調査・報告 専門調査 畜産の情報 2015年10月号
岡山大学大学院 環境生命科学研究科 教授 横溝 功
【要約】 岡山県の「株式会社のだ初」は、採卵鶏と食品加工の2つの事業を行い、前者の直営農場の技術水準は高く、優れた技術成績を享受している。また、経営全体として高い付加価値を享受していた。この背景には、優れた労務管理がある。 1 はじめに −採卵鶏経営を取り巻く環境−(1) 採卵鶏経営の動向 近年の採卵鶏経営の動向を見たものが、図1である。1992年から2014年までの22年間に、飼養戸数が一貫して減少していることが分かる。1992年に9160戸であった戸数が、2014年には2560戸と、1992年の飼養戸数の約28%になっているのである。年率5.6%と大きく減少していることになる。 それに対して飼養羽数(成鶏めす)は、1992年の1億4523万羽から2014年の1億3351万羽へと、増減はあるもののわずかに減少している。1992年の飼養羽数の約92%になっているのである。年率0.38%の減少にとどまっている。 1戸当たり飼養羽数(成鶏めす)は、1992年の1万5900羽から2014年の5万2200羽へと増加している。1992年の1戸当たり飼養羽数(成鶏めす)の約3.3倍になっているのである。年率5.55%の増加になる。すなわち構造的には、採卵鶏経営は、飼養戸数の減少と残存する経営の規模拡大ということになる。 (2) 鶏卵の卸売価格の動向 卵は、物価の優等生といわれるが、2004年4月から2015年2月までの鶏卵の卸売価格の推移をみたものが、図2である。赤色の実線が実際の価格の推移である。青色の破線が季節変動を除去した(周期変動、トレンド、不規則変動からなる)価格の推移である(以下「季節調整済み価格」と略す)。季節調整済み価格に注目すると、2〜3年のサイクル(周期:山から山、または谷から谷)を確認することができる。この季節調整済み価格に、時間をx軸(2004年4月のx=1,2004年5月のx=2,・・・2015年2月のx=131)として直線回帰したものが、緑色の直線である。これがトレンドになる。図中に、回帰式を示したが、xの係数が0.1254とプラスになっている。ただし、決定係数(R2)(注1)は0.0521とかなり低いが、p値(注2)は1%水準で有意となっている。トレンドとしては、時間軸に対してやや右肩上がりということになる。 注1: 決定係数(R2)=理論モデルで、実際のデータがどれくらい当てはまっているかを示す指標である。0〜1の値をとり、 注2: p値=ある仮説が生じる確率を意味する。従って、p値が小さいほど、その仮説が妥当していないことになる。 図3は、前述の季節変動を図示したものである。1を中心に、1よりも大きい値は季節的に価格が高くなることを、1よりも小さい値は低くなることを意味している。それ故、1月に鶏卵の卸売価格は低く、2月に上がる。そして、7月まで価格が下がり、7月がボトムになる。7月および8月の夏期は価格が低迷し、9月に上昇に転じ、12月にピークになることが分かる。 (3) 鶏卵の交易条件 前述のように、鶏卵の卸売価格のトレンドは、2004年4月から2015年2月までの131カ月分のデータでみると、やや右肩上がりであるといえる。その間、一定の季節変動や周期変動を観察することができた。総じて、わが国の鶏卵産業は、安定的な価格で、国民に鶏卵を供給してきたことが分かる。 しかし、その間、採卵鶏経営にとって大きなコストである飼料の価格が高騰し、高止まりしている状況にある。そこで、鶏卵の卸売価格を飼料価格で割った値を、交易条件として図示したものが、図4である。この値は大きければ大きいほど、採卵鶏経営にとって有利であり、小さければ小さいほど、採卵鶏経営にとって不利である。なお、2004年4月から2015年1月までの130カ月分のデータを用いた。 鶏卵の卸売価格の季節変動や周期変動で、交易条件の値は大きく変動している。この交易条件の値に、時間をx軸(2004年4月のx=1,2004年5月のx=2,・・・2015年1月のx=130)として直線回帰したものが、青色の直線である。これがトレンドになる。図中に、回帰式を示したが、xの係数が-0.0077とマイナスになっている。決定係数(R2)は0.2403と低いが、p値は1%水準で有意となっている。 この図からも分かるように、交易条件のトレンドは、右肩下がりになっており、採卵鶏経営を取り巻く環境は、年々、厳しくなっていることが分かる。 2 経営概況(1) 経営史 岡山県倉敷市にある「株式会社のだ初」の歴史は古く、100年の歴史を誇る(表1)。現在の代表取締役社長の野田裕一朗氏は四代目になる。社長の曽祖父の野田初一氏が、1913(大正2)年に飼料雑穀店を始めた時まで遡る。 本稿では、経営史として、建物施設(本社・事業所・直営農場・店舗)、社名および社長人事に関連する事項のみを取り上げた。まず、たまごセンターから見ていく。1974年にGPセンター(注)を、現在と同じ場所に建設し、1991年に最新鋭の工場を新設している。2001年に、GPセンターをHACCP対応の工場に改装し、名称もGPセンターからたまごセンターに変更している。これは、一般の人には、GPという用語がなじみにくいからである。さらに、2005年には、生産計画管理システムを導入し、ハードとソフトともに充実させている。 次に、食品加工センターについて見ていく。当社の大きな特徴が、この食品加工センターを保有しているところにある(この中身については後述)。1976年に、現在の場所とは異なるところに、ブロイラーのパックセンターを新設している。1997年に、現在のたまごセンターに隣接する場所へ新築移転させている。1999年には、経営管理事務所を両事業所と同じ敷地に新設して、本社機能を集中させている。 直営農場として瀬戸内農場と吉備高原農場の2つの農場がある。1991年に瀬戸内農場に大型高床式鶏舎を新設し、1992年、1996年、2005年と鶏舎を増設している。吉備高原農場は、1992年に大型高床式鶏舎を新設し、1997年に増設している。 瀬戸内農場と吉備高原農場もいずれも10万羽の飼養規模で、本社からも離れたところに立地しており、鳥インフルエンザなど疾病に対するリスク分散が図られている。 店舗展開としては、2005年に、たまご専門店「うぶこっこ家」を、本社の近くにオープンさせている。 なお、現在の社名である「のだ初」になったのが、1976年である。また、野田裕一朗氏が四代目社長に就任したのが、2012年である。裕一朗氏の父でもある三代目社長は、会長に就任している。 (注) Grading(選別)とPacking(パック詰め)の頭文字をとった略称で、卵の洗浄、計量およびパック詰めを行う工場。 (2) 経営の組織図および建物施設 当社の経営は、4つの事業部から成り立っている。図5に、各事業部と建物施設との関連を示した。両者の関連がたいへんシンプルで、分かりやすい構造になっている。 図6は、当社の詳細な組織図を示している。極めて機能的な組織になっている。ここでは、鶏卵部を取り上げ、その中身について見ていくことにする。 鶏卵部は、(1)飼料、(2)アグリ、(3)たまごの3つの部門が設けられている。(2)アグリが農場を統括している。瀬戸内農場と吉備高原農場が、当社の直営農場になる。それ以外に、独立した関連農場が2農場ある。(1)飼料は、上記の4農場に飼料を供給している。(3)たまごは、4農場の卵のGPセンターの役割を果たしている。すなわち、たまごセンターのことである。なお、関連農場と当社の間には資本提携はない。当社の原種鶏や飼料を利用する独立の経営体である。 3 労働力確保と労務管理表2に当社の労働力の推移を示した。構成員は4名、従業員は110名前後で、臨時雇も含めると120名を超える労働力になる。 (1) 従業員・臨時雇の確保 労働力の確保では、ハローワーク、求人広告、紹介制度、派遣などを駆使している。当社の近隣に、水島の臨海工業地帯があり、雇用が競合している。それ故、男性の場合は、新卒での確保が難しく、最近は中途での採用になっている。 なお、表2で従業員は約110名であったが、正社員が40名、準社員が70名である。正社員の場合、平均年齢は30歳代で、半分は女性である。また、準社員の場合、平均年齢は50歳代で、ほとんどが女性である。準社員の70名のうち、9人は中国人研修生である。中国人研修生のための寮は、当社で準備されている。 (2) 社会保険の充実 当社では、従業員は、正社員、準社員に関係なく、厚生年金保険、健康保険、雇用保険にすべて加入している。会社にとっては大きな負担になるが、前述のように、人材確保を巡り競合が激しいので、社会保険の充実は不可欠といえる。 (3) 従業員・臨時雇の教育・研修 元コンサルタント会社部長の経歴を持つ女性を、外部アドバイザーとして雇用し、従業員・臨時雇の教育・研修を行っている。研修会や相談会は、月に2回のペースで行われている。上記のように、当社は女性のウェイトが高く、人間関係の悩みや、精神的な悩みを抱えるケースが多い。これらの悩み解消に、女性の外部アドバイザーの役割は大きく貢献している。 (4) 従業員・臨時雇のモチベーション 野田社長は、会社の経営では、従業員・臨時雇のモチベーションをいかに高めるかが重要であると考えている。そのために、従業員・臨時雇のやり甲斐を追求している。 例えば、クリスマス時期などの繁忙期を除いて、できるだけ残業をしないことを目指している。特に、4つの事業部の中では、食品加工部の残業が多い。そこで、食品加工部の従業員・臨時雇には、残業はいつまで続くものなのか期間を示すなど、改善策を明確に説明している。 以前と比べて、従業員・臨時雇にゆとりが生じるようになり、会話が生まれるようになった。このことが、生産性の向上、ひいては業績の上昇につながっている。 4 鶏卵部の展開(1) 鶏卵のマーケティング 鶏卵は、95%が卸を通じて、主としてローカルの量販店で販売されている。たまご専門店「うぶこっこ家」での店舗販売や、ネット販売などの直販は4%にとどまっている。また、当社の食品加工部で加工に用いられる割合は1%にすぎない。 以前、本誌の2010年5月号に、『鶏卵の地産地消を目指した取り組み』というテーマで、愛媛県四国中央市(有)熊野養鶏の事例を紹介させて頂いた。当該経営の成鶏めすは2万羽の飼養であり、直販の割合が60%にまで達していた。2007年度において、卸(GPセンター)への鶏卵1キログラム当たり平均販売単価が140円であるのに対して、直販のそれが287円であった。それ故、全体の平均単価は1キログラム当たり228円(=140円×0.4+287円×0.6)であった。 当社の場合、直営農場だけで、成鶏めすの飼養羽数は40万羽に上る。小規模で、特定の顧客への販売を目指した、こだわりの鶏卵生産は難しい。一般の鶏卵生産での勝負になるのである。 (2) 飼料の調達 配合飼料は、特約店を通じて、3つのメーカーから購入している。また、1つのメーカーからは、直接購入している。以前は、1社からの仕入れであったが、現在は、4社からの仕入れによって、価格交渉ができるようになった。 エコフィードは、現在、用いていない。コスト低減の工夫としては、飼料米と割卵用飼料の採用を挙げることができる。飼料米は、JA岡山西より購入している。現在は、飼料の約5%を添加している。平成27年度は、100トンを購入予定である。割卵用の卵は、卵黄を薄くできるため、割卵用として供給する場合には、安価な割卵用飼料を用いている。すなわち、割卵用は、マヨネーズなど業務用に用いられるものであり、家計用の鶏卵のように、卵黄の黄色さや卵殻の強度が求められないのである。それ故、パプリカなどの添加物を、減少させることができ、飼料コストの低減にもつながるのである。 (3) 採卵鶏部門の技術成績 成鶏100羽当たり年間鶏卵生産量(第54期:2013年10月1日〜2014年9月30日)についてみると、直営農場の平均では1769キログラム(瀬戸内農場1705キログラム、吉備高原が1832キログラム)である。これは、農林水産省『農業経営統計』(2012年、3万羽以上)の1594キログラムを大きく上回っている。また、データはやや古いが、(公社)中央畜産会が先進事例の採卵鶏経営46戸を対象に、2000年4月 〜 2001年3月の経営状況などについて行った調査(以下「先進事例調査」と略す)の集計結果とも比較してみると、当該成績は1759キログラムとなっている。なお、先進事例の46戸のうち所得の上位20%(9戸)、中位60%(28戸)、下位20%(9戸)についてみると、当該成績は、1791キログラム、1763キログラム、 1717キログラムとなっている。従って、当社は先進事例の中位階層に匹敵することが分かる。 鶏卵1キログラム当たり単価(第54期)についてみると、直営農場の平均では183.5円(瀬戸内農場184.5円、吉備高原農場が182.2円)である。これは、図2の全農の鶏卵卸売価格(東京・M)における2013年10月1日〜2014年9月30日の平均単価224.4円と比較すると、かなり安価になっている。このことは、前述のマーケティングにも関係している。 成鶏100羽当たり年間飼料消費量(第54期)についてみると、直営農場の平均では3865キログラム(瀬戸内農場3821キログラム、吉備高原農場3909キログラム)である。比較のために先進事例調査を用いると、当該成績は4020キログラムとなっている。なお、上位、中位、下位の当該成績は、4131キログラム、3982キログラム、 4013キログラムとなっており、上位階層が必ずしも少ないわけではない。いずれにしても、当社は、先進事例調査を上回っている。 飼料要求率(第54期)についてみると、直営農場の平均では2.18(瀬戸内農場2.24、吉備高原農場2.13)である。比較のために先進事例調査を用いると、当該成績は2.29となっている。なお、上位、中位、下位の当該成績は、2.32、2.26、 2.35となっており、上位階層が必ずしも低いわけではない。いずれにしても、当社は、先進事例調査を上回っている。 成鶏とう汰・へい死率(第54期)についてみると、直営農場の平均では5.4%(瀬戸内農場4.4%、吉備高原農場6.3%)である。比較のために先進事例調査を用いると、当該成績は6.2%となっている。なお、上位、中位、下位の当該成績は、5.6%、6.4%、 6.2%となっている。当社は、先進事例調査の上位階層に匹敵することが分かる。 以上のことから、当社は高い技術成績を享受していることが分かる。また、鶏卵の単価については、全農の鶏卵卸売価格と比較すると安価であった。 (4) 廃鶏処理と堆肥化処理 廃鶏の処理は、食鳥会社や養鶏農業協同組合の食鳥センターで行っている。前者は岡山県井原市にあり、後者は兵庫県加古川市にある。前者の食鳥会社は、比較的、当社に近く、廃鶏処理の1割を買い戻して加工用の原料として用いている。 なお、廃鶏の引き取りや輸送は、食鳥会社や食鳥センターが行っている。また、廃鶏1羽当たり30円が、食鳥会社や食鳥センターから支払われ、当社の収入になっている。 堆肥化処理は、瀬戸内農場では、発酵コンポストのシステムを用いている。それに対して、吉備高原農場では、発酵 堆肥は、自社で袋詰めまで行っており、全て問屋を通じて、ホームセンターで販売している。それ故、堆肥が余って困ることはない。 (5) 直営農場の売上高 当社の直営農場における売上高の推移について見たものが、表3である。鶏卵の価格変動の影響を受けて、年々の鶏卵販売金額は変動している。 図7は、当社の会計年度における図2の卸売価格の平均値と、鶏卵販売金額の相関を見たものである。当然のことながら、正の高い相関を認めることができる。図8は、直営農場の鶏卵販売金額とその他の収益も含めた売上高との相関を見たものである。こちらも高い相関にあることが分かる。 以上のことから、鶏卵の卸売価格が、直営農場の売上高に大きな影響をもたらしているのである。このことは、卸を通じて95%以上を販売していることによる。 5 食品加工部の展開(1) 食品加工部の特徴 食品加工部は、食肉全般を使った加工品および半加工品の製造販売を行っている。特徴的なことは、生加工で、鶏肉の生食を扱っている。中四国地域では、当社だけが扱うことができるオンリーワン製品といえる。また、加熱加工で、ローストビーフを扱っている。当社の強みは、他社が輸入原料で製造しているのに対して、国産原料で製造し、同じ価格で提供するなど、同業他社と比較しても圧倒的に優位な製品になっていることである。さらに、半加工品では、本格的な味が楽しめるレンジアップ対応製品など、より簡便で本格的な製品を随時投入している。 (2) 原料の調達 牛肉、豚肉、鶏肉の全畜種を対象にしている。牛肉は岡山・広島県産を利用している。特に、広島県に立地する大規模な法人畜産経営から購入している。 豚肉は、産地を量販店が指定することになる。国産だけではなく、米国、デンマーク、カナダ産も利用している。 若鶏は主に徳島県にある大規模な養鶏経営(地鶏の飼養から精肉加工まで手がける)から、「地養鶏」という名称の地鶏を購入している。当日入荷のため鮮度において優位性がある。親鶏は主に岡山・広島県産であるが、一部、自社の廃鶏も使用している。 以上のことから、原料の需給面からみると、鶏卵部と食品加工部の間には関連が少なく、両者は独立した事業展開になっていることが分かる。 (3) マーケティング 販路のほとんどは、B to Bになっている。また、相手先の多くは量販店である。前述のように、残業が多く発生し、製品が不足する状況にある。この背景には、オンリーワン製品の製造を目指していることと、消費者のニーズに合ったマーケットインを目指していることによる。 さて、食品加工部だけではなく、鶏卵部にも営業があるが、当社では、生産プロセスを知っている従業員が、営業マンになっている。単なる製品の販売ではなく、自社の製品の特徴を熟知した上での販売ということになる。それ故、鶏卵部の営業では、営業マン=たまごアドバイザーになっている。 また、当社のマーケティングは、販路開拓というよりも、既存の流通経路を大切にして、そのパイプを深くしているところに特徴がある。 6 付加価値を目指す経営戦略(1) 経営成績 第54期(2013年10月1日〜2014年9月30日)における当社の損益をみたものが、表4である。経営全体では、売上高は30億円近い金額になっている。そして、営業利益、経常利益ともに黒字になっている。周知の通り、営業利益は本業のもうけをあらわし、経常利益は営業に付随する金融などのもうけを勘案したものである。両者ともに黒字になっている。 そして、日銀方式による粗付加価値(=経常利益+人件費+賃借料+減価償却費+金融費用+租税公課)は、第54期の当社の場合、4億3197万円になる。この金額を表2の従業員数128人で割った金額が労働生産性になり、337万円になる。 なお、この粗付加価値を国内全体で合計したものが、GDP(国内総生産)になる。GDPが、国の経済面からみた豊かさの1つの指標になっていることはいうまでもない。 (2) 粗付加価値の比較 当社の粗付加価値と比較するために、農林水産省「農業経営統計調査」における「平成24年営農類型別経営統計(組織経営編)」の「営農類型別経営統計 組織法人経営 採卵養鶏経営(全国)」を用いる。平成24年(2012年)調査においては「平成24年(2012年)4月から25年(2013年)3月までに迎えた決算期の終了月前1年間」の期間が調査期間となっている。 当該統計の集計戸数は10経営体であり、以下では、1経営体当たりの平均値で見ていく。専従者換算農業従事者数30.64人(構成員4.2人、常時雇用者27.11人)である。専従者換算農業従事者数の計算式は下記の通りである。 専従換算農業従事者数(人)= 農業投下労働時間÷2000時間(8時間×250日) また、採卵鶏の飼養羽数は、13万6004羽である。当該統計の農業付加価値額は6080万円である。なお、農業付加価値額の計算式は下記の通りである。 農業付加価値額=農業所得+支払労務費+支払地代+支払給料+支払負債利子 そこで、日銀方式の粗付加価値に換算するために、農業付加価値額に減価償却費と租税公課を加えると、7970万円になる。当該金額を専従者換算農業従事者数30.64人で割って、労働生産性を求めると、260万円になる。 調査期間が異なるので留意が必要であるが、当社の粗付加価値が、当該統計の粗付加価値を77万円上回っていることが分かる。 (3) 経営理念 野田社長は、経営成績をチェックする上で、売上高にはほとんど興味がないとのことであった。例えば、現在の売上高が30億円であるが、40億円や50億円の売上高を目標にするということはない。野田社長は、経営成績では、いかに利益を維持するかという点に精力を注いでいる。急激な成長よりも安定的な成長を重視している。 そして、人情味のあるファミリー企業を目指している。その象徴として、たまご専門店「うぶこっこ家」が挙げられる。初年度6000万円の売上高であったが、徐々に売上高を伸ばし、現在では1億円を突破している。そして、たまご専門店の店舗展開で最も大きかったことは、顧客に直接触れることができたことを、野田社長は挙げている。 また、表2に戻るが、構成員は4人であり、4人のうち3人が役員である。野田社長と父親の会長以外では、野田社長の2人の弟も当社で働いており、うち1人が役員である。3人兄弟は非常に仲が良く、協力して当社の経営を展開させている。まさしく「三本の矢」ということができる。 7 「たまごニコニコ大作戦」の戦略と成果前述のように、当社における鶏卵のマーケティングは、95%が卸を通じて、主としてローカルの量販店で販売されている。それ故、図2のような価格の乱高下の影響を受けることになる。また、図4のような交易条件の悪化に直面することになる。それに対して、鶏卵業界では生産調整を繰り返してきた。このような採卵鶏業界の常識に疑問を持ったことが、「たまごニコニコ大作戦」のはじまりである。 すなわち、鶏卵に対する需要曲線を右へシフトさせることが必要と考えたのである。しかし、ただ『たまごをたくさん食べましょう!』と言うだけでの今までの啓蒙活動ではなく、日本人に定着している「たまご一日一個説」を覆すことによって消費活動につなげようと、野田社長は考えたのである。 最初は、野田社長の知人や仲間など身近な人たちに、たまごの正しい知識を伝えていった。それだけのことで、野田社長の周りで消費拡大が生じた。「自分ひとりでするよりも業界の人たちで一緒にやった方が絶対にいい!」と思い、業界に消費活動を提案した。 しかし、業界ではほとんど反応がなく、野田社長一人でアクションを起こす決意をしたのである。それが、2008年に行った「たまごニコニコ大作戦!!〜日本縦断チャリの旅〜」であった。最初は、当該アクションに対して、批判的な声しか聞こえてこなかった。その声を、逆に励みにして頑張り、北海道から沖縄まで約4600キロメートルを走破した。その間に、全国26カ所でイベントを開催することができ、多くの仲間もできた。そして、その仲間たちと一緒に、2013年に「たまごニコアゲイン2013!!〜日本縦断チャリリレー〜」を実施した。 野田社長がこだわったのが、「業界人の意識改革」である。以上のような働きかけの結果、「たまニコ」というキーワードで多くの業界人がつながり、消費拡大に資する重要なアクションとして、賛同を得ることになったのである。具体的には、2013年に、一般社団法人日本卵業協会の仲間が、各地でのイベントに参加して、「たまごニコニコ大作戦」が盛り上がったことをあげることができる。 2015年は、「たまごニコニコ料理甲子園」が開催された。このような「たまニコ運動」を続けていけば、いつか日本人のたまごの常識は変わると、野田社長は思っている。すなわち、何もしなければゼロで、図4のように交易条件がますます悪化するが、「動けば、変わる」(映画監督・詩人 軌保博光氏)を座右の銘に、今後も活動を続ける予定である。 8 おわりに当社は事業部門として、鶏卵部と食品加工部の二部門を保有している。鶏卵部では、直営農場が2農場あり、それ以外に独立の2農場を傘下としている。各農場とたまごセンターが離れて立地しており、鳥インフルエンザなどのリスク分散になっている。 直営農場の技術水準は高く、優れた技術成績を享受していた。ただし、鶏卵の95%が卸を通じて、主としてローカルの量販店で販売されていたこともあり、卵価は低い水準にあった。 食品加工部では、鶏の生食や国産牛肉を用いたローストビーフなど、オンリーワンの製品製造を目指しており、安定したB to Bの販路を確保している。 さらには、たまご専門店を経営することによって、B to Cの販路を確保している。 以上の経営展開の結果、農林水産省『農業経営統計調査』の組織法人経営 採卵養鶏経営(全国)と比較しても、高い粗付加価値を享受していた。 このような高い労働生産性の背景には、優れた労務管理がある。トップマネジメントとして、できるだけ残業が無いような工夫をした結果、従業員・臨時雇にゆとりが生じるようになった。その結果、会話が生まれるようになり、従業員・臨時雇のモチベーションを高めることになった。さらには、従業員・臨時雇の中で、女性のウェイトが高く、その悩みを解消するように、女性の外部アドバイザーを活用していた。 最後に、鶏卵の需要拡大のために、野田社長がとった「たまごニコニコ大作戦」は、鶏卵業界に大きなインパクトを与えることになり、消費拡大に資する重要なアクションとして、賛同を得ることになった。このような活動が、鶏卵の需要曲線を右方へシフトさせ、適正な鶏卵価格の形成を通じて、交易条件の改善が期待される。 謝辞 本稿をまとめるに当たり、「株式会社のだ初」の代表取締役社長 野田裕一朗様から長時間にわたって経営調査のご協力や貴重な資料提供を賜りました。また、一般社団法人岡山県畜産協会の専務理事 柴田範彦様、経営指導部技師 池見亮様からは、岡山県の鶏卵産業について、懇切なご指導を賜りました。ここに深甚なる謝意を表します。 |
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