英国大手系統乳業のDFB(Dairy Farmers of Britain)は、最盛期には2,400戸の酪農家を傘下に収める英国第3位の乳業であったが、09年6月に破産管財人の管理下に置かれたことを宣言し、事実上破たんした。本稿ではDFBの破たんの要因とその英国酪農・乳業界に及ぼす影響について報告する。 DBFの戦略 DFBは、02年にZenith MilkとThe Milk Groupの合併により誕生した系統乳業で、ここ数年で以下のような企業買収による拡大路線を進めてきた。 ・04年:Co-operative GroupからACCを買収 ・05年:Lincolnshire Co-operative Societyの乳業部門買収 ・06年:Golden ValesのBridgend Dairyを買収 これは、DFBのウェブサイトでも謳われているように、生乳の生産から、牛乳乳製品の加工・流通の各段階を垂直統合したEUの最新のビジネスモデルを採用することにより、高付加価値乳製品の販売拡大を図り、企業体としての収益を高めるためのものだったと思われるが、結果は逆の方向へ向かってしまったことになる。 まず、過剰な投資(借入金の増大)であるが、04年以降の積極的な施設買収の原資の大半を銀行融資に頼ったことにより、05年以降の短期・長期借入金の大幅な増加が生じた(図1)。07年には合計9百万ポンド(約14億円:1ポンド=155円)の設備投資を実施した結果、グループ全体の営業利益は06年の25百万ポンド(約39億円)から07年の1.7百万ポンド(約2.6億円)に急減することとなったことからも、DFBの苦しい台所事情が読み取れる(表1)。
次に牛乳・乳製品の取引価格の低迷と生産コストの増大である。07年から08年にかけてバイオ燃料との競合による飼料用穀物価格の高騰とエネルギー価格の上昇により、生乳の生産コストは大幅に上昇した。英国の例では、酪農で使用される飼料の価格は07年と08年にそれぞれ9.9%、18.4%上昇し、燃料に要するコストも07年と08年にそれぞれ37%、40%と大幅に上昇した。この結果、FADN注のデータによれば、英国の生乳生産コストは、04年から06年においては1トン当たり300ユーロ程度(約40,200円、1ユーロ=134円)であったものが、08年には同350ユーロ強(約46,900円)まで上昇したとされている。一方、牛乳・乳製品の取引価格については後述する品質の問題もあり、DFBはTESCOに代表される大手小売チェーンとの交渉力が劣るいわゆる「weak seller」としての地位から脱却することができず、これが十分な営業利益を上げられない結果となった。 注:The Farm Accountancy Data Network 最後に品質の問題である。DFBでは、集乳・加工段階において採用されている技術が、同業他社で採用されている最新のものではなく、取引先に売却された生乳や飲用乳が要求される衛生基準値をクリアしていないとクレームを受けることも少なくなかったとされる。この品質の問題が、有力な取引先であったCo-operative
Groupとの取引が09年5月をもって打ち切られた主たる理由とされており、この契約の打ち切りがDFBにとって致命傷となった。 視点を英国酪農・乳業界全体に移してみると、ある欧州のコンサルタントは、DFBのような「weak seller」の退場は、長期的には英国の牛乳乳製品市場の安定化につながる可能性があることに加え、DFBの飲用乳プラントの閉鎖による飲用乳供給余力の減少は、そのほかの乳業が大手小売チェーンと交渉する際の発言力拡大につながる可能性があるとみている。一方、DFB以外の系統乳業が合併により生き残りを図るという動きについては否定的な見解を示している。島国である英国の牛乳・乳製品市場は基本的に国内完結型であるため、国内の乳業間の水平統合について英国の公正取引当局が極めて慎重な姿勢を崩していないことがその理由とされている。ヨーロッパ大陸では同市場が国内のみで完結しないため、オランダのフリースランド・カンピーナやドイツのノードミルヒなどの大手系統乳業が合併・合弁を認められ、組織の合理化を進めているのとは対照的である。 今回のケースは、DFBのような大手であっても、いったん舵取りを誤れば数年で市場からの退場を余儀なくされるということを示しており、09年の牛乳・乳製品市場の低迷を受け、EU域内において厳しいとう汰が進むとみられる。 |
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