需給解説

牛肉の販売意向調査の結果(22年度上期)について
〜価格低下も全体の販売量は横ばいの見込み〜

食肉生産流通部 食肉需給課長 藤野  哲也
同課係長 菊池美智子

 世界的な景気低迷による企業の業績悪化を受けて、所得の減少が続く中、食料品はますます低価格志向が強まっている。一方で、牛枝肉卸売価格は、ここ数年来、下落傾向が継続しており、消費者にとって値頃感はかなり強まっている。

 今年度上期の牛肉の需給について、量販店、卸売業者、生産者団体、輸入商社へのインタ ビューやアンケートを実施したので、その概要を報告する。

1 冷凍牛肉の在庫量は、供給量の増加から国産品が高水準

 まず、現在の牛肉需給をめぐる状況について見てみたい。

 牛肉生産量については、19、20年度と2年連続で前年度を上回って推移しているが、21年度(4〜1月)で見ると前年同期を0.5%下回る305,342トンとなっている。

 一方、牛肉輸入量については、米国産牛肉の輸入が増加していることから、前年同期を1.0%上回って推移している。

 このような中、当機構の食肉の保管状況調査による冷凍牛肉の在庫数量を見ると、国産品は、生産量の増加、需要の伸び悩みなどから昨年後半以降高水準で推移している。20年10月に13,364トンと積み増しされた国産品の冷凍在庫はその後、減少傾向で推移しているものの、21年12月に再び1万2千トン台を超え、22年1月は12,514トンとなった(図1)。

 また、輸入品の冷凍在庫量は、輸入量が今後減少することが見込まれる中、21年7月以降6カ月連続で6万トン水準を超えており、10月には66,508トンとなった。しかし、その後在庫の取り崩しが進み、22年1月は57,069トンまで減少している(図2)。

 その一方で、部位別の在庫バランスはかなり崩れており、販売がおもわしくないロイン系の在庫が増加していると言われている。
図1 国産牛肉(冷凍)の推定期末在庫量の推移
図2 輸入牛肉(冷凍)の推定期末在庫量の推移

2 量販店による販促機会…和牛は目玉商品の定番に

 和牛は生産量が増加する中、去勢和牛の21年12月の卸売価格(東京市場)は、「A―5」が21カ月連続前年同月を下回って推移しており、また、「A−3」では23カ月ぶりに前年同月を上回ったものの、低水準で推移しており、生産者にとって厳しい状況が続いている。

 このような枝肉価格の下落を受けて、去勢和牛の卸売価格(仲間相場)も低下傾向で推移している。当機構調査による去勢和牛「A−4」の仲間相場を見ると、21年度(4〜1月)平均のサーロインはキログラム当たり5,707円、また、去勢和牛「B−2」、「B−3」の平均は同4,698円であった。和牛については、生産の減少や米国産牛肉の輸入量の減少から19年度まで堅調に推移したが、20年度以降は、生産量の増加や景気後退の影響を受けて低下傾向で推移している。21年度の去勢和牛「A−4」のサーロイン価格は19年度の去勢和牛「B−2」、「B−3」の平均の5,790円よりも低い結果となっている(図3)。

 かたロースについても同様の結果となっており、「A−4」のロイン価格はかつての「B−2」、「B−3」価格まで値下がりしている。従って、価格面のみから考えれば相当な値頃感が出ているものと考えられる。

 このような価格の低迷を受けて量販店での和牛の販売動向はどうなっているのであろうか。

 当機構職員が居住する首都圏における量販店のチラシにおける和牛の取扱いを調査した結果が表1のとおりである。

 チラシは日曜日の特売が記載されているものを毎週取りまとめたものであり、チラシの取扱いに応じて、(1)文字のみは1点、(2)写真付きは1.5点、(3)目玉商品としての取扱いは2点としてその注目度を指数化して計算したものである。

 なお、このチラシのデータは、サンプルが3社と極端に少ないこと、また、職員の居住地も地域がばらばらなことから、あくまで参考程度であることをあらかじめお断りしたい。

 これによると、まず、食肉の週平均掲載数及び指数とも全畜種で減少傾向が見られる(図4)。畜種別の掲載回数は牛肉、豚肉、鶏肉の順となっており、各月とも変化は見られない。また、牛肉を品種別に見ると、和牛が最も多くなっていることがわかる(図5)。

 食肉の掲載回数や指数が減少している要因の一つとして、経済環境の悪化による量販店の広告宣伝費の削減が挙げられる。すなわち、チラシ自体の大きさそのものが小さくなってきていることや、これまで日替わり商品も週末限定で大々的に掲載されていたものが、平日を含む4日間などチラシの有効期間が延長されているものや食料品自体の掲載スペースも縮小されているものが散見される。

 一方で、機構のPOS調査を見ても量販店の販売量は増加していることから、特販を組むに当たってもアイテムを重点的に絞り込み、目玉商品のみを掲載するなどの戦略が採られているものと考えられる(図6)。

 ところで、和牛についてそのチラシ掲載内容を見ると、部位別ではロイン系が圧倒的に多くなっている。また、夏場に需要が上るばらのチラシ掲載を除くと、和牛全品○割引きなどといった複数アイテムの特売を組むというその他の取扱いが増えつつある傾向にある。このように、和牛のチラシ掲載の回数が減少する中で、和牛は、量販店が積極的に販売に取り組んでいるアイテムの一つとなっているのではないだろうか。
図3 去勢和牛の卸売価格の推移
図4 首都圏大手量販店における食肉のチラシ掲載回数の推移
図5 首都圏大手量販店における牛肉のチラシ掲載回数の推移
図6 POSにおける牛肉の品種別販売動向の推移(前年同月比)
表1 首都圏量販店のチラシでの和牛の取扱い


3 量販店における最近の食肉の販売動向・・・牛肉の取扱割合は減少

 平成22年度上期(4〜9月)の食肉の販売動向などについて、量販店での見通しを2月中旬にアンケート調査したところ、調査時点における量販店での食肉の取扱割合(重量ベース)は、牛肉25%に対して、豚肉44%、鶏肉31%となっている。この割合を前回調査(21年9月)と比べると、豚肉、鶏肉とも消費者の低価格志向などを反映して増加する一方、牛肉のみが減少する結果となった。これは、昨年の3月調査と比較しても、同様の結果であり、状況に変化は見られなかった(表2)。
表6 平成22年1月分 指定生乳生産者団体別の受託販売生乳数量等(速報)
  (注) アンケートは2月中旬に全国の主要量販店28社を対象に行い、28社から回答を得た。

4 消費者意識の変化…低価格志向が強まる中、銘柄食肉志向は弱まる結果に

 量販店に最近の消費者意識の変化についてアンケート調査を行ったところ、消費者の低価格志向や節約志向は、以前より「高くなった」、「大変高くなった」を合わせると96%となり、現在の経済状況を如実に反映する結果となっている。

 一方で、消費者の安全・安心への関心は、「変わらない」が75%となっており、食品に対する安全性に対しては、高い関心が払われていることがうかがえる(表3)。

 ただし、消費者の安全・安心への関心が「低くなった」という回答も18%あり、節約志向の中で食品を選択する際に価格を最重視する消費者も増加しているものと思われる。

 このような中、国産食肉志向や輸入食肉志向は、「変わらない」と感じている量販店が7割を超えている一方、銘柄食肉志向が「低くなった」と回答している者が64%と過半を超える結果となっている。消費者は、低価格志向や安全性に強い関心がある中で、差別化や付加価値商品に対する志向がやや薄れている傾向を量販店では感じているものと見込まれる。
表3 量販店が見る最近の消費者意識の変化について

5 量販店の牛肉販売見通し

 平成22年度上期(4〜9月)の量販店における食肉の販売動向のアンケート結果によれば、牛肉の販売は、「同程度」とする回答が最も高く39%、次いで「減少」が36%、「増加」が25%となっている。21年9月調査では牛肉の販売についてはその見方が拮抗していたが、今回調査と比較すると「増加」の割合が減少している(表4)。

 また、豚肉、鶏肉については、販売が「同程度」という回答が最も多いが、「増加」も3割以上となっており、豚肉、鶏肉への需要は引き続き増加すると見込まれる。
表4 量販店での平成22年度 上期(4〜9月)の販売見通し

6 卸売業者の牛肉販売見通し

(1) 品種別の販売見通し・・・国産牛肉は「同程度」

 主要食肉卸売業者にも同様にアンケート調査を行ったところ、22年度上期の販売見通しは、国産牛肉、輸入チルドが「同程度」であるとの見方が過半数を超えている。

 しかしながら、和牛について見ると販売見通しがそれぞれ拮抗しているものの、「減少」の割合が最も高くなっている。前回調査と比較すると、「同程度」が26ポイント減少し、「減少」が24ポイント増加する結果となっている。前回調査時には、量販店や卸売業者ともに、和牛は卸売価格の低下と品揃えの強化を理由に「増加する」との見方がされていたが、和牛の卸売価格の下落による値頃感以上に消費者の低価格志向が強まっているとの意見が多かった。また、輸入チルド、輸入フローズンについても、3割が販売量が「減少する」との意見もあった(表5)。
表5 卸売業者の平成22年度 上期(4〜9月)の販売見通し
  (注) アンケートは2月中旬に全国の主要卸売業者18社を対象に行い、16社から回答を得た。

(2) 仕向け先別の販売見通し・・・ファミリーレストラン向けの増加を期待

 仕向け先別の販売見通しについては、増加する仕向け先としては、ファミリーレストランという結果が最も高くなった。次いでファストフード、加工用向けとなっている。また、品種区分別に見ると輸入フローズンが増加するという回答が高かった。

 一方、減少する仕向け先としては、ホテル・旅館向けや家計消費が減少すると見込んでいる。また品種区分別には、和牛が減少するという回答が高くなっており、小売店やホテル・旅館向け、ファミリーレストラン向けで減少するとの回答が多かった。

 これらのことから、卸売業者は消費者の低価格志向に合致した牛肉が増加するものの、和牛などの高級食材は全般的に苦戦を強いられるという見通しを持っていることがうかがえる。

(3) 部位別の販売見通し・・・和牛、国産牛肉は切り落としがさらに増加


 部位別の販売見通しについては、「増加」の回答が最も多かったのは、和牛、国産牛の切り落としのみであった。一方、「減少」の回答が最も多かったのは、和牛のかたロース、サーロイン、ヒレおよび輸入フローズンのサーロイン、ヒレとなった(表6)。また、国産牛、輸入チルドについては、ほとんどが同程度という結果となった。なお、全般的には、輸入チルドへの期待が高いことや全体的にばらの今後の販売増加を見通す者が多いことがうかがえる。しかし、切り落としが増加するという回答が多い一方で、高級部位であるサーロイン、ヒレは「減少する」との見方が強く、ここでも消費者の低価格志向を反映した結果となっている。
表6 卸売業者の平成22年度上期(4〜9月)の部位別販売見通し

7 牛枝肉価格に対する認識…「値頃感がある」がトップ

表7 牛肉価格の現状認識 (東京市場1月枝肉卸売価格)
 品種毎の東京市場における1月の枝肉卸売価格の相場水準について聞いたところ、量販店では和牛、交雑種については75%、乳オスについては9割以上が「値頃感がある」、「十分安い」と答えており、取扱いやすい価格水準にまで低下しているとの認識を持っていることがわかる結果となっている(表7)。

 一方で、卸売業者の認識は、値頃感があるという回答が最も高い回答とはなっているものの、和牛で35%、交雑種で41%が「まだ高い」との回答となっている。これは、外食産業における牛肉の需要が減少していることが一番の要因であると見込まれるが、他の食肉との販売競争に加え、需要者からの価格引下げ圧力が相当強いことを反映しているものと考えられる。

8 生産はわずかに減少の見込み

 牛肉全体の生産量は、と畜頭数、枝肉重量の増加から、19年度以降増加傾向で推移している。種類別に見ると、和牛と交雑種が引き続き増加しているものの、乳オスについては、生乳の減産型計画生産などの影響で子牛の出生頭数が減少したことから、20年度以降減少に転じて推移している。

(1)去勢和牛生産は増加傾向続く

 去勢和牛の生産量は、18年度以降増加傾向で推移している。独立行政法人家畜改良センターが公表している個体識別データによる出生頭数や22年1月末現在の月齢別飼養頭数から、22年度上期にと畜適齢期を迎える肉牛の頭数を推測すると、いずれもプラスとなっており、上期も前年同期に比べ4〜5%程度の増加が続くと見込まれる(図7)。
図7 去勢和牛のと畜動向

(2)乳オスと畜頭数は22年以降回復へ


 乳オスは、18、19年度に実施した生乳の減産型計画生産の影響から20年10月以降のと畜頭数が減少している。しかしながら、20、21年度の生乳の計画生産は増産型に転換されたため、出生頭数で見ると、20年2月以降増加に転じている。このことから、22年以降のと畜頭数は、前年同月比で見ると増加に転じるものと見込まれる(図8)。
図8 乳用オス牛のと畜動向

(3)交雑種と畜頭数は減少へ


 交雑種のと畜頭数は、18年度以来増加傾向が続いていたが、乳用種への黒毛和種の交配状況を見ると20年度以降減少している。このことから、22年度以降の交雑種の生産量は減少するものと見込まれる。従って、22年度上期のと畜頭数は、前年同期を1割以上減少するものと見込まれる。 以上のことから、これらの3区分合計の肉牛生産量で見ると、前年同期をわずかに下回るものと予想される(図9)。
図9 交雑種のと畜動向

9 輸入は今後、豪ドル高に加え、原産地高も

 輸入牛肉については、(1)外食産業の売上が減少する中、輸入牛肉の需要も減少していること、(2)円高還元セール対象品や安価な国産豚肉との競合の激化などから厳しい状況が続いている。

 平成7年や11年当時の円高還元セールの目玉は何と言っても輸入牛肉であった。しかしながら、今回の円高還元セールで目にする食肉と言えば一部の量販店で豪州産牛肉があったものの、多くの量販店では、米国産豚肉を中心に取り扱っていた。さらに、最近における豚枝肉価格の下落から国産豚肉も値頃感が強まったため、輸入牛肉、特に4分の3のシェアを占める豪州産牛肉にとっては、消費者の節約志向の高まりも相まって、豚肉が競合商品として位置づけられたようである。

 輸入申告時のCIF価格の算定に用いられるいわゆる税関長公示レートを見ると、米ドルはほぼ円高傾向で推移している(図10)。一方、豪ドルは、一昨年のリーマンショック以降下落したが、21年2月第3週の1豪ドル57.8円を底に上昇した。10月第4週には同80円を超えるまで回復し、直近でも80円を挟んだ展開となっている(図11)。

 また、豪州における日本向け牛肉輸出価格についても、と畜頭数の減少などから21年10月以降前年同月を上回っており(本誌「需給動向」海外編の牛肉、豪州の対日輸出価格(チルド・グラス・フルセット)の図参照)、今後も、と畜頭数の減少に伴い原産地価格が上昇することが予想されている。

 なお、豪州農業資源経済局(ABARE)が22年3月に開催した農業観測会議2010によると、日本向け輸出量は、豪ドル高で推移する為替相場による他国産牛肉との競争が激化し、2009/10年度(7月〜翌年6月)の日本向け牛肉輸出総量は前年度を6.1%下回るものと予測している。

 一方、米国産は、すべての大手量販店での販売が再開され、POS調査の結果を見ても販売は定着していることがうかがえるものの、供給量については、20カ月齢以下という日本向け輸出条件に大きく影響を受けているのが現状である。
図10 米ドルの税関長公示レートの推移
図11 豪ドルの税関長公示レートの推移

10 おわりに

 当機構の最近のPOS調査結果から、豪州産牛肉の部位別販売を見ると、ばら、ロースの販売シェアが減少する一方、かたロースや切り落としの販売シェアが増加している。冬場の主力商品であるかたロースは昨年では季節を問わず販売が好調であった。これは、切り落としと同様、単価が安いことが販売の増加につながっているものと考えられる。

 また、和牛の部位別販売を見ると、ばらの販売シェアが大きく落ち込む一方、切り落としがほぼ3割を超える状況となっており、ばらの代替として切り落としが増加している。また、ロイン系の販売シェアも増加しているが、これは外食産業などからの需要の低迷を受けてロイン系の販売に量販店が力を入れている結果と思われる。

 量販店での低価格販売は、豪州産ではより安価な部位を志向しているように見受けられるが、食料品全体が低価格志向の流れの中で、価格への訴求効果が薄れているとの見方も多い。

 和牛、国産牛肉との価格が低下している中で、量販店の多くが値頃感を感じている状況で、差別化としての牛肉として和牛、国産牛肉の販売強化に今後とも力を入れていることが期待される。消費者にとっても安全・安心で高品質な国産の牛肉を安く購入できる機会がますます増えてくるものと考えられる。

 今後の夏場にかけての焼き肉需要の盛り上がりに期待したいものである。

元のページに戻る