輸出量も前年比57.4%増
アルゼンチン動植物衛生機構(SENASA)によると、2009年の牛肉製品の輸出量は419千トン、輸出額は1653百万ドル(1ドル=約90円;1488億円)となった。これは、過去最高の輸出額であり、輸出量も2008年と比べ57.4%増であった。アルゼンチン牛肉は2001年に未曾有の経済危機と口蹄疫発生から生産量および輸出量は激減したものの、その後2005年までは順調に回復してきた。しかし、近年は政府の牛肉国内価格の抑制手段として、2006年に開始された輸出業務登録制度による輸出許可を先延ばしするなど国内の需要が優先されたことや、2008年の国際金融危機の影響から2006年以降、輸出量は再び減少傾向にあった。
2009年の輸出量、輸出額は、ともに生鮮牛肉が80%以上を占めているが、輸出価格はヒルトン枠(EU向けの一定基準を満たす骨なし高級生鮮牛肉の関税割り当て枠)が1トン当たり9,708ドル(約87.4万円)となり、ヒルトン枠以外の生鮮牛肉に比べ約2.7倍で取引きされている。また、アルゼンチン牛肉・牛肉副産物産業および取引会議所(CICCRA)によると、2009年の牛肉生産量は354万トンとなり、こちらも過去最高になる見込みである。
図1 牛肉製品別の輸出量・輸出額の推移
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図2 牛肉生産量の推移
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ロシア、ベネズエラ向けは回復、一方でヒルトン枠は減少
2009年の輸出先国を見ると、生鮮牛肉の輸出額はロシア、チリ、イスラエル、ベネズエラが軒並み前年比30%以上の増加となっており、2008年の米国発の国際金融危機の影響により一時冷え込んだ海外市場も2009年の後半にかけて回復したことが分かる。一方で、ヒルトン枠はドイツ、オランダ、イタリアでいずれも10%以上の減少であるが、これは国際金融危機の影響というよりは、これまでと同様にアルゼンチン政府の方針によると考えられる。ヒルトン枠は7月1日から翌年6月31日の1年間に28,000トンの輸出がアルゼンチンに割り当てられるが、2009/10年度は、国内の配分方法(注)の決定が遅かったことから、上半期(2009年7〜12月)におけるヒルトン枠分の輸出量は3,325トンと、88%が消化されていない状況である。なお、2008/09年度の実績も26,002トンと、割り当て枠の充足率は92.9%であった。
注:配分方法の詳細は海外駐在員情報「2009/10年度のヒルトン枠配分方法を決定」
(2009年11月24日)
http://lin.alic.go.jp/alic/week/2009/ar/ar20091124.htmを参照。
表1 牛肉製品別の輸出先国別輸出状況(2009年)
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2009年の国内価格は上昇
アルゼンチンの牛肉輸出政策はヒルトン枠の配分でも分かるとおり、依然、不透明な状況にあるため、政府と生産者団体のあつれきは年々深まるばかりである。最近、2年間の国内価格の推移を見ても不安定な需給状況となっている。
具体的には、2008年1〜4月の国内市場価格は前年同期比17.9%高となったことから、政府は国内需給の緩和を狙って事実上の牛肉製品の輸出停止を行い、同年4〜6月期の輸出量は前期比36.3%減となった。この政府の対応に反対した生産者団体は、これ以後、国内向け畜産物の出荷停止や国内市場アクセスとなる輸送道路の封鎖などたびたびストライキを実施している。同年9〜12月には米国発の国際金融危機の影響により海外向け製品の余剰が発生し、さらに、同年10月頃から2009年2月頃は干ばつの影響により放牧飼育できない繁殖牛や去勢牛が大量に早期出荷されたこともあって、この期間の国内価格は低下傾向で推移した。例年同様、同年3〜4月は出荷適齢期牛の不足から需給は一たん引き締まるが、5月以降、降雨不足による増体率の低下や継続する政府への不安から、当座の現金収入を得るために繁殖牛や去勢牛が再び売られ、国内価格は低調となった。CICCRAによれば、過去に例のないほど大量の肉牛後継牛の出荷が続いており、2010年には肥育素牛の不足による国内牛肉価格の高騰が懸念されている。これを暗示するかのように、2009年11〜12月の国内価格は前年同期比13.7%高の急騰を示し、12月単月では前年同月比32.2%高の大幅な値上がりとなった。
図3 牛肉製品別の輸出量
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図4 国内市場の生体価格(去勢牛24カ月年齢未満;400〜500kg/頭)
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2010年は輸出にブレーキがかかる可能性
現在の肉牛を取り巻く状況を見ると、繁殖牛の減少、去勢牛の不足、大豆生産地への転換による肉牛放牧地の減少、異常気象(干ばつ、洪水)による妊娠率の低下、政府の牛肉輸出政策に対する不安などから牛肉生産を上向きに牽引する好材料に欠ける。有力団体の一つであるアルゼンチン農牧協会(SRA)のビオカルティ会長は、「独立200周年となる記念すべき2010年に、アルゼンチンが牛肉輸入国とならないようにしなければいけない」と警告している。2010年にアルゼンチンが牛肉輸入国に転ずることは考えにくいものの、繁殖牛、去勢牛の保有頭数の減少が続くと、ますます国内需給がひっ迫し、消費者はより安価な鶏肉や豚肉にシフトするか、あるいは国内の牛肉消費を維持するため輸出量を再び減少させる可能性も十分想定される。
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