話 題  畜産の情報 2015年4月号

飼料用米の現状と今後の課題

山形大学 農学部
農学部附属 やまがたフィールド科学センター長・教授 吉田 宣夫


耕畜とも厳しい経営環境

 2014年度産米価の下落は稲作農家を落胆させ、生産費の大きなシェアを占める飼料価格の高騰が畜産農家の経営を直撃しています。その一方で、飼料用稲の作付けは飼料用米は3万3726ヘクタール、稲の地上部すべてを利用するWCS用稲(注1)は3万1157ヘクタールと伸びています。

 2015年度以降、非主食用米の生産、中でも飼料用米の拡大に本腰で取り組むことが求められています。

    写真1 左の「ふくひびき」は、これまでよく使われてきた
         飼料用米品種で栽培適地は南東北〜関東。
         右の「北陸193号」は、関東・北陸以西で
         よく使われている品種で 安定多収を実現している。

水田フル活用の意義

 農林水産省が推進する水田フル活用の意義としては、

 第1に人口減少・少子高齢化の中で主食用米需要は年間8万トンずつ減少し、これまでどおりの稲作継続は困難であること

 第2は、新用途として需要が大きいのが飼料用米であること

 第3は、水田生産力の維持は国土保全と食料安全保障の観点から不可欠であること

 第4は、飼料用稲の生産・利用は地方創生の基盤をなすものであること

が挙げられます。

 しかし、飼料用米と主食用米の価格差から助成制度なしの政策推進は困難であり、安定多収生産と利用促進のための取り組みとともに長期的視点からの生産・利用基盤の整備が必要で、これらは、一時的な対応策では決してなく長期の取り組みとすべきです。

飼料用米生産の課題とデザイン

 2014年度の飼料用米の生産状況を都道府県別の家畜飼養頭羽数から見てみましょう。

 その理由は、自県内利用を可能にする地産地消型の新しい技術が普及し始めていること、また、生産物の仕向け先は一部を除くと自県内利用を優先する傾向が強まっているからです。

 家畜に食べさせる量、つまり配合飼料中の割合を採卵鶏20%、ブロイラー50%、肉豚15%、乳牛10%、肉牛3% で試算しますと、すでに滋賀県や山形県では、ならしで半分程度の家畜に与えている水準に到達しているのです。

 飼料用米の普及は、一見して容易に見えるのですが、全国のすべての家畜にこの割合で給与していくには多くの課題があります。

 それは都道府県別の水田面積と家畜頭羽数の関係は一様ではなく、需給に著しい不均衡が生じるからです。畜産大県である鹿児島県、宮崎県、岩手県、北海道では、飼料用米の県内供給には大きな制限が加わり、稲作大県からの供給が必要です。

 図の飼料用米の加工形態と組織連携ループをご覧ください。黒線()は地産地消ループ、赤線()は飼料工場ループを示しています。初期段階では地産地消を積極的に推進することが大切ですが、畜産大県へは飼料工場を経由した全国流通が今後は有効に働くものと考えられます。

 連携関係は飼料用米の加工形態によって変わってきます。

 養鶏では、小規模の場合(1)(4)、大規模では(1)(2)(4)もしくは(1)(2)(3)(4)の流れがあります。

 養豚では、大規模経営では飼料工場を経由するループを取らざるを得ず(1)(2)(3)(5)の連携が、中小規模経営などでは(1)(2)(5)の地産地消型で自家破砕やリキッドフィーディングに対応した連携が行われています。

 大家畜では、その消化生理から破砕、圧ぺん、ペレット化、ソフトグレインサイレージ化などの加工調製が必要なことから(1)(2)(3)(6)もしくは(7)、ソフトグレインサイレージ化の後、TMR調製を行うなどで(1)(2)(6)もしくは(7)の連携が見られます。

 給与畜種と経営規模によって望ましい加工形態があるため、多様な連携の取り組みが始まっています。

図 飼料用米の加工形態と組織連携ループ

優れた研究成果を現場へ

 1980年代から飼料用稲に関する地道な研究が行われ、2010年度からは飼料用米などに関する研究開発「自給飼料を基盤とした国産畜産物の高付加価値化技術の開発」が開始されました。

 これらは生産利用の総がかりの研究で多くの成果が出ています。飼料用稲の品種育成では多品種が開発され、現場で900kg/10aを実現できる飼料用米品種が、WCS用稲では牧草のような茎葉比率が高く、高糖分で繊維の消化性が高い品種も出てきました。

 これらの特性を発揮する栽培技術が提案されていて、新たに取り組む稲作農家においては良食味米生産とは異なる技術転換が求められています。

 調製・加工技術として籾米サイレージ(SGS(注2))、粉砕・圧ぺん・ペレットなどの加工技術が開発され普及が始まっています。トウモロコシ主体の配合飼料と比較して畜産物の品質が同等かそれ以上を目指して、鶏、肉豚、肉牛、乳牛での検討が行われ、広く安定して使用できる配合可能上限割合が明らかにされ、これまでの割合と比較して大幅に利用拡大できるものとなりました。

写真2 飼料用米38.5%含有の乳牛用配合飼料

展望を実現するために

 飼料用穀物を自国で生産・利用することは畜産業の本来の姿です。農林水産省がこの方向に大きく舵を切ったことは、困難もありますが、明るい展望が開けたことです。

 展望を実現するためには、

 第1に畜産経営と稲作経営の双方にメリットが出ること

 第2は、畜産経営の飼料問題を解決するチャンスであること

 第3は、そのための支援態勢を取り、地域で畜産クラスターを構築していく

ことです。

 その上で、地域の展望を描き、生産者、研究・普及関係者、行政、業界、団体が一定のスピード感を持って推進していきたいものです。各地の飼料用米の現地に立つと「畜産的土地利用は地域を救えるかもしれない」と強く感じます。

注1: 稲WCS(ホールクロップサイレージ)とは、稲の茎葉、子実を含む植物体の総てを利用して
   乳酸発酵(サイレージ化)させた飼料のこと。稲発酵粗飼料ともいう。
    また、稲WCSに調製する前の稲を「WCS用稲」と仕分けしている。

注2: 稲の子実(籾、玄米)を家畜用に利用するものは「飼料用米」と呼び、色々な加工を行って家畜に
   与えている。その中でも、飼料用米(生籾)を長期保存し、家畜の嗜好性を良くするため、
   生籾もしくは乾籾を粉砕・密封して乳酸発酵(サイレージ化)させた飼料のこと籾米サイレージ
   (SGS:ソフトグレインサイレージ)と呼んでいる。
    「稲WCS」や「飼料用米」として使う稲のことを総称して、「飼料用稲」と呼んでいる。

(プロフィール)
吉田 宣夫(よしだ のりお)

1974年 新潟大学農学部畜産学科卒業
1974年 全国酪農業協同組合連合会入所
1976年 埼玉県畜産試験場入庁
1994年 新潟大学自然科学研究科 博士(学術)
2003年 埼玉県農林総合研究センター
2004年 独立行政法人畜産草地研究所上席研究官
2008年 国立大学法人山形大学農学部教授
2013年 同 農学部附属やまがたフィールド科学センター長
     現在に至る

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