特集  畜産の情報 2015年12月号

長崎県・壱岐の肉用牛繁殖経営における飼養管理作業の外部化
〜子牛受託施設(キャトルセンター)および繁殖牛受託施設(CBS)を中心に〜

大分大学 経済学部 准教授 大呂 興平


【要約】

 近年、肉用牛繁殖経営における飼養管理作業の外部化が模索されている。本稿では、先駆的な取り組みが見られる長崎県・壱岐において、子牛受託施設(キャトルセンター)および繁殖牛受託施設(CBS)の取り組みと生産者の利用実態を分析した。両施設ともに受託頭数が増加しているが、個別経営に与えている効果は異なる。子牛受託施設では、委託による追加的費用を上回る子牛価格上昇が期待できたため、中規模・大規模経営にも積極的に採用され、規模拡大や労働生産性向上に大きく寄与している。他方、繁殖牛受託施設は、高齢者による小規模経営がその利用の中心ではあるが、個別経営における家族労働力の喪失、経営の継承、規模拡大や技術習得などにおける変化を緩和する「つなぎ」として重要な役割を果たしている。

1 はじめに

 和牛の供給不足が深刻化している。子牛価格は空前の高騰が続いているにもかかわらず、頭数減少には歯止めがかからず、2014年には母牛頭数が過去最少の60万頭を割り込んだ。頭数減少の最大の原因は、高齢化に伴う生産者の引退である。肉用牛繁殖経営は畜産の中でも高齢化が特に進んでいる部門であり、70才以上の世代に生産の多くが支えられている。このため、彼らの引退とともに戸数の減少が加速しており、母牛飼養農家数は2004年から2014年の間に8万戸から5万戸へと4割近くも減少した(畜産統計)。頭数維持のためには残存する農家による大幅な規模拡大が不可欠であるが、この間1戸当たり母牛頭数は7.9頭から11.9頭への増加にとどまり、頭数を維持できるほどの規模拡大はできなかった。実際に、肉用牛繁殖経営において急速な規模拡大は容易ではなく、危険ですらある。というのも、規模拡大には大型の牛舎や機械、繁殖牛(母牛)などに巨額の資金が必要であるうえ、拡大直後は技術的に不安定で資金繰りが悪化しやすいからである。各産地では、経営規模の拡大をいかにスムーズに実現するのかが重要な課題となっている。

 こうした中で注目されているのが、地域内で組織された農業サービス事業体が飼料生産や飼養管理の作業を受託することで(農家から見れば飼料生産や飼養管理を外部化することで)、規模拡大や労働生産性向上を支援する動きである。個別経営にとっては、飼料生産や飼養管理への資本や労働の投入を軽減し特定の作業に集中することで規模拡大が容易になる。こうした外部化は飼料生産において先行しており、各地でコントラクターが設立され自給飼料の生産委託が進展している(注1)。他方、飼養管理においても、子牛の育成を引き受ける子牛受託施設(キャトルセンターやキャトルステーションなどと呼ばれる。以下「キャトルセンター」という)や、母牛の発情監視や授精を受託する繁殖牛受託施設(キャトル・ブリーディング・ステーション、以下「CBS」という)(注2)が各地で試みられている。

 もっとも、地域に農作業外部化の受け皿が用意されても、それが農業経営の規模拡大や労働生産性向上につながる保証はない。まず、農業サービス事業体の利用には費用が発生するのであり、生産者が費用を上回るメリットを認識しない限り農作業の外部化は進まない。実際、全国には利用が低迷し経営が悪化している事業体も多い。さらに、外部化が進んでも、それにより節約された労働力や資本が本来特化すべき農作業に投じられなければ、規模拡大には結びつかない。加えて、地域内の農家の置かれている状況は多様であり、外部化のメリットは農家により異なる。つまり、農作業の外部化の効果や課題を議論するうえでは、その取り組み内容とともに、それが地域のいかなる経営にどのように評価・受容されているのかに関する分析が不可欠である。

 本稿では、キャトルセンターおよびCBSの運営に先駆的に取り組んできた長崎県・壱岐を事例に挙げ、その取り組み内容と生産者の利用状況を分析し、飼養管理作業の外部化における効果や課題を整理しておきたい。

(注1) コントラクター委託に関しては、飼料自給の観点からも重要性が認識され、研究蓄積も多い(例えば、福田〔1〕、福田〔2〕)。
    他方、本稿の扱う飼養管理作業の外部化に関しては、事例の紹介はあるが(例えば、JAそお畜産部〔3〕、谷口〔4〕)、
    研究蓄積は限られている。

(注2) なお、CBSという言葉は「地域の肉用牛繁殖経営を支援する施設」といった意味合いで曖昧に用いられる場合も多いが、
    本稿ではCBSを「地域の農家から母牛を預かり管理する施設」と厳密に定義し、対応する語に「繁殖牛受託施設」を用いる。
    また、キャトルセンターやキャトルステーションには、「子牛共同育成施設」や「子牛育成施設」といった言葉も充てられるが、
    本稿ではより明確な「子牛受託施設」の語を用いる。

2 壱岐の農業と肉用牛繁殖部門

 壱岐は玄界灘に浮かぶ面積133.8平方キロメートル、人口2万8143人(注3)の離島である(図1)。地形的には比較的平たんであり、最も標高が高い地点でも212.8mにすぎない。平地が多いため、耕地率も27.6%と長崎県や全国の平均(それぞれ12.1%、12.3%)を大幅に上回る(注4)。ちなみに、「壱岐対馬」として壱岐と一括りにされる対馬の耕地率はわずか1.3%にすぎず、壱岐の平たんさは際立っている。気候は対馬海流の影響を受けるため比較的温暖であり、積雪はまれである。

 壱岐市における第1次産業の就業者数は全体の22.7%を占め、うち農業が14.0%、漁業が8.6%とそれぞれ重要な産業となっている(注5)。農業生産額は2000年代より50億円〜60億円台前半で推移しており、生産額の順に、肉用牛、水稲、葉たばこ、アスパラガス、いちごが主要品目となっている。ただし、それらの比重には大きな変化が見られており、1999年から2014年の間に、水稲は16.1億円から8.0億円、葉たばこは7.9億円から3.7億円と半減したのに対し、肉用牛は20.3億円から37.9億円と倍増し、農業生産額に占める肉用牛の割合は35%から64%へと急増している(図2)。肉用牛生産額の大半は子牛販売によるものであり、地域農業における肉用牛繁殖部門の重要性が増している。

 地域農業において肉用牛繁殖部門の比重が増しているのは、壱岐のような離島、より広くいえば日本の市場遠隔地(国土周辺部)において、1990年代以降にかなり共通して見られる現象である(注6)。大都市から遠く離れた国土周辺部の農業では、高度経済成長期以降、水稲やサトウキビ、葉たばこといった価格支持政策に支えられた品目に深く依存してきたが、近年、これらは保護水準の後退とともに軒並み収益性を悪化させている。これに対して、子牛はその価格形成が基本的には市場に委ねられているうえ、その最終商品である和牛肉は輸入品との間に品質面で明確な差別化ができており、子牛価格は2000年代以降、全般に高値で推移している。加えて、子牛輸送には鮮度が問われないため、他品目と比べれば市場遠隔地の輸送上の不利性が相対的に小さく、和牛の改良が進んだ地域では本土より離島のほうが子牛価格が高い場合もある。さらに、肉用牛繁殖経営は粗飼料自給が重要となる最も土地使用的な農業部門であるため、土地利用の粗放化が進む国土周辺部に立地適性がある。マクロ的に見れば、1990年代以降の日本の国土周辺部では肉用牛繁殖部門に立地の優位性が発現しているのである。

 しかし、地域の肉用牛繁殖部門のミクロ的な経営基盤は脆弱ぜいじゃくである。零細経営主体の構造から脱せないまま、高齢化とともに生産縮小している産地は多い。数少ない有望な農業部門である肉用牛繁殖経営を、どのように再編し地域に根づかせ直していくのかは、国土周辺部においてきわめて重要な課題となっている。

 壱岐でも、図2に見た肉用牛の販売増は子牛価格の高騰によるものであり、飼養頭数自体は減少している。2000年から2014年の間に、肉用牛繁殖経営は1461戸から765戸となり、母牛頭数も6390頭から5853頭に減少した(図3)。高齢化が進んでいるうえ、経営規模も零細であり1戸当たり母牛頭数は7.7頭に過ぎない。こうした中、壱岐において全国に先駆けて取り組まれてきたのが、キャトルセンターおよびCBSといった、各経営の飼養管理を外部化していく取り組みであった。

 それらは地域の肉用牛繁殖経営にどのような効果を与えているのだろうか。筆者は長崎県壱岐振興局およびJA壱岐市において、キャトルセンターおよびCBSの事業内容や運営実績などを把握するとともに、これらを利用している生産者に利用状況やその背景をめぐり聞き取り調査を行った。現地調査は、2015年8月に実施した。

(注3) 人口は壱岐市の数値であり(2015年7月末、住民基本台帳)、周辺の小離島である原島、長島、大島、若宮島の人口も
    含まれる。以下の各種統計では、壱岐市の数値を示す。

(注4)農林水産省『作物統計』(2014年)による。

(注5)国勢調査(2010年)による。

(注6)日本の国土周辺部の肉用牛繁殖部門の成長過程については、大呂〔5〕を参照されたい。

3 飼養管理作業の外部化の取り組みとその成果

 壱岐では2000年、長崎県下で初めての取り組みとして、農家で生まれた子牛を市場出荷まで預かるキャトルセンターが建設された。この施設はJA壱岐市が運営し、300頭規模の収容能力を持つ。施設は国庫補助事業により建設され、県、市からの補助金も利用された。このキャトルセンターの運営が軌道に乗ったことから、2005年には収容能力210頭規模の第2キャトルセンターが建設され、同センターには哺育牛舎や新規参入者の研修を目的とした繁殖研修施設が併設された。さらに、2007年には、島内で3番目となる収容能力300頭規模のキャトルセンターと144頭規模のCBSを併設した畜産団地が建設され(写真1、図4)、2009年より受け入れが開始された。この畜産団地はキャトルセンターも含めて「CBS」と呼称されるが、島で3番目にできたキャトルセンターとして、農家からは「第3キャトルセンター」とも呼ばれている。本稿では混乱を避けるため、母牛の受託を目的とする施設や機能に「CBS」の語を充て、畜産団地の総称としてはこの語を使用しない。現在の各施設における牛の収容能力は、表1の通りである。以下ではキャトルセンターとCBSについて、それぞれの取り組みと利用状況を説明したい。

(1)子牛受託施設の定着

ア 取り組みの内容と成果

 キャトルセンターは、4〜5カ月齢の子牛を農家から預かり、その子牛を年6回のセリ市に合わせて10カ月齢前後まで育成するものである。キャトルセンターは、毎月5日にJA職員の巡回により農家から子牛を引き取り、給餌はもとより去勢や削蹄といった管理を行い、家畜市場の開設日に市場まで運搬して引き渡す。委託料は1日に790円であり(2015年8月現在)、このうち20円は事故補償費として積み立てられ、施設内での事故や疾病に対して規定の料金が支払われる。委託料は農家のセリでの子牛販売額から天引きして精算される。

 2000年の設立後、キャトルセンターへの委託頭数はほぼ一貫して増加し(図5)、2013年には市場で販売された子牛の26%がキャトルセンターで育成されたものとなった。

 利用増の最大の理由としては、キャトルセンターで育成された子牛が一般の子牛と比べて、セリ市で高く評価された点が挙げられる。キャトルセンターでは、共通の飼料や飼養方法による斉一な子牛育成が可能であり、子牛を群飼いに慣らすこともできた。何より、職員が専従して個体観察に熱心に取り組み、きめ細かな給餌や疾病の早期発見を徹底していた。こうした努力が一般牛との2〜3万円もの価格差として実を結んだのである(表2)。

 こうした高値販売は、委託料の負担を補って余りあるものであった。設立当初の子牛委託料は1日当たり510円であり、5カ月間で7万6500円の委託料が発生した。しかし、委託料の7割に当たる360円分は飼料費であり、子牛育成には輸入粗飼料が利用されるため、これは農家が自分で飼っても発生する金額である。キャトルセンターに預けることで実質的に発生する追加的負担は1日当たり150円、5カ月で2万2500円であり、これは、子牛の高値販売による差額でほぼカバーできる金額であった。しかも、子牛を預けて浮いた労働力と牛舎スペースを、農家は増頭に充てることができた。例えば、母牛20頭規模の経営であれば、農家は育成用の牛房を母牛用に振り替えることで、3、4頭の増頭が可能になったという。評価は口コミでも広まり、キャトルセンターの利用が増加していった。

 キャトルセンターは、飼養技術の展示・実証という意味でも大きな効果を持っていた。多くの農家は、高い価格が実現されるキャトルセンターの飼養管理に関心を抱き、飼料やその給与方法、個体管理の方法などを自らの経営にも採用した。多くの農家がJAの子牛育成マニュアルに沿った飼養方法を取り入れたため、壱岐の牛は急速に斉一化が進み、全体として品質が向上したという。図6は、壱岐の子牛価格の推移を、長崎県、全国と比べたものである。壱岐の子牛価格は2003年には全国平均を上回り、また、2004年頃には長崎県の平均を大きく引き離すようになり、離島の家畜市場としては特筆すべき高値で扱われている。こうした価格の高位安定の背景には、子牛の品質改善が大きく寄与している。

 ただし、近年、キャトルセンターと一般農家の子牛価格差が縮小している(表2)。このことは、農家の育成技術の向上を意味する一方、キャトルセンターの個体管理にも改善の余地が生じていることを示している。キャトルセンター間での子牛価格の差も大きく、例えば、2013年2月の子牛市場では、第1キャトルセンターは子牛1頭平均52.3万円であったのに対して、第2は47.7万円、第3は50.3万円となり、一般牛の平均(51.7万円)を下回った。この価格差は飼養担当者の経験や資質によるところが大きいという。近年では飼料費の高騰とともに、委託料の値上がりも続いている。キャトルセンターとして農家の信頼をさらに高めるには、育成技術のさらなる向上と均質化が求められている。

イ 農家の利用状況

 個々の生産者はキャトルセンターをどのように評価し利用しているのだろうか。筆者は、4戸の肉用牛繁殖農家に、経営の概況とともにキャトルセンターやCBSの利用状況について聞き取り調査を行った(注7)。各農家(A〜D)における母牛頭数は76頭、21頭、26頭、41頭である。表3のように、農家Aは壱岐で最大級の規模であるが、1人の家族労働力のみで経営を行っている。他方、農家Bおよび農家Cは、伝統的な水稲との複合経営から徐々に肉用牛を増頭した20頭規模の経営で、いずれも60才代の夫婦に担われている。農家Dは、2008年に新規就農した肉用牛繁殖の単一経営であり、30才代の若手に担われている。

 4戸のうち、2015年に入り利用を中断した農家D以外は、キャトルセンターを利用している。ただし、農家Aは子牛を全て預けているのに対し、農家Bは自家保留する雌子牛は自ら飼い、市場出荷する子牛だけを預けており、農家Cも牛舎スペースの不足分だけを預けている。

 農家Aは子牛育成に必要な施設や労働力を持たず、子牛育成の作業を完全に外部化している。育成牛舎はなく、繁殖牛舎もビニールハウスを利用した、母牛80頭規模にしては極めて簡素なつくりである。また、男性1名のみが経営に従事しており、その彼も日中は削蹄師として働いている。簡素な施設、限られた労働投入でこの頭数規模が実現されているのは、キャトルセンターに子牛育成を全て任せているからである。壱岐では、経営主がフルタイムの農外就業に就きつつも母牛30〜40頭規模の中規模経営を実現する農家があるが、これらもキャトルセンターへの子牛育成の外部化により実現されている。

 農家BやCは、牛舎スペースが許す限りは自分たちで丁寧に飼い、それを超える子牛のみを預けている点で共通している。彼らの経営には牛舎の構造上、20頭程度に母牛頭数の上限がある。他方、労働力の面では60才代の夫婦2人で従事しているため多少の余裕があるが、後継者が決まっているわけではなく、牛舎を新設するほどの拡大意欲はない。彼らがキャトルセンターを利用する動機は、既存の牛舎スペースの制約を緩和して、追加的な増頭が実現できる点を評価しているという面が大きい。

 他方で農家Dは、キャトルセンターでは満足のいく発育が得られなかったことを、利用中断の理由として挙げた。農家Dが預けた子牛の多くは増体が悪く、セリでの市場評価も低かったという。同様の不満は農家Aも抱いており、キャトルセンターの育成技術に未熟な面があることは事実であろう。ただし、キャトルセンターでの発育不良には、預ける前の個体管理にも原因がある。キャトルセンターでは多くの牛をまとめて飼うため、どうしても小さな牛は食い負ける傾向があり、預ける時点で発育が遅れていた子牛は、その後の発育も遅れてしまいやすい。その点、農家Cは群飼いでも食い負けないよう、キャトルセンターに預ける前に別に増飼い(濃厚飼料の増給)して太らせている(写真2)。預けるまでの哺育・育成の巧拙こうせつも、その後の発育の鍵となっている。

 なお、利用を中断している農家Dも、実際に自分で育成してみると、スペース確保と堆肥出しの作業のやりくりに苦労しており、キャトルセンターの利用再開も検討している。農家Dはキャトルセンターの利用を前提に肉用牛繁殖経営に新規就農したため、育成舎を持っていなかった。このことは、キャトルセンターが牛舎スペースや労働投入を削減する上で大きな効果があることを物語っている。

 では、地域全体として見た場合、どのような農家が、どの程度キャトルセンターを利用しているだろうか。表4は、母牛頭数規模別に2014年のキャトルセンターの農家利用数を見たものである。母牛5頭未満の規模では、キャトルセンターを利用する農家は全体の13%にとどまるが、規模が大きくなるとともに利用農家の割合が高まり、10〜19頭層では全体の39%、さらに、50頭以上層になると60%がキャトルセンターを利用している。このように、壱岐では大規模層ほどキャトルセンターを積極的に利用し、飼養管理作業を外部化している。農家Aや農家Dのように、キャトルセンターへの子牛委託を前提として、育成に必要な牛舎や労働力を確保せずに新規参入や規模拡大を図る農家も多い。キャトルセンターは地域の農家の規模拡大に大きく寄与していると言えよう。

(注7) 調査先の選定は長崎県壱岐振興局に依頼し、規模や年齢、労働力構成などの面でなるべくバラエティがあるよう
    配慮して頂いた。

(2)繁殖牛受託施設の試み

ア 取り組みの内容と成果

 CBSは、母牛を預かり必要な個体管理を行うものである。壱岐ではJAによりキャトルセンターに併設して建設され、子牛受託と母牛受託が一体となった全国初の施設として注目されている(図4)。CBSは建設当初、いくつかの利用目的で母牛を預かることを想定していた。

 その第1は、母子委託である。これは、分娩後の母牛をその子牛とともに預かり、子牛は哺育牛舎で人工哺育するとともに、母牛を繁殖牛舎で預かって人工授精し、妊娠鑑定後に農家に返すものである。母牛が再び受胎してそれが妊娠鑑定で確定されるまでの4〜5カ月間が母牛の預かり期間となる。

 第2は、繁殖育成である。これは市場で導入したり自家保留された雌子牛を預かって育成し、授精、妊娠鑑定後に農家に返すものである。導入された10カ月齢前後から母牛が受胎し妊娠が確定するまでの6カ月程度が預かり期間である。

 第3は、繁殖障害からのリハビリである。これは繁殖障害の母牛を預かり、獣医師と職員が一緒に管理するものである。障害の原因を特定し、子宮洗浄や栄養改善、運動不足の解消などを行ったうえで、授精、妊娠鑑定してから農家に返すことになる。

 第4は、一時預かりである。これは、病気やけがなどの理由で繁殖農家が一時的に飼養管理をできなくなった場合に、母牛を預かり経営の継続を支援するというものである。必要に応じ、預かり期間中に人工授精や妊娠鑑定も行う。

 委託料はいずれの利用目的でも母牛1頭につき1日700円で(2015年8月現在)、子牛預かりで行われている事故補償費の積み立ては行われていない。治療や人工授精などの必要経費は、農家が別途支払う。また、子牛販売時に販売額から天引きされる子牛預かりとは異なり、母牛の委託料は毎月本人のJAの口座から徴収される。なお、CBSでは原則として母牛の分娩は引き受けていない。妊娠鑑定により受胎が確認されたら母牛を農家に返還し、一時預かりでもやむを得ない場合を除き、分娩は避けている。これは、分娩時には事故のリスクが大きく、従業員の心理的・肉体的負担も大きくなるためである。

 以上のような利用目的を想定して、CBSでは2009年より母牛の受け入れを開始した。ところが、利用実績としては、母子委託や繁殖育成を目的とした利用はほとんどなく(注8)、リハビリも年間10〜20頭程度で横ばいであるのに対し、一時利用が2009年の3頭から2013年の134頭へと急増している(図7)。こうした利用実績をどのように理解すれば良いのだろうか。以下では、農家の利用状況とその背景について詳しく見ていきたい。

(注8) JAは各農家のCBS利用状況を記録しているが、母子育成や繁殖育成は利用実績がほとんどないため、特段の記録を
    残していないという。ただし、わずかではあるが、事実上繁殖育成や母子育成を目的として利用された場合も「一時預かり」に
    含めて集計されているケースがある。後述する農家Aの利用も「一時預かり」に集計されており、また、図8の「授精等」も
    そうした目的での利用に該当する。

イ 農家の利用状況

 聞き取りを行った農家のうち、CBSを利用したことがあったのは農家Aのみで、農家B〜Dは一度も利用したことがないという(表3)。農家B〜Dは、CBSに母牛を預けていない理由として、1日700円という委託料の高さを挙げている。例えば、母子育成で母牛と子牛をそれぞれ5カ月、10カ月の間預けるなら、合計34.2万円が追加的に必要となる。これ以外に人工授精や治療にも費用がかかるうえ、妊娠確認から分娩までは自分の経営で飼養する必要があり、母子ともに預ければ子牛1頭の生産に50万円近い物財費がかかる。

 もっとも、 1日790円の子牛預かりが定着している現状を踏まえれば、CBSの利用されない理由は委託料の高さそのものではなく、委託料に対するメリットの小ささに求めなければならない。母牛委託に期待される最大のメリットは、確実な発情発見・授精による分娩間隔の短縮である。一般に、授精のタイミングを逃すことによる経済的損失は1日1000円程度と言われており、CBSに預ければ、そうした損失を最小限にとどめることができる。しかし、農家A〜Dはいずれも1年1産を達成できており、分娩間隔の短縮はCBSに預けてまで改善すべき課題とはなっていない。もちろん、分娩間隔が特に長い農家にはCBSを預けるメリットは生じるが、壱岐全体としてみてもそうした農家は少ない。1日700円もかけなくとも、自分で丁寧に観察すれば受胎させられるという認識が、CBSでの母子委託や繁殖育成の利用低迷の背景にある。

 加えて、メリットの見えにくさも大きな要因であろう。子牛委託では、その効果が販売価格の増大というかたちで明確に認識されるのに対して、母牛委託では、分娩間隔の短縮という効果があっても、その所得への貢献が認識されにくい。また、繁殖農家にとって子牛は商品であり、農家はその高値販売のために飼料費や管理に対する出費をある程度許容する面があるのに対して、母牛は生産財であり不要な出費は節約したいという心理がより強く働く。とりわけ、売り上げから委託料が天引きされる子牛委託とは異なり、委託料が毎月差し引かれる母牛委託は、それが費用として強く意識される。CBSでの母牛の預かりは、避けるべき不必要な出費と見なされやすい。

 調査農家の中でCBSを唯一利用していた、母牛76頭の農家Aは、母牛をスポット的に預けている。利用するケースは、第1に、家畜市場で不受胎で売りに出された母牛の飼い直し目的での利用である。農家Aは削蹄師をしており島内の農家を巡回しているため、売りに出される母牛でも飼い直せば受胎できる牛が判別できるという。農家Aはこうした母牛を適宜安く購入して受胎させているが、不受胎の原因が栄養不足にある場合のみ、CBSに預けている。CBSでは母牛に十分な粗飼料を与えてくれるため、栄養不足の牛が回復するには格好の場であり、飼料費を考えると「お得」だという。他方、過肥が原因で不受胎になっている母牛は、自分で放牧を取り入れて回復させればよいだけなので、預けずに自分で飼養している。第2のケースは、牛舎スペースの不足時に、キャトルセンターで預かってもらっていた自家保留用の雌子牛を、そのままセンターに残し育成、授精してもらうための利用である。ただし、第1のケースも第2のケースも、農家Aはいずれも恒常的に預けているわけではない。2014年度に農家Aが預けた母牛は3頭にとどまる。

 なお、CBSを利用していない農家Bや農家Cは、今後高齢になり入院でもすることになれば、一時預かりで利用することはあるかもしれないと語っている。彼らは夫婦ともに60才代であり、体調に不安を感じる場面も増えている。離島である壱岐は、病気やけがで入院するとなれば福岡市内の病院に入ることが多いし、付き添いの家族も併せて島を離れざるを得なくなる。そうした万が一の場合に、自分の母牛も一時預かりをしてもらう可能性は確かにあり、その点でCBSの存在は心強いというのである。

 地域全体として見た場合、どのような農家がCBSを利用しているだろうか。表5は2014年度にCBSを利用した農家を頭数規模別に見たものである。利用農家は41戸であるが、そのうち母牛5頭未満層が18戸、5〜9頭層が13戸と小規模層が大半を占め、20〜49頭層では2戸による5頭、50頭以上層は農家Aによる3頭の利用に限られる。このように、CBSはキャトルセンターのようには、拡大志向の経営に全面的に利用されているものではない。

 CBS利用の9割を占める一時預かりについて、その具体的な受託理由について集計したのが図8である。まず、最大の受託理由は、「本人ないし家族の入院」であり、これが利用頭数の60%を占めている。入院の場合は通常、CBSが農家の全ての母牛を預かることになる。なお、入院を理由に一時預かりに預けた農家の4割弱が最終的に経営を中止している一方、半数以上が一時預かり後に経営に復帰するか、後継者に経営を継承させており、CBSはそうした経営の継続に重要な役割を果たしていると評価できよう。

 入院以外の受託理由では、「多忙や旅行などによる一時利用」が15%を占めるが(注9)、「規模拡大過程での利用」というより積極的な利用もそれと同程度ある。これは、農家が大型牛舎を建設するに当たり、完成までの間、新牛舎に入る予定の母牛をCBSに預けたり、牛舎が完成してもいきなり全頭入れずにCBSから自らの牛舎に徐々に移して技術を身につけていった例がこれに当たる。一般に規模拡大過程では、資本装備の増大とそれに見合う生産者の技術習得に時間差があり、それが経営悪化の原因となる。この時間差を縮小しリスクを緩和するうえで、CBSが有効に機能していると言える。また、「農協指導」に従い一時預かりに出している例も注目される。個体管理が不十分で母牛の発情を頻繁に見落としている農家の場合、受胎早期化による収益増加分が委託料を上回るはずである。CBSはこうした農家の経営改善にも有効であった。

 以上のように、CBSはキャトルステーションと比べれば、規模拡大を強力に誘導する装置にはなっていない。しかし、CBSは個別経営における家族労働力の喪失、経営継承、規模拡大や技術習得などにおける変化を緩和する重要な「つなぎ」として定着しつつある。

(注9) 本土の子供に会うなどの理由で旅行中預けるような農家がこれに当たる。また、葉たばこのように労働の季節性が強い
    作目と組み合わせた複合経営において、農繁期に母牛を預けて発情発見などの観察をしてもらうといった利用例もある。

4 おわりに

 壱岐ではJAにより子牛および母牛の受託施設が建設され、肉用牛繁殖経営における飼養管理の外部化が追求されてきた。キャトルセンターとCBSではいずれも受託頭数が増加して飼養管理の外部化が進んでいるが、両者は個別経営とそれらの動態に異なる効果を与えている。

 まず、キャトルセンターへの委託では、個別経営における労働力や牛舎スペースの節約に効果があっただけでなく、委託による追加的費用を上回る子牛販売価格の上昇が期待できた。このため、キャトルセンターは壮年の中規模・大規模経営にも積極的に採用され、それが労働力や牛舎スペースの効率的利用にも結びつき、彼らの規模拡大や労働生産性の向上に大きく寄与している。

 次に、CBSへの委託では、早期受胎といった委託による経営改善の効果は、委託に必要な追加的費用と比べると十分に高くなく、規模拡大を志向する中規模・大規模経営はCBSを部分的にしか利用していない。他方、入院などで経営を一時的に中断せざるを得ない農家で一時預かりの利用が急増し、そうした受託体制が現存の高齢農家の安心にもつながっている。また、単なる引退までの一時預かりというだけでなく、経営継承時や、大型牛舎ができるまでのつなぎとしてCBSを利用している農家もある。CBSは、家族労働力や資本装備の急変による経営への影響を緩和し、経営を継続・発展させるうえでの重要な基盤となっていると評価できる。

 本稿の事例は、子牛育成の外部化はそれにより子牛の高値販売が実現されるなら急速に進展すること、母牛飼養の外部化も高齢化に伴う預かりニーズに応えられれば進展することを示している。もちろん、壱岐で見られた飼養管理の外部化が、他地域にとっても無条件に可能なわけではないし、それが望ましいとも限らない。壱岐のキャトルセンターの子牛の高値販売が職員の個体管理技術や意識の高さという属人的能力に支えられていることや、母牛受託の進展が、壮年層の規模拡大や労働生産性向上には全面的には結びついていないことは忘れてはならない。壱岐の事例を踏まえ、各地域の肉用牛繁殖経営において可能でかつ望ましい飼養管理外部化のあり方を具体的に検討していく作業が必要であろう。

(付記)

 現地調査に当たっては、長崎県壱岐振興局、JA壱岐市畜産部の方々に多くの資料をご提供頂くとともに、長時間の聞き取りに応じて頂きました。また、4戸の農家の皆様にも筆者の細かな質問に快く答えて頂きました。心より御礼申し上げます。

【参考文献】

〔1〕福田晋(2002)「飼料作コントラクターの展開とその利用システム」『畜産の研究』 第56巻第7号 pp. 765-773

〔2〕福田晋(2008)「コントラクターによる粗飼料生産の課題と展望」『日本草地学会誌』 第54巻第3号 pp. 262-266

〔3〕JAそお鹿児島畜産部(2004)「キャトルステーション(子牛育成センター)を活用した労働の外部化促進」『畜産コンサルタント』第40巻第6号 pp.50-52

〔4〕谷口覚(2014)「壱岐島の肉用牛生産を支えるキャトルセンターと繁殖支援施設−担い手の減少、高齢化に対応した地域サポートシステム確立へ」『畜産コンサルタント』第50巻第10号 pp.32-35

〔5〕大呂興平(2014)『日本の肉用牛繁殖経営―国土周辺部における成長メカニズム』農林統計協会

〔6〕植村誠(2005)「繁殖牛増頭運動の取り組み−JA壱岐市キャトルセンター」『びーふキャトル』 第4号 pp.10-13


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