海外情報  畜産の情報 2015年4月号


英国農畜産業の展望
〜2015年農業観測会議から〜

調査情報部 宅間 淳、畜産経営対策部 青沼 悠平


【要約】

 2015年2月11日に開催された英国農業園芸開発委員会(AHDB)主催の農業観測会議で報告された主要畜産物の需給見通しは、以下のとおり。

酪農:ロシア禁輸措置を受け、乳価は低迷。このため、短期的には悲観的な景況感をもって
    いるが、発展途上国を中心に拡大する底堅い需要を見越し、長期的には楽観視。また、
    大規模経営では、増産を予測。

牛肉:2014年は、国内供給量の増加により、価格が低迷。しかし、2015年以降は、2%程度の
    減産により、需給が均衡し価格は安定すると予測。

豚肉:ロシア禁輸措置を受け、豚価は低迷。2015年以降は、生産性の向上による増産に加えて、
    ユーロ安英ポンド高の為替相場の影響で、EU諸国からの輸入増が見込まれ、一層の価格
    下落を懸念。

 ロシア禁輸措置の解除の見込みが立たず、明るい材料は少ないが、アジアなどで高品質な食品への需要が高まっている。こうした新規市場の開拓が、英国およびEU畜産業発展のカギを握る。

はじめに

 EU28カ国の農業生産量(2012年)は、牛肉で739万トン、豚肉で2217万トン、生乳は1億3951万トンと、いずれも世界市場に占める割合が高く、これら生産動向が世界の需給に与える影響は大きい。このような中、2015年2月11日に開催された英国農業園芸開発委員会(AHDB)主催の農業観測会議に出席したので、その概要を中心に報告する。

 なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=135円(2月末日TTS相場:135.15円)、1英ポンド=188円(同:187.95円)を使用した。

1 英国畜産業のEUに占める位置

 国際連合食糧農業機関(FAO)によれば、英国は、日本と同様に工業やサービス業が発達しており、国内総生産(GDP)に占める農林水産業の割合は0.6%(2012年)と、EU加盟国の中でも低い水準にある(日本:同1.2%)。

 畜産業について見れば、日本に比べ中小家畜の生産量は少ないものの、大家畜の生産量は5割以上多い。また、EU全体との比較では、豚肉を除き1割程度のシェアを持っており、生乳と牛肉はEU第3位、鶏肉は同2位となっている(表1)。ドイツやフランスなどに比べ国土面積は狭いものの、生乳や牛肉生産では上位に入っており、今後のEUの畜産生産を把握する上で、英国の動向は参考となるものである。

表1 畜産物生産量の比較(2013年)
資料:FAOSTAT
英国農業園芸開発委員会(AHDB)とは

 英国農業園芸開発委員会(AHDB:Agriculture and Horticulture Development Board)は、2008年4月1日に英国の豚肉、牛・羊肉、園芸、酪農、バレイショ、穀物および菜種の6団体が統合して発足した生産者組織である。各分野では、研究・開発、農家の知識向上を目的とした重要情報の提供、需要促進のための販売促進活動および輸出市場の維持拡大のための活動を行っている。役職員数は約450名で、年間予算は組織全体で約6千万ポンド(約113億円)に上る。財源は、生産者および関係業者から集められる課徴金(レビー)と出版物の販売収入である。

 なお、英国(UK:United Kingdom)は4つの地域(カントリー)から構成されており、AHDBに属する各団体によって、 所管となる範囲が異なっている。今回、紹介する酪農団体(Dairy Co)は、北アイルランドを除く英国(GB:Great Britain)を所管としているが、牛肉・羊肉団体(EBLEX)と豚肉団体(BPEX)は、イングランドのみを対象としている。

 農畜産業振興機構は、このAHDBとの間で、食肉部門を中心に定期的な情報交換を実施している。

2 農業観測会議の概要

(1)基調講演など

ア 消費動向(民間調査会社フューチャー・ファウンデーション:リチャード・ニコルズ氏)

 英国の食品消費の傾向として、高品質・高価格な食材を用いる一部の外食と、低価格の家庭用食品、ファストフードなどとの二極化が進むとみられる。しかし、海外に視野を向ければ、高品質な食品を求める傾向がより強まっている。品質の高い農畜産物を生産し、また、提供が可能な英国にとって優位な状況であり、これに的確に対応することが必要となる。また、消費者の行動として、「特別」、「非日常」、「プレミアム」など、普段と異なる体験を望む傾向が年々高まっており、食品についても同様のことがいえる。このため、これらニーズに対応することも、農畜産物の販路拡大に結び付く大きな糸口となる。

イ アジアの食品小売市場(民間調査会社のインスティテュート・オブ・グローサリー・デベロップメント:ニック・マイルズ氏)

 アジアは世界全体に対し、人口の59.4%、中流階級の54%を占めている。また、2014〜20年にかけての年平均成長率は、国内総生産(GDP)で4.9%、食品小売市場規模で8.5%が見込まれており、有望な市場となっている。

 しかし、アジアの小売市場は、EU諸国と比べて、商習慣や商品を評価する点(鮮度や品質)などが異なることから、販売ターゲットとなる国の情勢を十分に理解した上で、地域情勢に応じた販売展開が求められる(図1)。

図1 アジアの食品小売市場への展開戦略(概念図)

 アジア市場の要点をまとめると、次の6点が大きなカギとなる。

 (1)食料品店市場は、急速に発展

 (2)熾烈な競争により、小売業には差別化が求められる

 (3)新中流階級と呼ばれる層が急速に拡大しており、この層は一定の購買力があることから
   巨大な成長機会を秘める

 (4)市場のレベルに応じ、売り込み手法を変化させることが必要

 (5)地域の特性を理解することが成功のカギ

 (6)提供する商品に対する透明性と正当性は、今後一層重要

(2)酪農・乳業の状況

ア オランダにおける持続可能な酪農(オランダ ワーヘニンゲン大学:マールテン・フローレイク氏)

 オランダの酪農・乳業の概況は、表2の通り。

表2 酪農・乳業の主要指標(2014年、オランダ)
資料:ワーヘニンゲン大学

 最近のEU乳業界の動きとして、アジアや中東向けの好調な輸出を受け、工場の新設などの設備投資が盛んになっている。オランダ国内では、ニュージーランドの酪農組合系企業であるフォンテラ社との合弁会社の設立により、8億7000万ユーロ(1174億5000万円)の設備投資が進行中である。こうした新規投資の動きは、フランス(11億ユーロ、1485億円)、ドイツ(10億ユーロ、1350億円)、アイルランド(5.8億ユーロ、783億円)にも見られる。

 EUでは、2015年3月末をもって生乳クオータ制度が廃止され、主要生産国を中心に、生産量の増加が見込まれている(図2、3)。

図2 生乳生産量の変動状況(2020年/2006年)
資料:ワーヘニンゲン大学
  注:「緑色」が濃い加盟国ほど生産増が予測されている。一方、「オレンジ色」の加盟国は
    生産減が予測されている。
図3 生乳生産量の増減率(2023年/2012年)
資料:欧州委員会共同研究センター

 また、FAOは、今後の食料需要について、2050年までに(1)20億人の人口増、(2)年間1%超の食料需要の増加、(3)動物性タンパク質の需要増加、(4)生乳需要は108万トン増加(50%増)−と予測しており、世界的に見ても発展途上国を中心に生乳生産量が増加するとみられている(表3)。

表3 世界の生乳生産予測(2050年/2006年)
資料:ワーヘニンゲン大学

 このように、ヨーロッパ地域に限らず、世界全体で生乳生産の増加が予測されている中で、機械化や耕地面積の拡大による慣行型の増産には限界があり、持続可能な酪農生産をいかにして実現するかが、喫緊の課題となっている。

 このためには、企業家としての経営戦略を酪農生産に結びつけることが求められる。具体的には、(1)窒素、リン、アンモニア、二酸化炭素、メタンの排出抑制、(2)ふん尿処理、(3)地代高騰、(4)規模拡大のための高額投資、(5)生乳価格の変動、(6)CAP直接支払減額、(7)飼料価格上昇−などへの対策である。

 オランダの酪農経営の将来を考えると、プラスとマイナスの両面が予測され、プラス材料としては、国際的な需要の拡大、競争力のある国内企業の台頭による輸出増、技術力の強化などが挙げられる。一方、マイナス材料としては、環境規制による飼養頭数の制限、生産過剰による生乳価格の下落、上昇が予測される飼料価格、高い地代などが挙げられる。

イ 英国酪農経営の意向調査結果(AHDBシニアアナリスト:ルーク・クロスマン氏)

 AHDB内の酪農団体「Dairy Co」は2014年12月に北アイルランドを除く英国の酪農家850戸を対象にアンケート調査を実施した。この調査は、2004年以降毎年実施され、今後の酪農生産の動向を推し測る指標とされている。

○景況予測

 酪農経営の景況予測として、短期的(1年間)にはやや悲観的な見方が多かったが、長期的(5年間)には、上向くとする経営が多かった(図4、5)。酪農家としては、昨年8月から始まったロシアによるEU産農畜産物の禁輸措置などを受けて、EU産乳製品の価格下落などから、短期的には英国の乳業界をめぐる状況を不安視しつつも、長期的には乳業界は好調と見る向きが強い(図6)。

図4 自経営に関する景況予測(今後1年間)
資料:AHDB
図5 自経営に関する景況予測(今後5年間)
資料:AHDB
図6 酪農乳業界に関する景況予測(今後5年間)
資料:AHDB

○追加投資の意向

 2015年以降の投資への意向として、不確定とする回答が多くを占めたが、投資を行うとした経営では、施設および機械を対象とする者が多く、土地や飼養頭数拡大への投資意欲は弱い結果となった(図7)。これは、農地として利用可能な土地が限られるため、自給飼料の確保が困難なことなどが影響しているとみられる。

図7 投資対象の内訳
資料:AHDB

○生産活動の意向

 今後2年間の生産活動については、現状維持が最も多く(60%)、生産拡大(33%)がこれに続いた。この結果によれば、今後、英国の生乳生産は拡大傾向での推移が見込まれる。2015年3月のEUの生乳クオータ廃止を見越し、英国、フランス、ドイツなどは増産するとの見方を裏付ける結果が示された(図8、9)。

図8 生産活動の意向(GB)
資料:AHDB
図9 生産活動の意向(地域別)
資料:AHDB

 なお、飼養頭数規模別の生産動向を見ると、飼養頭数の多い経営で生産拡大への意欲が高くなっており、これら大規模生産者を中心とした生産増が見込まれる(図10)。

図10 生産拡大を意図する経営(飼養規模別)
資料:AHDB

○まとめ

 ロシアによるEU農畜産物の禁輸措置などを要因とするEUの生乳価格の下落は、短期的には英国の酪農家にも暗い影を落としている。しかし、酪農家の多くは、世界的な乳製品需要は底堅く、長期的には乳価が上向きで推移すると見ている。また、クオータ制度廃止後の経営環境の悪化を訴える声も聞こえるが、大規模経営を中心に生乳生産は拡大との回答も多い。EUの酪農家の動向を把握する上で、規模階層により異なるが、全体としては増産基調の意向が示された。

英国の酪農経営

 英国イングランド南東部のウェストサセックス州ホーシャムのティム・ギュー氏の農場は、ホルスタイン種を420頭飼養し、イングランドでも大規模経営に分類される(イングランドの1経営当たりの平均経産牛飼養頭数は128頭:2013年)。イングランドは、放牧中心の飼養形態が一般的であるが、同農場では1年を通じて牛舎で飼養している。このため、牛が自由に行動できるようフリーストール牛舎を導入し、牛のストレス軽減を図っている。また、牛への肢蹄保護のため、適度な柔らかさを持つゴム製のマットを牛床に敷き、その上に敷料として砂を利用している。Dairy Coの役員であるギュー氏は、英国ホルスタイン協会の非常勤役員や、トウモロコシ生産者組合の代表を務めた経験を持つ。同氏は、酪農を中心に、めん羊および畑作(トウモロコシ、小麦、大麦)を営んでおり、農場面積は587ヘクタールに上る。
 乳用経産牛1頭当たりの平均乳量は1日当たり30〜35リットル、年間では1万リットルを超える個体もある(イングランドの1頭当たり平均泌乳量は7535リットル:2013年)。飼料はミネラルなど一部を除いて自給しており、バンカーサイロを用い、牧草とコーンのサイレージを製造している。農場内でこれらサイレージと、大豆粕やサプリメントなどで、TMRを作り、1日2回給与している。このほか、ホルスタイン種の泌乳形質(乳量、乳脂肪等)、体型形質(肢蹄、乳器等)や耐病性等の遺伝的能力の評価を利用し、優良精液や種雄牛・未経産雌牛も販売しており、地域の中核的存在となっている。

 経営の将来について同氏は、2015年4月以降のクオータ廃止後の生産拡大については、次の2点に課題が残るとした。1点目として、増産には十分な飼料の確保が不可欠となるが、飼料畑の拡大には限界があるとしている。農場の周辺はほぼ丘陵地帯であり、飼料畑としての作業性は悪い。また、平地は既に他の畜産経営や耕種農家が利用しており、借地も難しいとしている。2点目として、飼養頭数拡大に伴う労働力の確保の問題である。作業の平準化と省力化の観点から、これまでも歩数計による発情確認など、センサーやITを活用したデータ管理を進めているが、収集したデータを読み解き、実際の作業に反映できる作業員の確保が必要であり、短期間では難しいとしている。

32頭立てのロータリーパーラー
牧草とトウモロコシのバンカーサイロ
ステージに合わせ成分調整を行っている

(3)牛肉の状況(AHDB シニアアナリスト デビー・ブッチャー氏)

○2015年の牛肉生産量は、前年比2%減と予測

 2014年の英国の牛肉生産量は、と畜頭数の増加に加え、安値で推移した飼料の多給による枝肉重量の増加により、前年比4%増の87万8000トンとなった(図11)。特にと畜頭数の増加は、生産者乳価の低下に伴う酪農部門からの、乳用経産牛の増加によるところが大きいとみられている。

図11 牛肉生産量の推移
資料:AHDB

 牛肉需要の停滞などから、肉用種の飼養頭数は減少傾向にあり、2015年は前年比1%減、2016年は同2%減になるとみている(図12)。

図12 成牛(肉用種)飼養頭数の予測
資料:AHDB

 加えて、酪農部門からの調整出荷も落ち着き、2015年の生産量は、前年比2%減(85万5000トン)と見込んでいる(図13)。

図13 牛肉生産量の予測
資料:AHDB

○牛肉価格は高値安定と予測

 2014年の牛肉価格は、需要が低迷する中で牛肉生産が増加したことで、一時期は2012年の価格水準まで下落した(図14)。しかし、2015年は牛肉供給量の減少が予想されており、需給状況の改善により、上昇基調での推移が見込まれる。

図14 牛枝肉価格の推移
資料:AHDB
英国の肉用牛経営

 前述のギュー経営(酪農)の近隣にあるアップルシャム農場は、農場主のヒュー・パスモア氏、妻、息子の3人による家族経営であり、当地では一般的な労働力構成である。農場では、小麦や大麦などの穀物作(経営耕地面積は340ヘクタール)に加え、めん羊および肉用牛を飼養している。

 この地域は、農地の多くが化石化した貝殻などからなる石灰質の「白亜」と呼ばれる地層の上にあるため、穀物畑として利用するには、十分な耕起による堆積岩の破砕が必要である。入植当初は、栽培手法の確立に苦労したが、土壌改良に加え、土地に適した施肥設計により収量の増加につなげた。

 また、古くから丘陵地でめん羊を放牧し、その排せつ物を穀物の肥料として利用してきた。同農場でも、放牧によりめん羊を飼育しており、繁殖雌羊の飼養頭数は370頭に上る。通常、4月から12月までは電気柵で区分けして昼夜放牧し、寒さの厳しい1月から3月の夜間は畜舎で飼養している。電気柵を利用した移動式放牧により、牧草を無駄なく採食させる工夫を行っており、冬は牧草に代え、寒さに強い茎葉アブラナを栽培し、日中はその栽培地に放牧している。

 肉用牛の生産も放牧が主体である。現在の飼養規模は、繁殖雌牛60頭、肥育牛32頭、種雄牛2頭(いずれもリムジン種)で、めん羊と同じく、4月〜12月まで昼夜放牧し、1〜3月の間は、日中に放牧し、夜は牛舎に戻している。この地域の農法は、丘陵地を活用しためん羊・牛の放牧とその排せつ物利用による穀物収穫が、農家内で不可分の関係をなして発展してきた歴史があり、めん羊の飼養頭数は年々減少しているものの、今なお主流の農法として定着している。

 経営の現状について同氏は、放牧を主体とし、アニマルウェルフェアを考慮して生産した食肉は、英国では高品質なものとして高い評価を得られているとしている。このため、効率を優先した生産体系の有効性については理解するものの、現在の生産方法を可能な限り継続していきたいとの考えであった。

中央がヒュー・パスモア氏
放牧されている繁殖牛(リムジン種)
めん羊に給与するアブラナ
(1日分の給与分を電牧で区画)

(4)豚肉の状況(AHDB マーケットスペシャリスト ステファン・ハワース氏)

○豚肉生産は、将来的にも増加と予測

 2014年の英国の豚肉生産量は前年比4%増の86万2000トンとなった(図15)。これは、2001年に英国で口蹄疫が発生して以降、最高レベルの生産量となる。生産増の要因としては、と畜頭数の増加とともに、飼料価格が安価で推移した結果、枝肉重量の増加につながったことが大きい。

図15 豚肉生産量の推移
資料:AHDB

 また、飼養管理の改善と能力の向上により、母豚1頭当たりの年間肉豚出荷頭数は、近年、毎年1頭程度ずつ増加している。このため、母豚飼養頭数は横ばいながらも、2015年、2016年とも前年を上回る増加が見込まれる(図16)。

図16 豚肉生産量の推移予測(前年同期比)
資料:AHDB

○豚肉価格は、下落が継続

 豚肉価格は、2013年下半期からの下落基調が継続している(図17)。また、EUの平均価格は、英国よりも急速に下落しており、ユーロ安・英ポンド高の為替相場の影響も受け、英国国内とEU平均の価格差は拡大を続けている。この状況が続けば、他のEU加盟国からの豚肉輸入量が増加し、さらなる価格下落と国内養豚経営の収益悪化を招きかねない事態となっている。

図17 豚枝肉価格の推移
資料:欧州委員会

○まとめ

 2014年の豚肉市場を振り返ると、英国国内およびEU域内で供給が需要を上回る状況となり、大幅な価格下落となった。英国の豚肉生産量は、将来にわたり継続的に増加するとみられることから、価格維持のためにはさらなる需要の創出が必要となる。また、2015年の国際市場は、より競争が激化すると考えられ、特に米国とカナダの輸出増が見込まれる。

 なお、2014年に米国で発生した豚流行性下痢(PED)のように、豚肉生産と疾病リスクは常に隣り合わせにある。また、下落基調にあった飼料価格が、2014年の秋頃から上昇基調にある。こうしたリスクへの対応が、豚肉生産を続ける上で必要になる。

3 おわりに

 2014年、英国を含むEUの畜産物市場は、ロシアに翻弄された1年間となった。

 豚肉については、ポーランドとリトアニアで発生したアフリカ豚コレラを理由に、2月からEU産豚肉の全ての輸入が停止された。この結果、2012年から高水準で推移していたEUの豚肉価格は、夏季の需要期にも伸び悩み、10月にかけては大幅な下落を見せることとなった。英国豚肉の価格は国内需要に頼るものの、同調して下落基調となっている。

 また、乳製品についても、8月からウクライナ問題に係る経済制裁への報復措置として、EU産農畜産物の禁輸措置が導入された。クオータ廃止を控え、生乳生産量が増加基調にある中での輸出需要の減退となり、EUの生乳価格は大きく低下した。生乳生産量の多くが国内市場に向けられ、主に飲用乳として消費される英国は、EU平均の価格推移とやや異なる傾向にあるが、同調して下落した。英国の乳製品市場は、消費や流通が他のEU加盟国と異なる背景をもつため、生乳クオータの廃止については、アイルランドの増産により英国への輸入が増えることが酪農分科会で示唆される程度にとどまった。

 2015年の英国の畜産物は、安定的な生産が予測される中、EU域内市場の価格下落とユーロ安・英ポンド高の傾向により、競争力を増した近隣国からの輸入が増加すると懸念されている。また、ロシア禁輸措置の解除が見通せず、輸出需要が限定的な中、飼料価格の上昇など、コスト面の不安材料も指摘されている。

 一方で、基調講演で示された高品質商品の消費増や、新たな市場への参入などへの期待は残されており、生産から販売までの連携した取り組みが、英国の畜産業に求められていることが確認された。


 
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