拡大するBSE問題、 牛肉の信頼性回復への困難な道のり (EU)





● 政府諮問機関の新見解が瞬時に波紋を拡大

 イギリス政府の諮問機関が3月20日に発表した牛海面綿状脳症 (BSE) に関す る報告は、 一瞬にして、 イギリスはもとよりEU全体を大混乱に陥れたばかりでな く、 その波紋は世界中に広がっている。  今回の騒ぎの発端は、 イギリスの海面状脳症諮問委員会 (SEAC) が、 BSEのヒ トへの感染の可能性等に関し、 以下のような見解を公表したことにある。 (1) 最近のクロイツフェルト・ヤコブ病 (CJD) と認定された42歳以下の10人の ケースを検討した結果、 従来と異なる発症パターンであるとの結論に達した。 (2) 10人のケースに関し、 BSEとの直接的な関連を示す証拠はないが、 現時点で 最も可能性が高い説明は、 89年の特定牛臓器 (SBO) の食用禁止措置以前のBSE 因子の摂取である。 (3) 30カ月齢以上の牛肉については、 SBOに加えて、 すべての骨の除去の義務付 け、 また飼料用肉骨粉については、 全て使用禁止とするなどの追加措置を勧告 する。

● EU域内外へのイギリス産牛肉の輸出を禁止

 イギリス政府は、 直ちにSEAC勧告の実施を発表し、 イギリス産牛肉の安全性を 強調したが、 騒ぎは収まらず、 欧州の多くの国が次々に輸入禁止措置を発表した。 この事態を受け、 欧州委員会も27日、 イギリス産の牛、 牛肉、 牛肉製品の域内お よび第三国向け輸出禁止の暫定的措置を決定した。  今回のSEAC報告は、 政府諮問機関がBSEとCJDとの関係を示唆したという点で、 大きな衝撃を与えたことは確かであるが、 発表内容を厳密に検討すれば、 依然と して両者の関連性が科学的に完全に証明されたわけではない、 という点において は、 従来の因果関係に関する知見と決定的に異なるものではない。

● 臨時農相理事会がBSE対応策に合意

 しかし、 因果関係をめぐる科学的な議論とは別に、 イギリス産牛肉の安全性に 対する一般消費者の信頼は今回の出来ごとで、 取り返しのつかないほどに失墜し、 肉牛生産者のみならず、 と畜場、 家畜市場など多くの関連産業は、 極めて深刻な 事態に陥っている。  こうした状況の打開を目指して、 4月2、 3日の両日、 EU臨時農相理事会が開 催され、 当面のBSE対策に基本合意した。 この合意の主な内容は以下のとおりと なっている。 (1) イギリス国内の30カ月齢以上の牛について、 順次、 と畜・焼却処分するこ ととし、 食品や飼料として使用しない。 (2) この際の農家補償金などの財源につ いてはEUが7割、 イギリスが3割を負担。 (3) 特別措置による5万トンの介入買 入を4月中に実施。 (4) 30カ月齢に満たない牛のと畜の際にはSBOを完全に除去 し廃棄する。 (5) 骨や肉に由来する飼料については精製段階でBSE因子を不活性 にする高温処理を施し、 製品には反芻動物の飼料としてはならない旨表示する。 (6) 農場や流通上における家畜衛生の監視強化。 (7) イギリス政府は汚染飼料に 接触した可能性のある牛の強制処分について、 4月30日までに具体案を作成する。

● イギリスは禁輸継続に強い不満

 一方、 先月から実施されているイギリス産牛肉の輸出禁止措置の解除について は、 今回の農相理事会では先送りされ、 今後6週間以内にその見直しが行われる ことが確認された。 これに対し、 イギリスのホッグ農相は、 不満を表明するとと もに、 合意文書への署名を拒否した。  今後、 イギリス側は基本合意に従い対応策を実施するとみられるが、 一方で、 加盟国からは、 さらなる強硬策を求める意見や、 対応策へのEU財源の支出割合に 難色を示す声も出ており、 EU挙げての協力体制という合意原則に、 早くも亀裂が みえはじめている。  なお、 世界保健機構 (WHO) が招集した専門家会議は、 4月3日、 BSEとCJDと の決定的な関連性を示すものはないが、 両病に対する一層の研究が緊急に求めら れると指摘するとともに、 イギリスのとった防疫措置により、 BSEとの接触 (Exposure) の可能性は、 著しく低下していると結論づけている。  また、 この発表中で、 牛乳・乳製品を経由したヒトヘの感染の可能性について は、 これを否定している。 BSEをめぐる経緯 85年4月 BSEの初の発生 (事後の追跡調査による推定) 86年11月 病理組織学上、 はじめてBSEが鑑定される 88年5月 政府諮問機関としてのBSE調査委員会の設置 6月 BSEを届出対象疾病に指定 7月 反芻動物に由来するタンパク質の反芻動物への給与の禁止 8月 疑似BSEの半額補償を伴う強制と畜及び廃棄 89年11月 6カ月齢を超える牛の特定牛臓器 (SBO) の食用使用禁止 (スコット ランド及び北アイルランドでは90年1月から) 90年2月 疑似BSE牛の強制と畜に対する補償を半額から全額へ引き上げ 4月◇疑似BSE牛のEU委員会への通報義務 6月◇6カ月齢以上の牛又はBSE感染雌牛に由来する牛のイギリスから他の 加盟国への輸出禁止 ◇イギリス産の骨付き牛肉輸出に対し、 過去2年間BSEの発生がない牛 群に由来することの証明義務。 また、 骨無し牛肉の輸出に対し、 神経 及びリンパ組織が除去されたことの証明義務 9月 SBO精製飼料のすべての家畜・家きんへの給与禁止。 当該飼料の域内 輸出の実質的禁止及び業界による第3国への輸出中止 10月 牛群についての記録記帳の改善 91年7月 第3国へのSBOの輸出禁止 11月 SBOを原材料とする肥料の使用禁止 92年5月◇イギリスからの牛受精卵の輸入禁止 8月◇すべての加盟国で、 BSE発生の報告を義務付け 94年6月◇すべての哺乳動物タンパク質の反芻動物への給与を禁止 94年7月◇反芻動物に由来する特定の動物廃棄物の加工について、 定められた温 度や時間条件を遵守するように、 より厳重な条件を適用 ◇イギリス産骨付き牛肉の輸出に対し、 過去6年間BSEの発生がない牛 群に由来することの証明義務 (94/474) 94年12月◇上記証明義務の対象から92年1月以降誕生した牛を除く 95年4月◇SBOの識別を義務付け 7月◇94/474規則の対象から30カ月齢を超えない牛を除く 動物タンパク精製飼料の製造時の定期的な監視義務 8月◇SBO取り扱い施設における記録、 製造ラインについての規制強化‥脳 及び眼球の除去を禁じ頭蓋骨そのものをSBOとして廃棄する。 また脊 髄及び椎骨のと畜場からの流出を禁止 12月◇機械による椎骨からの肉の分離を禁止 注:◇はEUレベルの措置、 その他はイギリスの国内措置
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