海外情報 畜産の情報 2018年1月号


ブラジルの鶏肉生産・輸出動向
〜AIフリーという強みを生かした輸出の優位性と今後の見通し〜

調査情報部 佐藤 宏樹、 玉井 明雄


【要約】

 2017年3月に発生した食肉不正問題により、ブラジルの食肉業界は大きなイメージの悪化となった。しかし、圧倒的な生産能力と鳥インフルエンザ未発生(AIフリー)であるという優位性により国際的な引き合いは強く、鶏肉輸出量は、2017年通年では2016年を上回るとされており、今後もさらなる成長が見込まれる。

1 はじめに

ブラジルの鶏肉産業は、豊富な飼料資源や低廉な人件費などを背景に、2000年代以降急激な成長を遂げた。現在は、生産量が世界第2位、輸出量が世界第1位と、世界の鶏肉市場において、圧倒的な存在感を示している。特に輸出量は、2000年から2017年にかけて、5倍近くにまで増加している。その背景には、米国やEUなど多くの鶏肉生産国で鳥インフルエンザ(AI)が発生する中、同国が鳥インフルエンザ未発生(以下「AIフリー」という)国であるという大きな強みがあり、その結果同国産鶏肉の引き合いが強まっている。しかし、2017年3月、食肉不正問題が発生し、多くの国が同国からの輸入を一時的に停止する事態となった。

本稿では、鶏肉の生産・輸出動向について、2017年8〜9月に行った現地調査などに基づき、輸出の強みと課題について報告する。

本稿中の為替レートは、1米ドル=113円(2017年11月末TTS相場113.05円)を使用した。

なお、ブラジルの鶏肉生産における優位性と課題については、畜産の情報2016年10月号の「ブラジルの鶏肉生産・輸出動向〜飼料コスト高を受けた現状と今後の見通し〜」を参照されたい。

2 生産・消費動向

(1)生産

鶏肉生産は、伝統的な主産地である南部を中心に行われている(図1)。南部は、トウモロコシおよび大豆の主産地でもあるため、比較的安価に飼料原料の調達が可能で、鶏肉生産コストの大半を占める飼料コストを安く抑えられるという大きなメリットがある。特にパラナ州は、トウモロコシ生産量の増加に伴い、鶏肉生産量も増加している。また、サンタカタリーナ州は、鶏肉生産も盛んであるが、ブラジル国内で唯一の口蹄疫ワクチン非接種清浄地域であることから、豚肉の輸出地域として注目されている。

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また、鶏肉産業は、生産と処理・加工、流通といった川上から川下までの部門を垂直統合(インテグレーション)した体系を取っている。これにより、鶏肉パッカーは、生産から販売まで一貫した独自の戦略を講じることで、厳格な衛生基準など輸出国のニーズに対応した製品の生産も可能となっている(図2)。

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ブラジルブロイラー用ひな生産者協会(APINCO)は、2017年の鶏肉生産量について、上半期(1〜6月)は、前年同期比2.8%減の670万トン(可食処理ベース)としている(図3)。経済状況の悪化や飼料用トウモロコシの国内需給ひっ迫の影響で生産調整を行った前年の影響が残っていることに加え、3月に発生した食肉不正問題(後述)に大手パッカーが関わっていたことで4〜5月の生産量が減少したことから、前年同期を下回る結果となった。しかし、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)によると、下半期は国内経済の回復や、国際的な引き合いの高まりにより増産すると見込んでいる。

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コラム1:近年の経済状況

ブラジル地理統計院(IBGE)によると、2015年の実質GDP成長率はマイナス3.8%と過去20年で最低を記録し、2016年もマイナス3.6%と2年連続のマイナス成長となった(コラム1−図)。これは、ルセフ前政権による増税政策や公共料金の値上げに伴いインフレが加速し、これに対応するためブラジル中央銀行が政策金利を急激に引き上げ、市中銀行もこれに追随したことで消費が低迷したことが原因と言われている。また、2014年から続く国営石油会社ペトロブラスの汚職問題やそれによる国内政治の混乱も経済回復を遅らせたとされている。

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関係者への聞き取りなどによると、この経済低迷は、2017年以降は回復に向かうとされているものの、一部業界では失業率が上昇しているとの報道もあることから、今後の動向を注視する必要がある。

また、EMBRAPAの養鶏・養豚センター(CIAS)によると、鶏肉の最大生産州であるパラナ州のブロイラー生産コスト指数は、生産コストの約7割を占める飼料の主原料であるトウモロコシの価格が豊作により下落していたことから、2016年7月以降下落基調で推移していたが、トウモロコシ価格が回復したことで、2017年9月のブロイラー生産コスト指数は同年5月並の178.29と、1年ぶりに前月から上昇した。(図4,5)。

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コラム2:近年のトウモロコシ生産

ブラジルでは、飼料費の7割程度をトウモロコシが占める。このため、トウモロコシ価格が経営を大きく左右する。

同国におけるトウモロコシをめぐる情勢は、2015/16年度と2016/17年度では対照的となった。2015/16年度(10〜翌9月)は、天候不順や干ばつの影響で生産量が大幅に減少した一方で、ブラジルレアル安により2015年10月から2016年3月にかけて輸出が増加したことにより、2016年1〜6月は、南部を中心に飼料用トウモロコシの需給がひっ迫し、隣国のアルゼンチンやパラグアイから輸入をしなければならない状況に陥るなど、価格が上昇した(コラム2-図1,2,3)。

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翌年度の2016/17年度は、生産量が前年度比46.9%増となったため、価格は下落傾向となった。一部の州では、保管場所が確保できず、野積みでの保管を強いられたこともあったという。

(2)消費

鶏肉の1人当たり消費量は、近年、国内経済の失速に伴って、価格の高い牛肉からのシフトが進んだ結果、2014年、2015年と2年連続で増加したが、2016年は安価な鶏肉や豚肉でさえも消費量が減少している(図6)。

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ブラジルでは、外食の主流が肉料理であるため、鶏肉の需要は外食が増える夏場に増える。余分な脂肪分はとりたくないと考えるブラジル人が多いことから、主にむね肉や手羽などが多く食される。以前は多く消費されていた丸鶏は、地方では食べる文化が残っているが、都市部では減少傾向にあるとされる。また、独身層の増加に伴い、少量パックでの需要が増えている。

3 輸出動向

(1)食肉不正問題の発生

2017年3月17日、一部の食肉加工場が衛生基準を満たさない食肉や食肉加工品を国内外へ販売していたという問題がブラジル農牧食料供給省(MAPA)の職員による内部告発により発覚した。問題となった21カ所の食肉加工場は、衛生検査官に賄賂を渡していたとされ、警察の捜査対象となった。ブラジル政府は3月20日、こうした事態を受けてこれらの21工場に対し食肉の輸出禁止を命じ、多くの輸入国が、直ちにブラジル産食肉の輸入停止措置を講じた。ほとんどの国は、3月中に当該21工場以外からの輸入を再開した一方、現地関係者によると、EUなど複数の輸入国は、輸入時の検疫や食肉加工場における衛生検査の精度や人員配置についての条件が厳しくなったという。

なお、21工場のうち日本へ輸出を行っていたのは1工場(JBS社、ラパ工場)のみであった。現在、同工場は、輸出認定が取り消され、国内向けのみの稼働となっている。

(2)輸出動向

ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)によると、2016年の冷蔵・冷凍鶏肉輸出量は、前年比1.8%増の395万9394トン(製品重量ベース)と前年に記録した過去最高をわずかながら更新した(表1)。上半期(1〜6月)がレアル安米ドル高の為替相場が追い風となり前年同期比14.7%増の206万93トンと好調に推移した一方、下半期(7〜12月)は、同9.2%減の189万9301トンとかなりの程度減少したため、通年ではわずかな増加にとどまった。

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また、2017年1〜9月までの冷蔵および冷凍鶏肉輸出量は、前年同期比1.6%減の301万5765トン(製品重量ベース)となった(表2)。これを月別に見ると、4月の輸出量は食肉不正問題が発覚した影響で29万3355トン(前年同月比22.5%減)と30万トンを割り込んだが、5月以降は30万トン台に回復し、7月以降は前年同月を上回って推移している。現地では、2017年通年では前年をわずかに上回ると見込まれている。

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以下、主要輸出先国別の現状と動向について解説する。

ア 日本

日本向けは、タイでAIが確認された2004年以降急激に増加し、現在では日本の鶏肉輸入量の約7割をブラジル産が占める。ブラジルから日本へ輸出される鶏肉のほとんどが骨なしもも肉(BL(BoneLess))および骨なしもも肉角切り(BLK(BoneLess Kakugiri))となっている。また、近年は、日本国内でむね肉の価格が需要の高まりから上昇していることを受け、むね肉の引き合いが増えている。

2017年1〜9月の日本向け輸出量は前年同期比4.9%増の32万8963トンとなった。食肉不正問題や船積み遅れなどの影響もあったが、8月に前年同月比69.5%増の5万1285トンを記録したこともあり、前年同期をやや上回っている。

イ サウジアラビア

最大の輸出先国であるサウジアラビア向けの2017年1〜9月の輸出量は、前年同期比16.8%減の46万2937トンと前年同期を大きく下回った。その要因について、ブラジル動物性タンパク質協会(ABPA)は、サウジアラビアにおける(1)生産量の回復(2)輸入関税の引き上げ(3)今年輸入量を伸ばしているエジプトとの競合と見ている。

サウジアラビアでは、他の中東諸国同様小さいサイズの丸鶏が好まれる。ブラジル国内に流通しているサイズの半分の1キログラム前後であり、その丸鶏を半分に割って調理するのが主流だという。

ウ 中国

中国は、米国での鳥インフルエンザ発生に伴い、2015年1月12日以降、米国産鶏肉の輸入を停止しているため、AIフリーであるブラジル産鶏肉の代替需要が高まったことで、急激に増加した。しかし、2017年は、同国内供給量が潤沢であり、国内産がブラジル産よりも安い価格で流通していることから、輸出量が減少している。

中国へは、さまざまな部位を輸出しているが、その中でも、ドラムスティック(写真1)やもみじ(写真2)、手羽などが多い。パッカーは、いまだその旺盛な需要に期待しており、今後は一定の増減を繰り返しつつも、輸出量は増えていくとみている。また、求められる部位が違うので、日本と競合する可能性は少ないとの見方が主流である。

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エ 南アフリカ

南アフリカ向けの2017年1〜9月の輸出量は、前年同期比47.5%増の26万1225トンとなった。EUまたはブラジルから価格の安い方を輸入するのが特徴であり、主にMDM(注)が輸出されている(写真3)。

注:MDM(Mechanically Deboned Meat)むね肉やもも肉、手羽などをカットする際に発生したくず肉や規格外肉などを脱骨して機械により肉をペースト状にしたもの。ナゲットなどの原料となる。

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オ EU

EUへの輸出は、関税割当がある加塩鶏肉が主流となっている(表3)。EUでは、輸入された加塩鶏肉のほとんどは加工用に用いられ、域内産がテーブルミート用となっている。主な輸出部位はむね肉であり、それを蒸してサラダなどに混ぜて食されることが多い。

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(3)パッカーの輸出戦略

ブラジルの鶏肉パッカーには、商系と農協系があり、外国資本によるものはほとんどない。また、パラナ州では伝統的に農協系が強い一方、他州では商系が大きなシェアを有している。

同国では、前述のとおり、消費量が頭打ちとなっていることから、輸出に目を向けているパッカーが多い。今回の現地調査では、中小のパッカーを中心に輸出の現状と今後の見通しについて調査を行った(表4)。

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ア AURORA社

BRF社、JBS社に次ぐ国内第3位であるが、農協系では最大の企業で、サンタカタリーナ州を中心に鶏肉処理工場を7工場有している。養豚業から始まった同社は、30年ほど前から鶏肉生産を始め、現在は酪農も行っている。同社は合計7万戸からなる13組合で構成され、従業員は2万7800人となっている。

独身層の人口が増えている昨今の国内需要に対応するため、少量のパックの生産にも力を入れている。輸出については、中国、日本、中東、ロシア向けが中心である。特に、中国からの注文が増えており、4工場で取得している輸出認定を残り3工場でも現在申請中である。日本へはもも肉(BL)やナンコツなどを輸出している(写真4)。

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イ COPACOL社

1964年にイタリア系神父が設立した農協系の組織であり、鶏肉生産は1982年にパラナ州で始まった。現在では、主力である鶏肉生産をはじめ、穀物、養豚、酪農、魚の養殖などを行っている。同社は現在、将来の国内市場、輸出市場の成長を見据え、生産規模の拡大に向けて投資を進めている。2020年までに、1日当たり処理能力を現在の約50万トンから100万トンへ高めるため、新工場を建設中である。

加えて、生産現場への投資も積極的に行っている。まず、鶏肉生産の土台である種鶏場の拡大に動いており、1500万ドル(16億9500円)を投資して、主力工場が立地するカフェランジア市周辺に最新鋭の種鶏舎を3棟建設中である。また、既存の構成員の規模拡大にも取り組んでおり、資産能力に応じた増産を促している。最終的には、300棟の鶏舎を新設したいと考えている。

輸出については、近年中東やメキシコなどが伸びており、特にメキシコは買い付け価格が高いことから、今後の成長を期待するとしている。また、手羽先や手羽中は中国、むね肉はEU、もも肉は日本と、仕向先が異なっている。

今回の調査では、どのパッカーも中国の成長可能性に期待を寄せており、事実、2015年9月に29カ所だった中国向け輸出認定工場が40カ所にまで増加するなど、その期待感がうかがえる。関係者によると、中国はEUや日本と異なり、むね肉やもも肉以外の部位の引き合いもある上、購買意欲も高いことから、中小パッカーでも手がけやすいとのことである。

また、メキシコ向けを増やしていきたいとの声も多く聞かれた。メキシコは2014年以降、主要輸入先である米国で鳥インフルエンザが発生したことから、ブラジルやチリなどAIフリーである国からの輸出量を増やしている。加えて、2016年にトランプ大統領の就任が決定して以降は、鶏肉に限らず多くの産業で米国依存からの脱却を模索していることから、これをビジネスチャンスとして捉えているパッカーは多いという。

コラム3:ブラジル最大の国際養鶏・養豚イベント「SIAVS」

8月29日から31日にかけて、ブラジル動物性タンパク質協会(ABPA)主催によるSIAVS(国際養鶏・養豚展示会)がサンパウロ市で開催された。SIAVSは、2年に1回開催されるブラジル最大の国際養鶏・養豚イベントであり、国内のパッカー、飼料会社、機械メーカー、種鶏会社などが出展し、企業の概要や新商品を紹介する他、国内・国外の商社やバイヤーと商談できる場を設けている。また、生産技術や飼養管理など、さまざまなテーマにおいて専門家による講義が行われる。主催者発表によると、第3回目となる今回は、151企業が出展し、来場者数は51カ国1万5300人であった。

同イベントでは、マッジ農牧食料供給大臣による開会のあいさつが行われ、その中でマッジ大臣は、「今年は大きな問題が多々発生したが、それによって今までの生産や流通システムを考え直し、再構築しなければいけなくなった。しかし、これによってブラジルの鶏肉業界はさらに成長すると信じている。将来的に、食肉不正問題が起こってよかったと言えるようになるだろう」と語った。また、基調講演では、アメリカ家きん鶏卵輸出協会(USAPEEC)のジム・サムナー会長や、スペインの豚肉団体であるインターポーク(スペイン)のダニエル・ミゲル氏から世界の鶏肉・豚肉生産に関する講演が行われた。加えて、鶏肉生産トップ3の企業であるBRF社、JBS社、AURORA社の幹部によるディスカッションが行われ、生産量第1位のBRF社のアレシャンドレ・アルメイダ氏は、「業界のリーダーであるわれわれが、どこよりも衛生検査を厳しくすることが必要である。その上で、さらに市場競争力を高めていくため、品質の向上や生産の拡大に努めていく」と語った。

ブースでは、各企業が商談を進める他、一部の鶏肉・豚肉パッカーは、試食コーナーを設け、自社の商品をアピールしていた。出展していたある鶏肉パッカーは、「南米各国に加え、中国や韓国などアジア諸国からもバイヤーが訪れており、強い購買意欲が感じられた」と語った。また、同社をはじめ複数のパッカーから、今後、日本向けについては、もも肉の生産能力を高めるともに、ここ最近需要が高まっているむね肉にも対応していきたいとの声が聞かれた。

今回のイベントは、食肉不正問題発生後初めての食肉の国際展示会であり、衛生面や品質面に強く言及する関係者が多かった。次回は2年後の2019年に開催予定である。

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4 輸出の優位性と課題

(1)優位性

ア 生産能力の高さ

世界最大級の鶏肉生産国であるブラジルの強みは、さらなる増産が可能であるという点にある。

最大の生産州であるパラナ州における2016年の生産量は、各パッカーが生産調整を行っていたにもかかわらず、前年比2.5%増の409万トンとなった。同州では、その気候からトウモロコシの二期作が可能である。これはブラジル全土でもパラナ州に限られており、その結果トウモロコシの生産量は全国有数で、鶏肉の増産を後押ししている。加えて同州では協同組合が早くから組織され、一部の組合では鶏肉に加えトウモロコシや大豆など飼料穀物の生産から販売まで行っていることも大きな強みである。

近年はマットグロッソ州をはじめとした中西部にも期待感が高まっている。2000年代前半から穀物の一大産地となった中西部では、肉牛生産牧場が移転してきており、鶏肉についても、そのような動きが進展するのではないかとされている。

イ 鳥インフルエンザ(AI)フリー

近年、米国をはじめ鶏肉の主要輸出国でAIが発生している中、ブラジルではこれまで一度も発生が確認されていない。一般的には、ブラジルがAIウイルスを運ぶ渡り鳥の飛来ルートにほとんど含まれていないことが未発生の理由とされている(図7)。AIにかんする可能性がある渡り鳥は、主に米国から渡ってくるとされるが、米国からカリブ海を抜けてブラジルまで南下してくることはまずないと言われている。

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とはいうものの、政府は、AIの防疫に万全を期すため、防鳥ネットの設置などを義務付けた2007年の法律(IN56)を厳格化する法律(IN10)を制定し、農場の立入制限などの新たな条項も加えた。また、各パッカーも、独自の農場立入ルールを設けるなど、警戒を強めている。インテグレーションが進んでいる同国では、パッカーを通じて生産者への理解も進むとされており、これは大きな強みといえるだろう。EMBRAPAによると、海外からの訪問者を鶏舎内に受け入れる場合は、まず会社の事務所に2日間隔離され、鶏舎を訪問する際はブラジル産の衣服でなければならないなど、徹底的な衛生管理が行われているという。

なお、2017年にMAPAの関連機関である動物衛生機構(DSA)が発行したレポートによると、主要生産州の2900カ所の農場で衛生検査を実施したところ、AIは発見されなかった。

ウ 安定的な輸出先

鶏肉輸出は長年、サウジアラビア、日本、香港およびUAEが大きな市場であり、輸出量はいずれも安定して推移している(図8)。また、2017年10月には、人口2億5500万人(2015年推計)を有するイスラム教国で、鶏肉消費の多いインドネシアへの輸出が2009年以来再開されるとの報道が出ており、輸出拡大に向けてさらなる期待が高まっている。

一方、他の鶏肉輸出国を見ると、米国はロシアへの禁輸政策やAIの発生などにより、輸出先国ごとの数量が大きく変化していることに加え、メキシコへの依存度が極端に高い(図9)。また、タイは日本への輸出解禁以降、日本への依存度を急激に高めている(図10)。

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(2)課題

ア ロジスティクスの改善

ブラジルでは長年、主に穀物輸出における課題とされているロジスティクスだが、これは鶏肉についても言えることである。鶏肉生産は、南部3州の内陸部でも盛んであるが、主要港からこうした内陸部の生産地までの距離は、約700キロメートル前後と、東京〜青森間に匹敵する距離となっている(タイの場合は、主産地から港まで約150キロメートルと言われている)。また、幹線道路の一部では、未舗装部分があることに加え、雨季には大雨による冠水が発生することもあるため、港までの輸送時間は必要以上にかかるとされている。2017年には、イタジャイ港周辺でサイクロンによる洪水が発生したため、トラックが大幅なかいを強いられたことで、船積み遅れの原因の一つになったとも言われている。

トラックの代替輸送手段となる鉄道は、コストが安いものの、パラナ州のパッカーによると、生産地域とパラナグア港間の約700キロメートルを輸送する場合、トラックの場合は2日を要するのに対し、鉄道の場合は7日と3倍以上の日数がかかるという。また、サンタカタリーナ州西部からイタジャイ港を結ぶ鉄道敷設計画も、ここ5年間は進展がない。南部は長年鶏肉生産を行っていることで産業として成熟しており、ロジスティクスの改善による運送時間の短縮やコストカットなどは、同地域のさらなる輸出余力拡大につながるとされている。

イ ブラジル産食肉の信頼回復

2017年は、3月に食肉不正問題、5月に大手食肉パッカーであるJBSの汚職問題、6月には前年に再開したばかりの米国向け牛肉輸出の衛生上の問題による停止など、ブラジル産食肉全体のイメージを低下させるニュースが飛び交った。現在はマッジ農牧食料供給大臣をはじめ、MAPAや関係団体などが官民を挙げて信頼の回復に努めているが、一部商社間では取引が中止になって以降回復していないものもあるという。

ウ 加工精度の向上

パッカーにおける加工精度には日本の輸入業者から疑問符が付けられている。ある日本の輸入業者の担当者によると、ブラジル産の鶏肉は、BLKのサイズにばらつきが生じたり、工場内のリスク管理レベルが低いなどの問題を抱えるパッカーもあるという。ブラジル同様、日本に多くの鶏肉を輸出しているタイでは、多くのパッカーにおいて、日本側が要求する衛生条件や製品規格に対応するため、ひとつひとつの製品を目視により検品し、鶏肉に付着した羽や骨のくずをピンセットで取り除くなどの細かい処理を行っており、作業員の集中力も高いという。ブラジルの場合は、近年の不景気により作業員が定着しなかったり、そもそもの国民性として細かい作業が苦手だという話も聞かれた。

しかし、原因は作業員のレベルの低さだけではないと、現地関係者は語る。機械のメンテナンスがきちんと行われていない、工場そのものが古い、工場の補改修を行う業者のレベルが低い、そもそも工場建設時点で低品質の建材を使用しているなど、生産性や加工精度の低さを職員のせいにしてごまかしている部分が多々あるとしている。

5 まとめ

MAPAは、2018年の生産・輸出見通しについて、それぞれ前年比2.8%増、同0.5%増と見込み、2027年には、2017年と比べ生産量が約3割、輸出量が約4割増えると予測している。

MAPAの見通しは、楽観的であるという評価が多いものの、2018年の生産量についてはUSDAも、海外からの需要に加え、国内経済の回復から3%増と見ていること、トウモロコシの生産量が一定量見込まれていることから、実現性は高いと思われる。現地調査でも、国内経済が回復に向かっていることで投資や増産の意欲の高まりが感じられた。

2017年に食肉業界を揺るがした各種問題に対しては、官民挙げて信頼の回復に努めているところであるという。ロジスティクスの改善、加工精度の向上など解決すべき課題はあるものの、中国など需要が拡大する市場に向け、圧倒的な生産能力とAIフリーという主要輸出国にはない優位性を武器に、ブラジルの鶏肉輸出市場は、さらなる成長を続けていくだろう。


				

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