特集:世界の酪農と牛乳乳製品需給をめぐる状況 畜産の情報 2017年12月号

国産ナチュラルチーズをめぐる状況

一般財団法人蔵王酪農センター 常務理事 菅井 啓二


1 はじめに

蔵王酪農センターの事業取り組みについて概略を紹介する。1960年、酪農の電化・機械化による合理化を課題として神奈川県厚木市に設立された財団法人酪農電化センターは、1964年に本格的実験農場を目指し宮城県蔵王町に移転し、以来酪農業発展のために活動している。1980年に余乳処理対策として国産ナチュラルチーズ製造実験工場を建設、生産から加工・販売までの一貫体制を確立しながら、酪農の生産性向上を目指した。また、同時期より国産ナチュラルチーズ製造技術研修会を開催し、現在までに1800名余りの受講者を輩出してナチュラルチーズ振興に努めている。センターの理念は「酪農振興なくしてナチュラルチーズ振興なし」としている。現在、当センターがチャレンジしているのは、「ゆとりある家族経営型の酪農」で、搾乳ロボットの導入などによる合理化と育成牛預託事業およびエコフィードTMR飼料生産・供給事業を行い、酪農の分業化による生産性向上を図っている。また、これらを実証展示するとともに、新規就農希望者の研修受け入れにも取り組んでいる。

2 国産ナチュラルチーズの現状と今後の懸念

1980年当時、国内には大手乳業メーカーのほか、当センターを含め数カ所のナチュラルチーズ製造所を数えるのみだったが、その後、国産ナチュラルチーズの振興により、乳業メーカーだけでなく酪農生産者あるいは個人の取り組みも増え、現在、国内の工房は200カ所以上となり、ナチュラルチーズの製造・販売への取り組みは全国的な広がりを見せている。品種もフレッシュから熟成タイプまでさまざまであり、輸入チーズと比較しても遜色のない、むしろ優れた品質レベルとなっている。これは、農林水産省をはじめとする関係機関・団体・大学などの長年の指導と生産者の理解と協力による成果である。

一方、輸入チーズとの競合については、特に業務用について価格の面で太刀打ちできない状況もあるが、国産チーズの安全性と安心を求めるユーザーも少なくない。そして、地域の活性化を図るべく地場産品としての販売を目指すチーズ工房が増えているのが救いと言える。今般の日EU・EPA大枠合意による影響は長期的にはチーズ工房と酪農生産者に有無を言わさず降りかかることにもなるだろう。例えばプロセスチーズ原料として使用する輸入チーズの関税割当制度があるが、大手メーカーは低廉な原料を使って製品化することが経済的行為であり、結果、国産原料の利用が少なくなり、生乳の需給に影響し、北海道のみならず都府県酪農にも影響を及ぼすことが懸念される。

このため、国産ナチュラルチーズの競争力を高めるための取り組みへの支援が必要である。

3 国産ナチュラルチーズの経過

チーズは全世界に1000種類以上あると言われていて、大別すると凝乳酵素を用いる西欧型と酸加熱凝固の東洋型になる。いずれも生乳を保存食に変える手法であるが、一般的に言うと保存性に加えておいしさという嗜好性が加わる西欧型が消費の主流となっている。しかし、あくまでも食習慣が違う西欧型のチーズであり、日本人の嗜好に合ったナチュラルチーズは多くないと思われる。先に述べたように、保存食品としてのチーズの製造原理は、乳から水分(乳清)を取り除くことであり、さらにその地域の気候風土に適したさまざまな製造方法を経て作られる食品であることが分かる。ところが、残念ながらわが国においてはそうしたチーズの食文化が育たなかったことと、最初に普及したプロセスチーズがチーズのイメージとして定着した面がある。その後、健康志向の高まりからヨーグルトが普及し、乳酸菌臭への慣れと乳酸菌の摂取効果がナチュラルチーズの普及にもつながり、消費量を伸ばす要因となった。しかしながら、日本人が食べているナチュラルチーズは一日当たりにすると6グラム程度であり、まだまだ消費が伸びると言われている食品ではあるが、家庭の常備食品とはなっていないのが現状である。

4 これからのナチュラルチーズ振興

ナチュラルチーズの消費動向の調査結果によると、チーズを使った料理のベスト3は、上から「ピザ」「グラタン」「パン」となっているようで、どちらかといえば高齢世代よりは若い世代に好まれるであろうメニューとなっている。この結果から、これからのナチュラルチーズ振興策が見える。確実に人口が減少する中で消費拡大するためには、消費者の底辺を広げることが大切であることに気付く。要するに、老若男女が少しでもナチュラルチーズに親しんでくれる商品を作ることが大切である。日本人の嗜好に合ったナチュラルチーズ開発が肝要で、その方法の一つとして、日本ならではの食材、例えば「みそ・しょうゆ」「だし」「地域の農水産物」などを副原料として使うかまたは組み合わせたチーズやチーズ料理を商品化する。あるいは昨今「乳和食」の普及を推進している諸先生方とチーズ生産者が連携し、普及活動を行うことも必要と考える。

5 おわりに

もう一度センターの理念を復唱する。「酪農振興なくしてナチュラルチーズ振興なし」 

この理念を全うできるよう役職員一丸となって努めてまいります。今後ともご指導ご鞭撻をお願いします。

【沿革】

昭和35年 神奈川県厚木市に「財団法人電化センター」として設立

昭和39年 宮城県蔵王町に110ヘクタールの土地を確保し移転

昭和55年 国産ナチュラルチーズ実験製造工場を建設、名称を「財団法人蔵王酪農センター」へ変更

昭和57年 モッツァレラチーズおよび裂けるチーズ(ホワイトザオー)の製品開発

昭和61年 東京三越百貨店で国内初のチーズフェアを開催(31社協賛)

平成 8 年 国産ブルーチーズ製造実験開始

平成11年 チーズホエイの多用途開発研究開始

平成12年 (社)中央酪農会議から「酪農教育ファーム」の認証授与

平成21年 食品残さの茶殻にチーズホエイを加えた飼料、発酵TMRの試験生産と給与試験を開始

平成25年 4月1日に一般財団法人へ移行


				

元のページに戻る