歳代の世帯主のみで、これ以外はすべて前年を上回った。また、牛肉の消費量で見ると、第V世帯および第X世帯で前年をそれぞれ4.6%、4.2%減少しており、全体の消費量では1.0%の減少となった。
これに対し、豚肉の20年の1人1年当たりの支出額の伸びを見ると、世帯年収では、第W世帯が前年比10.5%増、第U世帯が同9.8%増とかなり増加しており、また、世帯主の年齢階層では、40歳代から60歳代まで前年から8%増加しているなど各階層で軒並み増加しており、幅広い世代、年収の間で豚肉の消費が拡大していることがうかがえる。 また、鶏肉も豚肉同様の増加を示しており、家計消費の面では、豚肉および鶏肉が全階層を通じて大きく伸びたと言える。
表1 食肉の世帯主年齢階層別の年間支出額の推移
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図7 牛肉の全国1人1年当たりの世帯年収階層別支出額の推移
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図8 牛肉の全国1人1年当たりの世帯主年齢階層別支出額の推移
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図9 豚肉の全国1人1年当たりの世帯年収階層別支出額の推移
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図10 豚肉の全国1人1年当たりの世帯主年齢階層別支出額の推移
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図11 鶏肉の全国1人1年当たりの世帯年収階層別支出額の推移
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図12 鶏肉の全国1人1年当たりの世帯主年齢階層別支出額の推移
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21年度上期(4〜9月、以下同じ)の食肉の販売動向について、2月中旬に実施した当機構のアンケートによれば、量販店の約7割は、豚肉販売について、増加を見込んでいる。一方、「減少」はその約4分の1の17%である。20年7月に実施した20年下期の販売見通しと比較すると、「同程度」が13ポイント減少し、「減少」が10ポイント増加しているものの、この半年でさらに増加すると見込んでいる量販店が過半を占めている。
一方、「増加」の構成比から、「減少」の構成比を差し引いた景気動向指数(DI)で見てみると、いずれの食肉においても前回の調査からポイントが減少しているものの、豚肉はその減少幅が最も少なくなっている。
表2 平成21年度上期(4〜9月)の販売見通し(量販店)
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表3 量販店での食肉の取扱割合
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量販店の7割が増加するとしている豚肉であるが、その増加を産地別に見ると、そのほとんどを国産によるものと見込んでいる。豚肉増加の理由については、「お客様の要望」が32%、「小売価格の低下」が26%、「卸売価格の低下」が21%となっており、消費者の豚肉需要が引き続き強いと見ていることに加えて、価格の値下がりの両面から消費が増加すると見込んでいる。
表4 豚肉の原産地別の増減割合(量販店)
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同時期に全国の主要食肉卸売業者を対象に実施したアンケートによれば、卸売業者も国産および輸入チルドの「増加」を見込んでいる一方、輸入フローズンは「同程度」が一番多い。国産、輸入チルドおよび輸入フローズンの「増加」を見込んでいる者は、前回調査よりもそれぞれ24ポイント、36ポイント、9ポイント増加しており、特に国産および輸入チルドの「増加」を見込んでいる。
また、それぞれのDIを見ると、いずれの種類においても前回調査よりポイントが上昇しているので、卸売業者段階では豚肉消費のさらなる増加を期待していることがうかがえる。
豚肉の販売増加を見込む者にその理由を尋ねたところ、国産については、「お客様の要望」が最も多く、次いで「銘柄豚強化」となっているが、輸入チルドについては「お客様の要望」、「卸売価格の低下」、「小売価格の低下」、「品揃えの強化」がそれぞれ同程度回答された。
一方、販売減少と答えた者が最も多かった輸入フローズンの減少理由としては、「外食産業での需要減少」や「豚肉全体の需要が低迷する」などが挙げられている。
表5 平成21年度上期(4〜9月)の販売見通し(卸売業者)
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牛肉については、「売価の低い切り落としなどが販売の中心となり、サーロイン、ヒレなど単価の高いロイン系の売れ行きは不振」という声が多く聞こえて来る。 しかし、最近では、豚肉についても同様との声が多くなっており、「豚肉も小間切れの売れ行きは好調だが、ロースの販売が落ちている」としている。
豚肉の販売見通しを部位別に尋ねてみたところ、国産については、「増加」の回答が多かったのは、かた、もも、ばらであった。一方、高級部位のロース、ヒレの増加を見込む者はそれぞれ0%、10%で、ヒレについては、「減少」を見込む者が30%という結果となった。 輸入チルドについては、ロースおよびばらの「増加」、ももの「減少」を見込む者が比較的多いものの、「同程度」がほとんどであった。
表6 平成21年度上期(4〜9月)の部位別販売見通し(卸売業者)
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20年2月1日現在の母豚頭数が91万頭(前年比99.5%)と減少したことなどから、平成20年のと畜頭数は、1,619万1千頭と前年を0.5%下回った。 一方、サーコウイルスワクチンの使用による事故率低下や飼料価格の値下がりなどから、肉豚生産出荷予測(農林水産省食肉鶏卵課 平成21年3月31日公表)では、21年1〜3月が前年同期と比べて、4%の増加を見込んでいる。その後の出荷予測については、4〜6月が同3%増、7月前年同、8月同8%増となっている。また、過去5年平均と比較しても、1〜3月は前年同期比2%増、4〜6月は同1%増と見込まれており、出荷頭数は今後増加するものと見込まれている。
豚肉の輸入量は、これまで豚肉卸売価格が高値で推移していたことなどから、増加傾向で推移している。量販店での販売が主体となるチルドは、20年3月以降、国産豚肉が高値で推移していたこともあり、月間輸入量2万トンを超える数量が輸入され、10月には28千トンと最高記録を更新した。この増加の要因としては、量販店での特売用としての需要増がまず挙げられるが、うで(ひき肉、ソーセージ用)をフローズンではなく、チルドで輸入するケースも多く、チルド輸入の増加の一因となっている。この結果、20年のチルド豚肉の輸入量は、前年を14.0%上回る26万8千トンとかなりの程度増加した。
米国産チルドの部位別卸売価格をみると、かたロース、ばらは輸入量がかなり増加したため、前年を下回って推移しているが、うで、ももは需要が強く、前年を上回っており、チルドの「スソ物」需要の高さを反映している。
さて、輸入商社からは「国産と輸入チルドの価格を見比べて量販店が特売アイテムを選択しているが、チルド豚肉の需要は安定的に推移する」という意見がある一方、「米国で豚肉の生産量が今後減少することから、国産豚肉の価格が低下傾向で推移すれば、量販店の国産へのシフトも進むのではないか」との両方の意見が聞かれた。
図13 冷蔵豚肉の月別輸入量の推移
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図14 冷凍豚肉の月別輸入量の推移
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図15 米国産豚肉(冷蔵品)の卸売価格の推移(対前年増減率)
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加工・業務用のフローズン豚肉の輸入量は、米国の生産増加による価格低下もあり、20年は54万9千トンと前年から4.6%増加した。チルドの輸入量が増加していることと併せて、うでなどのスソ物の需要はあるものの、外食産業の売れ行き不振などから高級部位に荷余り感が出ている。このような中、「うでやももなどのスソ物は売れるが、ロースやヒレなどの高級部位が売れない状況が続いている」、「加工用、外食用の引き合いが弱く、荷動きが悪い。特に国産在庫も増加していることから在庫の過剰感が目立つ」(輸入商社)との声が強い。
消費者の低価格志向は、当面続くものと見込まれることから、相対的に単価の安い豚肉の需要は今後とも堅調に推移するものと見込まれる。一方で、外食などの業務・加工向けについては、100年に一度と言われる不況の中で大きな影響を受けている。
このような中、「それまで牛肉の消費が中心であると言われてきた西日本でも着実に豚肉の需要が伸びている」、「豚肉のおいしさを消費者が認識し始めている」など、豚肉本来の良さを再認識しているとの流通関係者の意見も聞かれた。
特に量販店については、回答のあった7割の者が販売増加を見込んでおり、そのほとんどが国産豚肉を増やすとしている。
今後、生産もわずかに増加すると見込まれることから、枝肉価格が昨年のような高水準で推移することは想定しづらい上、消費者の低価格志向は当面続くと見込まれる。豚肉全体の需要が単に価格訴求ということだけでなく、豚肉の持つおいしさなどが消費者に広く認識されている環境が整っていることから、ブランド豚肉などを含めた国産品の需要がさらに喚起されることが期待されている。
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