需給解説

需給動向を把握するための統計解説(牛肉・豚肉編)

食肉生産流通部 食肉需給課

 最近における牛肉・豚肉をはじめとする食肉の卸売価格は、低下傾向で推移している。牛肉の枝肉卸売価格(省令規格、東京・大阪市場)は、平成18年5月以降、前年同月を下回って推移しており、21年11月の価格は996円と前年同月を5.1%下回っている。21年度の国産牛肉の卸売価格(4〜11月平均、仲間相場)を前年同期と比較すると、不況による消費者の低価格志向などにより、特に和牛と交雑種の値下がりが大きく、消費の低迷に加えて生産量の増加が価格下落の要因と思われる。

 豚肉においては、21年3月以降、国内生産量は母豚の増加やサーコワクチンの効果による事故率低下などにより前年同月を上回って推移し、生産量の増加などから豚肉の枝肉卸売価格は8月には安定基準価格であるキログラム当たり400円を下回る397円(省令規格、東京・大阪市場)にまで下落した。しかしながら、10月13日から6年ぶりとなる豚肉の調整保管が実施されたことから、11月から12月中旬にかけては400円前後で推移するようになった。さらに12月下旬は年末需要や寒波の影響などにより一時的に高騰したが、豚肉価格の動向は今後も予断を許さない状況にある。

 当機構は、食肉の需給動向を把握し、また今後の予測を立てる上での資料として「畜産の情報」や「畜産物市況週報」などを通じて統計データを公表している。以下に当機構が調査し、公表している各統計が、どのように調査されているのか報告したい。
◎食肉に係る機構調査の概要

需給表

 食肉の需給動向を把握するのに欠かせないのがこの需給表である。例えば、21年度(4〜11月)の豚肉の需給動向を見ると、前年度と比べ国内生産量は増加していることがわかる。供給過多により枝肉卸売価格は低下し、消費者の低価格志向などを背景に国産品の推定出回り量は増加している。しかしながら、国内生産量が国産品の推定出回り量を上回っているため、国産品在庫は増加している。一方、輸入量は抑制され大幅に減少し、このため輸入品の推定出回り量は減少した形になっている。その結果、輸入品在庫は減少の傾向にあるといった様子が読み取れる。 各畜種の需給表は、以下の3つの統計を基に作成している。
○豚肉需給表 

1.生産量    

 生産量は、農林水産省「食肉流通統計(http://www. maff. go. jp/www/info/bunrui/mono08. html)」から、各月ごとの枝肉生産量に換算率(歩留割合)0.7を乗じて部分肉ベースに換算している。
○食肉の歩留割合 

2.輸入量および輸出量

 財務省「貿易統計」のデータを用いており、関税番号を基に集計し、数量は部分肉ベースで算出している。

【牛肉】

 当機構においては、枝肉、骨付き肉、骨付きでないもの等の区分や、国別の区分に集計して牛肉の輸入量としている。

 集計の対象としている関税番号は以下のとおりで、「煮沸肉」およびくず肉のうち「ほほ肉および頭肉」は輸入量の合計に含んでいる。

 なお、合計欄においては、枝肉やその他の骨付き肉(生鮮のものおよび冷蔵したもの)は、換算率0.7を乗じて部分肉ベースに換算して集計している。
○ 牛肉の集計対象の関税分類

【豚肉】

 豚肉も牛肉と同様に、財務省「貿易統計」のデータであり、集計の対象としている関税番号は以下のとおりで、「くず肉」は輸入量の合計に含んでいる。

 なお、合計欄においては枝肉、骨付き肉の数量に換算率0.7を乗じて部分肉ベースに換算して集計している。

 豚肉の関税番号は、一つの品目において課税価格に従って

  (1)従量税適用限度価格以下のもの

  (2) 従量税適用限度価格を超え、分岐点価格以下のもの

  (3)分岐点価格を超えるもの

に分けられているため、集計対象の関税分類上、3つの関税番号が存在する。 なお、統計品目表では「いのししのもの」は末尾3ケタを010(0203. **/010、0206. **/010)として区分されており、集計にはいのししのものや肝臓、その他の臓器は除いている。
○豚肉の集計対象の関税分類

3.推定期末在庫量及び推定出回り量


 生産量および輸出入量については、農林水産省および財務省から公表されているところであるが、食肉の国内消費仕向量を把握するためには、在庫数量がどうなっているのかを調査する必要がある。

 このため、当機構では社団法人日本冷蔵倉庫協会に委託し、全国の主要な冷蔵倉庫業者から毎月の入庫、出庫および月末の在庫数量を調査し、これを推定期末在庫数量として公表している。

 推定出回り量は、推定期首在庫に生産量および輸入量を加算し、輸出量および推定期末在庫を引いて求めている。すなわち、その月に国内消費仕向けとして市中に流通した食肉の数量を推定したものである。

 推定出回り量=推定期首在庫+生産量+輸入量−輸出量−推定期末在庫

食肉市況(仲間なかま相場)調査

 食肉は生体をと畜解体し、枝肉から部分肉に分割・整形された後、さまざまな流通の過程を経て精肉や加工品として消費者に提供される。その中で、国産の牛肉・豚肉については、食肉卸売市場における取引価格(枝肉ベース)が流通段階の指標となっている。

 機構では、国産の部分肉および輸入品についての卸売業者間における取引価格(仲間相場)を調査することにより、部分肉の卸売価格に関する情報を提供してきている。

 この調査は、牛肉、豚肉それぞれについて、国産品・輸入品別、冷蔵品・冷凍品別、部位別(品目別)に毎月15日および月末における取引価格(営業倉庫渡し価格、消費税抜き)を取りまとめた内容となっている。冷蔵品だけでなく冷凍品も含み、関東、東海、近畿、九州等全国の大手卸問屋(食肉加工メーカーを含む20社)を調査対象とし、価格以外に半月先の「市況気配」(上げ気配、保合、下げ気配)を調査している。

 なお、この結果は月報「畜産の情報」をはじめとして、ホームページ「畜産物市況週報」(半月単位)や同「統計資料一覧」(月単位)などで公表している。
○国産牛肉の仲間相場(半月単位)

食肉販売状況(小売価格)調査

 当機構では、食肉の小売価格を把握するため、毎月、大手量販店(平成21年4月現在28社)および17都市の食肉専門小売店(同60店舗)から、100グラム当たりの「通常価格」と「特売価格」(17年度以降のデータは消費税を含む)を収集している。

 「通常価格」は、毎月15日を基準とし、当日が休業日の場合は翌営業日、または、特販期間中に当たっている場合は、特販期間直前の日の価格とし、「特売価格」については、調査月内の代表的な特販価格としている。

 牛肉は4種(和牛、交雑種、その他の国産牛、豪州産)、4部位(かたロース、ばら、サーロイン、もも)について調査している。また、豚肉は2種(国産、輸入)、部位はロースを基本とし、通常価格のみ3部位(かた、ロース、 もも)について調査している。

 なお、食肉専門小売店の調査については社団法人日本食肉協会に委託して実施している。
○牛肉の小売価格(国産品)
○豚肉の小売価格
 また、総務省の「小売物価統計調査」では、昭和25年以来のデータがあることに加えて、全国75都市別に、牛肉では、国産ロース、輸入冷蔵品(平成21年11月分より調査品目の基もも)について調査している。 なお、食肉専門小売店の調査については社団法人日本食肉協会に委託して実施している。本銘柄が「ロース」から「肩ロース又はもも」に改正)の2区分、豚肉では、ロース、もも肉の2区分の価格が公表されている。

食肉POS情報

 POS(ポス、Point of Sales=販売時点情報管理)とは、商品のバーコードを読み込むことで、販売側がどの商品がどれだけ売れているかを瞬時に把握できるシステムのことである。在庫管理や発注管理などに活用され、ロスの低減、販売機会の向上に役立っている。

 このPOSシステムのカギとなるバーコードには、大別して(1)全国共通のJAN(ジャン、Japanese Article Number)コード、(2)小売店や卸売会社が独自に設定するコードの2種類ある。(1)の全国共通コードは、財団法人流通システム開発センターが管理しており、どこのコンビニでもスーパーでも共通している。食品であれば、ハム、ソーセージ、牛乳、チーズなどに付けられており、主に工場で大量に生産され、全国に流通しているものが対象となっている。

 一方、(2)小売店などが独自に設定するコードは、そのチェーン店で、さらに同じチェーン店でも店舗ごとに設定している場合がある。食肉の場合、品種、部位、規格の違いがあり、バーコードはそれぞれ異なる。

 消費の面から食肉の需給動向を適時的確に把握するためには、総務省の「家計調査報告」があるが、(1)公表まで1カ月以上かかる、(2)集計単位が月ごとで即時性に欠ける、(3)輸入品の流通が多くなる中、国産品と輸入品の区分などが不明なこと−が利便性に欠ける。

 そこで、当機構では、総務省「家計調査報告」を補うべく、日経POS情報を利用して、集計・公表しているのが食肉POS情報である。全国7地域13店舗、それぞれの販売情報を入手し、全て異なるバーコードを集計、約1週間後に、1,000人当たりの購買数量(1ヵ月間の総購買数量/1ヵ月間のレジ通過総客数×1,000)をホームページ「畜産物市況週報」で公表している。利用上の注意点として、調査対象が13店舗であるため、調査対象店舗の販売戦略に影響される点はあるが、短期的な分析のための客観的な情報として、有効活用が可能である。
○食肉の小売動向(POS情報)

輸入食肉の輸入動向調査

 当機構では、食肉の輸入動向を把握するため、日本食肉輸出入協会に委託して、「食肉輸入動向調査」(牛肉・豚肉)を実施している。

 毎月、輸出国毎に、チルド(冷蔵)・フローズン(冷凍)別に、前月の輸入実績および今月・来月までの輸入見込み数量について、日本食肉輸出入協会の会員商社(平成21年4月現在29社)を対象に調査を行っている。その結果を基に、輸入動向検討委員会にて直近の食肉の需給動向、会員の輸入シェア等を踏まえた上で分析、検討し、毎月、財務省「貿易統計」の公表対象月から2カ月先までの総輸入量を予測している。この予測数量等については、ホームページ「プレスリリース」で毎月公表している。

 ちなみに、1カ月及び2カ月先の総輸入量の予測については、数値ではなく「わずか」や「やや」といった変動幅を表す用語で表現している。この表現は、前月の輸入量と比較した増減の割合に応じて、以下のように使い分けをしている。

 ○変動の幅を表す用語

  わずか……………±2%台以内

  や や……………±3〜5%台

  かなりの程度……±6〜10%台

  かなり大きく……±11〜15%台

  大 幅……………±16%以上

おわりに

 当機構が実施しているこれらの調査は、平成3年度に輸入牛肉の自由化に伴い、主要な畜産物の価格安定に資するため、「畜産物の価格安定に関する法律」(昭和36年法律第183号)の一部改正により、主要な畜産物の情報収集提供業務が追加されたことから実施されているものである。その後、15年に独立行政法人農畜産業振興機構に移行した後も、情報収集提供業務は「農畜産業振興機構法」(平成14年法律第126号)においても主要業務の一つとして位置付けられている。

 調査に常日頃御協力いただいている関係者の方々にこの場を借りて、あらためて感謝を申し上げるとともに、これらの情報を読者の皆様が有効に活用していただければ幸いである。


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