調査・報告 専門調査   畜産の情報 2018年1月号


地域を守る〜十勝酪農の現状とこれから〜

畜産・飼料調査所 御影庵 主宰 阿部 亮



【要約】

 「地域を守る」という視点で十勝酪農の現状とこれからについて十勝の関係者から話を聞いた。農業協同組合は傘下の酪農家の実態を定量的に把握し、それを基礎として将来計画、ビジョンを作ることが大切であり、計画の実践では自治体や農協、農業関連組織の人達から成るチームの編成が重要であることが指摘された。そのような計画の実践事例として、新得町農業協同組合の酪農に関する基盤整備の状況を紹介するとともに、十勝酪農の現状とこれからについて、十勝農業協同組合連合会が2017年4月に公表した「十勝農業ビジョン2021」の内容を紹介する。

1 はじめに

2014年に「地方創生」というキーワードが政府の政策推進の目玉の一つとして掲げられ、地方創生担当大臣のポストも新設された。農業や食料、観光、科学技術など、地域の特長を生かして、地域を活性化させてゆくことが趣旨であり、目標である。そして農業については、ここ数年、「強い農業作り」が議論されている。この二つのキーワードは同系列のものであるが、成就のための根底として、その地域の人々が、「地域を守る」という認識を共有することが必要となる。地域の農業についての現状と課題、そして解決策を具体的に考えることができるのは、その地域で活動する組織や人であり、それは使命でもある。

本稿では、十勝の酪農について、「地域を守る」という視点から、3箇所での取材を行い、現状を踏まえて、これから何を考え、どのような行動をしているのか整理した。まずは「地域を守るための考え方と理念(有限会社清水町農業サポートセンター(以下「サポートセンター」という))」、次に「地域を守る実践事例(新得町農業協同組合(以下「JA新得町」という))」、そして「十勝農業(酪農)の2021年ビジョン(十勝農業協同組合連合会(以下「十勝農協連」という))」である。

2 地域を守るための考え方と理念

(有限会社清水町農業サポートセンター マネージャー 林 敬貴)

清水町は、総農家戸数の41.9%が酪農家で、酪農家戸数、経産牛頭数ともに十勝の23市町村の中では最も多い。その中でサポートセンターは、農作業受託の仕事(コントラクター)として、牧草と飼料用トウモロコシ(以下「トウモロコシ」という)の収穫・サイレージ調製作業、牧草とトウモロコシの播種、堆肥や尿・スラリーの散布、てん菜の移植、豆類の収穫、畑の耕起と整地、融雪剤の散布、小麦収穫後の麦稈のロール梱包などを行っている。

(1)離農跡地の問題 

清水町の農家戸数は、2005年の397戸から2016年には341戸と減少しており、2015年の農林業センサスによると、10年後には246戸に、農家人口についても2015年の1354人から2025年には1026人と減少すると予想している。そして、65歳以上の高齢者の占める比率が確実に高くなる状況にある。

農家戸数の減少により、地域内の農地の維持をどうすればよいかという問題が生じる。離農跡地周辺の農家が平均的に規模拡大をすることは考えにくいから、地域農業・地域社会を維持してゆくためには、農地を誰に継承してゆくのがよいかという課題がある。

近所の農家が継承出来るのか、継承するならば法人化や、作目の集約化、共同利用化、集落営農化を選択しなければならない。新規就農に期待したいが、土地の代金や設備投資のハードルは高く、簡単な話ではない。引き取り手がいなければ、農協が人を雇って牛を飼い、畑を作るということを考えなければならない。農地の利用者が町内にいなければ、最後には町外の農業者が利用することになる。

その場合には農地が虫食い状態になって、農地が使いづらくなることを考えねばならない。自分の町の土地は町民に使ってもらって町の発展につなげてゆくのか、町民である農家の所得や、町の収益になっているはずの部分が他の地域に流れてしまうのがよいのか、その判断を迫られる状況も考えておかねばならない。

離農跡地の継承では、離農者が簡単には農地を売ってくれないということもある。農地は財産と不動産という両面を持っていることから、貸せば一定の地代が生じる。十勝農協連が「十勝農業ビジョン2021」の作成のために行ったアンケート結果でも、「農地を賃貸したい」と答えた人の割合は、「他の農家に売却したい」よりもはるかに多い。この場合、農地の借り手は、自分の土地ではないから土地改良は難しく、大きな区画の畑にはならないという問題がある。

(2)農家戸数の減少と地域農業の変化

農家戸数の減少によって、地域の農業が畑作に向かうのか、酪農に向かうのかという問題がある。さらに、このような動きに対して、労働力に関しての支援組織や作目対応の農業施設の生産量や販売額をどう維持し、拡大してゆくのかという問題である。具体的な例を挙げると、畑作農家が高齢化してくると、小麦のような手間のかからない、コントラクターが作業をしてくれるような方向に向かい、ばれいしょのような収穫作業などがかなり重労働になる作物は作らなくなる。そうすると、小麦の施設をもっと充実させねばならなくなる反面、ばれいしょの施設利用は減り、利用料金が増額し利用者の負担が増える事態になる。

また、作付品目の変化は農協の販売戦略にも影響する。ある程度のロットがないと価格に対する訴求力が低下する。さらに、作付品目の偏重は集荷や輸送を担う地域の運送業者や土木・建設業の人達の仕事量や時期、人の手配にも影響し、年間を通じて均質な作業量を確保しなければ、地域の農業の収穫、運送、貯蔵や流通といった仕事の流れが止まってしまう。

(3)耕畜連携

畑作農家がサイレージ用のトウモロコシを栽培し、それを酪農家が使うという耕畜連携が増えている。畑作農家が手間のかからないトウモロコシを栽培して規模を拡大あるいは維持し、収穫はコントラクターが行い、酪農家のバンカーサイロに貯蔵するという形である。将来的には、畑作農家による飼料供給組織設立なども、畑作経営の安定化や経営面積拡大への対応として検討することが必要かもしれない。

(4)地域農業のデザイン

地域農業の姿は、ある一定のスパンで見ると確実に変わってきている。農業人口が減る中で、実態を把握し、皆で力を合わせて計画を作り、それを基礎に市役所・町村役場は農業振興政策を練り、農協は農業生産と生産物の販売を拡大してゆく。そして、農業改良普及センターや農業共済組合、コントラクター、育成牧場、哺育センター、農産物の保管・加工施設などの支援組織や農業施設はこのような形で計画に組み込んでいくためのデザインがまず必要であると思われる。それぞれの組織の役割を確認し、特性を発揮しながら連携、協力してゆくことが大前提になる。縄張り意識にとらわれたり、セクショナリズムに陥ることなく、地域の課題と解決策を共有しながら、チームを作って恒常的な活動を展開することが必要である。そのチームの中で、みんなが議論しながら計画し、誰が、何を、何時までにということを明確にしながら行動することが大切である。

その場合の手順としては、先ず最初に、市役所・町村役場と農協がうまくリンクすることが必要である。相互に人の出入りがあり、課題や情報を共有して、実務者は上層部にそれを伝達し、両者が「こういう施策を実行して行こう」という決断をする。その前段として、地域農業の実態を定量的に把握し将来予測を行う。そして、課題と解決策を見い出して将来の展望を切り開いてゆくためのビジョンを構築する。

その中で農協、自治体、支援組織の役割分担を明確にし、仕事の輪を作るところから全てが始まると考える。

(5)農協の役割

仕事の輪の中では、やはり農業生産の中核に位置する農協の役割は大きい。経営の規模が拡大してくると、今までとは異なった知識や技術が求められる。酪農の場合、50〜60頭の飼養規模と100頭以上の飼養規模では、粗飼料の栽培や貯蔵の方法と量が、また牛群のマネージメントの方法は大きく変わってくる。それに対して適切にアドバイスできる人間が今は少ない。農業改良普及センターとタッグを組んで仕事をできる人間が、これからは農協に求められてくるだろう。規模拡大のためのシンクタンクとしての能力を農協は持ち得なくてはならないと考えている。そして、当然のことながら、そのための人材の育成・養成をしてゆかねばならない。

(6)農家の経営力

地域農業の実態把握で大切なことは、農家の経営力の観察と評価である。具体的には、経営面積、作付品目、収量と品質、土地の状況、作業機械の整備・更新の状況、経営状態と資金力、技術力と知識そして営農意欲、年齢、家族構成、後継者の有無、健康状態などである。これらについて農家自身がしっかりと把握していることは当然のことであるが、農協が地域農業の将来計画立案のために個々の農家の実情を定量的に掌握しておかなければならない。

例えば、酪農家が省力化のために搾乳ロボットの導入を計画しているとする。そのためには、導入費用に建物の費用を加えると数億円の投資が必要となる例もある。自己投資でどこまでできるのか、また、不足分は借り入れても大丈夫か、改修計画はしっかりとしているか、規模拡大のために新規の投資を考えている人には、こういった意味からも経営力を評価しておかねばならない。

また、経営者が後継者に対して日常的に経営力の継承を行い、さらに指導機関と連携をする仕組みを作り、その中で多くの人達と交流し、若い人達が成長してゆくことが必要である。

(7)支援組織

コントラクターは、現状でも、作業労働力やトラックの確保に苦労している。今までは酪農関係の仕事が主であったが、これからは畑作関連の作業も増えそうである。また、哺育センターや町営の育成牧場では、預ける子牛や育成牛の受入数をもっと増やしてほしいという要望が増えてくるだろう。規模の拡大には、市町村への支援組織の拡充要求を伴うということも考えておかなければならない。また、施設の内容も変化するだろう。例えば、ばれいしょの場合、今の圃場選別後のコンテナ輸送からトレーラー輸送に切り替えて、工場での集中選別という方法の省力化を図ってゆくとすると、その仕事はどのような組織が行うべきか、将来を見据え、地域として設備や人材の確保をしておかねばならない。自治体や農協が支援組織の経営計画を持たずに、行き当たりばったりで、その場しのぎの対応に陥らないようにしなければならない。

(8)地域を守るために

地域があって国がある。地域を守るということは国を守るということに他ならない。農業でいうならば、地域の農業を健全に維持発展させることによって、国の食料が守れるということになる。そのためには、地域の農業関係者に意識の改革が必要だと感ずることが間々ある。地域を守るという意思の下に関係する人達が所属する組織の使命を再確認し、チームプレイで近未来を切り開いてゆくことが大切だと思う。そのためには、首長や農協の組合長は大局観を持って将来構想と組織の連携協力体制を構築し、チームの構成員は参謀として、あるいは専門職としてトップを支えることが大切である。そして、そういった環境を醸成するためには、農業をこうしよう、このまま放っておくとこうなってしまうよ、というような語りの場が必要である。それは、かみしもを付けての公の場でなくても構わない。お酒やコーヒーを飲みながら、熱く語り合う場を作る。それが公の場の議論を生み出す素地になるのではないだろうか。

3 地域を守るための実践

(新得町農業協同組合 参事・総務部長 武田 昌孝、畜産部酪農課長 佐々木 直彦)

JA新得町が地域の酪農を守るために行っている基盤の整備としては、コントラクター事業を担う「株式会社新得営農サポート(以下「営農サポート」という)」「TMRセンター」人材育成のための農協直営牧場「シントクアユミルク」「十勝新得バイオガス屈足くったりプラント」があり、さらに育成牛の集団管理を行う町営育成牧場の運営も担っている。ここではまず最初に、4つの基盤について、その機能と内容について概説する。

営農サポートは2005年の6月に開設されている。主な仕事は、牧草収穫、サイレージ用トウモロコシ収穫、堆肥散布、トウモロコシの播種、サイレージ調製(鎮圧作業)であり、2016年の飼料作物の収穫作業受託面積は2726ヘクタールである(写真1)。

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TMRセンターも営農サポートと同年度に開始された。営農サポートがセンター内のバンカーサイロに搬入した牧草やトウモロコシサイレージに濃厚飼料を混合し、5種類のTMRを製造してフレコンバックで酪農家に配送している(写真2)。

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酪農家は、ほぼこの飼料の給与のみで乳牛の飼養ができ、現在、利用している酪農家は14戸であるが、2019年には15戸、2001頭分のTMRの供給を考えている。

シントクアユミルクは、酪農家の研修施設として、2017年4月に開場された。経産牛500頭、生乳生産量として年間5000トンを目標としている。搾乳ロボットを導入しているのが特徴である(写真3、4)。

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十勝新得バイオガス屈足プラントは、2016年から運転が開始されている(写真5)。町内3戸の法人酪農経営とシントクアユミルクの乳牛のふん尿を処理している。処理量は最大で1日105トンを想定している。収集されたふん尿は嫌気的な発酵槽でメタン発酵に付され、そこで発生するメタンガスはガスホルダーに集められ、ガスエンジンに送られて発電し販売される(売電)。その際に発生する余剰熱は近隣にある温泉に供給されている。また、メタン発酵後の副産物である消化液は、飼料作物や畑作物の圃場に液肥として散布されている。

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(1)新得町の農業

新得町は北に大雪山系、西に日高山系から端を発し、大地が拡がる十勝平野の入り口にある。そのために町の面積そのものは大きいが、森林の面積が総面積の約90%を占め、耕地面積は少なく、人口も2017年6月時点で6229人と多くはない。

冊子「JA新得町の概要」で平成27年度の品目別の販売代金支払額、つまり農協が農家に支払った金額と、26年度の農家戸数、各作物の作付面積を見ると、販売代金支払額の総額は約168億円である。そのうち最も多いのが肥育もと牛の37.5%、次が生乳で26.1%、肥育牛が18.0%と続き、農産物(畑作物)は9.9%と少ない。農家戸数は、最も多いのが畑作農家で48戸、次いで酪農家が44戸、肉用牛農家が14戸である。作物の総作付面積は4832ヘクタールであるが、その中の59.6%が牧草とサイレージ用のトウモロコシで、十勝の畑作4品と言われる小麦、豆類、ばれいしょ、てん菜は併せて全耕作面積の27.6%と、他の十勝平野部の市町村と比べて飼料作物の栽培面積割合が高い。その他の作物では、ソバの作付面積も広く、ソバの町としても有名である。

(2)酪農の推移と分業化

酪農について搾乳戸数を経年的に見ると、2007年が48戸、2011年が45戸、2016年が40戸と少しずつ減少してきている。しかし、1戸当たりの経産牛頭数はそれぞれ93頭、107頭、129頭と増加基調にある。そのために、町内の経産牛頭数は2007年の4442頭が2016年は5152頭と増加し、生乳生産量(出荷乳量)も2007年の4万902トンから2016年には4万8405トンと9年間に18%伸びている。規模拡大が町の生乳生産量を増加させてきている。

JA新得町は「戸数の減少はありましたが地域の生産量だけは落とさないようにしようと、絶えず考えてきました。中期、長期の計画と計画の重点化を図りながらコントラクターやTMRセンターの基盤整備をしてきました。その場合の基本的な考え方ですが、大規模化を推進してきました。1戸の酪農家で乳牛の管理から飼料作物の栽培・収穫調製作業を完遂するのは難しいと考え、分業化し、酪農家は搾乳牛の飼養管理に注力できるようなシステムの構築を目標にしました。また、町営の育成牧場の運営をしており乳牛管理の分業化を図っています。それが個体乳量や地域の生乳生産量の増加に貢献してきたと感じています」と言う。また、「TMRセンターの飼料を使うことで、搾乳牛の管理が適切にできるようになって、それが繁殖や健康管理に影響して、子牛の増頭につながり、共済組合に支払う治療代金が少なくなったというような経済的な効果も生んでいます」と語る。

(3)人の問題

酪農の場合、雇用労働力は、「酪農家(酪農場)での仕事をする人」と「種々の酪農関係の施設で仕事をする人」として求められる。その数が不足している状況で、農協でも努力はしているがなかなか実を結ばない。町役場とも相談しているところだという。そして、この問題の解決のためにシントクアユミルクの構想・計画が登場する。直営牧場建設の企画書には、「なぜ必要なのか」「何をするのか」について、以下のように述べられている。

「後継者不在、高齢、経営難などにより、地域から農業後継者が居なくなる事態は容易に想定することができる。それは同時に残る者の負担増をも意味する。さらに、農業経営者だけでなく関連業種の人材不足も一様に想定される。一方、既存する経営体を守るための関係機関による経営強化(営農指導)もこれまで以上に重要となってくる。これら地域課題解決の一つとして、研修農場が判断された。分業効率化を進めてきたこの地域にまた一つ、人材育成部門が加わる。酪農実践研修により、今後地域に必要とされる優秀な酪農技術者を育成するため、新規就農者に限ることなく、関連業種技術員も当然その範囲として育成にあたる。また、地域の将来を担う後継者の教育にも積極的に取り組み、さらに、JA職員を効果的に研修させることで、酪農知識や技術、現場作業、地域を知り尽くした営農指導員を作りあげる。研修農場の実践で学んだ営農指導員を介し、研修農場が間接的にそして幅広く地域農業経営体の強化を図る」。

(4)バイオガスプラント

1999年から「家畜排せつ物法」が施行され、管理基準に適応した家畜排せつ物の管理が義務付けられるようになったが、町内の酪農家の大型化に伴い、畜産環境対策の中では家畜ふん尿の利用促進が課題となってきた。この課題を解決するための検討会で、当初は堆肥センター方式での処理を計画していたが、サルモネラ菌の伝搬の危惧などから、これを諦め、バイオガスプラントの設置に切り替えた。

JA新得町は「プラントで作った電気が売れれば(売電)、これが運営にも役立つと考え、始めました。脱臭は完全で、環境問題に大きく貢献しています。1頭当たり、年間1万3000円の処理料を頂いています。今は1500頭分の処理をしていますが、町内では、ふん尿処理で困っている所がありますので、もう1カ所か2カ所は必要と考え、検討を始めています。それと、これは耕畜連携に寄与することですが、発酵残液、これを消化液と言っていますが、春先に畑地への消化液の試験散布をしたのですが、畑作農家の人達は、作物の生育がよいと評価してくれています。散布の方法などについては、いまだ検討しなければならないことがありますが、工夫しながら拡大してゆきたいと思っています」と言う。

(5)畑作地へのサイレージ用トウモロコシ栽培の拡大

耕畜連携ということでは、畑地へのサイレージ用トウモロコシの委託栽培面積の増加が近年の大きな特徴の一つである。町のトウモロコシの収穫作業の75%を営農サポートが担っているが、トウモロコシの収穫作業と播種作業の委託面積について、2007年と2016年を比べてみると、それぞれ、133ヘクタールと182ヘクタール増加している。JA新得町は「町の乳牛頭数が増えてきていますので、1頭当たりの飼料作物面積を増加させなければなりません。一方で、畑作農家の高齢化が進み、省力的で作業委託ができるサイレージ用のトウモロコシへの転換ということで、需要と供給が酪農家と畑作農家の間でマッチしてきました。トウモロコシの作業面積の増加はほぼ畑作農家の農地分です。畑作農家と酪農家の調整の場として農協が協議会を設置していますが、畑作農家の約4割がこの協議会の場に参加しています」と言う。

(6)地域の住民意識

JA新得町は「町村ごとに農家の気質というか、人の地域性ということを感じます。TMRセンターを作る時に、うちの町内の酪農家というのは本当にまとまりが良いと感じました」とし、さらに「新得は農家そのものが危機感を持ったということだと思います。このままでは俺たちの農協はおかしくなるぞと、皆がバラバラの気持ちでは、今日、お話ししたようなことは進んでゆきません。皆さん、理解してくれたんだと思います」と農家の団結力について語ったことが印象に残っている。

4 十勝酪農のこれから

(十勝農業協同組合連合会 畜産部酪農畜産課長 太田 雄大、企画室調査役 小池 寿)

ここでは、十勝の酪農について、最近10年の動向と、十勝農協連が2017年4月に公表した「十勝農業ビジョン2021」が示す見通しを概観する。なお、十勝農協連は十勝管内の農畜産の生産指導事業を行う地区連合会であり、現在は24会員(農協)で構成されている。

2015年の十勝の主要品目の作付総面積は22万1219ヘクタールで、その中では畑作4品と言われる小麦、豆類、てん菜、ばれいしょの作付面積が併せて全体の54.3%であり、牧草・サイレージ用トウモロコシの作付面積比率は40.1%である。畑作専業と酪農専業の農家数について、2010~2015年の5年間、年度と戸数の間で一次回帰分析を行うと、年間の減少戸数(回帰係数)は畑作専業が57.5戸(相関係数-0.992)、酪農専業が37.3戸(相関係数-0.994)と畑作専業農家の減少速度が酪農専業農家よりも大きい。表には酪農に関する十勝のファクトデータを示す。

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このような状況の中で、十勝農業ビジョン2021の目標を達成するための課題として、(1)適正な輪作体系の維持、土づくり、耕畜連携の推進(2)生産支援組織の充実(3)環境保全対策の推進(4)農作物、家畜の防疫体制強化(5)農地基盤整備と農地流動化の推進(6)後継者、新規就農者の育成と雇用労働力の確保の6項目を掲げている。

(1) 規模拡大と法人経営の増加

規模拡大と個体乳量の増加が併行して進んでいる。1戸当たり経産牛頭数は2006年の72頭から2016年には103頭と約30頭増加した。経産牛1頭当たり乳量は2006年の8381キログラムから2016年には9321キログラムと10年間で約1000キログラムも増加している。また、生乳の生産量の酪農家の分布を見ると、1001~2000トンあるいは2001トン以上層の増加が著しい。この規模の農家の割合は2006年には11%であったが、2016年には26%となっている。さらに2000トン以上の酪農家が、2016年は93戸となり、前年よりも11戸増え、そこからの出荷量は38万4000トンで十勝管内の33%を担っている。

「十勝農業ビジョン2021」では、2021年の経産牛の頭数は13万4400頭、1戸当たりの経産牛頭数を計算すると111頭としている。これは2016年の103頭よりも多い数であり、規模拡大をこれからも図ってゆくという方向にある。

規模拡大に関しては、法人経営の増加も目立つ現象である。2016年の法人経営数は194戸で管内酪農家戸数の14.4%を占めているが、2013年の144戸から3年で50戸増加している。194戸の法人経営の中には、1001頭以上の経営体が21戸、501~1000頭の経営体が25戸ある。酪農家戸数が減少してゆく中で、大規模法人によって十勝の生乳生産量を維持している姿を見ることができる。

(2)サイレージ用トウモロコシの作付面積の拡大と耕畜連携

十勝管内ではサイレージ用トウモロコシの作付面積が増加している。2006年と2016年を比較すると、飼料畑面積全体では8万6741ヘクタールから8万5191ヘクタールと微減の中で、トウモロコシの作付面積比率が17.7%から26.4%へ、面積にして7117ヘクタールも増加している。十勝農協連は「今までのトウモロコシ作付面積の拡大というのは牧草地の転換という形で行われてきましたが、これからは畑地でのコントラクターによる委託栽培が期待されています。その推進のために、大型機械の搬入による耕作地への影響を最小限に抑えるとともに、畑作農家の手取りの確保とか、トウモロコシの取引条件を整備することがこれからの課題としてあります。畑作4品に加えて、トウモロコシを輪作体系の中に加えてゆくことは、これから重要な事と考え、『十勝農業ビジョン2021』にも耕畜連携の一つの形として書き込んであります」と言う。加えて「バイオガスプラントを先進的に稼働させている地域の担当者が口を揃えて言うのは、バイオガスプラントを作って重要になってくるのは消化液の処理です。消化液を耕畜連携で畑作農家が利用できる体制が整えられれば、いまだプラントを作りたいという人はたくさんいるそうです」と話す。

(3)人の育成

「十勝農業ビジョン2021」には組合員アンケートの結果が掲載されている。その中の「経営の取り組み課題」には、「人に関すること」があるが、採択数の多い順に課題を挙げると、「雇用労働力の確保」「後継者の確保」「後継者の技術向上」「雇用労働者の質の向上」「嫁・婿探し」「経営委譲を前提とした実習生の受け入れ」「外国人実習生の受け入れ」となっている。また、「JAの農産事業で強化を望むもの」の中の「技術指導」で要望が多いものでは、「新品種・新技術の導入」「技術情報の提供・研修会の開催」「技術指導担当者のレベルアップ」「省力化や作業支援の対策」が上位を占めている。

これらの要望や課題の周辺事情について、十勝農協連は「平成25年に実施した調査では、外国人技能実習生は240人ほどでした。いくつかの農協が監理団体となって受け入れを行っていますが、酪農家が個人で種々の事業協同組合(監理団体)と契約して受け入れるケースも多いです」としている。また、新技術の導入について「オートメーション化ということでは、搾乳ロボットが十勝管内でも増えています。搾乳ロボットの講習会を開催すると、参加希望者の半分くらいは、これから導入を考えている人達でした。意識と関心は高いです」と言う。研修会の開催については、このほか「飼料設計ができる担当者を増やしたいという農協の要望に対しては、年に4回くらい、酪農家の庭先で、牛と飼料と牛群検定成績などの資料を見ながら、実践的な研修会を行っています。自給飼料についても、私たちは『飼料アップとかち』運動を展開していますが、その中では、最近、牧草を見ることができる人が少なくなってきたことから、農協担当者も普及員も生産者も含めて牧草地を見るところから始め、植生の調査を行いながら実態を見て、どうしなければならないのかを考える力を磨いてきました。今、十勝の個体乳量が高いのは自給粗飼料の質によるものと思っておりますが、こういった努力は十勝酪農の基本としてこれからも続けてゆきます」とし、「十勝酪農法人会という大きな農場の集まりがありますが、そこを核として酪農従業員の研修会を年に何回か行っています。最近は、酪農未経験の従業員も多いことから、日常の実務の裏にはどういう意味があるのか、そこまではなかなか理解できていない。例えば、飼料の掃き寄せにはどういう目的や意味があるのか、だからこういうところまでやらなくてはいけないなど、丁寧な説明をする研修も行っています」と語った。

さらに「日常の酪農の仕事の中で、女性が果たしている役割は非常に大きく、大切です。女性の仕事の中で一番に多いのは、哺乳や健康管理などの子牛の世話です。私達はそのために、ここ4年ほど、子牛の管理に関する事などを中心とした女性主体の研修会を開催しています」と紹介してくれた。

5 おわりに

日本の酪農は、今、酪農家戸数と乳牛頭数の減少、そしてそれに伴う国内の生乳生産量の減少という状況下にある。その中で活路を開くためには、地域ぐるみで酪農経営を支え、生乳の生産基盤を強固なものにする事が大切であると思う。キーワードは、「農協の役割」「地域の支援システム」「自給飼料生産増強のための耕畜連携」「規模拡大と雇用労働力」などである。本稿では、北海道十勝地方の課題と取り組み、そして姿勢を紹介したが、酪農が抱える問題は日本全国で共通の事が多いと思う。考える際のヒントにしていただければ幸いである。

【謝辞】

今回の調査については、(有)清水町農業サポートセンターの林敬貴マネージャーの発意により、筆者と林氏の二人で構想を練り、「地域農業・酪農を守る十勝の取り組みを全国の皆様に知っていただこう」と地域の皆様にもご協力をいただきました。

今回の取材に快く応じて下さり、多くの資料を準備して下さいました新得町農業協同組合の武田昌孝参事と佐々木直彦酪農課長、十勝農業協同組合連合会の太田雄大酪農畜産課長と小池寿調査役に心より感謝申し上げます。また、この企画立案に際してアドバイスをいただきました、十勝農業協同組合連合会の町智之氏と北海道立総合研究機構中央農業試験場の山田洋文氏に併せて感謝申し上げます。


				

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