はじめに
国際穀物理事会(International Grains Council:IGC、1949年ロンドンに設立)は、穀物貿易に関する唯一の国際条約である穀物貿易規約に基づき、メンバー国、定期情報購読者、一般向けに世界の穀物・油糧種子の生産・消費・在庫・貿易に関する需給情報を提供しています(www.igc.int参照)。G20のイニシアティブである農業市場情報システム(AMIS)には、2012年から参加し、FAO、OECD等の国際機関と協力して市場情報の透明性の向上に努めています。IGCからは、毎日の実際の輸出価格の動きや毎月の需給予測レポートの要旨をAMISのウェブサイトでも公表しています(www.amis-outlook.org参照)。
穀物・油糧種子の需給は安定基調で、生産・貿易量は増加する見通し
小麦、トウモロコシ、米、大豆について、2013/14年の生産量・貿易量の現時点での見通しを概観してみましょう。表1から、12/13までの直近5年平均と比較して、全品目にわたり今季の生産量が伸びていることがわかります。小麦、トウモロコシ、大豆の昨年の高い価格水準が生産意欲を刺激し、米も含め、これら4品目の世界生産量は、今季すべて新記録となる見通しです。小麦は前年比8パーセント増の7億700万トン、トウモロコシは、ブラジル・アルゼンチンでの減産予測にもかかわらず、最大の生産国である米国の生産が同29パーセント増の3億5400万トンに伸びたのに牽引され、全体で同11パーセント増の9億5900万トン、米は微増の4億7000万トン、大豆は同6パーセント増の2億8800万トンと見込まれます。小麦と粗粒穀物(とうもろこし、大麦等)の合計生産量は、19億6000万トン(対前年比10%増)と、20億トンの大台に迫る勢いで、期末在庫量も同16パーセント増の3億8700万トンと、世界の年間需要の20パーセントに達する見通しです。
表1 小麦、トウモロコシ、米、大豆の貿易量・生産量予測
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資料:IGC
注:貿易量の対象期間は、小麦・トウモロコシ:7〜6月、大豆:10〜9月、
米:1〜12月 |
潤沢な供給量を反映して、米を除き、他の3品目の貿易量も過去最高となると予測されます。小麦は前年比4パーセント増の1億4700万トン、トウモロコシは生産量の伸びに即応して同13パーセント増の1億800万トン、大豆も中国の堅調な輸入需要を反映して同12パーセント増の1億800万トン、に拡大しそうです。需給が逼迫した2007〜08年、12年とは異なり、近年では珍しく需給がおおむね安定基調にあります。
国際価格も総じて低下傾向
次に、価格の動向を見てみましょう。IGCでは、小麦・トウモロコシ・大麦・ソルガム・米・大豆・菜種の7品目について、34の輸出港価格を調べて、2000年1月の水準を100とした指数を、ホームページで毎日公表しています。貿易量を加重平均した7品目全体の穀物・油糧種子輸出価格指数(GOI)のほか、小麦、トウモロコシ、大麦、米、大豆について、品目ごとの指数を提供しています。図1は7品目の総合指数の推移ですが、13年からの全体的な低落傾向が今年に入っても続いていることがわかります。
図1 IGC穀物・油糧種子輸出価格指数(GOI)
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資料:IGC
注:7品目(小麦、トウモロコシ、大豆、ソルガム、米、大豆、菜種)の総合指数 |
個々の品目の輸出価格の動きを見ると、昨年11月末時点と比べて、小麦は、米国を除く主要輸出国がすべて増産となったこと、また、大豆は、ブラジル、米国、アルゼンチンの三大輸出国の収穫量がすべて伸びると見込まれることから、ともに8パーセント下落した一方で、トウモロコシの価格は、輸出需要に支えられ、4パーセント増となっています。
小麦の価格は当面横ばい、トウモロコシはやや強含み、大豆は高値維持か
米の価格は、13/14年の期末在庫量が、消費量に対し23パーセントの潤沢な水準と見込まれるため、落ち着いた状況がなお続くと見られますが、他の3品目の価格は今後どう展開するでしょうか。
ヘッジファンド等のトレーダーズの先物市場でのポジションの動きが、今後の方向性を判断する一つの目安になります。投機家は、今後価格が上がると思えば「買い」(ロング)、下がると考えれば「売り」(ショート)を入れて将来の売買差益を狙いますが、両方を差し引きしたネットのポジションを見れば、投機家の総体としての見方を知ることができます。米国の先物取引委員会(CFTC)は、各取引所の商品先物の建玉の公表を義務づけており、穀物については、シカゴ取引所のデータが参考になります。
図2 トレーダーズのネットポジション
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資料:CFTC マネージドマネー・データ |
14年2月初めの時点で、小麦は5万5000枚の売り越しであるのに対し、トウモロコシ、大豆は、それぞれ1万1000枚、15万3000枚の買い越しとなっています。投機家は、先物価格について、小麦は下がると考え、大豆は上がりそうだと見ていると言えます。背景には、これら3品目の世界生産量がそろって伸びてはいるものの、輸入国が実際に頼れる主要な輸出国の合計期末在庫量の世界消費量に対する比率は、小麦:8パーセント、トウモロコシ:6パーセント弱、大豆:4パーセントと、大豆が一番低いことが挙げられます。小麦の主要輸出国がアルゼンチン、豪州、カナダ、EU,カザフスタン、ロシア、ウクライナ、米国と両半球に散らばっているのに対し、大豆の主要輸出国はブラジル、米国、アルゼンチンの3カ国と少なく、その分、気象条件による供給面への影響が強く表れやすいということに加え、今季、米国を抜いて最大の大豆生産国となると予測されるブラジルが、内陸産地から港までの輸送や船への積込み作業等の物流管理の問題を抱えていることも、市場の懸念材料になっています。
飼料需要の動向
世界の飼料需要は、増大傾向にあります。表2が示すように、全体需要の7割が穀物、残りを油糧ミールとその他のタンパク質飼料が占めています。トウモロコシ、大豆ミール、小麦、大麦の主要4原料で、全体の8割を占めます。トウモロコシからエタノールを製造する際の副産物であるDDG、菜種ミール、グルテンフィード・グルテンミール、ソルガムが続きます。
世界の飼料原料の構成比と、農水省の「流通飼料価格等実態調査」の配合飼料原料使用量比率を単純に比べてみると、日本では、小麦の使用割合が4パーセントに伸びてきてはいるものの、世界平均の11パーセント強からは低い水準にある一方で、ソルガムやふすまの比率が高いという特徴があります。小麦の輸出国であるEUでは、普通小麦の仕向け先は、食用と飼料用向けがほぼ同じ数量になっているというのと対照的です。トウモロコシの生産が低迷した年や低品質の小麦の出回り量が増えた年に、飼料用小麦の需要が伸びたように、飼料原料には、供給量の大きさや品目間の価格差に対応できる代替性があります。
表2 世界の飼料使用量
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資料:IGC、USDA(油糧ミールと魚粉) |
IGC Grains Conference 2014
IGCでは、メンバー国のための定例会議のほかに、毎年6月にコンファレンスを開き、世界中からスピーカーを招いて、主要な穀物・油糧種子の需給動向や貿易上の技術的な問題について意見交換・討議を行っています。23回目となる今年は、農薬の残留基準に関するパネル・ディスカッションも予定しています。輸出国と輸入国、政策決定者と生産・流通関係者の多様な関心事項にバランス良く応えられるようプログラムを準備していきたいと考えています。日本の関係者にも関心を持っていただければ幸いです。(http://www.igc.int/en/conference/confhome.aspx参照)
(プロフィール)
北原 悦男(きたはら えつお)
1974年農林省入省。ガット室長、流通飼料課長、FAO常駐日本政府代表等を経て、2006年より現職(Executive Director, International Grains Council)。
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