特集  畜産の情報 2015年12月号

畜産の競争力の強化に向けて

農林水産省 生産局 畜産部長 大野 高志


 近年の畜産・酪農においては、農家戸数・飼養頭数ともに減少しており、例えば肉用牛生産では子牛価格が高騰し、肥育農家の経営を圧迫しています。また、酪農では生乳生産量が減少しており、昨年秋以降のバター不足問題から、一般紙でも酪農・乳業関係の報道が増え、国民の関心が高まっているところです。このような状況の中で、畜産・酪農の生産基盤の強化を図ることが最優先の課題となっています。

 また、今年は、3月末に「新たな食料・農業・農村基本計画」が策定・公表された大事な年です。この基本計画を受けて、畜産分野でも「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」、「家畜及び家きんの改良増殖目標」、「養豚農業の振興に関する基本方針」が策定・公表されました。これらは10年先を見通した、これから5年間の農政の指針となるもので、今年はその第1年目となります。これらの計画・方針・目標に一貫して流れているのは、農業・農村の所得や収益の向上であり、これを通じて地域の活性化・再興を図っていくことです。このため、農林水産省に「畜産再興プラン実現推進本部」を立ち上げるとともに、今後3年以内に緊急に対応すべき重要課題として、(1)繁殖雌牛の増頭、(2)酪農生産基盤の強化、(3)飼料増産の3つを掲げ、それぞれ推進しているところです。

 これらの課題を実現するための政策手段として、畜産を核として地域全体での収益向上を目指す畜産クラスター事業を27年度から本格的にスタートさせ、施設整備、機械導入への支援を開始したところであり、28年度予算要求においては、これを大幅増額して351億円を要求しています。この事業は、畜産部の目玉として関係者からの期待とニーズの高い事業であり、厳しい財源のなかではありますが、予算を確保していきたいと考えています。

 これに加えて、畜産・酪農の競争力向上を強力に推進していくために、例えば和牛の生産拡大と生乳供給力の向上に資する和牛受精卵移植・性判別精液の活用や関係機器の整備、肉用牛の繁殖向上のための新たな取り組み(発情発見装置の導入など)や、畜産物分野の国産シェアの拡大に向け、国産畜産物の加工原料への利用を促進するための技術開発も支援していきます。

 さらに、輸入飼料依存から脱却するため、生産性向上のための草地改良、飼料生産組織の機能の高度化、濃厚飼料原料の増産、エコフィードの増産などにより、国産飼料に立脚した畜産への転換を目指す飼料増産対策や、畜種ごとの特性に応じて畜産・酪農経営の安定を図り、意欲ある生産者が経営の継続・発展に取り組める環境を整備する、セーフティーネットとしての各畜種の経営安定対策を措置するなど、畜産部として27年度当初予算を238億円上回る総額2335億円の酪農・畜産対策を要求しているところです。

 また、これらの支援対策の措置と併せて、重要課題を実現してゆく上で超えなければならない技術的課題、一例を挙げれば、受胎率の低下や分娩間隔の長期化、未利用・低利用の国産飼料原料の活用など、生産基盤の強化を図ってゆく上で障害となるこれらの課題を解決してゆくことも重要であることから、試験研究を司る農林水産技術会議との連携により、生産現場が求める技術の開発と得られた研究成果の生産現場での実証を進めるとともに、エコフィード利用、繁殖、放牧といったさまざまな分野に関するシンポジウムを開催し、新技術や先進事例の紹介と参加者による議論を通じて、これらの生産現場への普及・浸透を目指しているところです。

 酪農・畜産の生産基盤の強化を真に実現してゆくためには、例えばクラスター事業を活用して施設整備やリースによる機械導入を行うだけでは不十分だと思います。やはり地域の関係者の方々が一緒になって、地域の特性を踏まえながら、将来に向けてどのようなビジョンを描くのか、その実現のためにどのような体制を構築し、そして、どのような技術体系を導入してゆくのかということを十分に時間をかけて議論していただき、具体的なクラスター計画を立てていただくことが必要だと考えており、こうした趣旨を各地域でよく理解していただきたいと考えております。場合によっては、研究機関や普及組織、民間企業に参画してもらうことも有益でしょう。畜産部としては予算確保に加え、事業が実際にどのように活用されているか把握する必要もあると考えており、各地の優良事例を集めて全国に発信することで相乗的、波及的な効果を生み出し、取り組みを推進したいと考えております。

 支援措置が強化され、また、生産基盤強化に向けた取り組み・運動の高まりが見られる今こそ、畜産関係者が一丸となって、畜産の再興を実現する好機だと考えております。私ども畜産部も総力を挙げて、畜産の競争力の強化に向けて取り組んでまいりたいと思います。

(プロフィール)
大野 高志(おおの たかし)

昭和32年10月2日生まれ、京都府出身。
昭和55年3月 京都大学農学部畜産学科卒
昭和55年4月 農水省入省
平成20年8月 生産局畜産部畜産振興課長
平成25年7月 農林水産技術会議事務局研究総務官
平成27年8月から現職

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