注目される生乳の二重クオータ制度 (EU)



 EUの酪農政策は、 中長期的に大幅な改革が不可欠との認識で、 行政当局・業界

関係者とも一致している。 欧州委員会は、 97年にも具体的な改革案を提出する意

向とみられている。 その中でも、 酪農政策の根幹を成す生乳クオータ制度につい

ては、 今後の見直しが必至であり、 特に二重クオータ制度は、 重要な選択肢の一

つとして、 注目されている。 

● 現在、 3種類の改革案を議論

 2000年4月以降、 現行クオータ制度は見直しされることとなっているが、 見直 しの方向としては、 現在大別すると、 以下の3種類の案が議論されている。 (1) 二重クオータ制度の導入 従来の生乳クオータのほかに、 輸出補助金なしで (その乳製品の) 輸出のみが 認められるクオータ (以下 「輸出クオータ」 という) を追加。 (2) 現行制度を維持するが、 加盟各国のクオータを大幅に削減。 (3) 生産者への所得補償を伴う生乳指標価格の引き下げおよびクオータの拡大 (段階的なクオータ制度廃止への方向付け)。

● 輸出シェアの維持と域内生産縮小を回避

 これら三案の中でも、 特に注目される二重クオータ制度は、 ウルグアイラウン ド (UR) 合意に基づく輸出補助金の削減約束を守ることができること、 世界市場 における現在のEU乳製品の輸出シェアを維持できること、 域内の酪農生産縮小を 回避できること、 などが大きな利点として挙げられている。 しかしながらその一 方で、 従来の生乳クオータと輸出クオータとの一括管理が困難であること、 域内 の生乳および乳製品価格を全体的に引き下げる恐れがあること、 などが問題点と して指摘されている。 この二重クオータ制度の提案は、 デンマークが主導してお り、 フランス、 アイルランド、 ドイツなども前向きに検討しているといわれる。 推進派は、 これらの問題点を協議するため、 以下の五つの内容を骨子として検討 を進めている。 (1) 従来の生乳クオータおよび輸出クオータの管理は別々に行うこと。 (2) 従来の生乳クオータによる乳製品および輸出クオータによる乳製品の輸出 を、 それぞれ厳格に区別して行うこと。 (3) 輸出クオータへの参入は、 加盟各国の意志に任せること。 (4) 輸出クオータによる輸出は、 生産者と輸出業者との契約に基づくものとす ること。 (5) 輸出クオータの乳製品価格は、 国際市場での競争が可能な価格とすること。

● 現在、最も有力な選択肢

 現在のところ、 EU委員会のフィッシュラー農業委員は、 今後のクオータ制度改 革の方向付けについて、 あくまでも、 97年から開始される酪農制度改革案の検討 過程で協議するとして予断のないことを強調しながらも、 二重クオータ制度が有 力な選択肢の一つであることを名言している。 これに対し、 イギリスやオランダ は今後のクオータ制度改革が必要不可欠であることを認めつつも、 二重クオータ 制度については、 消極的な立場を維持している。 しかしながら今後、 UR合意の実 施により、 国境措置の緩和や輸出補助金の削減など、 EU酪農をめぐる環境がます ます厳しくなると予想される中で、 二重クオータ制度がさらに現実味を帯びてく る可能性は高いとみられる。
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