需給動向 海外

◆アルゼンチン◆

2015年の牛肉生産は好調に推移


と畜頭数、枝肉重量共に増加

 アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)によると、2015年1〜8月の牛と畜頭数は前年同期比1.8%増の816万754頭、牛肉生産量は同3.8%増の183万1000トン(枝肉重量ベース)となった(図11)。また、1頭当たり枝肉重量は、同1.9%増の224キログラムとなった。

 2015年は、最大の肉牛・牛肉生産州であるブエノスアイレス州で、雨期となる1〜3月ごろに例年以上の降雨を記録し、一時的に放牧環境が悪化したが、その後の天候回復から全体的には牧草の状態は良好となり、雌牛の保留が進展した。また一方、肉用牛価格が堅調に推移する中、生産者は、飼料穀物価格も安値で推移したことで、国内需要の高い若齢牛への飼料穀物多給により出荷を早めた結果、牛肉生産は増加につながった。

 ひよくな土壌を有するパンパ地方の生産者は、肉用牛と穀物生産を複合的に行っている場合が多いが、トウモロコシや大豆の価格低迷を受けて牛の飼養頭数を増やす意向が高まっているとされる。こうしたことから、従来の放牧型から、集約的なフィードロットによる飼養管理が拡大しており、飼料穀物の多給から出荷体重は増加傾向にある。米国農務省によると、近年、アルゼンチンの肉用牛生産は、肥育段階での飼料穀物の給与割合が高くなっており、同国の飼養管理方法は転換期にある。

牛肉輸出も前年から増加

 アルゼンチン国家統計院(INDEC)によると、2015年1〜8月の牛肉輸出量は前年同期比8.7%増の9万5646トン(製品重量ベース)となった(表1)。輸出先別では、中国向け(2万8986トン、同176.2%増)が大幅に増加した。中国では、国内の旺盛な牛肉需要を受け、大手食品企業が安定的な確保に向け、価格優位性があるとされる南米(ウルグアイ、アルゼンチン、ブラジル)からの調達量を増やしている。

 一方、EUや米国などに対して農畜産物の輸入禁止措置を講じているロシア向けは、原油国際価格の下落を受け、ルーブル安に陥ったことで購買力が低下し、前年同期比66.3%減の5433トンと大幅に減少した。また、前年度に最大輸出先であったチリ向けは、同国内で牛肉生産が伸びた上、安価なパラグアイ産の輸入が増えたことから、相対的にアルゼンチンからの調達がかなり大きく減少した。

 EU向けのうち、ヒルトン枠(EU向け骨なし高級生鮮牛肉の低関税割当枠)は同1.3%増の1万3520トンとなった。輸出先はドイツ(輸出量シェア56.2%)、オランダ(同29.9%)、イタリア(同10.6%)の3カ国でこの枠の96.7%を占めている。

新政権の輸出政策に注目

 アルゼンチンは、米ドルに対してペソ安で推移する為替相場により輸出競争力は有しているものの、政府は国内優先供給政策として牛肉輸出税(15%)をはじめとした輸出管理政策を講じており、これが輸出の商機を逃す大きな要因とされている。

 同国の国内需要が頭打ちの状態にある中で、今後、牛肉業界が発展するためには輸出に大きく頼らざるを得ない状況にある。こうした中、2015年11月22日に予定される大統領選(決選投票)への関心が高まっており、争点である現行の輸出管理政策の見直しや新たな輸出振興の行方が注目されている。

 なお、2015年6月に、米国農務省動植物衛生検査局(USDA/APHIS)は、アルゼンチン一部地域からの生鮮牛肉の輸入再開を承認しており、現在は各種手続きなどの最終確認段階とみられている。早ければ、2016年初めにも米国向け輸出が再開されるとみられている。

(調査情報部 米元 健太)

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