【要約】
中国の酪農・乳業は、2008年のメラミン事件以降、牛乳・乳製品の安全性を高めるために、小規模から大規模へと再編・統合を進めてきた。この結果、生乳の生産構造を変化させつつ、毎年の増産に取り組んでいる。内需は、都市部では牛乳・乳製品の「質」を、農村部では「量」を求めるようになっており、所得の向上などで、さらなる消費拡大が見込まれる。一方、内需の拡大により、牛乳・乳製品の需給ギャップは年々拡大しつつあり、海外依存度が高まっている。各国とのFTA締結や国内乳業メーカーの海外進出の動きも活発化しており、今後とも中国が乳製品の国際需給の中心となるのは間違いない。
はじめに
中国の酪農・乳業は、2008年に育児用粉乳の原料乳にメラミンが混入した事件(注1)(以下「メラミン事件」という。)を契機に変革が求められてきた。特に、生乳生産は、零細経営から大規模経営中心へと構造変化が進み、乳業メーカーは「量」の生産から、製品の安全性や品質といった「質」に標準を定めていくようになった。
消費者は、メラミン事件以降、国産品に対する不信感から、輸入品を志向するようになり、粉乳類(全粉乳、脱脂粉乳)を中心に輸入が増加している。さらに、近年は、経済成長などを背景とした需要の高まりに対し、国内生産による供給との需給ギャップが拡大していることも輸入に拍車をかけている。
なかでも、2013年は、国内の生乳不足から粉乳類を中心とした乳製品の輸入を急増させたが、その後の国内生産の回復により、2014年後半にかけては、在庫調整のために輸入量を大きく減少させた。この中国の一連の動きが、国際相場の急騰・反落をもたらした要因の一つとなったことは、記憶に新しい。
今や中国は、乳製品国際需給に大きな影響を与えうる存在となり、同国の牛乳・乳製品の需要動向は、今後の国際需給を見通す上で重要度を増している。本稿では、直近の中国の酪農・乳業の変化を整理するとともに、今後の展望について報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1元=20円(2014年12月末日TTS相場:19.70円)を使用した。
注1:2008年9月、三鹿社製の育児用粉乳を摂取した乳幼児に泌尿器系疾患が多発し、原料乳にメラミン(毒性のある有機化合物)が
混入されていたことが発覚した事件。死者は6人、影響は約30万人に及んだとされる。
1 生乳の生産構造の現状
(1)生乳の主産地
中国の酪農は、乳用牛を飼養するのに適した気候であり、豊富な草地を持つ北東部が主産地となっている。2013年の生乳生産量は、内蒙古自治区が767万3000トン(全国シェア21.7%)、黒龍江省が518万2000トン(同14.7%)、河北省が458万トン(同13.0%)と、華北、東北地方に属する3省・自治区で、国内生乳生産量の約2分の1を占めている(図1、図2)。また、図1に示した生乳生産の多い上位10省・自治区で同8割強を占めている。これら地域別の生産構造はここ数年、あまり変化が見られないが、近年では北京市(61万5000トン)、上海市(26万5000トン)、天津市(68万2400トン)などの大都市郊外でも生乳生産が広がっており、産乳能力の高い乳牛を導入し、大規模に展開している経営も見られている。
図1 省・自治区別生乳生産量(2013年) |
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資料:中国乳業年鑑 |
図2 地域別生乳生産量上位10省・自治区 |
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資料:中国乳業年鑑よりALIC作成 |
(2)最近の生乳生産の動向
中国の乳用牛飼養頭数および生乳生産量は、酪農・乳業の発展に伴い、近年、概ね増加傾向にある(図3)。しかしながら、2008年から2009年にかけては、2008年のメラミン事件の発生により牛乳・乳製品の消費量が大幅に低下したことに伴い、酪農経営の収益が悪化し、乳用牛の淘汰や小規模経営の離農などにより、頭数と生産量はほぼ前年並みとなった。
その後、さまざまな牛乳の安全管理に関する政策・法令が制定され、政府主導の下、酪農・乳業界の再編・統合が進められたことから、2009年から2010年にかけて飼養頭数は大幅に増加するとともに、その後の国産乳製品に対する消費者の信頼回復もあり、生乳生産の増加傾向は続いた。
しかしながら、2013年の飼養頭数は1442万9000頭(前年比3.4%減)、生乳生産量は3531万トン(同5.7%減)と、ともに減少している。中国乳業協会は、減産の要因として、2013年7〜8月にかけて主産地での猛暑が長期化したことや、小規模・零細経営の離農が進んだほか、一部の大規模経営での経産牛の淘汰・更新などが重なったことなどを挙げている。また、政府の大規模化推進に対する支援の充実(注2)に加え、牛肉需要の拡大に伴う牛肉価格の上昇も、小規模経営を中心に乳用牛の淘汰を早めたとみられる。
注2:乳用牛飼養頭数200頭規模以上の農場を建設する際、中央政府から頭数規模に応じた補助金が支給される。あわせて、
主産地の地方政府による補助もあり、例えば、内蒙古自治区で300頭規模の農場を建設する場合、中央政府から
50万元(1000万円)、地方政府から80万元(1600万円)が支給される。
図3 乳用牛飼養頭数と生乳生産量の推移 |
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資料:中国国家統計局 |
(3)酪農経営における大規模化の進展
中国農業部によると、2012年の全国の酪農家戸数は205万5800戸(前年比6.5%減)であり、年々、減少傾向にある。また、1戸当たり乳用牛の飼養頭数は7頭程度と少なく、酪農経営の大多数は飼養頭数5頭未満の零細経営である(表1)。
表1 乳用牛の飼養規模別割合(農家戸数ベース)の推移 |
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資料:中国畜牧業年鑑 |
近年、飼料費など生産費の上昇に伴う収益の減少により、小規模酪農経営の離農が加速しており、高い収入を求めて都市部へ出稼ぎに向かうことが多いとされる。
一方で、飼養頭数100頭以上の大規模経営は増加しており、2012年は全体に占める戸数割合が0.7%(1万4200戸)であるものの、飼養頭数割合では37%をカバーするまでになるなど、大規模化は着実に進展している(図4)。蒙牛乳業(以下「蒙牛」という。)や伊利実業集団(以下「伊利」という。)など国内の大手乳業メーカーは、生産部門への投資を増加させ、大規模直営農場の開設や契約農場からの調達を進める一方で、零細経営との生乳取引を中止する傾向を強めている。この背景には、自社の指導の下で衛生的な飼養管理を行い、品質の高い生乳の安定確保を図るという目的がある。また、大規模経営に対しては、内蒙古自治区や黒龍江省など主産地の地方政府も、海外からの乳用牛の導入支援などを行っており、規模拡大に拍車をかけている。
図4 乳用牛の飼養頭数規模別割合(頭数ベース) |
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資料:中国畜牧業年鑑 |
(4)外資による経営参入
外資による中国への大規模農場開設も進んでいる。代表的なものでニュージーランド(NZ)の大手乳業メーカー、フォンテラ社の河北農場などの開設が挙げられる(囲み記事参照)。こうした大規模経営では、産乳能力の高いホルスタイン種を豪州やNZなどから輸入している場合が多く、トウモロコシやアルファルファ主体の飼料を給与することで、1頭当たりの乳量は国内平均よりかなり高いと推察される。加えて、搾乳施設などの設備も最新の機器が海外から導入されるなど、先進的な経営が展開されている。
これまで生乳生産の根幹を担ってきた大多数の零細経営は、生産性に加え、衛生管理や品質向上への取り組みにも遅れが見られ、淘汰されつつある。一方で、豊富な資金力を持つ国内外の乳業メーカーなどが生乳生産部門に参入し、酪農先進国並みの飼養管理による大規模経営が進展しており、生乳の生産構造は大きく変化してきた。
中国で生産拡大を図るフォンテラ
NZの大手乳業メーカー、フォンテラ社は、2007年に河北省唐山市で第1号牧場を建設し、現在まで河北省内に5カ所の牧場を開設している。さらに、山西省応県で牧場を合計5カ所建設するとしており、このうち現在建設中の3カ所は、2015年8月の稼働が予定されている(表)。同社は2020年までに中国内で30カ所の牧場(酪農拠点を6拠点、1拠点当たり5カ所の牧場)を建設する計画であり、年間の生乳生産量100万キロリットルを目標としている。
表 中国におけるフォンテラ傘下の牧場一覧(2014年7月現在) |
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資料:聞き取りなどを基にALIC作成
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河北省の牧場で飼養される乳用牛はすべてNZから導入され、給与飼料はトウモロコシのほか、良質の米国産アルファルファが主体である。また、乳用牛の飼養管理などを行う指導者もNZから派遣し、乳成分は国内平均(注)を上回り、乳脂肪分が4.1〜4.2%、乳タンパクは3.5%を維持している。なお、同社は中国国内に独自の乳製品工場を所有しておらず、牧場で生産された生乳は伊利や蒙牛、光明などの国内乳業メーカーへ供給している。これらのメーカーとの生乳取引の際は、乳成分の高さが評価され、乳価は通常よりプレミアムが上乗せされている。
注:2012年は乳脂肪が3.7%、乳タンパクが3.3%
また、同社は2014年7月、米国の医薬品メーカーAbbott社と共同発表を行い、両社で3億米ドルを出資し、河南省に5カ所の牧場を新設する計画を新たに打ち出した。この計画は、フォンテラにとって河北省、山西省に次ぐ3番目の酪農拠点となり、乳用牛を1万6000頭以上飼養し、年間の生乳生産量18万キロリットルを目標としている。1カ所目の牧場は2017年上半期に稼働予定としており、2カ所目以降は2018年に順次搾乳開始としている。
2 牛乳・乳製品の生産、消費動向
(1)牛乳・乳製品の生産動向
中国国家統計局によると、2013年の牛乳等の生産量は2336万トン(前年比8.8%増)、乳製品の生産量は362万1000トン(同9.2%減)となり、このうち粉乳類が158万9000トン(同16.4%増)となった(図5)。2013年の生乳生産量は前年を大きく下回るものであったが、北京に拠点を置く大手乳業メーカー、北京三元食品(以下「三元」という。)によると、飲用向けについては海外からの輸入全粉乳などを利用した還元乳で供給を確保したという。
中国の乳業メーカーの主力製品は、牛乳やはっ酵乳といった液状乳と粉乳類であり、チーズやバターはほとんど生産されていない。中国乳業協会によると、牛乳については、超高温瞬間殺菌(UHT)牛乳と低温殺菌牛乳の市場占有率は8:2程度とされる。中国全体ではUHT牛乳の消費が主流であるものの、その保存期限は 60日から1年と幅があり、乳成分についてもバラツキが大きい。また、海外からのUHT牛乳の輸入も増えており、国内の乳業メーカーは輸入牛乳が参入しにくい低温殺菌牛乳の生産に注力しつつある。
一方、これまで粉乳類の生産量はほぼ横ばいで推移してきたが、近年、国内乳業メーカーは、粉乳工場の新設を進めるなど、需要が拡大する粉乳類の生産を強化する動きも見られる。これは、収益性の高い低温殺菌牛乳の生産とともに、国産生乳の需給調整としての機能を担う上でも好都合である。
また、生乳の仕向け先が液状乳と粉乳類に集中している理由として、バターやチーズの需要が小さいことに加え、これら品目の関税率も低く(注3)、中国の乳価では輸入品との価格競争力がないため、国内生産にメリットがほとんどないことが挙げられる。
注3:2001年12月のWTO加盟後の協定税率はバターが 10%、チーズが 12%
図5 牛乳・乳製品生産量の推移 |
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資料:中国乳業年鑑
注1:牛乳等には、牛乳、乳飲料およびはっ酵乳が含まれる。
2:粉乳生産量の統計は2009年から開始 |
(2)牛乳・乳製品の消費量
中国には牛乳・乳製品全体の消費量に関する統計が存在しないため、中国国家統計局が公表している「都市部・農村部別の牛乳・乳製品1人当たり家計消費量」の統計から動向を見ていきたい。
2012年の都市部の牛乳・乳製品1人当たり家計消費量は、牛乳が14.0キログラム(前年比1.8%増)、はっ酵乳が3.5キログラム(同5.7%減)、粉乳が0.5キログラム(同5.7%減)となった。2008年のメラミン事件以降、牛乳・乳製品1人当たり消費量は減少しており、都市部ではまだ事件以前の水準には回復していない(図6)。
図6 都市部の1人当たり牛乳・乳製品家計消費量および支出額の推移 |
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資料:中国乳業年鑑
注:家庭における購入量と支出額 |
一方、都市部の同1人当たり年間消費支出額を見ると、牛乳が127元(2540円、同10.8%増)、はっ酵乳が34元(680円、同2.4%増)、粉乳が62元(1240円、同7.7%増)といずれの品目も増加傾向にある。都市部の消費者は購入量を減らし、安全性や品質を重視して、単価の高い製品を選択する傾向が高まっていると推察される。
次に、都市部の牛乳・乳製品消費量を所得階層別に見ると、いずれの品目も中間所得世帯以上で消費が多い(表2)。実際に北京や上海のスーパーマーケットに足を運ぶと、牛乳やはっ酵乳の小売価格は日本よりも割高である(表3)。乳業メーカー側も中間層以上をターゲットにした価格帯の商品開発を進める傾向にある。
表2 所得階層別都市部の1人当たり牛乳・乳製品家計消費量 |
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資料:中国乳業年鑑
注:所得階層は所得の上位10%を最高所得、以下順に高所得(10%)、中間より
高所得(20%)、中間(20%)、中間より低所得(20%)、低所得(10%)、最低所得
(10%)と分類。本表では、最高所得、高所得、中間、低所得、最低所得の部分を抜粋。
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表3 牛乳・乳製品の小売価格の一例(北京市内スーパー) |
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資料:ALIC調べ
注:2014年11月上旬現在 |
都市別では、北京や上海といった大都市での1人当たり消費量は平均を大きく上回り、2012年は北京が、牛乳21.0キログラム、はっ酵乳7.9キログラム、上海については牛乳23.8キログラム、はっ酵乳6.6キログラムとなった。三元や上海光明乳業(以下「光明」という。)によると、北京や上海といったコールドチェーンが整備された都市部では、低温殺菌牛乳の市場占有率が高く、これらの都市の消費者は牛乳を購入する際に鮮度を重視するとされる。このため、最近では、製造日から数カ月経過したUHT牛乳は、海外産であっても売れ残る傾向にあるという。また、乳飲料については、コーヒーやフルーツ風味のフレーバーミルクのバリエーションも増えており、生産年齢人口を中心に消費が伸びている(写真6)。牛乳や乳飲料は、コンビニエンスストアなど取り扱う流通チャネルも増えており、都市部の消費者は利便性が高く、新鮮で美味しい製品への志向を強めている。
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写真4 三元の低温殺菌牛乳、パッケージには「鮮牛乳」と表示。
中には低脂肪タイプのものもある(北京市のスーパー)。 |
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写真5 値引き販売される輸入LL牛乳(上海市のスーパー) |
一方、農村部の牛乳・乳製品1人当たり消費量は、年々堅調に増加しており、2012年は5.3キログラム(同1.9%増)となった(図7)。三元によると、農村部では乳飲料など比較的安価な製品の売れ行きが好調とされる。また、所得の増加に伴い、徐々に高価格帯の製品も売れつつある。
図7 農村部における1人当たり牛乳・乳製品消費量の推移 |
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資料:中国乳業年鑑 |
都市部での牛乳・乳製品の1人当たり消費量は伸び悩んでいるものの、都市部の人口はここ5年間で5.6ポイント伸びており、人口の増加を加味すれば、中国全体の消費量は増加傾向で推移していると考えられる。また、中国乳業協会によると、毎年150万〜200万トンの生乳が不足しているとしており、海外から粉乳類をはじめとする乳製品を大量に輸入している実態も踏まえれば、国内の生乳で需要を賄えていないことは明らかである。
(3)育児用粉乳の消費動向
中国では、近年、育児用粉乳の消費量が増加しており、このことが粉乳類の輸入量増加につながっている。この背景には、母乳育児率の低下があり、国家衛生計画生育委員会によると、2014年の生後0〜6ヵ月の乳児の母乳育児率は27.8%(都市部が15.8%、農村部が30.3%)とされ、1998年の67.0%から大幅に低下している(表4)。
中国衛生部によると、0〜3歳の人口は 6900 万人とされ、新生児は毎年1600万人程度誕生している。また、現地報道などによると、育児用粉乳の乳幼児1人当たり年間消費量は20キログラムとされる。育児用粉乳の消費は、乳業メーカー側のPR効果とも相まって年々増加しており、その市場規模は2010年の50万トンから、2013年の70万トンまで拡大したとされる。今後も、一人っ子政策の緩和(注4)などによって、さらなる市場規模の拡大が見込まれている。
注4:夫婦どちらかが一人っ子の場合、第2子の出産が認められる。この緩和によって、年間200万人の新生児が増加すると見込まれている。
表4 母乳育児率の推移 |
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資料:国家衛生計画生育委員会
注:生後0〜6カ月の乳児が対象 |
国産育児用粉乳については、メラミン事件以降、消費者の不信感が強まったため、消費量は激減している。三元や光明によると、国内で生産された製品は、パッケージの原料欄に海外産粉乳を使用している旨を表記しなければ、消費者が買わなくなったという。中国で販売される育児用粉乳はかなり高価であるが、所得の高い世帯を中心に、乳幼児により安全性の高い粉乳を与えたいと考える親が増えている。北京や上海では1缶(900グラム入り)当たり200〜300元(4000〜6000円)の価格帯の製品が売れ筋とされ、市場シェアの上位を占める外資系企業は、こうした価格帯の製品ラインアップを充実させている。このほか、さまざまな機能性を付加した400〜600元(8000〜1万2000円)のハイエンド向け商品も存在する。
三元では、育児用粉乳の価格を低く設定しすぎると消費者の不信感が強まり、かえって売れないという話も聞かれた。中国では、価格の高さが安全性の高さにつながると判断している消費者が多いようである。このため、乳製品の中でも、育児用粉乳はかなり利益率が高く、今後の市場の拡大も見込まれるため、各社ともこの分野の生産拡大に注力している。
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写真7 スーパーで販売される輸入育児用粉乳、
製品は万引き防止用のタグを装着(北京市) |
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写真8 高級スーパーの輸入育児用粉乳、
ガラス戸棚で販売される(上海市) |
3 牛乳・乳製品の輸入動向
(1)牛乳の輸入動向
牛乳・乳製品の輸入の中で、最近の伸びが著しいのがUHT牛乳である。2010年から2013年にかけて、UHT牛乳の輸入量は毎年、ほぼ倍増しており、2013年は14万3000トン(前年比106.5%増)、2014年1〜11月は23万8000トン(前年同期比85.5%増)となった(図8)。主な輸入先はドイツやフランスなどのEU諸国であり、2014年に入ってからは豪州からの輸入の伸びが大きい。
図8 UHT牛乳(LL牛乳)の輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード040120(LL牛乳) |
中国乳業協会によると、国内の牛乳消費量は約2300万トン(2013年)とされ、輸入牛乳のシェアは約1%にすぎない。しかし、近年急速に輸入量が増加しているため、国内の乳業メーカーは危機感を募らせているという。特に、製造コストや販売価格面では国産品に軍配が上がるが、ブランド力や品質面では輸入品に優位性があり、高値でも売れ行きは好調とのことである。また、現地報道によると、農村部では割高な育児用粉乳の代わりに、輸入牛乳を乳幼児に与える親が増えているとされ、今後も市場は拡大していくと考えられる。
(2)粉乳類の輸入動向
全粉乳の輸入は近年、増加傾向にあり、2013年は61万9000トン(前年比52.5%増)、2014年1〜11月は、64万6000トン(前年同期比20.8%増)となった(図9)。特に、2013年は国内の生乳不足を受けて輸入量が急増し、2013年9月から2014年上半期にかけて前年同月を上回る状況が続いた。しかし、2014年に入ってからは、生乳生産量の回復や一定の在庫水準に達したことなどから、下半期には輸入需要に一服感が生じている。最大の輸入先は、2008年に中国と自由貿易協定(FTA)を締結したNZであり、輸入量全体の9割を占める。これに豪州、ウルグアイ、アルゼンチンと次ぐ。
図9 全粉乳および脱脂粉乳の輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注1:HSコード040210(脱脂粉乳)、040221および040229(全粉乳)
2:全粉乳輸入単価はHSコード040221 |
月別に見ると、毎年の第3四半期は、国内生乳生産の最盛期に当たるため、粉乳類の輸入量は比較的少なくなっている。また、1月に輸入が急増するのは、NZとのFTAでセーフガード措置が設けられた関係により、セーフガードが発動し関税率が引き上げられる前に輸入が集中するためである。なお、このFTAでは、粉乳類の関税率は段階的に削減され、2019年以降は撤廃される。また、セーフガード措置については、協定税率割当数量が年々拡大し、2023年の19万7000トンまで設定されている。セーフガードが発動すれば、協定税率の3.3%(2015年)から最恵国待遇の10%に切り替えられるが、その時期は年々早まっており、2015年はわずか3日で発動数量に達している(表5)。
表5 中NZFTAにおける粉乳のセーフガード発動状況 |
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資料:中国海関総署
注:対象となる粉乳は、HSコード040210(脱脂粉乳)、040221(無糖全粉乳)、
040229(加糖全粉乳)、040291(無糖練乳) |
同様に脱脂粉乳も増加傾向にあり、2013年は23万5000トン(前年比39.9%増)、2014年1〜11月は、23万8000トン(前年同期比19.1%増)となった。最大の輸入先はNZで、輸入量全体の4割以上を占め、これに米国、ドイツ、豪州と次ぐ。
2008年のメラミン事件以降、伊利や蒙牛、ワハハ、ワンワンチャイナなどの国内乳業メーカーは、NZ産粉乳を使用するようになった。ユーザー側は、高タンパクなNZ産粉乳の品質の高さを評価しており需要は定着している。なお、全粉乳の主な用途は、還元乳などの飲用向けを主体として育児用粉乳やアイスクリーム、ケーキなどであり、脱脂粉乳については主に育児用粉乳、その他にミルクティーや製菓などにも使用される。
(3)育児用粉乳の輸入動向
育児用調製品(原料の9割以上が育児用粉乳)の輸入量は、毎年堅調に増加しており、2013年は12万3000トン(前年比33.7%増)、2014年1〜11月は11万1000トン(前年同期比1.1%増)となった(図10)。
市場価格の高騰に伴い、さまざまなブランドを模した育児用調製品が市場に出回る中、2014年、中央政府が推進する育児用粉乳の品質安全強化に関する取組みの一環として、国家質量監督検査検疫総局(AQSIQ)から「輸入育児用粉乳の管理強化に関する公告」が発出された。これに基づき、輸入育児用粉乳は、2014年4月から中国語ラベルの貼付や小売向けの最小サイズの包装が義務付けられ、輸入後の詰め替えが禁止された。これは、国産品に外国語ラベルを貼り付けて輸入品に見せかけたり、大包装の育児用粉乳を輸入した業者が、国内で偽装した缶に詰め替え転売した事件などが発覚し、講じられた措置である。
さらに、2014年5月からは、海外乳製品メーカーに対する、登録管理制度が実施されており、実施日から、未登録の海外メーカーで生産された育児用粉乳の輸入ができなくなった。AQSIQによると、これらの制度の実施は、国内に流通する乳製品の安全性の確保のためとしているが、メラミン事件以降、国内市場でのシェアを高めた大小さまざまな海外ブランドを整理する狙いもあったと見られる。2014年の輸入量が11月の時点で前年を下回っていることから、本制度の施行によって、一部の未登録の海外メーカーの商品が国内市場から排除されたと考えられる。
図10 育児用調製品の輸入量 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード190110(育児用調製品) |
4 今後の見通し
国内の生乳需給ギャップは年々拡大傾向にあり、国産生乳の大部分が飲用向けに仕向けられる現状を踏まえれば、引き続き粉乳類が不足するのは明らかといえる。このため、粉乳類の輸入量は今後も増加するという見方は、中国の乳業関係者からの聞き取りでも一致した意見であった。ただし、2013年から2014年前半にかけて必要以上に粉乳類を確保する業者が相次ぎ、2014年後半に、一部の業者が在庫過多の状況に陥ったとされるため、2015年の輸入量は前年を下回るとの見方もある。
また、乳製品のうち、関係者のいずれもが今後の市場拡大を見込んでいるのが、育児用粉乳である。その理由として、多くの乳業メーカーが、内陸部や農村部など潜在性の高い市場がまだ存在していることや、新生児の出生増加が見込めることを挙げていた。中には、高齢化の進展によって、健康増進につながる成人用粉乳に商機を見い出している乳業メーカーもあった。経済発展に伴って、バターやチーズの需要拡大が有望であるとも考えられる中、粉乳にはまだビジネスチャンスがあると考える乳業メーカーが多いようだ。
中国では、飼料価格や地代、人件費や物流コストなどの高騰で、取引乳価はNZなど乳製品の主要輸出国よりも高いとされる。このため、国内の乳業メーカーは、海外での粉乳工場の建設や、外資系企業との提携などによって、安価で良質な原料乳を求めて海外に進出する動きをさらに活発化させると見られる。将来的には、国内乳業メーカーが海外で生産した粉乳類や育児用粉乳の中国向け輸出を増加させるのは確実である。
おわりに
中国の酪農・乳業は、メラミン事件以降、牛乳・乳製品の安全性を高めるために、小規模から大規模へと再編・統合を進めてきた。この結果、生産性を高め、毎年の増産に取り組むことができたとされる。
一方で、中国政府は各国とFTAの締結を進めており、いずれの協定においても牛乳・乳製品の関税を段階的に引き下げることに合意している。また、海外での生産に中国資本が参入しており、結果として乳製品の輸入増加が見込まれている。
しかしながら、一方で、中国ではすでに外資系企業が生乳生産にも参入し、酪農先進国並みの技術を導入しつつ、国際競争力を高める動きも活発化している。海外の乳業メーカーは、中国の酪農・乳業部門への参入と牛乳・乳製品の輸出拡大を同時に進行させており、既存の中国国内の酪農経営および乳業メーカーは、将来的に、国内の牛乳・乳製品市場の拡大が見込まれるとはいえ、さらに厳しい環境にさらされていくことになるだろう。
人口13億5000万人の中国市場は、潜在的成長力も高いため、今後とも中国が乳製品の国際需給の中心となるのは間違いない。この先、中国酪農・乳業がどのような変貌を遂げるか、目を離せない。
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