調査・報告 学術調査  畜産の情報 2013年11月号

コントラクターを起点とした
自給粗飼料の流通圏域計測モデルの構築

九州大学大学院農学研究院 助教 森高 正博


【要約】

 本研究の目的は、コントラクターを起点とした流通圏域計測モデルの構築を行うことにある。そこで、まず、社団法人宮城県農業公社(現 公益社団法人みやぎ農業振興公社)における稲WCSの広域流通の事例を調査した。事例では、ストックヤードを経由した流通体系が取られている。この理由として、県内および県外への流通が広域化してきただけでなく、小規模な稲作農家、条件の悪いほ場が飼料稲生産に参入してきたことによるストックヤードの活用の必要性という面も指摘できる。その中で、物流に伴う費用は、稲WCSの生産費と同等あるいはそれ以上の費用となってくるものであることが示され、物流の最適化を図る重要性が高いことが明らかとなった。

 物流費用の最小化問題の構築において、物流費用の内訳に留意すると、内生変数としてトラック走行および荷役作業を明示化することが重要である。また、物流における規模の経済性を明示的に分析するため、トラックサイズの違いも明示的にモデルに含めることが重要である。本研究では、これらを踏まえた物流費用最小化問題を構築した。そして、需要関数、供給関数と連動させ、流通圏域計測および最適なロール購入・販売価格を導出する手順を提示した。

1.はじめに

 稲ホールクロップサイレージ(WCS)は、耕種農家が従来の作業体系で栽培が可能であり、また、手厚い助成に支えられて急速にその生産が拡大した。稲WCSは生産主体である耕種農家と利用主体である畜産農家が分離しているため、必然的に流通の必要性が生じる。近年は、収穫作業を受託するコントラクターによって、県内だけにとどまらず、県域を越えた広域流通が行われるようになっている。

 しかし、広域流通する場合、稲WCSのロール(以下、「ロール」という。)の生産費用と同等あるいはそれ以上に流通費用が掛かってくる。そのため、効率よい物流体系を築くことが重要である。また、所与の経済環境の下で、どこまで流通圏域を広げることが可能か見極める必要も出てこよう。本研究は、そのための分析ツールとして、コントラクターを起点とした流通圏域計測モデルの構築を行うことを目的とする。

2.研究方法

 国内粗飼料の広域流通については事例が限られるため、研究蓄積がなされていない。事例的に紹介されたものが少数ある程度である(注1)。本研究では,以下の通り調査・分析を行う。

 まず、稲WCSの広域流通を行っている事例として、社団法人宮城県農業公社(現 公益社団法人みやぎ農業振興公社。以下「公社」という。)を取り上げ、そこでの広域流通への取り組み状況について整理する。そこから、モデル構築を進める上での留意事項を抽出する。

 次に、流通圏域の分析方法であるが、生産するほ場と利用する畜産農家が広域分散していることを念頭に置く必要があり、従来の商圏分析の手法は利用できない。また、供給と需要の変化が流通圏域の広さにどう影響するか分析できるようにする必要もある。そこで、計測される流通圏域および流通量は、「その物流費用が最小化されていること」、および「耕種農家の供給量と畜産農家の需要量が均衡していること」という2つの条件を満たしたものとして得られるよう分析枠組みを設定する。

 前者の条件については、生産するほ場と需要する畜産農家が広域分散していることに適切に対応するために、ほ場と畜舎およびストックヤードそれぞれの地点および地点間距離を明示した物流費用最小化問題を設計し、これを解くことにする。この問題は線形計画問題あるいは整数計画問題として定式化される。

 後者の条件をさらにその中で同時に考慮しようとすると、問題が非線形化・複雑化・大規模化する。そこで、後者の条件を満たす方法としては、繰り返し計算によって最適な均衡状態を探索する手順を提示することにする。

 なお、本研究におけるコントラクターは公益的な視点に立って活動し、また、その際、地域内(県内)と地域外(県外)を差別しないものと考える。それとは異なり、コントラクターが、県内の流通をより重視する立場に立つという場合もありえる。ただし、本要約版においては、この場合の分析は割愛する。

注1:福田晋編著・日本草地畜産種子協会著『コントラクター つくり方 活かし方』中央畜産会、2008年における紹介事例である(有)坂上芝園(当時)など。

3.調査事例における広域流通システム

1)調査事例の概要

 宮城県は平成22年の農業産出額1679億円のうち、米が667億円(約40%)、畜産が640億円(約38%)と、農業分野において米と畜産に特化した県である。そうした中で、稲WCSの生産量・流通量の多い県である。稲WCSは栽培までは耕種農家側で通常作業として行うことが可能であるが、収穫においてロール・ラップ体系を取るため、専用作業機械を必要とし、公社は2001年度より稲WCSの収穫作業受託を行ってきた。

2)広域流通の取り組み

 生産された稲WCSのロールは耕種農家から畜産農家へ直接販売あるいは堆肥とのバーター等で流通することも多いが、2005年度からは公社による斡旋事業も開始されている。現在、斡旋事業は、作業を委託した耕種農家から、公社がほ場渡しでロールを買い取り、畜産農家の畜舎渡しでロールを販売するというものである。2011年度からの取引価格は、ほ場でのロール購入価格が2,400円/ロール、県内畜産農家に対しては、通常のロールであればほ場渡しで2,500円/ロール、畜産農家の庭先渡し(畜舎渡し)で4,000円/ロールで販売している。細断型ロールの場合は、それぞれ300円高い価格での販売となっている。また、県外の畜産農家に対してはその輸送費用が上乗せされ、配送距離と従来型・細断型の違いによって畜舎渡しで4,500円〜6,200円/ロールで販売されている。

 公社の収穫作業受託によって生産されたロール数については、委託農家から周辺畜産農家への直接販売(地産地消)と公社による斡旋ともに増加してきている。特に、斡旋によって広域流通するロール数はより急激な増加を示しており、その割合は年々高まってきている(図1)。また、その斡旋ロール数は県内仕向け、県外仕向けとも同様に伸びてきているが、県外の方が一件当たりの斡旋ロール数が大きいことが分かる(図2)。これは、県外の斡旋先の畜産農家の規模が大きいという側面以外に、県外の斡旋先には、農家グループや農協など、複数の畜産農家をグループ化して1カ所の窓口で購入しているケースがあり、そのため1件当たりロール数が大きいという面もある。
図1 公社における稲WCS収穫ロール数と流通状況

資料:宮城県農業公社資料より作成
図2 公社における稲WCSの斡旋状況

資料:宮城県農業公社資料より作成

3)ストックヤードへの搬入作業について

 公社の斡旋事業において、分散して少量のロールを生産する各ほ場から、年間を通して大量に利用する畜産農家までロールを配送するために、県内に7カ所のストックヤード(一時保管場所)が設けられている。

 写真1〜4は、近隣30ヘクタールの稲WCSを美里町小牛田地区のストックヤードへ搬入する作業中のものである。作業は、ほ場側での積み込みのためにローダー1台、ローダーが入りにくい所での積み込みのためにラッピングマシーンが1台、ストックヤード側で積み下ろしのためのローダーが1台、ほ場とストックヤードをピストン輸送する2トントラックが4台(1台当たり最大3ロールを積載)、作業機械輸送のための10トントラック1台が導入される。人員は、各機械1台に1名、計7名で作業にあたっている。作業期間中は、ほ場に作業機械を残して作業を続けるため、日々の機械倉庫とほ場・ストックヤード間の移動は発生しない。なお、大型トラックは作業機械輸送の翌日から畜産農家への配送にも使われる。
写真1 ほ場から2tトラックへのロール積み
込みとストックヤードへの輸送
写真2 稲WCSをストックヤードへ搬入する
    作業(宮城県美里町小牛田地区)
写真3 平成24年度にロールへ貼付された
    トレーサビリティ用ラベル
写真4 畜産農家庭先へのロール搬送と作業
    機械輸送等に利用される10tトラック

4)ロールの流通経費

 ほ場からストックヤードへの搬入、および畜産農家への配送は多くの場合、公社によって行われ、それはロールの売買差益によって賄われている。公社が行った稲WCSの斡旋事業に係る経費に関する試算結果を示すと以下の通りである。現在のロール当たり収入は4,195円であり、ロール購入金額は2,400円であるので、この売買差益1,795円でロールの物流費用を賄わねばならない。

 10トントラックでほ場から畜舎へ効率よく直接配送できた場合には、ストックヤードを経由する必要がなく、ロール当たり物流費用は1,762円となり、売買差益で賄えることが分かる。一方、近年では、稲WCSの作業委託面積の拡大に伴い、面積の小さなほ場や、大型作業機械の乗り入れや大型トラックの横付けなどができないなどの条件の良くないほ場も増えており、ストックヤードを経由した流通へと切り替わってきた。ストックヤードを経由した場合、ストックヤードまでの運搬、ストックヤードでの積み下ろしの追加的な作業が発生する。そのため、物流費用の試算結果は3,724円/ロールへと増加し、現在の販売価格では流通経費を賄うことができないことになる。

 後者では、ロール販売価格に占める物流費用の割合は6割を超えており、広域流通において流通費用削減が重要な課題となることが分かる。

4.物流費用最小化モデル

 物流費用の内訳に留意する場合、物流費用最小化問題を構築するためには、内生変数としてトラック走行および荷役作業を明示化することが重要である。また、物流における規模の経済性を明示的に分析するため、トラックサイズの違いも明示的にモデルに含めることが重要である。本研究で構築した物流費用最小化モデルについては、独立行政法人農畜産業振興機構ホームページで公表している平成24年度畜産関係学術研究委託調査報告(以下「平成24年度学術調査報告」という。)を参照していただきたい(http://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000027.html)。

5.流通圏域計測の手順

 需要関数、供給関数と連動させて流通圏域を計測する手順の概略は次の通りである。

 第1に、供給関数を所与として、ロールの買取価格を低い水準で設定して、その時の地点別の供給量を求める。第2に、需要関数を所与として、そこで求めた供給量を超えない範囲で、最大の需要量が得られるようにロールの販売価格を求める。第3に、第1、第2の手順で得られた地点別の供給量、需要量を前提として、物流費用最小化問題を解き、ロール当たりの最少物流費用を求める。第4に、ロールの買取価格を少しずつ上げながら、第1から第3の手順を繰り返し、ロールの販売価格がロールの買取価格と物流費用の合計をちょうど賄うような水準になった時点で、計算を終了するというものである。詳細は平成24年度学術調査報告に示す。

 こうして得られた買取価格、販売価格、地点別の供給量・需要量、物流費用が、流通圏域全体の経済厚生を最大化するような均衡水準となる。そして、需要が発生した地点によって流通圏域が構成されることになる。前提となる需給状況や、物流経費の内訳等が変化すると、この流通圏域も変化していくことになる。

6.おわりに

 近年の国際的な穀物価格の上昇と高止まりの中で、国産粗飼料の利用拡大は大家畜の畜産経営において喫緊の課題である。近年の手厚い助成をうけて、国産粗飼料生産体制はコントラクターを通して、各地域に定着しつつある。ただし、そのほとんどは地域内での流通である。しかし、本来、地域内だけで需給がマッチするということはまれである。国産粗飼料の増産および生産効率化を進める上で、粗飼料供給の過剰地域と過小地域をつなぐ広域流通体制の構築の必要性は、今後高まってくると考えられる。

 国産粗飼料の広域流通においては、コントラクターが中間流通業者としてロールを買い取ったり、あるいは自らロールを生産した上で広域に販売・流通させるという状況が、現実的であると思われる。本研究で構築した流通圏域測定モデルは、広域流通を試みるコントラクターの視点から、広域流通圏における需給実勢を踏まえた価格および自らの商圏(流通圏域)を推計することを可能とするものである。また、今後、輸入粗飼料等の価格変化、自給粗飼料生産・流通への助成金体系の変更があった場合に、価格や商圏をどのように変更していくべきかというシミュレーションにも活用できるものである。

 また、本研究では、稲WCSにおける広域流通の事例を調査した上で、流通圏域計測モデルを構築したが、このモデル自体は、デントコーンや牧草ロールの広域流通についても適用可能である。

 最後に、本研究で提示した流通圏域計測モデルを実証的に活用する場合、必要とされるデータの整備について述べておく。必要とされるデータは主に次の4点である。第1に、輸送トラックおよび荷役作業機械の運用経費である。これは、事例においては経理情報等から算定可能であった。第2に、各地点の位置情報(住所)である。これを元に地点間の輸送時間行列が構築される。第3に、各畜産農家の需要関数である。これは、複数年を通しての補助金受給状況と購入価格、購入量について各畜産農家別にデータを集積した上で計測する必要がある。同様に第4に、各ほ場における供給関数である。これも、複数年を通しての補助金受給状況と供給量について各ほ場別にデータを集積した上で計測する必要がある。これらデータの整備と実証は今後の課題である。

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