三瓶山麓の牧場から |
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かわむら牧場 川村 千里 |
■ 草原と放牧牛の語りべ ■ 「滋賀県の観光客が『放牧牛を見たい』と電話があったので西の原へ行ってくる!」里帰りしている娘は孫をチャイルドシートに乗せて出かけて行った。帰ってくると「広島県から来た男の子もいて、『昨日お友達になった牛の名前が知りたい』って!」とパソコンに向かい繁殖管理の中から探し出し伝える。来月また会いに来るとのこと。 ■ 夢の実現 ■私は1973年に放牧牛に出会った。当時、有吉佐和子の「複合汚染」が話題になり、第一次オイルショックで世の中は大混乱。そんな中東京で幼児教育に携わっていたが自然から離れていく社会での幼児教育に限界を感じた。命の糧である食料を作る農業、外国に頼らない畜産を夢見て放牧牛に出会った。多くの夢と尽きることのない学びがあると思うと、不安はあったがわくわくしながら三瓶の地に飛び込んだ。今では、語りべを通じて命の尊さを子供たちに伝えてきているが、その当時掲げた夢のひとつ、大自然に抱かれた「絵本文庫」が突如できた。それまで40年間溜め込んだ絵本を並べた部屋に就学前の姉妹と両親が初めてのお客さん。好きな絵本を見つけそらんじていながら読んでもらう嬉しそうな様子に、人は自然の中でこそ命の営みについてゆっくりと学ぶのだと改めて感じた。
■ 放牧を取り入れた経営の展開 ■ 三瓶山の放牧は400年の歴史を持つ。日々変化する広大な自然、観光地でもある国立公園での牛飼いは、粗放管理ではあるが次々と事件?が起きて対応に追われる。放牧牛は野生の牛のように季節によって居場所を変え、生えている草を食べ、子牛も産む。
■ 放牧牛と草原とうまい肉作り ■ 畜産危機はいつの時代も叫ばれてきた。経済危機による牛肉価格の低迷、飼料など畜産資材の高騰で採算割れが続いているが、いつでも日本の気候や草資源を活かし自給できる畜産を模索している。
■ 自然は生きている ■ 放牧牛は草原の維持に一役かっている。草原は火入れ、刈り払いなど人の手が入らないとあっという間に山林となる。三瓶山は希少生物である蝶のウスイロヒョウモンモドキ、糞虫のダイコクコガネ、植物のムラサキセンブリ、オキナグサなどが存在し保護活動がなされている。それぞれの研究に参加しているが、広い草原を維持し生息できる環境を作らなければそれらは存続できないと感じる。
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