【要約】
韓国の畜産業は、いまだ生産拡大を続ける一方で、日本と同様にトウモロコシなどの飼料原料を輸入に依存しており、その輸入量は穀物の世界需給に影響を与えるまでになっている。
また、昨今の国際穀物相場の高騰による飼料高に加え、口蹄疫の沈静化から飼養頭数が急速に回復したため、牛肉・豚肉価格は供給過剰により低迷している。このため、収入・支出の両面から、畜産農家の収益性は悪化している。この状況下で、配合飼料製造事業者は、安価な配合飼料を求める生産者の要望に応えるため、品質よりも価格面に重きを置き、価格に応じて調達先を変えている。
こうした、臨機応変な調達方法が配合飼料価格に与えた影響について、日本との比較を交えて分析した。併せて、2013年から新たに開始された飼料購入資金支援事業など、政府による支援事業の現状について調査し、整理を行った。
この結果、臨機応変な原料調達と、利便性の高い港湾環境などが配合飼料価格の低減に寄与していることは確認されたが、高い為替リスクを包含していることも把握できた。また、政府による支援事業は、財政難から中長期的な取り組みは期待できず、短期的な取り組みも間接的なものにとどまっており、畜産農家は今後とも厳しい状況が続くものとみられる。
1.はじめに
韓国の畜産業は、日本と同様、飼料原料の大半を輸入に依存している。2012/13年度(8月〜翌9月)の世界の国別穀物輸入量を見ると、トウモロコシは日本に次いで世界第2位(850万トン)、小麦は第6位(544万トン)、大豆は第9位(115万トン)と上位を占めており、今や韓国は、世界の穀物需要に影響を与える飼料原料輸入大国となっている(表1)。
表1 韓国の穀物の輸入量 |
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資料:米国農務省「Grain: World Markets and Trade(2013年8月)」
米国農務省「Oilseeds: World Markets and Trade(2013年8月)」
注 1:輸入量には食用、飼料用、その他用途を含む
注 2:大豆は一般的に穀物ではなく、油糧種子に分類されるが、
便宜上、穀物として取り扱う |
また、韓国では、2010年の口蹄疫発生により、豚肉を中心に畜産物の生産量は一時的に落ち込んだが、口蹄疫沈静化後、国内生産の急速な回復で、供給過剰となり、卸売価格は低迷している。このような中で、近年の国際的な飼料穀物相場の高騰に伴う飼料コストの上昇と相まって、韓国の畜産農家の収益性は、悪化している(図1)。
図1 肥育豚および韓牛の1頭当たりの収益性 |
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資料:韓国統計庁「畜産物生産費」
注 1:円−ウォン換算レートは年平均TTS
注 2:韓牛とは、肉用牛の飼養頭数の9割以上を占める品種で、褐毛和種の
原種の一つとされている |
このため、韓国の配合飼料製造事業者などは、安価な飼料原料を求めるため、最低限の飼料品質基準を確保した上で、原料供給先国の多様化や代替品への切り替えなどを臨機応変に行っている。
また、政府も、2012年から輸入飼料原料品目の無税枠拡大など、飼料穀物価格高騰への対策を講じており、2013年からは、畜産農家の経営悪化に対応し、新たに飼料購入資金支援事業が実施されることとなった。
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写真:韓牛 |
本稿では、韓国の畜産物および飼料需給の動向、飼料原料の調達方法などの現状を踏まえ、畜産農家に対し日本に比べ安価な配合飼料の供給を可能にしている要因を検証するとともに、韓国における新たな飼料価格高騰への対策について報告する。
なお、本稿中の為替レートは、下記の値を用いた。
円−ウォン換算レート |
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注:2012年までは年平均、2013年は8月末のTTS |
2.韓国の畜産物の需給動向
(1)畜産物の生産動向
畜産農家戸数は、高齢化や担い手不足などにより年々減少するものの、政府による畜産業の近代化に向けた支援もあり、経営規模の拡大の進展により飼養頭羽数は増加傾向にある(表2)。
表2 農家戸数と飼養頭羽数の推移 |
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資料:韓国統計庁「畜産統計」
注 1:2012年までは、12月末時点、2013年は6月末時点の値
注 2:肉用牛は、韓牛、交雑種、乳用種雄の合計である
注 3:養鶏には、採卵鶏を含む |
また、国内での好調な畜産物需要を背景に、生産量も順調に増加している(表3)。
表3 食肉供給量 |
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資料:韓国農業協同組合
「MATERIALS ON PRICE, SUPPLY & DEMAND OF LIVESTOCK PRODUCTS」
注 1:部分肉ベース
注 2:2012年は暫定値 |
なお、豚肉については、口蹄疫の影響により、生産量は2011年に大きく減少したものの、口蹄疫沈静化により、2012年には、2010年水準まで回復している。
(2)畜産物の消費動向
韓国の1人当たりの年間食肉消費量を見ると、牛肉、豚肉、鶏肉ともにおおむね増加傾向で推移している。
食肉消費に占める割合は、豚肉が47パーセントと最も多く、2012年の豚肉の1人当たり年間消費量は20.3キログラムと、日本(11.9キログラム)の1.7倍となっている(図2)。
図2 1人当たりの年間食肉消費量 |
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資料:韓国農業協同組合
「MATERIALS ON PRICE, SUPPLY & DEMAND OF LIVESTOCK
PRODUCTS」
注 1:部分肉ベース
注 2:( )書きは、2012年の日本の1人当たりの年間消費量 |
韓国の人口は現在も増加傾向で推移している。年齢別人口構成を見ると、日本は40代以上の世代が人口の過半数を占める一方で、韓国は30代までの若い世代が人口の過半を占めており、韓国の畜産物の消費は、今後も右肩上がりの方向を示していくと想定される(図3)。
図3 韓国および日本の年代別総人口(2012年)
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資料:韓国統計庁「韓国統計年鑑」、総務省「人口推計」 |
(3)畜産物自給率
韓国の畜産物自給率(重量ベース)については、牛肉が49パーセント(日本42%)、豚肉が73パーセント(同53%)、鶏肉が78パーセント(同66%)と、いずれも日本に比べ高い水準にある。中でも豚肉、鶏肉は高い自給率を保っているが、これらはサムギョプサル(豚のバラ肉を焼いて食べる料理)やサムゲタン(小型の丸鶏の煮込みスープ)などに代表される韓国伝統料理に用いられており、食肉は国産志向が強いことも要因にあると考えられる(図4)。
図4 品目別自給率(重量ベース)
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資料:韓国農業協同組合
「MATERIALS ON PRICE, SUPPLY & DEMAND OF LIVESTOCK
PRODUCTS」
注:( )書きは、2012年の日本の自給率 |
3.韓国の飼料需給動向
(1)穀物の需要動向
韓国の穀物需要は、バイオエタノール向けがわずかであるため、大別すると食用向けと飼料用向けになる。
食用向け消費量について見ると、直接消費向けは、2000年の616万トンから2011年の506万トンと減少する一方で、食品加工向けは、2000年の385万トンから2011年の469万トンへと増加している。女性の社会進出や食生活の多様化を背景に、ここ10年間程度で消費形態に変化が起きている。
一方、飼料用向け消費量は、1980年代の畜産物の生産拡大に伴い急激に伸びたが、1995年の世界貿易機関(WTO)への加盟を契機に、以後10年間は、畜産農家の廃業などにより、いったんは下落傾向を示した。近年は大規模化の進展により、再び増加傾向となり、2011年の消費量は1054万トンと過去最大となっている(図5)。
図5 用途別穀物の消費量 |
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資料:韓国農村経済研究所(KREI)の資料を基にALIC作成
注:自給率は、重量ベース |
なお、韓国農村経済研究所(KREI)は、欧米との自由貿易協定(FTA)による経済開放の影響は、国産志向の強さが背景となって、しばらくの間、見られないとの見通しを行っている。また、畜産経営の規模拡大により、今後も飼養頭羽数は一定数を保つと見込んでおり、950万〜1000万トンの飼料用需要は、引き続き堅持されると予測している。
(2)飼料用穀物の自給率
穀物の飼料用向け需要は増加している一方で、自給率は、年々低下傾向で推移しており、2011年の飼料穀物の自給率は22.6パーセントとなっている(表4)。
表4 品目別穀物の需給状況と自給率(2011年) |
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資料:韓国農村経済研究所(KREI)の資料を基にALIC作成
注 1:自給率は、重量ベース
注 2:大豆、ばれいしょは穀物に分類されないが、便宜上、穀物として取扱う |
食用・飼料用別の穀物の自給率は、公表はされていないが、飼料用需要量のうち、輸入が占める割合は98.6パーセントとなっており、飼料穀物の自国生産は皆無に等しい。
品目別の自給率を見ると、大豆で6パーセント、トウモロコシおよび小麦については1パーセント程度と低く、韓国の畜産は、北米や南米などの飼料用原料供給国の生産動向に直接的に左右される構造となっている。
なお、韓国では、コメは人の主食であるという概念が強く、飼料用には利用されていない。
(3)配合飼料生産量の推移
韓国の配合飼料生産量は、穀物の飼料用需要増を包含しながら、1980〜90年代にかけて飛躍的に伸びた。1995年から2005年の間は、1500万前後で推移したものの、2010年には1700万トンを超え、2012年は過去最大の1848万トンとなった。これは、日本の生産量(2012年度:2369万トン)の約8割に達する水準である。
また、2013年上半期(1〜6月)の配合飼料生産量は、931万トンとなっており、6月時点の飼養頭数を加味すると、2013年は1862万トンと生産記録の更新が見込まれている(図6)。
図6 配合飼料生産量 |
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資料:韓国農林畜産食品部(MAFRA)「配合飼料生産量」
注:2013年は1〜6月まで実績、年間はALIC試算値 |
配合飼料の生産状況を畜種別に見ると、韓国は、豚肉の生産量が最も多いことから、養豚用配合飼料生産量が最も多くなっている。次いで養鶏用の生産量が多かったが、肉用牛の増頭に加え、近年では肥育牛生産者が品質の高い牛肉生産を目指し、濃厚飼料の利用を増やしていることから、2010年からは肉用牛向けが養鶏用を上回って推移している。
また、2011年は口蹄疫の影響により、養豚用の配合飼料生産量は前年を大きく下回ったが、2012年の口蹄疫の沈静化を契機に、経営を再開した養豚農家が、繁殖母豚を大量に導入し、豚の飼養頭数を増やした。このため、2012年の養豚用の配合飼料生産量は、前年比26.9パーセントと大幅に伸びている(図7)。
図7 畜種別配合飼料生産量 |
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資料:MAFRA「配合飼料生産量」 |
4.配合飼料原料の輸入動向
飼料穀物のほぼ全量を輸入に依存している。植物性タンパク質(大豆かすなど)についても、その相当量を輸入に頼っている。
韓国の全畜種を合せた配合飼料原料の国産・輸入品の内訳を見ると、国産原料割合は24.1パーセントであるが、そのうち、飼料添加物などの「その他」が9.5パーセント、次いで「糟糠 類(小麦ふすまなど)」が7.1パーセント、「植物性タンパク質」が5.2パーセントとなっている(図8)。
図8 配合飼料原料の国産・輸入品目別内訳(2012年)
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資料:韓国飼料協会の資料を基にALIC作成
注:全畜種の配合飼料原料の使用合計から算出 |
配合飼料原料について、多くを輸入に依存している中、配合飼料製造事業者は、より安価な配合飼料を求める生産者の声に対して、品質よりも価格面に重きを置き、価格に応じて供給国を変えることにより、輸入調達価格を抑えている。
この動きは、飼料原料の国際相場が高値で推移している近年、顕著に表れている。ここで、主な配合飼料原料であるトウモロコシ、小麦、大豆かすについて、近年の輸入の動向を探ってみる。
(1)トウモロコシの輸入動向
2012年のトウモロコシの輸入量は604万トンで、うち米国産が272万トン、ブラジル産が155万トン、アルゼンチン産が102万トン、ウクライナ産が44万トン、その他が31万トンであった。
また、2013年1〜6月までの輸入量は314万トンで、うちブラジル産が58.9パーセント(185万トン)、アルゼンチン産が35.7パーセント(112万トン)で、米国産はわずか0.08パーセント(2,368トン)である(図9)。
図9 国別トウモロコシの輸入量
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資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HSコード:1005.90.1000 |
2011年までの主要輸入先は米国であり、その輸入量は8割を超えていたが、2012年6月末の米国の干ばつに端を発したシカゴ相場(CBOT)の高騰を受け、調達先は米国産より安価な南米産へシフトしている(図10)。
図10 2012年の月別トウモロコシの輸入量(米国産および南米産)
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資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HSコード:1005.90.1000 |
(2)小麦の輸入動向
2012年の小麦の輸入量は324万トンで、うち豪州産が127万トン、米国産が119万トン、インド産が51万 トン、その他が28万トンとなっている(図11)。また、2012年はトウモロコシの価格高騰に伴い、その代替品として、その輸入量は、前年比1.5倍に増加した。
図11 国別小麦の輸入量
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資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HSコード:2011年までは1001.90.9020、2012年からは1001.99.1090 |
小麦の調達においては、2008年および2009年と供給量の95パーセント以上を占めていたウクライナが、2010年10月から1年間、自国の不作を理由に輸出を制限(注1)したため、代わりの供給国として、2010年上半期はカナダ産、下半期はEU産、2011年上半期はカナダ産、下半期は豪州産、2012年上半期は米国、下半期は豪州産、インド産と、価格に応じてその調達先は激しく変化している(図12)。
(注1)ウクライナの輸出制限は、2010年10月〜翌年6月まで輸出量割当、2011年7〜10月に輸出関税を課した
図12 四半期別小麦の輸入量
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資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HSコード:2011年までは1001.90.9020、2012年は1001.99.1090
注:四半期で10万トンの輸入量があった国を掲載 |
(3)大豆かすの輸入動向
2012年の大豆かすの輸入量は154万トンで、うちブラジル産が84万トン、アルゼンチン産が47万トンと、南米産(131万トン)が全体の85パーセントを占めている(図13)。供給国は限られており、主な輸入先国の変化はないが、ここ数年、比較的輸入価格の高い米国産の割合が減少している。
図13 国別大豆かす輸入量
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資料:GTI社「Global Trade Atlas」
HSコード:2304.00.0000 |
(4)飼料原料の調達方法
このように、配合飼料原料の調達先を流動的に変更できる背景として、韓国は、先物市場におけるリスクヘッジを狙った長期契約型の取引形態ではなく、スポット的な現物取引が主流であることが挙げられる。また、その調達は、国内の外資系穀物商社が配合飼料製造事業者の要望を取りまとめ、一括的な競争入札方式で行われている。
なお、商社が提示する価格(C&F)が、配合飼料製造事業者の希望価格に満たない場合は、成約を見送ることもある。
5.韓国と日本の配合飼料価格差とその要因
(1)日本の配合飼料価格との比較
一般的に、日本と同じ飼料原料輸入国であるにもかかわらず、韓国の配合飼料価格は日本よりも安価であると言われている。ここで、韓国と日本の配合飼料価格の差について、韓国で最も生産量の多い養豚向け飼料を例に検証してみる。
まず、2011年の養豚用の肉豚ステージの配合飼料価格で比較すると、日本がトン当たり54,940円であるのに対し、韓国は同44,246円と日本の8割程度の価格である。2005〜2011年の7年間のトレンドを見ても、韓国の価格が日本に比べ2〜3割程度安いことがわかる(図14)。
図14 肉豚向け配合飼料価格
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資料:公益社団法人配合飼料供給安定機構「飼料月報」およびMAFRA
「配合飼料の工場価格」
注 1:円−ウォン換算レートは各年の平均TTSレート。
注 2:日本および韓国ともバラものの工場売渡価格。
注 3:韓国の数値は体重50kg以上の肥育豚に用いられる配合飼料価格。 |
また、他の畜種用についても、いずれも韓国の方が安価である(表5)。
表5 育成ステージ別配合飼料価格(2011年)
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資料:公益法人配合飼料供給安定機構「飼料月報」およびMAFRA「配合飼料の工場価格」
注:日本および韓国ともバラものの工場売渡価格。 |
(2)配合飼料価格差の要因について
この価格差の大きな要因は、主に2つあると推察される。1つ目は、配合飼料に使用する原料の栄養価が日本と比較して低いこと、2つ目は、配合飼料の原料割合が日本と大きく異なることである。
(1)飼料原料の成分規格
韓国では、トウモロコシなど配合飼料に用いる原料の成分や配合飼料の可消化エネルギー(DE)などの栄養価が、「飼料管理法(2008年3月21日付け法律第8931号)」に基づく「飼料公定書(2008年5月2日付け第2008-13号農林水産食品部告示)」に規定されており、その基準は日本よりも低いものとなっている(表6)。
表6 養豚用飼料原料の成分規格(原物中)
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資料:MAFRA「飼料公定書」、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構編
「日本飼料標準2009」、農林水産省「飼料の公定規格」
注:可消化エネルギーの1Mcal(メガカロリー)=1,000kcal。 |
このため、韓国では、使用するトウモロコシ、小麦、大豆かすなどの飼料原料の品質を下げ、より安価なものを調達することで、配合飼料価格を日本よりも安く抑えることが可能となっている(図15、図16、図17)。
図15 トウモロコシの輸入価格比較
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資料:GTI社「Global Trade Atlas」
注:円−ウォン換算レートは、各年平均TTS |
図16 小麦の輸入価格比較
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資料:GTI社「Global Trade Atlas」
注:円−ウォン換算レートは、各年平均TTS |
図17 大豆かすの輸入価格比較
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資料:GTI社「Global Trade Atlas」
注:円−ウォン換算レートは、各年平均TTS |
また、韓国の「飼料公定書」には、±5パーセントの基準許容幅が規定されており、これを基に養豚用配合飼料の可消化養分総量(TDN)の最小値を算出すると、66.9パーセント(注2)と、日本の肉豚肥育用配合飼料の73.0パーセント(注3)に比べて低くなっている。
(注2)韓国の飼料公定書に記載されている養豚用配合飼料の可消化エネルギー(DE)の基準値は、3.1Mcal/kg。DE基準値の±5%が許容値である。DEから導き出す可消化養分総量(TDN)はDE/0.0441(換算係数)で、最低基準値は3.1Mcal/kg(DE)/0.441×0.95=66.9%となる。
(注3)日本の「飼料の公定規格(昭和51年7月24日付け農林省告示第756号)」に規定されている値。
(2)日本と異なる配合飼料の原料割合
養豚向け配合飼料の原料割合を見ると、その構成は、韓国と日本で大きく異なっている(図18、図19)。
図18 養豚用配合飼料の原料割合(韓国)
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資料:MAFRA「飼料公定書」
注:キャッサバはチップまたはペレットの別の例示はない。 |
図19 肉豚肥育用配合飼料の原料割合(日本)
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資料:公益社団法人配合飼料供給安定機構「飼料月報」を基に
機構作成
注:2011年の値。 |
ここに示すのは、韓国の「飼料公定書」での例示と、日本の実際の飼料原料用飼料使用量から算出したものとの比較である。韓国のトウモロコシの割合が34パーセントと、日本の49パーセントに比べ低いことが特徴である。加えて、トウモロコシより輸入価格が2割程度安い小麦ふすまを代替品として使用しており、日本より安価に製造できる原料構成となっている。
また、表7のとおり、韓国の全畜種合計の配合飼料の原料割合を見ても、養豚向けと同様の傾向にある。韓国の2012年の配合飼料生産量は1848万トンであるが、その原料は、トウモロコシが31.6パーセント(585万トン)、小麦が17.0パーセント(316万トン)、大豆かすなどの植物性タンパク質が24.5パーセント(453万トン)、小麦ふすまなどの糟糠類が11.1パーセント(206万トン)、その他ビタミンやミネラル分などで構成されている。
日本の配合飼料の原料割合と比べても、韓国はトウモロコシの割合が少なく、小麦や糟糠類の割合が多いことが特徴的である。近年では、トウモロコシの代替品として小麦、大豆かすの代替品として、でん粉かすやパーム油かすの使用割合が増えており、このことが配合飼料価格の上昇を抑えている要因と考えられる(表7)。
表7 配合飼料の原料割合(全畜種合計)
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資料:韓国飼料協会の資料および公益社団法人配合飼料供給安定機構「飼料月報」を基に
ALIC作成 |
さらに、韓国では、日本のように独特な飼料を給与し、牛肉や豚肉の差別化やブランド化を図る取組はほとんど行われておらず、比較的画一化された配合割合による配合飼料生産が行われていることも、製造コストを下げる一因と考えられる。
6.韓国の配合飼料工場の概要
(1)配合飼料工場の生産能力
韓国の配合飼料製造事業者は、2013年1月現在、65事業者(103工場)で構成されている。このうち農協系が17事業者(28工場)、商社系(韓国飼料協会所属)が38事業者(65工場)、飼料添加物や動物医薬品製造を主たる事業としている独立系10事業者(10工場)と3つに区分される。
2012年の全工場を合わせた8時間当たりの配合飼料製造能力は3万トンであり、1日当たり20時間、年間300日で稼働したと仮定すると、最大生産能力は、2250万トンである。2012年の生産量は1848万トンであることから、まだ生産余力が残されている(表8)。
表8 2012年の地域別工場数と生産能力
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資料:韓国飼料協会の資料を基にALIC作成 |
(2)飼料輸入港の概要
韓国の飼料原料の主要輸入港は、仁川(インチョン)、平沢(ピョンテック)、群山(クンサン)、蔚山(ウルサン)、釜山(プサン)であり、サイロの保管能力は、それぞれ、90万トン、30万トン、25万トン、15万トン、10万トンで、韓国全体のサイロ保管能力は、最大170万トンである(図20)。サイロは食用・飼料用の別、輸入国別、原料品目別、積載船別に区分して最大90日間保管しており、GM品種の混入防止対策が取られている。
図20 地域別工場数と飼料輸入港
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資料:ALIC作成 |
各港とも6万載貨重量トン(パナマックス級)の大型船舶が通過できる閘門とバースを所有している。港湾は年中無休(24時間365日)で営業しているため、いつでも荷役作業が可能な状況となっている。
天候や検疫状況にもよるが、荷役はパナマックス級で最短3日で行える。この荷役作業が年中無休で行える環境も、日本に比べ韓国の配合飼料価格が安価な要因のひとつと考えられる。
これまで、飼料原料の取扱高は仁川港に集中していたが、輸送コストの低減を図る目的から、各地の工場から近い港への分散化が進んでいる。また、ソウル特別市の近郊で住宅地が増えていることから、仁川港周辺でのサイロの増設は困難なこともあり、現在、群山港において10万トンのサイロの新設が予定されている。今後は、人口が少ない群山や蔚山港の取扱高が徐々に増加するとみられている。
(3)配合飼料製造事業者の統廃合の状況
配合飼料製造事業者の企業間統廃合は、1990年後半〜2000年代初頭に盛んに行われた。中でも、大手鶏肉インテグレーターのハリムは、中小規模製造事業者の系列化を進め、2010年には市場シェア33パーセントを有する農協系列に次いで、第2位の配合飼料生産シェア(14.5%)を獲得するまでに成長している。
現在、こうした企業間統廃合の動きは、影をひそめているものの、大手事業者間では、業務提携による市場獲得の動きが出てきている。2010年に配合飼料生産シェア第3位のカーギル・アグリ・ピュリナと、第4位の大韓製糖は、業務提携を行い、飼料生産施設の共同利用などにより製造コストの低減を図っている。
7.韓国の飼料価格上昇への対策
(1)近年の配合飼料価格動向
韓国は、飼料原料を輸入に依存しているため、国際相場の高騰の影響を受け、配合飼料価格は2011年以降、高止まりで推移している。
配合飼料価格の動向を見ると、養豚用では、2010年の1キログラム当たり平均価格541ウォン(42円)に比べ、2012年では同644ウォン(47円)と19パーセント高、肉用牛では、2010年の同370ウォン(29円)に比べ、2012年では同432ウォン(32円)と17パーセント高となっており、生産コストの上昇要因となっている(図21)。
図21 配合飼料価格の推移
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資料:韓国飼料協会の資料を基にALIC作成
注:円−ウォン換算レートは年平均TTS |
また、韓国の輸入原料取引の決済は、支払時点の為替レートに大きく左右されるユーザンス(USANCE)方式(注4)がとられている。このため、支払時点で大きくウォン安に振れた場合、配合飼料製造事業者の経営努力だけでは差損を吸収できず、配合飼料価格の上昇に拍車をかけるおそれがある。
政府は、このような飼料価格の上昇に対応し、畜産農家の経営安定を図るため、短期的な対策と中長期的な対策に分けて実施している。
(注4)ユーザンス(USANCE)方式とは、最大6カ月間の信用が付与され、銀行への代金支払に猶予がある貿易金融の形式
(2)短期的な対策
(1)農家特別飼料購入資金支援事業
飼料価格高騰に対する畜産経営向けの新たな対策として、2013年5月に農家特別飼料購入資金支援事業が実施されることとなった(表9)。
表9 農家特別飼料購入資金支援計画
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資料:農林畜産食品部
注 1:農家特別飼料購入資金支援計画の養豚と養鶏は削減計画書の提出時に50%、
要件充足後に50%の融資
注 2:種鶏の削減率は不明 |
韓国では、多くの畜産農家が、金融機関から資金を借りて飼料を購入(掛取引)しているため、この事業は、金利負担額を低減することを目的としている。市中金利4.7パーセントのうち、政府が2.2パーセント、農協中央会が1パーセントを負担し、生産者の負担額は、1.5パーセントまで低減される。
この事業には、現在、供給過剰となっている国内産豚肉および鶏肉の生産を抑制する意図もあり、養豚および養鶏農家が支援を受けるには、母豚の削減や種鶏(PS)の削減が要件となっている(図22)。
図22 母豚の飼養頭数の推移
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資料:韓国統計庁「畜産統計」
注:大韓豚協会によると、2013年9月は8月末の推計値で、10%の削減目標は達成見込み |
一方、韓牛農家については、すでに繁殖雌牛削減計画が適正に進んでいることから、削減要件は課せられていない。
事業開始当初、信用力の低い生産者は、金融機関からの融資が不適合と判断されるケースもあった。政府は、これを回避するために、8月に金融機関に対して、事業参加者に関しては、個人信用評価システム(注5)の適用を除外するように指示し、これにより、資金繰りの悪化している農家まで幅広く支援が行きわたることとなった。
なお、資金の不正流用を防止するため、配合飼料代(融資金)は金融機関から配合飼料製造事業者へ入金される仕組みとなっている。
(注5)金融機関が担保をもとに個人の融資枠をはかるシステム
(2)無税枠の関税割当品目の拡大
政府は、配合飼料価格の上昇に対して、輸入飼料原料の無税の関税割当(TQ)適用品目を拡大している。2011年のトウモロコシ、大豆粒、大豆かすの3品目から、2012年は16品目、2013年は19品目と拡大し、原料調達コストの低減を図っている(表10)。
表10 無税枠の関税割当(TQ)品目
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資料:韓国関税局
注 1:トウモロコシ、大豆粒、大豆かすは、2008年から暫定的に枠内税率ゼロが適用されている
注 2:オレンジ枠が2012年から適用、緑枠が2013年から適用された品目 |
(3)飼料原料購入資金の支援拡大
配合飼料製造事業者が、飼料原料を輸入する際の資金について、政府が市中金利より低利で融資する事業も行われている。予算額は、2012年の600億ウォン(44億円)から、2013年は950億ウォン(86億円)に拡大されたが、融資金利が4パーセントと市中金利(4.7%)と差が少ないため、活用する事業者が限定的であるとの見方もある。
また、穀物を輸入する際の輸出入銀行の貸付額の拡大や貸付優遇金利、信用状(L/C)付輸入決済にかかる手数料の引き下げも行われている。
(3)検討されている中長期的な対策
(1)粗飼料生産の拡大
政府は、支援金の増額により、2014年までに粗飼料生産面積37万ヘクタールの達成を目標として掲げている(表11)。
しかし、予算措置はされているものの、具体的な支援策が示されていない上、2012年の粗飼料需要量552万トンに対して、生産量は252万トンと実際の自給率は45.6パーセントしかなく、自給率8割以上という目標の達成には到底及ばない状況である。
表11 粗飼料生産目標
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資料:KREIの資料を基にALIC作成 |
(2)先物市場を活用した輸入穀物の価格安定
現在の穀物の現物取引での調達方法は、為替レートの変動により大きな損失を被るおそれもある。このため、今後は、先物市場を利用して穀物を確保するなどのヘッジ取引を行い、価格変動性の緩和を行うことを検討しており、制度化に向けての研究を開始している。
(3)穀物類の備蓄
飼料用穀物の備蓄制度はなく、食用米のみ70万トンの備蓄を実施しており、現在、食用小麦・大豆・トウモロコシの備蓄が検討されている。朴大統領は、「飼料用の備蓄は、財政面などで厳しい。中長期的には検討する予定。」と発言しており、飼料用穀物の備蓄制度の創設の可能性は極めて低いと考えられる。
(4)海外農業開発事業の推進
配合飼料製造事業者は、海外で、穀物の直接栽培や契約栽培を進めており、韓国への輸入を開始している(表12)。しかしながら、生産実績は、5万1513トン(2010年)であり、韓国飼料協会によれば、輸出国が限られているため、実際に韓国に輸入されている数量はわずかであるとのことである。
表12 海外農業開発事業の状況
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資料:韓国農村公社海外開発サービス
注:2010年12月現在 |
今後、政府としては、政府開発援助(ODA)を活用して、さらに海外での穀物生産の推進を検討しているが、韓国への輸入には膨大な費用のかかる港湾や流通網の整備が必要であり、今後の進展は限定的であると考えられる。
8.おわりに
飼料価格高騰への短期的な対策としては、農家への直接補塡金などカンフル剤的な即効性のある対策が望まれているものの、政府の財政難もあり、融資などの間接的な支援に留まっている。また、中長期的な対策を見ても、いまだ緒に就いておらず、実行性に乏しいと言わざるを得ない。
これまで韓国内で検討されてきた、日本をモデルとした配合飼料価格安定基金制度の創設については、厳しい財政状況などから実施困難との見通しであり、今回、新たに導入された飼料購入資金支援事業も、畜産団体からは焼け石に水、といった声が多く聞かれた。
配合飼料価格の上昇に対応し、飼料穀物調達先の変更や、港湾の無休営業など流通コスト低減の取組は進んでいるものの、我が国よりも耕地面積の少ない韓国において、畜産農家が取り組むべき有効な飼料コスト低減対策は見当たらない。また、エコフィードへの取組みも、高コスト化や肉質の低下により実施が断念されているとのことであった。
さらに、飼料穀物消費地帯と化した中国に隣接し、未だ口蹄疫に対する脅威を覚えつつ、韓米FTAなどの国際化の進展により、畜産物の関税低減の方向性が示されている韓国畜産は、日本以上に厳しい状況に立たされている。
まさに、この難局を切り抜けることのできる精鋭された畜産農家が将来の韓国畜産業をけん引していくことになるであろう。 |