調査・報告

飼料用米の持続的低コスト生産の可能性と阻害要因の解明
−平成20年度畜産物需給関係学術研究収集推進事業−

山形大学農学部 教授 小沢 亙

1.はじめに

 2008年上半期にかけての穀物価格上昇は、にわかに飼料用米(注1)を注目の的とした。そして、平成21年度政府予算の中に食料自給力向上対策として助成が盛り込まれ、飼料用米生産はますます増加しそうである。 遊佐町(山形県)・平田牧場・生活クラブ生協の3者を中心に、2004年からスタートした飼料用米プロジェクトに端を発する現在の飼料用米生産には、技術的にも経済的にも解決すべき課題が多い。とりわけ、主食用米とエサ(飼料用米)の価格差は歴然としており、低コスト生産は必須の要件である。 そこで、先進事例をもとに飼料用米生産の現状と課題を明らかにし、次に飼料用米生産者アンケートで生産に対する意識を明らかにし、コスト低減の可能性と阻害要因を解明する。そして生産を持続するために現段階で必要な点についても言及する。

2. 先進事例の取り組み

 飼料用米プロジェクト(遊佐町・平田牧場・生活クラブ生協)に加え、宮崎県(日南市を含む)、岩手県八幡平市(K養豚含む)、秋田県鹿角市、青森県藤崎町(T養鶏)で聞き取りを行った。

(1) 飼料用米プロジェクト(遊佐町・平田牧場・生活クラブ生協)

 2004年からスタートしたプロジェクトは既に複数の文献(注2)で紹介されており、ここでは2008年の動向について触れる(表)。実験事業として位置づけた当初3年間が経過し、十分とはいかないまでも可能性を感じさせる結果が得られた。その結果、2007年には助成金が前年を下回るにも関わらず、JAが予想した100ヘクタールを上回る130ヘクタールの作付けが230人によって行われた。平田牧場による買入価格は6円アップしキログラム当たり46円となったが、生産者手取額は低下している。2008年産は産地づくり交付金の飼料用米単価が下がったものの、関係者の念願であった飼料用米支援が飼料用米導入定着化緊急対策事業として政府の当初予算に盛り込まれたこともあり、さらに面積、生産者ともに拡大した。加えて、遊佐町における生産の限界(共同乾燥調製施設など)が予想されたことから、同じJA管内の酒田市にも取り組みを要請し、約150ヘクタール、270人も加わり、同一JA管内で約320ヘクタールという全国最大規模の取り組みとなった。

 品種は専用種として「ふくひびき」が主である。

 生活クラブ生協向け肉豚用の生産量としてはほぼ目標数量に達したが、従来の肥育後期10%混合では平田牧場の生産頭数全てに給与するにはまだ不十分である。配合飼料製造の効率化を配慮し、2009年は米の配合率を下げ、全頭給与を行う予定である。

 一方、技術的には依然として改善の余地が大きい。直播技術は不安定であり、収量も目標水準に達しておらず、依然として低コスト生産技術の確立にはいたっていない。

表 エサ米栽培実績(遊佐町)

(2)その他の地域・組織


― 宮崎県(日南市を含む)の事例 ―

 宮崎県は西南暖地に位置する畜産県である。すでに飼料稲の栽培は盛んであり、粗飼料としてのワラ生産の副産物として取り組みを開始した。コスト低減のために直播、疎植、堆肥利用を考えており、早場米地帯では飼料用米の二期作や二毛作も想定している。日南市は最も積極的に取り組んだが、折悪しく収穫期に集中豪雨に見舞われ収穫不能となった。飼料稲は助成金が下がっても生産は継続されるであろうが、飼料用米生産は減ると予想している。

― 岩手県八幡平市(K養豚含む)の事例 ―

 岩手県八幡平市はK養豚の呼びかけに応じて集落営農組織2組織を含む56戸が、45ヘクタール取り組んだ。冷涼な地域であり、これまで有望な転作作物がなく、期待は大きい。今年度は主食用米の晩稲品種を用いたが次年度は「べこごのみ」を作付けする予定である。直播で収量800〜900キログラム、トン当たり5万円、助成金10アール当たり5万円、すなわち10アール当たり8〜8.5万円であれば生産が継続されるのではないかと考えている。

― 秋田県鹿角市の事例 ―

 秋田県鹿角市では基盤整備事業に関連して組織された法人が事業後最初の転作として取り組んだ。産地づくり交付金4万円を前提に農家手取りを60キログラム当たり3.6千円にするように価格設定を行った。3年で100ヘクタールを目標としているという。

― 青森県藤崎町の事例 ―

 青森県藤崎町のT養鶏は3年目の取り組みである。鶏は籾での給与が可能であり、嗜好性も高いので、豚に比べて配合割合は相当高くできる。地域での栽培面積は2008年15ヘクタールであったが、2009年には200ヘクタールになる見込みである。地域ではワラの需要もあり、飼料用米は玄米換算でキログラム当たり50円で生産できると考えている。

3.飼料用米生産者アンケート−遊佐町と隣接酒田市−

 遊佐町と酒田市の飼料用米生産者を対象にアンケートを実施した。遊佐町は次年度生産希望とともに調査を実施し、JA職員が配布回収を行った。酒田市はJAから名簿の提供を受けて郵送で実施した。遊佐町は286人のうち235人(82.2%)、酒田市は269人のうち202人(75.1%)から回答を得た。郵送で行った酒田市の回収率は驚くべき数字であり、これは生産者が飼料用米への強い期待を持っているためと思われる。

 導入理由(図1)は「栽培管理作業がなれている」、「転作面積確保が容易」が両市町ともに高く、適作(水田での稲作)の利点を強く表すものといえよう。21年度政府予算に水田等の有効活用による食料供給力向上対策が盛り込まれたが、これはある意味生産者の要求に合致するものといえよう。続く項目に両市町の違いが現れている。遊佐町は「主食用米に転向しやすい」、そして「新規機械投資が不要」と続き、酒田市は「新規機械投資が不要」、「他作物より省力的」が続く。この結果だけを見ると、遊佐町生産者の方が飼料用米生産を過渡的なものと捉えており、飼料用米生産を安定させることが難しいのではないかと考えられる。ただし、生活クラブ生協向けの米生産者であるかどうかで区分すると「理念(食料自給率向上)に共鳴」、「生活クラブ生協が勧めている」で顕著な違いが見られ、消費者団体である生活クラブ生協との関わりの違いが生産の継続に大きな要素となり得そうである。
図1 飼料用米を導入した理由

 栽培上の問題点(図2)は「収入が低い」が圧倒的に多い。生産者の意識としてはエサを生産としているというよりは米を生産しているという意識が強いといえよう。

 今後の栽培(図3)はほとんどの生産者が継続意識を持っている。とりわけ酒田市の4割を超える生産者が「拡大する」としている。遊佐町は次年度生産希望と連携させて調査しているため、回答していない51人(17.8%)の生産者の多くは生産をやめるものと考えられる。遊佐町では生産者が多少入れ替わると思われる(集計では対象外としたが新規に来年度生産を希望する32人が回答を寄せている)。
図2 飼料用米栽培上の問題点
酒田市図3 飼料用米の今後の栽培

 生産を継続するための条件(図4)は遊佐町も酒田市も「価格の引き上げ」、「助成金の増額」という経済的条件を求める生産者が圧倒的に多い。この後技術的条件が続くが、遊佐町では「豚尿液肥の施肥法の確立」、「品種の開発」が上位にあり、酒田市では「収量の向上・安定」、「直播の確立」が上位に来ており、両者で違いがある。さらに「JAや役場の支援体制」、「販売先の確保」、「助成金の現状維持」が続き、「国民の支持」も少なからず条件としている。
図4 飼料用米の生産を継続するための条件

  生産を継続するための所得(図5)は遊佐町では「加工用米並み」、酒田市は「大豆並み」と違いが見られる。表の生産者手取額(82,800円)はこれらの生産者手取額を上回るのが実態であり、確かに「主食用米並み」とする生産者も少なくはないが、先の条件に対する回答(「価格の引き上げ」、「助成金の増額」)と食い違いを見せる。
図5 飼料用米を継続するための所得水準

4.飼料用米生産の現段階

 飼料用米生産は過去に何度か取り組まれた経緯はあるものの、現在の取り組みはまったく新たな取り組みといえよう。このため、遊佐町などで開始された飼料用米プロジェクト以外の事例はまだ試行的に初めて取り組んだという程度である。

 農林水産省調査によると中間生産物の鍵をにぎる需要者不在の不安は余りない(注3)

 一方で、アンケート、聞き取り調査いずれからも助成金の多寡が生産を左右するであろうことが伺える。その意味で「米穀の新用途への利用の促進に関する法律(通称「米粉・エサ米法)」が施行され、21年度予算の「水田等有効活用促進対策」、補正予算の「需要即応型生産流通体制緊急整備事業」は飼料用米生産にとって大きな追い風となる。

 また、水田は水稲を生産するための特殊装置であり、これまでこの機能を発揮させない形で取り組まれてきた転作の限界感をアンケートの導入理由は示している。ところが「主食用米に転向しやすい」という意識が少なからずあることは、不測の事態を想定する食料自給力確保という面で良しとすることができるが、一方で主食用米市場を混乱させる要因ともなりかねない。

 いずれにしても、ほとんどが「現状維持」あるいは「拡大する」としており、生産者の期待は大きい。宮崎県は「飼料稲は助成金に関わらず生産は継続される」としており、飼料用米生産もこの域に達するために継続的な対策が望まれる。

5.低コスト生産の可能性

 聞き取り調査では低コスト技術の必要性が強く求められ、遊佐町の反収はいまだに主食用米のそれを下回り、当然のことながら価格は主食用米と比較するまでもない。しかしながら、生産者の低コストに対する意識はそれほど高いものとはいえない。

 一方、専用種的に用いている飼料稲品種やワラ専用種で子実(米)を取ろうとすると脱粒などの問題があると、聞き取り調査で指摘された。そして、アンケートでは継続するための技術条件として提示した全ての要素に対する反応に大きな差がない。

 熊谷なども指摘するように、技術的にはいまだに成熟していない(注4)。品種開発、直播、施肥管理技術などあらゆる技術開発が必要であり、技術開発が進むことで低コスト生産の可能性は高い。

6.飼料用米生産の課題

 技術開発の余地が大きくても、それが求められる技術でなければ開発は進まない。アンケートからは生産者の意識の中に、加工用米や大豆と同じ転作作物であるという認識と、一方で米を作ることすなわち主食用米生産と同じという意識の混在、いわゆる割り切れない部分が見られる。しかし、酒田市の回収率は生産者自身の強い期待を物語る。

 この割り切れない部分を整理し、水田で生産するに適した飼料作物という意識を生産者が持てるよう誘導するためには政府による継続的な対策とともに、国民の期待そして実需者との強い連携が必要であろう。

追記 飼料用米プロジェクト関係者及び今回調査に協力していただいた関係者に記して謝意を述べる。


  (注1) 「飼料用米」、「飼料米」という表記が混在している。遊佐町等で開始された飼料用米
       プロジェクト当初にもいずれの表記にすべきかの議論があった。そこでは飼料専用種の米
       であれば「飼料米」であろうが、以前の取り組みでもトラブルがあったように米は用途を特
       定することが難しいと考えられ、明確に区分を行う必要がある。意識的に区分を行ってい
       るということを示すために「飼料用米」とすべきであるとして、当初から「飼料用米」を用いて
       いる。本稿ではこれに準拠する。

  (注2) 飼料用米プロジェクトについては小沢亙「エサ米とこめ育ち豚が紡ぐ協同の和」(『社会運
       動』、328、2007年)、小沢亙「食料自給率向上を目指したフードシステムの主体関係と
       成立条件〜遊佐町・平田牧場・生活クラブ〜」(『フードシステム研究』、第15巻第2号、
       2008年)、小沢亙「平田牧場への飼料用米の供給〜山形県遊佐町が目指した食料自
       給率向上〜」(『養豚の友』、477、2008年)、新田嘉七「飼料用米の生産・利用につい
       て」『日本農業の動き166 食料自給率を問う−「40%」で大丈夫なのか−』(農林統計
       協会、2009年)で紹介されている。筆者は幸運にも当初からオブザーバーとして参加して
       いる。 なお、本稿執筆後に、多くの関係者の手によって、小沢亙・吉田宣夫編「飼料用
       米の栽培・利用〜山形県庄内の取り組みから〜」(創森社、2009年)が出版された。

  (注3) 農林水産省畜産振興課『飼料作物と飼料用米をめぐる状況』(平成21年2月)に示され
       た「飼料用米の利活用に取り組むモデル集団に対する意向調査(暫定版)」において47件
       中39件で「飼料用米給与畜産物の顧客」が存在するとしている。

  (注4) 熊谷宏・大谷忠編著『飼料米の生産と豚肉質の向上−飼料自給率の改善と資源循環
       型地域の構築に向けて−』(農林統計出版、2009年)。


元のページに戻る