【要約】
アルゼンチンの生乳生産、乳製品輸出量は、乳製品国際価格の上昇や豊富な飼料穀物を背景に増加傾向にある。生乳生産量のうち、乳製品として輸出に向けられる割合は年々、増加傾向にあり、ここ数年は乳製品生産量の25パーセント程度が輸出に向けられている。国内の消費市場はすでに頭打ちの状態にあることから、アルゼンチン酪農・乳業の成長は輸出に負うところが大きい。また、経済状況の悪化が続く中で、国としても外貨獲得が喫緊の課題となっており、今後は何らかの輸出振興策が求められている。
1.はじめに
2012年に乳製品の主要輸出国であるニュージーランド(NZ)で発生した干ばつによる乳製品輸出の減少は、乳製品国際相場上昇の大きな要因となった。主要な乳製品供給国および地域(EU、米国、オセアニア)が限られる中、新興国などの乳製品需要の高まりなどを背景に、今後、国際需給のさらなるひっ迫が予想されている。このため、価格や供給先の多角化などの観点から、アルゼンチンやウルグアイといった南米を新たな輸入先として視野に入れ始める国々も出てきている。
中でもアルゼンチンの生乳生産、乳製品輸出量は、高騰する国際価格や豊富な飼料穀物を背景に増加傾向にあり、今後の国際乳製品市場への供給拡大が期待されている。また、生産、輸出が順調に伸びた場合、近い将来、豪州に勝る乳製品輸出国になると見込まれている。このようなことから、新たな乳製品供給国としての同国の現在の生産、輸出動向について報告するとともに、今後の見通しを報告する。
2.生乳の生産体系
(1)アルゼンチン酪農の概要
アルゼンチンの酪農は基本的に放牧主体であり、乳牛の約90パーセントはホルスタイン種である。主な生産地はパンパ地域(コルドバ、サンタフェ、ブエノスアイレス、エントレリオス、ラパンパの5州)に集中しており、この地域の生乳生産量は、アルゼンチン全体の95パーセント(2012年:聞き取りベース)を占めている。また、新興酪農生産地域として、北部のサルタ州やブエノスアイレス州の南部、コロラド川流域のかんがい地域などでの生産も増えており、生産地域は南北2,000キロメートルの範囲に及ぶ。経営体の規模もさまざまであるが、アルゼンチン国家動植物衛生機構(SENASA)の報告(2012年)では、酪農家1戸当たりの平均飼養頭数は154頭であり、飼養頭数20頭以下の経営体は全体の7.3パーセント、また500頭以上の経営体は同3.5パーセントを占めている。ここ数年、小規模生産者を中心に、より収益性が高いとされる大豆生産への農地転換が拡大しているとされ、全体的な酪農家戸数は減少基調にある。一方、規模拡大により1戸当たりの飼養頭数は増加傾向にあり、全般的に経営の集約化が進んでいる。
生産者乳価は、91年以降の自由経済の導入により、乳業メーカーが独自の基準で決定してきたが、2011年に成分の品質特性や衛生基準に基づく支払い制度が創設された。これは乳業メーカーが酪農家に支払う価格を安定させることを目的としており、政府が毎月決定する基本乳価に、乳業メーカーが生産量、保存温度、たんぱく質、細菌数などを考慮して価格の加減を行うものである。従来は乳価の20パーセントがメーカーの独自設定部分とされていたが、2013年8月に制度が改正され、独自設定部分は5パーセントとなり、生産者間での乳価の均一化が図られる形となった。
表1 生産主要指標 |
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資料:CIL |
(2)生乳生産動向
アルゼンチンの生乳生産は、乳牛飼養頭数が減少傾向で推移する中、乳製品国際価格の上昇などを背景に、従来の放牧に加え、濃厚飼料を用いることで1頭当たり乳量の拡大を図ってきた。2012年の生乳生産量は1133万キロリットルを記録し、そのうち78パーセントが国内消費に、22パーセントが輸出用に向けられた。国際酪農連盟(IDF)によると、これは世界の生乳生産量の1.8パーセントを占め、世界第14位の生乳生産国に位置している。
2013年は、生産者乳価が前年と同水準で推移する中、インフレによる賃金や生産資材などの価格上昇を受け酪農家の収益が悪化した。こうした状況下で、濃厚飼料の給与量削減が行われて1頭当たり乳量も低下し、生乳生産量は前年を1.4パーセント下回る結果となった(図1)。また、2013年は、例年に比べて雨が多く、牧草の生育状況が悪かったことも乳量低下の要因となった。
なお、International Farm Comparison Network(IFCN)が公表した2012年の報告によると、アルゼンチンにおける生乳100キログラム当たりの生産コストは20米ドル(2,060円:1米ドル=103円)から30米ドル(3,090円)であり、主要生産国であるNZ、EU、米国、豪州と比較して最も低いことから、国際市場での価格競争力の発揮が期待されている。
図1 生乳生産量の推移
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資料:アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)
注:2013年は速報値 |
3.牛乳・乳製品生産動向
(1)乳製品の生産状況
国内で生産される生乳の76パーセントは乳製品生産に向けられ、自家消費を除いた残りの17パーセントが飲用に向けられる(図2)。乳製品の生産はチーズとヨーグルトで約半数以上を占め、残りを輸出向けが中心となる粉乳やホエイなどに仕向けられる。
図2 牛乳・乳製品チャート(2012年)
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資料:MINAGRI
※ドゥルセデレチェ:半液状のミルクキャラメル |
一方、飲用は普通牛乳向けが62パーセントであり、これらはブエノスアイレスなどの都市部を中心に販売されている。また、地方向けとして、乳業工場からの輸送時間や不十分な冷蔵設備を考慮した常温保存が可能なロングライフ(LL)牛乳の生産が31パーセントと多いのもアルゼンチンの特徴といえる。
IDFの統計(2012年)によると、アルゼンチンの乳製品生産量は、全粉乳が世界第4位、ホエイが同9位、チーズが同10位、脱脂粉乳が同17位となっている。
アルゼンチンでは乳業団体として、大規模乳業メーカー30社で構成される乳業団体(CIL)、中小乳業メーカー150社からなる中小酪農乳業協会(APYMEL)および協同組合連合会が存在する。CIL加盟乳業メーカーの国内の乳製品販売に占める割合は65パーセント、また乳製品輸出に占める割合は90パーセントとなっている。CILは1919年に創設され、歴史も長く大規模乳業メーカーで構成されていることもあり、乳業に関する規制などの策定に際し、政府に対して一定の発言力を有している。一方、APYMELは1988年に結成された比較的新しい団体である。APYMEL加盟メーカー150社のうち、9割以上が主に国内向けを中心としたチーズ生産に特化している。一部では粉乳やホエイパウダーの生産を行っているが、粉乳生産には製造施設などに大規模な投資が必要となるため、中小規模のメーカーでは、粉乳生産への参入はなかなか難しいというのが実情である。
図3 主要乳製品生産量の推移
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資料:MINAGRI、CIL |
表2 主要乳業メーカーの生乳取扱量(2012年)
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資料:CIL |
APYMELの取り組み
加盟メーカー150社の1日当たりの生乳処理能力は1,000リットル〜20万リットルと幅が広く、平均で1社当たり2.5万リットルの処理能力を有す。また、加盟各社は独自の酪農場を所有しており、生産段階から品質管理を徹底し、製品のトレーサビリティが可能となっている。大半の加盟メーカーは国内向けチーズの生産が主体だが、20社程度は輸出も手掛けており、主な輸出先としてはブラジル、ベネズエラ、チリ、中国、東南アジアなどがある。
APYMELでは、アルゼンチンの生乳生産の拡大は可能としつつも、拡大した生乳の消費は国内よりも輸出に頼る部分が大きく、輸出を拡大するためには製造施設の整備も重要としている。このため、(1)共同出資による粉乳、ホエイパウダーの乾燥プラント4カ所(サンタフェ州、コルドバ州、ブエノスアイレス州、エントレリオス州)の建設。(2)チーズの熟成センター(熟成室、冷蔵室、冷凍室、カット部門完備)の建設・共同使用、といった2つのプロジェクトを計画している。(1)については、それぞれの工場周辺200キロメートル圏内から生乳を集め、共同出資して建設予定の粉乳処理プラントの利用を通じて、製品の生産・輸出を行うこととし、春先など生産者乳価が下がる時期に粉乳やホエイに加工し、乳価の下落を抑えることを目的としている。さらにこれらの計画を通じて製造される製品を、APYMELによって認証するシステムの構築も模索している。
(2)国内消費状況
アルゼンチンの1人当たり年間牛乳・乳製品消費量は214リットル(2012年)であり、これは世界平均の2倍に相当する。アルゼンチンの人口を約4000万人で推計すると、年間の牛乳・乳製品消費量はおよそ800万キロリットルとなり、この数字はここ数年変動していない。
乳業関係者によると、人口は毎年微増で推移しているものの、国内の乳製品市場はすでに成熟期にあるため、今後、大幅な成長は期待できないとしている。しかしながら、飲用乳やチーズは恒常的に消費され、また、最近は世界的なブームを受けて、ヨーグルトの消費が伸びている。
ただし、大手乳業メーカーでは、例えば生乳生産が4リットル増加した場合、うち3リットルを輸出に仕向けなければ国内供給がだぶつくと分析している。一方で、機能性乳製品の開発も行われており、不飽和脂肪酸(オメガ3)などを配合した乳飲料はコレステロール値を下げる製品として、今後、国内消費が伸びる可能性があると期待されている。
アルゼンチンの乳製品消費の特徴としては、料理にチーズを多用することが挙げられる。国内で消費されるチーズのうち、半分がソフトタイプであり、さらにその半分がパスタやキッシュなどの料理に使用されているとされる。このため、生乳生産の約半分がチーズに向けられるアルゼンチンでは、乳製品は牛乳で「飲む」というよりは「食べる」という印象が非常に強い。
地域的には、首都ブエノスアイレスでは、1人当たり年間乳製品消費量は生乳換算で300〜500リットル程度であるのに対し、経済的に発展途上にある北東部、北西部では同80リットル以下と少ない。このため、今後の国内消費拡大のカギは、現状、乳製品の消費が少ない地域の発展にかかっている。
図4 主要乳製品の1人当たり消費量の推移
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資料:MINAGRI
注:右軸が飲用乳、左軸は乳製品 |
4.輸出動向
2012年のアルゼンチンの乳製品輸出は、全粉乳がNZ、EUに次ぐ世界第3位、国内での乳製品生産のうち最大の生産量を誇るチーズの輸出量は同6位、そしてバターは同5位と世界の主要乳製品輸出国として位置づけられる。また、その輸出先は、世界102カ国に及んでいる(2012年時点)。
中国や新興国からの輸出需要拡大を背景に、生乳のうち、乳製品に加工されて輸出に仕向けられる割合は年々増加傾向にあり、ここ数年は生乳生産量の25パーセント程度が輸出に向けられている。
表3 生乳生産量に占める乳製品輸出量の割合の推移
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資料:CIL、MINAGRI
注 1:2013年は速報値
2:数量は生乳換算ベース |
(1)品目別輸出動向
輸出される乳製品を品目別で見ると、全輸出量の約5割を全粉乳が占め、次いでホエイが16パーセント、チーズが13パーセントとなり、これら3品目が主要輸出品となっている。また、全粉乳については、ベネズエラ・アルジェリア・ブラジルの3カ国で7割のシェアを、脱脂粉乳については、ブラジル・ロシア・アルジェリアで9割のシェアを、また、チーズについてはブラジル・ロシア・ベネズエラで7割のシェアを占めている(表4)。アルゼンチンにとって、ベネズエラ、ブラジル、アルジェリアは伝統的な輸出先である。ベネズエラは、チャベス政権時からの石油と食料の輸出に関する協定(原油と食料との交換取引)が継続しており、また、ブラジルとの貿易はメルコスル(南米南部共同市場)により関税が優遇されている。アルジェリアは、オセアニアの乳製品がアジア市場に多く輸出されているように、かねてから南米の代表的な輸出市場といえる。
表4 品目別国別輸出量の推移
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また、2013年のNZの乳製品輸出の減少により、アルゼンチンから中国向けの輸出が増加していることも注目される。中国からアルゼンチンには工業製品などが多く輸出されており、これらが積載されたコンテナに粉乳などを積み込んで送り返すため、輸送費(フレート)が安く抑えられることが輸出増の要因の一つとされている。
さらに中国以外のアジア諸国向けに、全粉乳、ホエイの輸出が拡大している。例えば、シンガポールは2012年には輸出量全体の0.4パーセントだったものが2013年は1.8パーセント、またインドネシアは同1.3パーセントから同1.6パーセント、ベトナムは同0.7パーセントから同1.1パーセントへ増加している。アジア地域では、乳製品消費量が大きく増加していることから、今後の需要・輸出機会の拡大が期待されている。
(2)輸出税などの政策
〜輸出税/ROE(輸出登録制度)などの現状〜
アルゼンチン政府は、2002年1月に通貨の切り下げを実施したことから、経済生産省決議11/2002(2002年3月4日付)により、多額の税収不足をカバーするため農産品に対し輸出税を導入した。これは、当時の政府が税収の大幅な減少を受け、通貨切り下げで恩恵を受ける国内主要輸出産業の農業が税収不足を支えるべきとの考えから、輸出税導入に踏み切ったものとされている。以降、経済の回復に伴うインフレの進行により、国内の食料品が次第に値上がりを始めたため、農産品の国内供給の安定を図ることを目的として、品目ごとに度々、輸出税率の変更が行なわれている。
乳製品に対する輸出税は、2002年に輸出税が導入された際には5パーセントが賦課されたが、2005年にインフレ抑制対策の一つとして、乳製品の国内供給量を増加させるため引き上げが行われ、チーズ、バターなどは10パーセントに、粉乳は15パーセントに設定された。その後、国内の価格が安定したとして、2006年にチーズなどは5パーセント、粉乳は10パーセントに引き下げられたが、2007年には再び改定が行われた。2009年にHSコード04番台が対象から外されたが、ラクトース、カゼイン、育児用粉乳、アイスクリームなどは、現在も5パーセントの課税対象とされている。
政府は、輸出を行っている乳業メーカーと国内向け乳業メーカーの競争力が業界内で乖離しないよう注視しているとされている。国内向けメーカーは、政府からの圧力を受けて容易に価格を上げられないことから、今後、輸出企業のみ利益を得るような状況になった場合、公平性を保つべく輸出税を復活し、税率を調整することにより、業界内の競争力を均す可能性があるといわれている。
一方、輸出登録制度(ROE)については、その対象品目により、3つに分類される。ROE ROJO(赤のROE)は牛肉、ROE VERDE(緑のROE)は穀物、ROE BLANCO(白のROE)は乳製品と、それぞれ輸出時に登録手続きを行うことが求められている。
乳製品のROEは2007年に制度が創設され、当初は国内供給量の管理を目的としており、国内供給分として粉乳2万5000トンの在庫を確保した上で、粉乳、LL牛乳およびチーズに対し、輸出時の登録が必要とされていた。しかし、同制度は2013年8月に改正され、すべての乳製品が登録の対象となった。これは、乳業界全体に対する政府の統制を目的としているものとみられている。
一方で、この登録制度により、輸出に際して手続きが煩雑になり、取引とは直接関係ない部分で時間とコストが取られるようになっているとされている。この結果、例えば、従来は米国向けにハードタイプのチーズを無税で輸出していたが、登録手続きの煩雑さから輸出手続きに時間がかかり、納入期限を順守することができず、取引が解消されたケースも出ている。
このため、煩雑な輸出手続きを行うよりも、むしろ、国内市場向けとした方が収益は上がるとして、輸出向けから国内向けに生産を転換するメーカーも出てきている。
政府は、外貨獲得のためには食品輸出が重要との認識を示しつつも、現状は輸出振興に逆行する政策を未だ維持している。
5.今後の輸出見通し〜輸出に係る問題点、課題など
前述のとおり、地方都市での消費拡大の余地はあるものの、国内の消費市場はすでに頭打ちの状態にあるとされており、アルゼンチン酪農・乳業の成長は輸出に負うところが大きい。また、同国では、経済悪化が続く中で、外貨獲得が喫緊の課題となっている。このため、今後は何らかの輸出振興策が必要とされている。アルゼンチン乳業関係者からの聞き取りでは、輸出振興策を講じる前に政府が対応すべき事項として、具体的に以下の3点を挙げている。
(1)輸出を制限する政策(例:輸出税、ROE)の撤廃または見直し。
(2)25パーセントとも言われている高いインフレ率、および為替の是正(国内の公式レートと
実体経済に即しているとされる闇レートの乖離幅が大きいという問題)
(3)2国間協定の締結などによる輸出市場の拡大
アルゼンチンでは、メルコスルによる関税優遇措置とベネズエラおよび米国(チーズに係る関税割り当て)以外の協定が締結されていないことから、輸出市場の拡大が妨げられているとされている。
アルゼンチン乳業振興開発財団(FunPEL)によると、アルゼンチンの酪農・乳業は、これまでの25年間で国内消費型から輸出型への転換を図っており、現在の国際的乳製品需給情勢から見ると、主要輸出国としてその地位を確実なものとする絶好の機会としている。
このため、今後の輸出見通しとして、主要品目としてはチーズの輸出拡大、また、地域としては中国を始めとしたアジア地域に注目が集まっている。当該地域は、経済成長に伴う乳製品の需要拡大などから乳製品需給がひっ迫傾向にあり、乳製品の輸入量は増加基調で推移している。同地域は1人当たりの年間チーズの消費量が少ないため、今後、ファストフードなどのさらなる浸透により、チーズなどの需要拡大の期待が高まるところである。このため、乳業メーカーの中には、ハードタイプチーズを台湾向けに、モッツアレラチーズを韓国向けにサンプル輸出し、市場開拓を進める企業も出てきた。また、中国では、国内産乳製品の品質問題などで輸入が増加していることから、特に中国を中心に輸出を増やしたいとする乳業メーカーも多いとみられる。
さらにFunPELでは、国内の乳製品生産量の25パーセントを占める輸出量を、今後10年間で40パーセント程度にまで拡大するためには、2国間協定などの推進が求められるとしている。
生産拡大に向けた民間部門の努力はすでに形として現れており、乳製品工場の規模拡大などに投資が行われている。例として、最大手の乳業メーカー「La Serenisima」では、粉乳の生産能力の向上のための設備投資、大手乳業メーカー「Molfino(Saputo)」ではチーズ工場の規模拡大、同じく「Sancor」では中国の流通業者との間で協定を結び、小売り用の育児用粉ミルク製品をアルゼンチンで生産し、輸出を行っている。この協定では、今後5年間で年間1万7000トンまで輸出を拡大するとしている。業界では、中国向けに特にホエイや粉乳の輸出拡大を期待しており、「Sancor」に続く乳業メーカーが出てくれば、乳製品の生産、輸出もさらに伸びるとみられている。
6.おわりに
ここ最近は、放牧地から大豆畑への転換が進んでおり、また、現在のペソ安ドル高で推移する為替相場は、酪農から大豆への転換を加速させている。さらに、生産段階では、若者の都市部への流出などにより酪農従事者(Tambero)の確保が困難となっていることからアルゼンチンの酪農生産の底上げには、専門的な酪農従事者の育成も急務となっている。
一方で、2015年に大統領選挙を控えているため、それまでの間は「アルゼンチンのすべての家庭に牛肉や乳製品を」を掲げる国内供給優先の政策が大きく変わるとはみられておらず、外貨獲得のための輸出振興策が徐々に整備される可能性は低いとされている。
乳製品国際価格が上昇基調で推移する中で、アルゼンチン産乳製品の価格競争力は注目されているが、海外からの新たな投資および各種規制・制度の撤廃・見直しなど、アルゼンチンは、安定的な乳製品輸出国としての地位を確立するために必要な課題を多く抱えている。 |